日本関連

代替艦へのAN/SPY-7転用は確定? 中止された日イージス・アショア関連の契約をロッキードが受注

日本が配備計画を中止したイージス・アショア関連の契約が今月16日に実行され、ロッキード・マーティンは米ミサイル防衛局から6,593万ドルの契約を受注した。

参考:United States Department of Defense Contracts For April 16, 2021

もしかするとJ7.BとAN/SPY-7をイージス・システム搭載艦に転用することで話がついているのかもしれない

日本は陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替案としてイージス・システム搭載艦を2隻建造する方針を昨年末に閣議決定したが、イージス・アショア配備計画中止に関する諸手続きがきちんと進んでいるのか不明で契約を日本都合で解除するには有償軍事援助に基づき「契約解除に起因する費用」を全て日本側が負担する必要がある。

出典:Public Domain 米国のロッキード・マーティンのテスト施設で試射されたSM-3 Block IIA

これについて防衛省は「何処から何処までが契約解除に起因する費用と認定するのか米国側との協議次第」と説明していたが、日本向けイージス・アショアに関連する作業の発注は配備計画中止後も止まってない。

米ミサイル防衛局は今月16日、ロッキード・マーティンに対して日本向けイージス・アショアに関連した戦闘管理システムの開発及びレーダー統合とテスト作業のため6,593万ドル(約71億円)の契約を与えており、同社が受注した日本向けイージス・アショア関連の累積契約金額は1億2,453万ドル(約135億円)に達している。

イージス・アショアに関連した戦闘管理システムとは「まや型護衛艦」が搭載しているイージスシステム・ベースラインJ7(米海軍が採用しているベースライン9相当)の派生型「J7.B」のことで、レーダー統合とテスト作業とは通称「トウモロコシ畑の巡洋艦」と呼ばれるイージス戦闘システム試験施設(ニュージャージー州ムーアズタウン)でのAN/SPY-7とJ7.Bとの統合テストのことを指しており、これが日本の意図したことなのかは不明だ。

出典:海上自衛隊 護衛艦あたご

ただ契約上「日本向けイージス・アショア関連」で発注されているイージスシステム・ベースラインJ7.BとAN/SPY-7について米ミサイル防衛局は「日本政府が検討しているイージス・システム搭載艦への適用が予定されている」と今年の2月に述べているので、もしかするとJ7.BとAN/SPY-7をイージス・システム搭載艦に転用することで話がついているのかもしれない。

もう一つの可能性としてはイージス・アショア調達中止に関する諸手続きが進んでおらず、米ミサイル防衛局は日本がイージス・アショア調達に関して支払い済みの総額350億円(イージスシステム取得費用125億やAN/SPY-7(V)1取得費用の一部65億円など)を元に作業を予定通り進めているというケースで、もし後者が正解で自由民主党国防議員連盟が押すAN/SPY-6に決まれば話がややこしくなることが予想される。

出典:public domain AN/SPY-6の全体像

とにかくイージス・システム搭載艦建造が閣議決定されてから約4ヶ月、イージス・アショア配備計画の停止から10ヶ月も経つのに防衛省は経過報告を一切公表しないので米国防総省が毎日公開している契約情報(750万ドル以上の契約締結については毎日午後5時に公開される)や米ミサイル防衛局のプレスリリースから情報を拾って状況を推測するしかなく、そろそろ日本メディアが防衛省に取材して状況をはっきりさせてくれると非常に助かるのだが、、、

余談だが海上自衛隊はイージス・システム搭載艦調達に向けて動き出しており、同艦の設計に向けて必要な情報収集・分析に係る技術支援役務について契約希望業者を募集している。

参考:令和3年度イージス・システム搭載艦の艦の設計に向けた検討に必要な情報収集・分析に係る技術支援役務についての契約希望業者募集要項

ここで注目されるのは技術支援役務に設定された「最新の多胴船の設計・製造等の経験を有する」という応募資格で、海自はインディペンデンス級沿海域戦闘艦のような三胴船やひびき型音響測定艦のような双胴船としてイージス・システム搭載艦を建造することを考えているという意味だ。

出典:public domain インディペンデンス級沿海域戦闘艦

なぜ海自はイージス・システム搭載艦の建造で不慣れな多胴船に挑戦しようとしているのかについては不明だが、波が荒いと言われる日本海で運用されるイージス・システム搭載艦を多胴船化することで安定性を確保する狙いがあるのかもしれない。

関連記事:日本はイージスアショア代替案で迷走、米国は日本向けAN/SPY-7を37億円で発注
関連記事:カナダ海軍の次期フリゲートが開発遅延で裁判沙汰、SPY-7を採用する日本の同じリスク?
関連記事:米ミサイル防衛局、SPY-7とイージスシステムの組み合わせが性能基準を満たしたと発表

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※アイキャッチ画像の出典:海上自衛隊 護衛艦まや

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    これやるのはいいけどさ、レイセオンって確か艦艇向けは結構弱くなかったか?
    フォード級一番艦でSPY-3採用したのはいいものの、洋上の揺れなどによって性能を発揮できない不具合あるとかって聞いたことあるんだが…

      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      揺れに弱いから、双胴艦なのでは?

      1
        • 匿名
        • 2021年 4月 21日

        でも双胴艦にだって限度はあるだろ
        ましてや世界でもトップクラスに荒れる日本近海だし
        ロケットブースターの落下が半径20㎞問題がある以上は海が荒れにくい沖合での運用もできないしで今までと変わらん気がするぞ

        1
        • 匿名
        • 2021年 4月 21日

        6がレイセオンで7がロッキードだから7採用なら問題無いのでは?

        14
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    現実に中国共産党の脅威が目の前に迫っているのに、双胴船,三胴船イージス艦などの新しい技術に挑戦して開発をしている暇があるのかなぁ

    9
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      ひびき級を拡大したイメージかもよ。導入経緯からしても、通常のイージス艦のごとき艦隊防空任務兼でなく、純粋に弾道ミサイル防衛用のいわば浮かぶミサイル基地として速力や対潜能力は省略するのかも知れん。
      予算不足の自衛隊ならばある話

      13
        • 匿名
        • 2021年 4月 21日

        イージス・アショアの代替イージス艦に、艦隊防空や対潜能力を付与させないど、護衛のイージス艦が別

        • 匿名
        • 2021年 4月 21日

        途中送信失礼。
        イージス・アショアの代替イージス艦に、艦隊防空や対潜能力を付与させないと、護衛の艦艇が別途必要になるし、中国軍に対しても使用できないから、海自の正面戦力が減るだけになりそう。
        多胴船の建造に手間取ったりしたら目も当てられないし、防衛省が何をしたいのかさっぱり分からんなぁ。

        15
          • 匿名
          • 2021年 4月 21日

          海上リグや商船案よりは身軽、な程度を目指すんじゃない?
          護衛については日本近海のごく狭い範囲で運用する分には
          本土からの陸・空の支援や固定のソナーとかでカバーできるでしょ。

          2
            • 匿名
            • 2021年 4月 21日

            自己防衛能力が無いので前線での運用はできず、点検整備のためのドック入りは他の護衛艦と同頻度になる。
            ドック入りして整備している間は、他のイージス艦がBMD任務につくため、結果的に海自の戦力は従来より削られることになる。
            海自としては最悪な展開になりますね。

            7
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      双胴艦って波に弱いのでは?航行中だけの話だろうか?

        • 匿名
        • 2021年 4月 21日

        いや、双胴船のメリットは安定性が極めて高いことと排水量の割に甲板面積を取れることだよ
        ただし安定性が高すぎるせいで転覆や姿勢を崩したときでも安定性が高すぎて復原性が極めて低い
        加えて安定であるせいで運動性も極めて悪いので基本的に軍艦には用いられない

        16
        • 匿名
        • 2021年 4月 21日

        双胴船というか「ひびき」型はSWATH船 水面下の船体が魚雷型で中央船体とは比較的細い船体でつながっている 前にJAMSTEC「かいよう」て船があった この船で見聞したのは・波浪には強いが高い波高となり中央船体を叩くようになると変に揺れる ・双胴船体と上部構造との間に波浪で応力がかかり強度補強いる ・以外に搭載量が少ない単胴船のようにタンク等に使えるスペースが少ない 等と聞いた
        だからイージス艦には向かないと思うがねえ どうせなら055型を上回る巡洋艦を期待

        3
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    最新の兵器を導入するのは軍事費が余るくらいある国だと思うけどもねえ
    大人の事情を多分に感じるけどあまりそういう側面を強くして国防やると良い事にはならんね
    お金ない国はなりなりにもっと上手なやり方があるんじゃなかろうか

    4
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      安上がりなミサイル防衛てのも難題だね。適当な手段が思い浮かばん。
      パワーバランス理論でこちらも弾道ミサイルで対抗するにしても核弾頭がない、核を始めるならばそれも相当な金食い虫だから逆に予算は増えそう

      11
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    将来三胴船ってこれかな?
    リンク
    リンク
    イージス艦とはだいぶ違うが・・・揺れに強くて広い甲板は魅力的だな
    ヘリで交代人員を輸送し荒天でも活動しやすい艦にしたいのかな

    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    契約の問題は、どちらに転んでもアメリカの腹は痛まない。もっと言えば日本政府の判断ミスから始まった案件だが今の自民政府に的もな金銭感覚はないので、泣くのは血税を納める国民。自衛隊の増強、アメリカへの買い物も反対しないが、費用対効果を充分考慮して善処してほしい。今の日本政治家にそれを求めるのが一番難しい。

    10
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      国民が主権者なのだから政府の決定に対する最終的な責任は国民にある。
      なので自分の財布を痛めたくなかったら、国民自身が国防に関心を持ち必要な人間を国会に送らにゃならんのだが、ほとんどの日本人は関心無いからなぁ。

      28
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    近々に、日本がイージス艦を新造するなら、AN/SPY-7しかないでは?
    AN/SPY-6は配備が始まったばかりだから、フル・スペックのAN/SPY-6(V)1の輸出が承認されるのはもっと、もっと先では?
    AN/SPY-6(V)1はお高いし、電気も喰うし・・・
     AN/SPY-6(V)1を搭載する米アーレイ・バーク級フライトⅢの1番艦の起工は2019年12月

    6
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    F15改装の件といい、防衛省の秘密主義は外国から機密を守ってるというよりも、国民に知られたくない不具合不始末に口をつぐんでる模様
    それ単なる不誠実だよ

    49
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    防衛省の未来予測の稚拙さをあらわしてる事例

    12
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    イージスシステム搭載艦はイージス艦とは大分毛色の違う船になるらしい。
    稲葉氏がツイッターで何やら匂わしてて他にも内情を知ってるらしき人たちも同様の雰囲気。

    3
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      それは肯定的な意味とは限らないんだが
      がっかりするような船になるかも
      陸上用イージスをやむを得ず艦艇に乗っけるというやっつけ話なんだし
      列車砲を軍艦に乗せて撃ちまくる無茶な小説並みになりませんようにっと

      4
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    居眠り等、不誠実対応の防衛省の失態である事に間違いなく
    佐竹の殿様に土下座する方が、国民としては安上がりだったな

    7
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    搭載するレーダーをどうするかはともかく、普通のイージス艦を建造するのが結局は一番安く済みそうな気がするなぁ

    9
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      初期費用はかかるけど固定目標のアショアよりは艦の方が潰しは効くな

      1
        • 匿名
        • 2021年 4月 21日

        イージス艦は初期費用よりも維持整備費に金が掛かる。
        イージス艦(まや型)2隻分の使用総経費は30年で約7000億円だが、イージス・アショア2基の使用総経費は30年で約4600億円。
        あと、イージス・アショア1基を配備すれば、イージス駆逐艦3隻をミサイル防衛以外の任務に回すことができる、とアメリカは発言しているので、イージス・アショアを建設したほうが潰しは効く。

        11
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    これってさぁ、三井E&Sに作らせようとしてるだけなのでは?
    JMUと三菱、三井で取り合いや競争入札やってる時間ないから、決め打ちで!
    それとも、せっかく研究費用が使えるチャンス(陸上型を海上で使用するため、検討が必要という名目)なので、
    今後の実験のためにちょっとした構造テストをおこなうのかな?
    海自は用心深いから、いきなり新技術を取り入れないと思うから(予算もないし)、部分的に上手く使うのかも?
    後部のヘリポートのみ三銅船とか。

    8
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      そんな話だよね。
      へんてこな条件を入れて条件に合う業者を絞るのは、入札業者を決めうちしたいときの常套手段。

      10
    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    多胴船かあ…
    新しいことにチャレンジはいいかもしれないけど
    第二のズムウォルトにならないか不安

    3
      • 匿名
      • 2021年 4月 21日

      失敗してもまたもや口をつぐむ防衛省の秘密主義

      3
      • A
      • 2021年 4月 22日

      ナッチャンレラってのが余ってませんでしたかね?

    • 匿名
    • 2021年 4月 21日

    防衛大臣はSPY-7を転用する方針だと繰り返し答弁してきたわけだから、確定も何もそもそも再選定という土俵自体が存在していないのでは?
    国防議連は国防部会とは違ってただの有志の集まりだし、国防部会が再選定を求めてるわけでもないしね。

    4
    • 匿名
    • 2021年 4月 22日

    適当な日本海上の離島ではいかんのだろうか。それだって警備がいるだろうが陸上案と海上案の差分費用を当てればいいような気もする。地域振興にもなるしな。
    必要な大きさを満たさんのだろうか

    3
      • A
      • 2021年 4月 22日

      佐渡か飛島ですがね?

      2
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