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三菱重工業、T-4後継機のコンセプトを近日中に防衛省へ提案

三菱重工業はDSEI JAPANで次世代練習機=T-Xのコンセプトを公開し、Janesの取材に対して「T-Xは第5世代機や第6世代機の運用訓練のため開発される」「T-XはT-4後継機となる予定だ」」「近日中にT-Xのコンセプトを防衛省に提案する」と述べた。

参考:空自練習機墜落 事故が多発する原因は何か
参考:Fatal crash spotlights Japan military’s ageing aircraft, recruitment struggles
参考:DSEI Japan 2025: MHI unveils next-generation trainer aircraft concept

防衛省はT-4後継機についてどう考えているのだろうか?日米首脳会談で合意した作業部会は何を模索しているのだろうか?

2024年4月の日米首脳会談前、毎日新聞は「日米がT-4後継機を共同開発する方向で調整を進めている」「4月10日の日米首脳会談で共同開発に関する合意を発表する見込み」「生産コストの低減に加え、自衛隊と米軍が訓練段階から共通機体を使用することで連携強化を狙っている」と、日本経済新聞も「T-4後継機を日米で共同開発する方針を確認する」「両国が運用するF-35等を想定した実戦的な訓練が積める機体開発を想定している」と報じていた。

出典:首相官邸

日米首脳会談後に発表された共同声明の中でも「両国は将来のパイロット訓練や戦闘準備が整った次世代戦闘機戦力を維持するための共通ジェット練習機など、最先端技術の共同開発・共同生産を模索する作業部会の設置を約束する」と言及しており、Breaking Defenseも「非常に興味深い言及だ」と述べ上で「両国が共通したジェット練習機を導入するという意味なのか、地上訓練のオプション(シミュレーター)を共同開発するという意味なのかは不明だ」と報じていたが、未だに防衛省はT-4後継機について具体的な方向性を示していない。

今月14日には小牧基地を離陸したT-4が愛知県犬山市の入鹿池に墜落する事故が発生し、まだ墜落原因は不明なものの自衛隊機の事故は相次いでおり、2022年1月には空自のF-15DJが日本海に墜落、2023年4月には陸自のUH-60JAが沖縄県宮古島沖で墜落、2024年4月には海自のSH-60K×2機が伊豆諸島沖で衝突し、この4件の事故だけでも計22人の人員を失っている。

出典:航空自衛隊

しかも、今回墜落したT-4はフライトデータレコーダー未搭載機(全体の3割が未搭載)で、読売新聞は「近年、自衛隊機の墜落事故が相次いでいる。毎年のように重大事故を起こしていては自衛隊に対する国民の信頼を失いかねない。T-4に何が起きたのか解明することが不可欠だがフライトデータレコーダーが搭載されていなかったため事故原因の特定が困難になるかもしれない」と指摘。

中国のSouth China Morning PostまでT-4墜落事故に対する日本国内の反応を取り上げ「日本では日本軍機の事故が頻発している」「今回の致命的な墜落事故は日本軍機の老朽化と人員不足を浮き彫りにした」「墜落が人為的なミスか、技術的なミスか、それとも両方か、その原因が判明するまで憶測が飛び交いネガティブな報道が続くだろう」「こうした事故が軍隊の評判を損ない人員の採用難をさらに悪化させる」と報じており、もし墜落原因が機体の老朽化に起因しているならT-4の更新を急ぐ必要がある。

三菱重工業はDSEI JAPANで次世代練習機=T-Xのコンセプトを公開し、Janesの取材に対して「T-Xは第5世代機や第6世代機の運用訓練のため開発される」「T-XはT-4後継機となる予定だ」「T-4と比べて先進的なコックピットシステム、タッチパネルとインタラクティブなディスプレイが搭載される」「T-Xはミサイルやレーダーといった脅威を回避する訓練のためシミュレーション機能も組み込まれる」「三菱重工業はT-Xのコンセプトを近日中に防衛省に提案する」と述べたものの、懸念事項は単独で練習機を開発して採算が合うのかだろう。

採算度外視でやるなら言う事はないが、手頃な価格を目指すなら海外輸出が必要になる可能性が高く、この市場にはT-7A、T-50、M-346、Hürjet、LCA-LIFTが競合している上、AviationWeekは「ボーイングはT-7Aの輸出機会を最大2,000機と見積もっているものの、パイロットの育成コストが高騰しているため練習機に対する需要には変化の兆しがある」「ジェット練習機は次世代ターボプロップ機と地上シミュレーターの組み合わせに存在価値が奪われるかもしれない」と指摘しており、海外輸出を前提にした国内開発もリスクが高い。

出典:PHOTO BY Rev Hess

もう一つの選択肢は市場で入手可能な海外機を導入し、海外輸出では一般的なオフセット=取引額の50%を直接投資もしくは間接投資で相殺、もしくは該機機製造への日本企業を参加、もしくは取引額と同価値分の防衛装備品購入を要求すれば国産開発程ではないにしても、T-4後継機への投資を国内産業界に循環させることができるが、三菱重工業のやる気を見ると次世代練習機を国内開発したいのかもしれない。

果たして防衛省はT-4後継機についてどう考えているのだろうか?日米首脳会談で合意した作業部会は何を模索しているのだろうか?

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※アイキャッチ画像の出典:航空自衛隊

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コメント

  • コメント (6)

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    • 匿名
    • 2025年 5月 23日

    「やったぁ!後継国産練習機だっ!」と単純に喜ばせてくれる状況に無いですね。悩ましい…。

    6
    • かず
    • 2025年 5月 23日

    グローバル経済が崩壊して他国が信用出来ない時代が来つつあるならまあ有りかもだ

    4
    • zzzzzzzzzzzz
    • 2025年 5月 23日

    >T-7A、T-50、M-346、Hürjet、LCA-LIFT
    以上のうちから、ライセンス生産と自前改良をさせてもらえる物かな?
    部品1個が無いだけで飛ばないのだから。

    あと、 T-4練習機の紙の設計図をデジタル化して活用はダメなの?

    3
      • T-38
      • 2025年 5月 23日

      有りだと思いますよ
      0からの設計と比べれば、乱暴ですが第5-6世代向けの操縦システムを既存の機体の組み込み
      生産効率を高める為の機体構造等のカイゼンで済みそうですし
      0からの設計と比べれば費用は少なくリスクも少なめでしょう
      国産エンジンだけはカイゼンで済ませられるものかは判りませんが

      2
    • 無印
    • 2025年 5月 23日

    去年の合意は何だったんでしょうね?
    日米とも政権も情勢も変わってしまったから、うやむやに立ち消えになってしまったのかな…?
    アメリカのT-7はいつ完成するか分からなくなっていますし、そこから共同開発に持って行ったら、さらに時間が掛かってしまう

    三菱のやる気はありがたいですが、採算度外視でやる気だけで成功されても、良くないんですよね
    例えが適切か分かりませんが「手塚治虫の罪」みたいになったら困る

    ただT-4後継は事故で待った無しなってしまったので、国産、共同開発、ライセンス生産、輸入とか、防衛省は何かしらアクション出さないとまずい気がするよ

    4
    • ザコ
    • 2025年 5月 23日

    ここ数年で事故4件というのが多いのか少ないのかピンときませんが死者22人と言われるといや多いな!?ってなりますね
    そして中国の新聞にまで心配される始末…

    2
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