中東アフリカ関連

躍進が著しいEDGE、精密誘導兵器、艦艇、レーダー分野でも海外進出

アラブ首長国連邦のEDGEは欧米企業との協力を次々と発表し、RTXを通じて米陸軍が調達を決めたCoyote製造に食い込み、Fincantieriと合弁企業を設立して非NATO向け艦艇の建造、Indraと合弁企業を設立して非NATO向けレーダーの製造に乗り出す。

参考:Emirati defense giant EDGE Group teams with Spain’s Indra to dive into advanced radar market
参考:UAE’s EDGE Group and Italian shipbuilder Fincantieri stand up $32 billion JV

EDGEに対する注目度はトルコ企業や韓国企業に近いものがあり、EDGEの名前が日本に浸透してくるのも時間の問題だろう

アラブ首長国連邦は防衛装備品の海外依存から脱却するため2019年に国内の防衛産業企業を再編、25を超える企業を合併させる形で巨大な防衛産業グループ「EDGE」を創設した。EDGEは今後主流となる無人化技術に大規模な投資を行い、BAYKARのTB2に匹敵するReach-S、スウォーム戦術に対応した徘徊型弾薬のHunter-S、自爆型無人機のSHADOW50-P、自爆型ジェット無人機のSHADOW50‑TJなど市場に送り出し、既に内外の顧客から数十億ドル規模の受注に成功している。

さらにUGV開発でトップクラスの企業「Milrem Robotics」を買収したため、TYPE-XやTHeMISなどがEDGEブランドに加わり、既にMilrem RoboticsのUGVにEDGEの徘徊型弾薬を統合した製品が登場するなど無人化分野で大きな存在感と注目を集めているが、EDGEは欧米企業との幅広い協力関係を構築することで精密誘導兵器、艦艇、レーダー分野でも海外進出を果たそうとしている。

GA-ASIとEDGEは昨年11月「MQ-9B SkyGuardianにEDGE製の精密誘導兵器と誘導滑空爆弾を統合する」と発表、GA-ASIは「UAE製スマート兵器が米国製プラットフォームに統合されるのは初めてのことで両国の防衛協力が新たな段階に到達した」と、EDGEも「GA-ASIと協力できることを誇りに思う。我々のスマート兵器をMQ-9Bに統合することでエンドユーザーに費用対効果の高い地上攻撃手段を提供できるだろう」と発表、さらにRTX(レイセオン)ともCoyoteプログラムの部品供給で合意した。

出典:RTX Coyote Block2

RTXのCoyoteプログラムとは「小型ドローンを小型ドローンで破壊する」というカウンタードローンシステムの一種で、米陸軍は昨年12月「2029年度までにCoyote Block2とCoyote Block3を計6,700発調達する」と発表したため、EDGEは米陸軍のCoyote調達に部品供給という形で食い込んだ格好だ。

さらにFincantieriとEDGEは今年2月「合弁会社を設立して艦艇の共同建造を行う」と発表、アブダビに設立される合弁会社はUAEのG2G協定や輸出向け信用融資パッケージを活用してNATO加盟国以外からの受注獲得を目指す予定で、この戦略的合意によってEDGEはフリゲート艦など大型艦艇の設計・建造能力を獲得でき、Fincantieriは合弁会社を通じてUAEの中型潜水艦開発も支援するらしい。

極めつけは12日に発表されたIndraとEDGEのレーダー生産に関連した合弁会社設立で、Indraは「今回の合意によってEDGEは非NATO諸国から受注した300ものレーダー製造に関与できるようになる」と、EDGEも「合弁会社を通じて関与できるレーダー生産の価値は22億ユーロ相当だ」「この合弁会社は非NATOの未開拓市場をターゲットして受注拡大を目指す」と述べており、IndraとEDGEはUAE、アフリカ、南米、東南アジアへのレーダー売り込みで手を組んだと評価されている。

因みにEDGEはRheinmetallが展開するOerlikon SkyNexにもC-RAM用迎撃弾「SkyKnight」を供給することになっており、低空域をカバーするSkyNexはウクライナ侵攻後に大きな注目が集まっているため、ここでもEDGEは存在感を発揮するかもしれない。

海外では数年前からEDGEへの関心が高まっていたが、もはやディフェンスメディアのEDGEに対する注目度はトルコ企業や韓国企業に近いものがあり、EDGEの名前が日本に浸透してくるのも時間の問題だろう。

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※アイキャッチ画像の出典:EDGE

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コメント

    • たむごん
    • 2024年 3月 13日

    中東の産油国は、豊富なオイルマネー・ウクライナ戦争中の外交などにより、着々と国力を高めていますね。
    ウクライナ戦争でも、東西どちらとも距離感のある独特の立場を貫く国が多く、リスクヘッジを考えて武器を購入したいという需要もあるでしょう(安保上の制裁対策)。

    日本にとって、中東は工業製品の得意先・原料の輸入先というイメージが続いてきました。
    いつの間にか、工業力が大きく高まっているという事実を、管理人様の記事から勉強になりました。

    20
    • 名無し太郎
    • 2024年 3月 13日

    オイルマネーと言い切ることは簡単だが、買収も合併も対象となる企業の力量を見極めないと上手くいかない。そういう目利きは、金があるからと言って身に付くものではないと思う。
    成長の切っ掛けはオイルマネーだけど、それを上手く生かしている。イスラエルとの国交正常化に同意するなど柔軟な外交政策をとっていて、そういうところも強かで侮れない国だ。

    5
      • 戦略眼
      • 2024年 3月 14日

      オイルマネーで無理しているだけだろう。
      今後、石油の利幅が減っていくので投資しているが、砂漠の国で産業を維持できないだろう。

    •  さ
    • 2024年 3月 14日

    軍事と経済は当然、政治や外交と切り離せないわけで

    この経済的躍進・成功の理由は、オイルマネーもだけど政治的柔軟性が大きく影響している
    それは風習・因習であったり、外交政策(対西側、イスラエルなど)でも発揮されてるからこそなのだろうけど
    その結果、逆にアラブ世界・社会の盟主であるサウジアラビアとの仲は常に微妙(というか悪い)なのだよなぁ
    そういうリスクも含めて、(発展させているのは間違いなく凄いが)単純に称賛できるかどうかというと何とも

    日本からすれば、石油関連もあって機嫌を損ねなくない国々なので、
    アラブ首長国連邦も付き合い方は、常に良く考えて行動しないといけないという面倒な相手ではある

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