イスラエルメディアのHaaretz紙は22日「メルカバの売却先はキプロスで、同国が保有するT-80U/UKをウクライナに移転する可能性がある」と報じているが、キプロスはウクライナへの移転を否定している。
参考:Israel Plans to Sell Its Merkava Tanks to Cyprus
キプロスがメルカバを取得してもT-80U/UKを手放せるかは微妙
イスラエルが開発した主力戦車のメルカバシリーズは「乗員の生存性」を最優先にした独特な設計思想が特徴で、これまで輸出の機会(2014年にメルカバMk.4の海外輸出が成功したと発表しているが詳細は非公開)に恵まれてこなかったが、イスラエルメディアのYnetは今月15日「ロシア軍によるウクライナ侵攻で伝統的な陸上装備への需要が高まり、保管されていた旧式のメルカバが売却されることになった」と報じて注目を集めた。
今回売却されるメルカバは保管されていたメルカバMk.2とメルカバMk.3で、欧州と南米の国と売却で合意が成立し、国防当局者は「エンジンが米国製(テレダイン・コンチネンタル製)なので契約締結には米国防総省の承認が必要になる」と明かしていたが、イスラエルメディアのHaaretz紙は22日「メルカバの売却先はキプロスだ」と報じている。
Haaretz紙は「イスラエルとキプロスの情報筋が『メルカバ売却に関する協議を行っている』と同紙に語った。キプロス政府関係者も交渉を行っていると認めたが、取引内容や交渉の進展具合については明言を避けた。旧式のメルカバを取得したキプロスがT-80U/UKをウクライナに移転する可能性がある」と指摘しているものの、キプロスのクリストドゥリデス大統領は保有するT-80U/UKを手放す考えについて「トルコの軍事的脅威に晒されるような行動は取らない」と述べた。
安全保障分野のアナリスト(Geopolitical Cyprusを立ち上げたJohn Ioanou氏)も「イスラエルとキプロスの交渉をウクライナの戦争に結びつけようとする試みはロシア側の偽情報に影響を受けている。キプロスがイスラエル製兵器の購入を検討しているのは国際的な制裁が原因で、ロシア製のスペアパーツが入手困難になったためだ」と指摘しているのが興味深い。
米国、イスラエル、キプロスの3ヶ国が「メルカバの売却」と「T-80U/UKのウクライナ移転」をリンクさせて交渉が進めているかは確証がなく、イスラエルも自国の安全保障(ロシアによるシリア領へのイラン軍進駐阻止やシリア上空での自由確保)を犠牲にしてまで「ウクライナへの武器支援」につながる武器売却を進めるとは考えにくいが、メルカバを取得したキプロスが「T-80U/UKを何処に移転するか」は主権の問題だ。
ただエルドアン大統領はバイデン政権のキプロスに対する武器輸出再開を受けて「北キプロスに駐留するトルコ軍を4万人増強する」と発表しているため、キプロスがメルカバを取得してもT-80U/UKを手放せるかは微妙で、もう少し追加の情報が出てこないと何とも言えない。
因みにメルカバ売却を進めている南米の国については今のところ情報がない。
The prototype of the new modular tank turret from Roketsan is already being tested on the M60 tank chassis. https://t.co/JT6yuRyKVy pic.twitter.com/y7ZEQQTtFt
— Junsupreme (@RyszardJonski) June 15, 2023
上の話題とは関係ないが、トルコのRoketsanがM60向けの新型砲塔を公開して注目を集めている。
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※アイキャッチ画像の出典:Michael Mass/CC BY-SA 3.0
キプロスのT-80Uも韓国と同じく最終使用者変更にはロシアの同意が必要なのでは
そうですね、完全にそれを忘れていました。
でもポーランドや東欧にあった東側戦車はウクライナに提供されてるから、そこまでガチガチというわけでもなさそうな・・
韓国のは対ソ連援助借款返済の一環で通常の売買ではないみたいだし
でも、こればかりは当事者であるギリシャ政府からの発表でもないと白黒つかなそう
んー
以前ギリシャが、代替戦車くれるならキプロスの戦車出してもいいって言ってたような
メルカバは百両単位で売るんじゃなかったっけ?
それだけ新規に部隊新設するってのも、予算の都合やトルコを刺激するので考え難いが…
代替して退役させるのなら、その戦車の行方が気になるなあ
あったわこれだ
リンク
「南キプロスはギリシャがレオパルト2戦車を供与するなら保有する旧ソ連/ロシア系のT-80U戦車をウクライナに供与できるとのこと。
南キプロスはT-80Uを82両保有。」
ロシアを刺激しないようにこっそり送るんじゃないの
イスラエルは、どうしてキプロスに売る気になったのでしょう。
自国とトルコとの関係もあるだろうに。
多分、米国の意向なのでしょうが、シリアでも何かあるのでしょうか。
ロシアが抜ける(?)後の空白をトルコが埋めることに意義があるのか?。
それとも、単に、キプロスでの軍備供給の代理をさせるつもりかな。判らない。
米国にとって、キプロスの戦車を西側色に塗り替えても、意味は無いのでは。
そしてT80Uはどう扱うのだろう。南キプロスには、二種類のMBTの維持は大変でしょう。
廃棄したことにして、部品で輸出かな。手間の掛け過ぎのような気がします。
それとも、米国/イスラエル共にメルカヴァの再々輸出を認めるのかな。
ロケットさんって名前はかわええな
東欧かと思ったら、また思い切り燻っている所に供与して大丈夫ですかね?
イスラエルではサウジにイランまで巻き込んだ融和が進んでいるというのに、同時並行でトルコに対して挑発的な行動に出るのは訳がわからないですね。イランとトルコはカフカースでも北イラクでも対立しているのでその延長なのかもしれませんが、中東情勢は複雑怪奇です。キプロスで停戦が破られるような事になれば地理的に近いシリアや民族的な繋がりがあるギリシアとトルコの間にも波及する可能性ありますし、大丈夫かなぁこれ…
めちゃくちゃ面白い形の砲塔ですね。何が詰まっているんだろう
ロシアメディアで言われていた通りですね。現状ロシア製兵器の性能やサポート体制考えると乗り換えは妥当かもしれない。イスラエル製ならそれなりの防御力が有り近年存在感が増したトルコ相手へのバランスを考えたらアリだとは思うけど使い捨てでも無い兵器をサポートが限られそうなイスラエルから買うのってどうなんだろうか。
南米に関してはイスラエル・アメリカと関係が深い国では無いと売却は無いと思うので普通にコロンビアだろうと思う。