F-16シリーズを計218機も保有しているエジプト空軍が「どうしてロシア製やフランス製の戦闘機導入を進めているか?」という疑問に答えるためにはエジプトが直面している政治的な問題を理解する必要がある。
参考:Understanding Egypt’s 54 Rafale and 24 Su-35 Jets Procurement
安全保障政策の根幹をなす武器というツールで管理したり統制するというやり方に不満をもつ国の米国製兵器離れは今後も加速するのかもしれない
エジプトはナセル政権時代までは親ソ政策を掲げていたが、サダト政権時代に方針を親米政策に転換したためエジプト軍の装備の多くは米国から調達されたものの2012年にシナイ半島の過激派に対する軍事作戦を実施したことで米国に発注していたF-16やAH-64Dの引き渡し拒否に直面、さらに米国は政治的な理由(テロ組織ムスリム同胞団への弾圧に関連した人権問題)でエジプトが要請していたF-15売却や保有するF-16のアップグレード(AIM-120や新しい精密誘導兵の統合や供給など)を妨害したため、特に周辺諸国が運用する戦闘機との交戦ギャップ(AIM-7を使用した交戦距離は70km以下)に頭を悩ませることになる。
つまり時間が経過すればするほどエジプト空軍のF-16は周辺国(特にイスラエル)が運用する戦闘機よりも相対的に戦闘能力が低下していくため、エジプトは2015年にラファールやフリゲート艦の調達が含まれた大規模契約(約52億ユーロ)をフランスと締結したのだが、ここでも米国が妨害に出たためエジプトの思惑が外れてしまう。
米国は大規模契約に含まれていた視界外空対空ミサイル「ミーティア」や空中発射型巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」に使用されていた米国製部品の供給を妨害、そのため幾つかの兵器システムを引き渡すことが出来なくなりエジプト空軍は空対空戦闘の交戦ギャップ解消や対地攻撃用のスタンドオフミサイル取得に失敗、これを受けてエジプトはロシアからMiG-29M/M2を50機導入することになる。
引き渡されたMiG-29M/M2の性能に満足したエジプトは2019年、ステルス戦闘機などレーダー反射断面積の値が小さい目標の検出能力が高いSu-35導入に踏み切ったのだが米国は「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」の発動を招く恐れがあると制裁をチラつかせて取り引き中止を要求しており、エジプト関係者は「MiG-29M/M2導入に何も言わなかった米国がSu-35導入にCAATSAを発動すると脅してきたのはS-400と同じようにSu-35のセンサーシステムがF-35を検出できる能力を備えているためだ」と説明しているのが非常に興味深い。
この関係者の説明によると「Su-35は機首以外にも主翼前縁に埋め込まれたAESAレーダーシステム(Lバンド)を備えているためF-35を含むステルス戦闘機にとって非常に恐ろしい存在だ」と語っており、エジプトと同じようにSu-35の導入を進めていたインドネシアにも当時のトランプ政権がCAATSAの発動をチラつかせてロシアとの交渉を断念させているので「S-400と同じようにSu-35のセンサーシステムがF-35を検出できる能力を備えている」という主張には真実味を感じてしまう。
Su-35を導入中のエジプトが新たにラファール追加導入に踏み切ったのは「米国がミーティアやストーム・シャドウに使用されている米国製部品の供給を許可したため」と噂されているが、両兵器を製造するMBDAが供給を拒否された米国製部品を欧州製に交換することに成功したためだという主張もあり現時点でどちらが正しいのかは不明だ。
ただ欧州は米国とNATOの加盟国が過去締結した「大西洋横断ワークシェア協定」に基づき欧州企業が開発した技術を米防衛産業企業に移転したのだが、この技術を元に開発された部品を使用すると米国務省の国際武器規制/ITARの対象に引っかかるという落とし穴にハマってしまい、同協定を土台に開発した欧州製兵器の大半は米国に輸出許可を得なければならないというジレンマから解放され自由に海外輸出を行うため米国製部品の排除に対する取り組みが進んでいる。
例えば英国が開発した空対空ミサイル「ASRAAM」は米ヒューズ製の赤外線シーカーを選択したが、このシーカーに使用されているフォーカル・プレーン・アレイ/FPA方式の技術や設計は元々「大西洋横断ワークシェア協定」に基づきBAEから移管されたものなのにITARの規制対象になりサウジアラビアへのASRAAM輸出を米国が拒否して折角の輸出機会を失ってしまった。
これに不満を抱いた英国は赤外線シーカーを再び英国製に戻した最新バージョン「Block6」を開発、ITARの規制対象外で米国の顔色を伺う必要がない新型のASRAAにはオーマン、カタール、インドからの受注が既に舞い込んでおり、一度は導入を断念したサウジアラビアもBlock6を発注したという噂もある。
そのためミーティアやストーム・シャドウに使用されている米国製部品の排除にMBDAが動いていたとしても全く不思議ではなく、例え米国務省がエジプト向けの両兵器へ米国製部品の供給を許可していたとしても欧州の米国製部品や技術の採用は今後どんどん排除されていくはずで、安全保障政策の根幹をなす武器というツールで管理したり統制するというやり方に不満をもつ国の米国製兵器離れは今後も加速するのかもしれない。
関連記事:エジプトのラファール追加導入契約が発効、フランスを除けば同機最大の運用国に浮上
関連記事:米国、エジプトのSu-35導入にもCAATSAに基づく制裁を匂わせ始める
関連記事:英国、赤外線シーカーを国産化したASRAAMの最新バージョン「Block6」が間もなくデビュー
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Alexander Cook AtlanticTrident21に参加中のラファール
盛者必衰の道理がいつか来るんですよ、必ず
他人とは適切な距離をとってないと、
依存するしか脳のない人は共倒れする
だいたい、エジプトとイスラエル双方にアメリカが兵器を供与してるという状態にいつまでも疑問をもたないのが無理
この記事を読むと諸外国のアメリカ離れは当然だなと思いますね。
CAATSAのそもそもの目的ってロシア防衛産業界にダメージを与える事じゃなかった?
アメリカはあかん国やってなってロシアから装備品調達する国が出現してる時点で失敗じゃねーか
韓国やエアバスの様に輸出の障壁になっているドイツも忌避されるだろうな
今はラファールやレオパルト2が売れているが、ドイツと手を組んだ次世代戦闘機、次世代戦車は物売るレベルじゃねえ感じで苦しむかもしれない
アラブの春で軍事独裁政権が倒れてムスリム同朋団が政権を握ったエジプト。
その後、親米のシシのクーデターで再度軍事独裁政権に戻ったが、アメリカ民主党の「アラブの春応援姿勢」により、中等諸国のアメリカ離れが始まった。
流石にムスリム同朋団が制限握った時は、アメリカもドン引きして、シシのクーデターは事実上黙認はしたがね。
軽めの制裁は食らわせてたが。
中東は民主化させると過激派が元気になるから(下手すりゃ政権にぎる)、やめとけまじで。
世界中の国からアメリカ離れが進んでいるな
同時に中国離れもね
アメリカが制裁すれば中国に接近するから中国離れはおきない
中国離れがおきている国は圧迫を受けているオーストラリアや日本とかの極一部の国だから
人権を重視する西側先進国は極一部に含まれますかね?
極かは置いといて少数派ではあるだろうね
アフリカなんてほぼ中国傘下みたいなもんでこの前台湾は中国の1部!と言う声明をアフリカ大陸52ヶ国が共同で出してたし
中東もパキスタン筆頭に中国寄りの国沢山よ
それが国連加盟国の公式見解だもん、我が国もアメリカもそう
中華代表として大陸を選んだ際に、台湾を居残りさせず排除する形にしてしまったニクソン政権の大誤算だね
今もあの当時も、大陸を民主化できる目算など無かった、より大きな市場利益を優先したアメリカが墓穴を掘った歴史的転換点
中国人には、世界がそう見えている、と。
なるほど。勉強になります。
相互の違いを知る事は大事。尊大な中国の考え方をわかった上で、我々も判断をしなくては。
アメリカを敵に回すと中露より厄介なの誰でも知ってる説
事実だが、それが永遠に続くとでも?それこそ甘い
米国製部品か。
日本の国内開発品も結構使ってるだろうから今後の武器輸出の足枷になるだろうね。
日本製の兵器は、ガラパゴス化がきついから売れない。
一度只でお試し戴いてからでないと。
退役した自衛艦ばら蒔くとか。
それ買える金持っていて政治的にも問題国はアメリカから直接買うと思う
訂正
問題国→問題ない国
というかww2以降、実戦経験のない国が作った実戦経験のない兵器の信頼度はあてにならなさすぎて国際的に売れている銃みたいな安いものから戦闘艦や戦闘機みたいな高額なものまでいずれにしろ同性能クラスのもの作っても他国より相当安くしても売れるかどうか怪しい
ロシア制裁を隠れ蓑に、米製兵器の使用を強制するのみならず、政治的なコントロールの手段にしようとした下策。
これのせいでグリペンも使いづらい戦闘機になってしまった
セールスが振るわない理由の一つ
今すぐ何か起きる話ではないが、重要な転換期に差し掛かったのは事実。
米国は重く見ないと、米国自身の凋落どころか、世界中の火種になるかも。
政治や経済規模だけでなく、兵器の技術レベルも、多極化しているんだよ。冷戦時代は電子技術のアメリカVS大出力を極めたソ連兵器の2選択肢しかなかった時代から、ヨーロッパ諸国(イスラエルも含む)や中共も、技術レベルという点で存在感が出てきた。そして無人機のコスパの優れたトルコ…一部の兵器体系では、アメリカを抜いた中露
欧州の復権か
日本もアメリカの呪縛から逃れて軍事産業を売り込むチャンスを掴め!
韓国やイギリスフランスに負けるな!
>この関係者の説明によると「Su-35は機首以外にも主翼前縁に埋め込まれたAESAレーダーシステム(Lバンド)を備えているためF-35を含むステルス戦闘機にとって非常に恐ろしい存在だ」と語っており、エジプトと同じようにSu-35の導入を進めていたインドネシアにも当時のトランプ政権がCAATSAの発動をチラつかせてロシアとの交渉を断念させているので「S-400と同じようにSu-35のセンサーシステムがF-35を検出できる能力を備えている」という主張には真実味を感じてしまう。
こういうのってさ、アメリカ以外のF-35プロジェクト参加国は心配しないのかな
ここは内容的にディフェンスブログか安全保障ブログと修正した方が良いと思う。
何でそんなに各国の事情や武器取り引きの詳細に詳しいの?もしかしてそっち関係の人がやってる?
ミリオタは必ずチェックするレベルだし、航空万能論ってブランドが出来ているから変える必要はないと思う
なにか問題でもあるのかよ?
どこにでもプロと同等かそれ以上のアマチュアはいるもんだぜ
圧力かけて「うちの商品を買え!」とか言われてもねぇ。そりゃあ客も離れるし、現地生産OKだったりアメリカ製じゃない兵器を購入する国も増えるわな
やはり、兵器の国産化は重要ですね
やたら外国製兵器を押す勢力が居るが、こういう事例を見れば返って高くなるとよく分かる
国産装備品の構成部品は国産化比率が50%程度だから、部品の供給を止められると同じ結果になるよ。
ヨーロッパも環境問題にうるさいけど、兵器を売るのにはご熱心。
何せ人を減らせば環境問題も解決だからな!
アメリカが売れない所がまたなんとも。
しかしエジプトももう少しタイミング遅らせればSu-57かSu-75でも買えたんじゃない?日本戦闘ヘリと同じ間が悪いような。