ロシア関連

世界で最も非常識な兵器、ロシアが極超音速ミサイル「ジルコン」の大規模量産を開始

ロシアのアレクセイ・クリボルチコ副国防相は30日、2022年にフルレート生産に移行した極超音速ミサイル「3M22ジルコン」の受け取りが開始されると明かして注目を集めている。

参考:Оружие России опережает время
参考:Serial delivery of Tsirkon hypersonic missiles to begin in 2022

ジルコンがフルレート生産に移行、ロシア海軍と米海軍の間に極超音速ミサイルギャップが生じる

ロシアが開発した極超音速ミサイル「3M22ジルコン」は固体燃料ブースターで極超音速域まで加速後、本体に内蔵されたスクラムジェットに点火して空気抵抗の少ない高高度(30km~40kmの間)を飛行するため最大到達速度はマッハ8~9(実用上の巡航速度マッハ5~6らしい)、最大到達距離は飛行コースによって変化するため約600km~1,000km+と言われており主に水上艦艇に対する攻撃用として使用されるが陸上の目標攻撃に転用も可能らしい。

補足:とにかく情報が少ないので正確なことは分からないが、ジルコンは海面から60mの低高度を飛行することも可能という説もある

欧米の軍事アナリスト達はジルコンのことを「世界で最も非常識な兵器」と呼んでおり、その理由はジルコンのサイズが関係している。

米海軍が開発中の極超音速ミサイルは艦艇が採用している汎用型の垂直発射装置「MK.41(+Mk.57)」や原潜が採用している水中発射型のトマホーク発射装置には収まらないと言われており、極超音速ミサイルをアーレイ・バーク級駆逐艦やズムウォルト級駆逐艦、バージニア級原潜に搭載するためには艦艇側の物理的な改造が必要になるのだが、ロシアが開発したジルコンは既存の巡航ミサイル「クラブ(3M54T 全長8.9m/直径0.53m)」が発射可能な汎用型の垂直発射装置「3S-14」と互換性があるため艦艇側に物理的な改造を施す必要ない。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0 3S-14U

要するにロシアはジルコンさえ完成(厳密に言えばソフトウェアのアップデートは必要だろう)させてしまえば、多くの艦艇と潜水艦から極超音速ミサイルを運用することが出来るという意味で「非常識」だと言われているのだ。

ロシアのアレクセイ・クリボルチコ副国防相は30日、露国防省の機関紙「クラスナヤ・ズヴェズダ」に掲載された記事の中で「ジルコンを使用した一連のテストは成功に終わり、海軍は2022年にフルレート生産に移行した極超音速ミサイルを受け取ることになる」と明らかにしたため、ジルコンは検証テストで所定の性能を達成したことが確認されたため2021年からフルレート生産に移行すると言いたいのだろう。

出典:public domain ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

因みに米海軍が開発中の極超音速ミサイルは2025年までに水中発射型をバージニア級原潜の「バージニア・ペイロード・モジュール(VPM)」を利用して搭載、2028年までに初期運用能力を獲得する計画で、水上艦艇への極超音速ミサイル配備はズムウォルト級駆逐艦から行われる予定だが専用の垂直発射装置を開発して統合する必要があるので時間がかかるらしい。

以上のことからロシア海軍と米海軍の間には極超音速ミサイルギャップが生じることになり、このギャップを短期間で埋めることは非常に厳しいと言える。

関連記事:米海軍、バージニア級原潜ブロックVに極超音速兵器「プロンプトストライク」を搭載

 

※アイキャッチ画像の出典:Ministry of Defence of the Russian Federation / CC BY 4.0 ジルコンを搭載可能なアドミラル・ゴルシコフ級フリゲート

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    3S-14からはキャニスター径70cmのオーニクスも発射可能なので、流石に21in魚雷発射管サイズよりもジルコンは大きいと思いますけどね
    既存のキロ級やアクラ級等の潜水艦からは、VLSを増設するなどの大改装を施さなければジルコンは物理的に運用不可能でしょう

    しかし直径70cm全長8.9mのキャニスターが入るとなると、ズムウォルトのPVLSよりも3S-14は大型なのかな?

    5
    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    それだけの技術力が本当にあるなら民生ロケットの小型化、および出力の強化に振り向ければ宇宙商業開発競争で西側陣営は苦しい戦いを強いられ、あと数十年はロシアの時代になるだろうにロシア人は馬鹿だな

    5
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      いやいや、だからこそ非常識なロシア人
      同じく国民を後回しにする北朝鮮の先軍思想も、金日成が生まれからソ連の思想教育を叩き込まれたということですから

      8
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      ロシアのロケット技術は本物だぞ
      実際、スペースシャトルの運用が終わってから暫くの間、国際宇宙ステーションへ宇宙飛行士を送る手段はロシアから打ち上げるソユーズ宇宙船しか無かった時期があったんだぞ(その後、2020年になって米国の民間企業が開発したクルードラゴン宇宙船が加わった。この間、野口聡一さんが乗ったのがこれ)
      ロシアは国策上、米国がやっている様な宇宙開発の民間委託をやるつもりが無いので、この点を指摘しても余り意味は無いと思うが

      23
        • 匿名
        • 2021年 1月 01日

        まぁ、旧ソ連の技術を継承したロシアのロケット技術は確かに凄かったけど、問題はロシアが継承した技術に胡坐かいて、旧ソ連からの遺産を腐らせつつある現状だよね。

        民間以降が進まなかった分、国の財政難の煽りをモロに食って技術継承と新規開発が進まず、ロケットと探査機は失敗が続いたし、これはロシアもかなり問題視してる。

        最近やっとアンガラの打ち上げに成功したからロケットの技術継承は何とかなるかもだけど、予算のさらなる減少も決まってるし、正直宇宙関連についてのロシアの未来は暗いだろうね。

        7
    • 七紙
    • 2020年 12月 31日

    この極超音速ミサイルもカリブルミサイルと同様に、トマホークよりデカい(=そもそもVLSのセルサイズがデカい)

    米軍も、Mk41よりデカいVLSをそろそろ導入するべきだと思う。

    トマホークはサイズの限界に達していて、ステルス化も超音速化も、弾頭重量か射程距離を妥協する以外で実現できない。
    ESSMも、サイズの限界に達しているため(Mk41へのクアッドパックを捨てないと)射程延長ができない。

    そこで、Mk41 16セル分 → デカい新VLS 9セル で置き換えられると、いろいろな問題がいっぺんに解決するのになー、と妄想してる。

    9
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      ズムウォルト級駆逐艦のMK.57VLS「あ…ひょっとして俺にワンチャンあるかな?」

      3
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      MK41より大きくしちゃうと、搭載可能艦艇がさらに制約されちゃうから痛し痒しですよ
      やはり現状のVLSに収用できるサイズを目指さないと、解に行き着くまで迷路に入り込みそう

      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      SM-3 Block2Bでも直径27inでそのままではMK41には納まらないから、MK41を5~6セルに改装して搭載する、という話があったから、そういう手もあるのだろう。

      2
    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    これだけ飛距離と速度が大きいのなら弾頭に搭載可能な最大重量が非常に小さいのでは?皆様よいお年を。

    5
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      最近の軍艦は一発食らったらもうアウトなので、弾頭は小さくても良いんじゃないかな
      1隻に3発ぐらいの同時攻撃なら対処可能な艦はほとんど存在しないのではと思う

      8
        • 匿名
        • 2020年 12月 31日

        その人が小さいって言ってるのは弾道に搭載可能な重量ですよ…

        1
      • A
      • 2020年 12月 31日

      勝手な解釈ですが弾頭の威力は運動エネルギーでカバーするとか。

      5
    • 野嘗
    • 2020年 12月 31日

    誘導時の方向転換が大変そうだな。

    3
    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    いくらロシアの謎技術でもシースキミングで高マッハで飛行させれば射程は大幅に短くなるはず、ロケットはそれほど長時間燃焼できない。
    スクラムジェットは空機の希薄な成層圏用で1気圧では動作しないし。

    7
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      つまり最大速度での最大射程はなかなか両立しないわけですな
      遠距離から発射されれば、単なる速めの巡航ミサイルとして迎撃も可能かと
      形状をみる限りステルス性能は無いように見えるし

      1
    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    ロシアは軍事に偏重し過ぎている。民需向けにもっとリソースを割くべき。

      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      そのようなプチブル思想はゆるされんのかも…。
      ロシアって専制的というか独裁的な政治体制じゃないと国民自体がなっとくできないんじゃないかしら。
      帝政ロシアみたいな体制が心地いいのかもね。

      13
        • 匿名
        • 2020年 12月 31日

        力による支配を好む傾向は確かに見える
        プーチンがやたら、たくましい半裸体を誇示しないといけないのもそのため
        指導者の肉体美カレンダーが普通に人気のある国ってロシア以外に知らんよ(笑)

        12
        • 匿名
        • 2020年 12月 31日

        モンゴル帝国が、諸侯がバラバラのルーシー支配のために、地元諸侯から、代官役に選んだのがモスクワ公という、モンゴルに作られた国だからか、モンゴルの血か。実にチンギスハンっぽい。

        1
    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    矛ばかり強くなりすぎてこのまま近い将来戦争起きたら水上艦隊は速攻で壊滅しそうだな
    極超音速で攻撃されることがない潜水艦の時代がくるか

    6
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      南北戦争を思い出すね。ライフリング技術によって銃の威力や射程が大幅に向上したのに両軍ともマスケット銃しかなかった時代の戦術である戦列歩兵で戦って膨大な死傷者が発生した。ドローンとかもそうだが、技術の発展に戦術が追い付いていないように感じる。

      4
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      そもそも戦争になったら核ミサイルで全員死ぬ件
      もはや最新兵器も張子の虎コンテストのように思える
      外交上意味があるので無駄ではないが

      1
        • 匿名
        • 2020年 12月 31日

        むしろ核が張り子の虎だろ。
        ある意味最も使えない兵器だし。

        20
      • 匿名
      • 2020年 12月 31日

      あれ?
      水中ロケットとかロシアで作って無かったっけ?

      1
    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    ジルコンだけど、潜水艦や軽艦艇用の軽量化版も作るって報道みたことあるのです。
    既存のVLSに入るのはこの軽量化版かもしれないですよ?

    2
    • 匿名
    • 2020年 12月 31日

    なんか、ロシアメディアだからって理由であまり信憑性がわかない…
    アヴァンガルドも2019年に配備されると言いつつ、続報がなくて、いつの間にかdf-17に話題を盗られてたし。

    3
      • A
      • 2020年 12月 31日

      そういえばアヴァンガルドってどうなったんですかね?
      中国の新型ステルス爆撃機(H-20Aでしたっけ?)や韓国のKFXも初飛行するとかしないとかいってましたが。
      計画が順調に遅れてるんですかね。

      1
        • 匿名
        • 2021年 1月 01日

        h-20は…df-17に比べて明らかに目立ちませんでしたね、てか、今年の中国ネタよくよく見直してみたら、だいたいミサイルと海軍ネタだったような…。
        あ?kfx?あの段階で飛べんの?まだ、最終組み立てを始めてまだ間もなかったはずですが…

        • 匿名
        • 2021年 1月 11日

        再度調べてみたら、2019年12月に2基配備されてました。
        それ以降は本当に音沙汰がなく、相変わらずスペックは謎です。
        キンジャールは只のカモフラージュでしたね、あいつ極超音速兵器ですらないし。

        1
    • 金 国鎮
    • 2020年 12月 31日

    ロシアの軍事兵器には他の主要諸国の兵器に比べて言い方が奇妙かもしれないが科学性が高い。
    売れればいいという兵器も多いがどうもそれだけでは説明できない兵器が突然出てくる。
    これがアメリカの軍事兵器との決定的な差だろう。

    基礎科学と軍事兵器の研究を同時並行で努力している集団がいるようだ。
    この種の研究は西側では非常事態を除いてあり得ない。

    7
    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    これは突拍子もなくて正直どの程度もまで信じていいのかわからない
    それだけ速かったら方向転換も大変だし、回避行動を取る船にそもそも当てられるのかという…
    数打ちゃ当たる戦術なのか、それとも実はソ連時代からのロケット技術の積み上げは偉大で実はちゃんと当たるのか
    他の方が指摘してるようにこのサイズでは弾頭も相当小さいだろうし、正直どう解釈していいのかわからない

      • 匿名
      • 2021年 1月 06日

      ツィルコンの話は別に最近突然飛び出してきたような話じゃないです。漸くの実用化ですよ。
      速い(相対速度が大きい)ってことは単純に的の運動に対して修正量が少なくて済むって話で、まして艦艇なんて鈍重な目標相手にそんな懸念は不要ですよ。対艦ミサイルの心配をする位なら、対空ミサイルを当てることなんて不可能ですよ。

      1
      • 匿名
      • 2021年 1月 10日

      まあ、只の空中発射型弾道ミサイルのキンジャールを極超音速兵器といったことがある国ですし(極超音速自体は弾道ミサイルで実現してるし、空中発射型弾道ミサイル自体は何度も研究されて標的として実用化済み)、ロシアメディアの軍事の情報ってあまり宛にならないんですよね。

    • 匿名
    • 2021年 1月 11日

    SDIみたく相手に無駄な対抗策取らせて疲れさせるテクニックでは?&ロシアが自分で強権独裁を望んでるんじゃないかな、日本の桜、森友、学術会議ネタ見ててめんどくさいと感じますw

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