米国関連

米海軍の次期練習機に挑戦するTextronとLeonardo、T-7Aに優位性はない

米海軍が調達予定しているT-45Goshawkの後継機候補にはM-346N、TF-50N、T-7Aが浮上しており、M-346Nを提案するTextronとLeonardoは「新聞やメディアのニュースを読む限りT-7Aが有利だと思っていない」と述べた。

参考:Textron, Leonardo bank on M-346 global experience in looming race for Navy trainer

TextronとLeonardoはT-7AをUJTSの競合相手とすら見ていない雰囲気だ

米海軍は2025年度予算案の中で「T-45Goshawkの後継機(Undergraduate Jet Training System=UJTS)の調達を2026年度から開始し、2026年度に10機、2027年度に12機、2028年度に12機、2029年度に12機調達する」と言及、Aviation Weekは「少なくともUJTSには3つの競合=TextronとLeonardoのM-346N、Lockheed Martinと韓国航空宇宙産業のTF-50N、BoeingのT-7Aが浮上している」と報じ、開発に手間取るT-7Aについて「IOC宣言は2028年度の予定で4年先の話だ」と付け加えた。

出典:Petty Officer 3rd Class Kallysta M Castillo

米海軍が米空軍と同じ機種を採用すれれば運用面や調達面の恩恵が期待できるものの、T-7AのマイルストーンC達成は2022年後半→2025年2月に、IOC宣言は2025年頃から2028年にずれ込むことが確定しており、T-7Aは開発リスクを内包したままUJTSの競争入札に挑まねばならず、競合機のオリジナル=M-346とT-50がアピールしてくるであろう「豊富な運用実績」に「本格的な部隊運用が未経験」という状態で立ち向かわなければならない。

TextronとLeonardoもBreaking Defenseのインタビューに応じた中で「カタールを除いた採用国(イタリア、ポーランド、シンガポール、イスラエル、ギリシャ)は全てF-35運用国(導入予定を含む)で、M-346とプルアップ・シミュレーションシステムの組み合わせもF-35運用国で検証済みの教育方法だ」「M-346を使用した国際訓練プログラムには日本、ドイツ、オーストラリア、カナダ、英国が参加している」「我々の強みは契約の受注から実際の学生を送り出すまでに時間が競合よりもずっと早い点にある」と主張。

出典:Air Force photo by Todd Schannuth

BoeingのT-7Aが運用面や調達面で有利ではないかという見方についても「新聞やメディアのニュースを読む限りT-7Aが有利だと思っていない」「もし海軍がT-7Aを選択すれば機体の引き渡しは何年も先になるだろう」「海軍は正式な要求要件を発表していないためM-346Nの開発作業がどの程度のものになるかは分からないが、それでも微調整レベルの作業で済むだろう」と述べ、もはやT-7AをUJTSの競合相手とすら見ていない雰囲気だ。

Lockheed Martinと韓国航空宇宙産業も上級戦術訓練機(Advanced Tactical Trainer=ATT)への挑戦を見越して2023年6月「RED6と協力して先進戦術拡張現実システム(ATARS)をT-50に導入するための作業を開始した」と発表しており、T-50のパイロット養成環境もM-346に劣るものではない。

RED6が開発したATARSはAR技術を応用した訓練システムの一種で、複雑化する脅威や任務を拡張現実下で再現して訓練効率の向上と訓練コストの削減を期待でき、Lockheed Martinも「依然としてT-50には世界的な需要があり、我々はATTとUJTSにTF-50AとTF-50Nを提案している。RED6が開発したATARSの統合作業はT-50プログラムを対象にしているが、最終的にはF-16、F-22、F-35といった当社のプラットフォームにも統合される可能性がある」と述べており、RED6はT-7A、F-15EX、Hawk T2、AERFLEXへの採用も決まっている。

つまりT-7Aが備えている拡張能力や再現能力はT-50にも引き継がれ、海外市場に供給されているF-16やF-35にもRED6を統合すればT-50の強みが増すという意味だ。

出典:Lockheed Martin

因みにLeonardoは今月10日「航空機のデジタル設計とパイロット訓練の新しいシミュレーションを開発するためST Engineeringと契約を締結した」と発表、ジェット練習機は「飛行性能」よりも「複雑化する脅威や任務の再現性=シミュレーション能力」の重要性が高まっており、これはジェット練習機だけの話ではなく多くの防衛装備品に共通し、軍事向けシミュレーターとトレーニングの市場規模は2029年までに167億ドル(2024年は129億ドル)に達すると予想されている。

そのため多くの防衛産業企業がシミュレーション技術やシミュレーターの開発に力を入れており、Leonardoが契約を結んだST Engineeringも同分野の技術開発に力を入れていることで有名だ。

関連記事:米海軍はT-45後継機を2026年度から調達、候補はM-346、TF-50、T-7A
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※アイキャッチ画像の出典:Leonardo

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コメント

    • kitty
    • 2024年 4月 19日

    M-346→F-35の訓練課程は実績が、T-50はLMの現用機と次世代機にもLMが勝つでしょうからいくらでも訓練プログラムがフィッティングできるのか強みですね。
    T-7Aは生まれる前から鬼子。

    3
    • 名無し
    • 2024年 4月 19日

    T-7の遅延の理由に人手不足のために選定するパイロットの幅を広げたためにコックピット改修が必要になったってのがあったが
    競合機はそのへんの問題はないんだろうか?

    4
    • バーナーキング
    • 2024年 4月 20日

    T-45の後継だとT-7AやT-50はもちろんM-346でもかなりの性能過剰なんだよね。
    技術の進歩で速度域も広がってFBWその他で操縦も容易になって、しかも着艦能力をようしかない

      • バーナーキング
      • 2024年 4月 20日

      暴発した。

      〜着艦能力を要しない、そもそも艦載機乗りに自力での着艦技術が必須でない訳だからT-45ほど低速性能は求められないんだろうけど。
      「共同開発して日米で導入。日本ではT-4後継」があるとすればここが唯一の居場所だと思うんだけどスケジュールが絶望的に無理なんだよなぁ…。

      1
    • 匿名希望係
    • 2024年 4月 20日

    空中給油とか考えると主翼を再設計して給油機を換装する必要のあるT-50が不利かもね。
    この二つの候補内で考えるなら

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