米国関連

米海軍、SPY-6搭載のジャック・H・ルーカスは期待通りの性能を発揮した

米海軍はAN/SPY-6(V)1を採用したジャック・H・ルーカスのテストについて「期待通りの性能を発揮した」「SPY-1では検出できなかった目標を検出した」と報告、SPY-6へのアップグレードを実施する最初のグループ(DDG-91、DDG-93、DDG-95、DDG-97)も発表した。

参考:US Navy reports successful tests of newest shipboard radar

このまま行けばジャック・H・ルーカスの初期運用能力は「2024年8月」に宣言される見込み

AN/SPY-6(V)1を採用したジャック・H・ルーカスは2021年6月に進水、28ヶ月間に及ぶ艤装工事やテストを経て2023年10月に就役したが、SPY-6はSPY-1と比較して約2倍の電力供給と強力な冷却能力を必要とし、将来的には指向性エネルギー兵器の搭載にも対応しなければならず、アーレイ・バーク級駆逐艦FlightIIIの冷却設備はIIAに比べて約100トン以上も増加。

出典:U.S. Navy Photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Mikal Chapman

発電設備もロールス・ロイス製のAG9160に変更され、重量増加に対応するため船体構造の強化も行われた結果、FlightIIIのサイズは9,700トンに達している。

さらにイージスシステムもベースライン10に変更されたため、初期運用能力の獲得は早くても2024年8月以降になり、米議会調査局は2021年6月「陸上施設でのテストも終わっていないのに艤装工事を進めているため、仮に設計変更やシステム自体の改良が必要になると艤装工事をやり直すハメになる」と警告。

出典:RAYTHEON AN/SPY-6(V)1

つまりFlightIIIを構成する重要なレーダーやシステムが完成していない=当初設計のまま予定通り完成するという前提でジャック・H・ルーカスの艤装工事を進めているため、テストが完了して追加修正や工事が必要になっても「これを吸収できるスケジュール的な余裕がない」という意味で、DDG-126とDDG-128の建造も進んでいるため「未検証の技術が予定通り機能せずに遅延を経験したフォード級の教訓が全く生かされていない」と言いたいのだ。

米海軍は2023年9月と12月の海上試験に基づき「SPY-6は期待通りの性能を発揮した」「SPY-1では検出できなかった目標をSPY-6は検出した」「初期運用能力の獲得に向けてSPY-6のテストを続ける」「海軍とレイセオンはSPY-6が何を検出できるのか学び続ける」と明かしたが、2024年1月時点でSPY-6の海上試験期間は30日ほどしか行っていないらしい。

このまま行けば初期運用能力の獲得は「2024年8月」に宣言される見込みだが、米海軍が提示する「期日」は守られた試しがないので楽観視するのは危険だ。

因みに米海軍はSPY-6へのアップグレード=Mod 2.0 upgrade packageを実施する最初のグループ(IIAのDDG-91ピンクニー、DDG-93チャン・フー、DDG-95ジェームス・E・ウィリアムズ、DDG-97ハルゼー)を発表、変更箇所はAN/SPY-6(V)4、ベースライン10、AN/ALQ-32(V)7 SEWIP BlockIII、冷却システムの追加の4つで、既にSEWIP BlockIIIが組み込まれたピンクニーの艦橋は左右に拡張され「見た目」が大きく変更されている。

関連記事:SPY-6やベースライン10を採用したアーレイ・バーク級駆逐艦、戦力化は最速でも2024年後半
関連記事:米海軍、次期駆逐艦のマージン確保に対する投資は全く惜しくない

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy Photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Mikal Chapman

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コメント

    • 例のアレ
    • 2024年 1月 15日

    自衛隊もSPY-6の導入検討してるし、良いニュースだな

    16
      • Whiskey Dick
      • 2024年 1月 15日

      艦船に搭載実績のないSPY7を用いるイージス搭載艦(アショアの代替案)をキャンセルしてSPY6搭載艦を増やした方が良いだろう、大量生産されるはずだから費用と予備部品も安心できる。

      5
        • 例のアレ
        • 2024年 1月 15日

        いや、アショアの代替艦は2027年に進水するんだからもう遅いでしょ
        これから作る6隻は白紙的に検討するんだから、それで十分でしょ

        15
          • 名無し
          • 2024年 1月 15日

          アショアの代替艦は2027年に.一番艦竣工じゃね?

          3
            •  例のアレ
            • 2024年 1月 15日

            本当だ
            しかも、一番艦は今年起工だからもうキャンセルは出来ないな
            SPY-7が優秀なレーダーである事を祈ってるよ

            7
      •  さ
      • 2024年 1月 15日

      SPY-6は、アメリカ向けで製造キャパの限界状態で外国に回す予定はないとか聞いてたけど事情が変わったのかな

      5
    • ku
    • 2024年 1月 15日

    艦橋構造物が舷側部分からはみ出てまんがなw

    25
      • hogehoge
      • 2024年 1月 15日

      これだけ艦橋が横に出てると単艦ずつでしか係留できないな。
      運用的に過密な軍港だとこれはマズいと思うんだが・・・・これ量産すんの?

      1
    •  
    • 2024年 1月 15日

    わー米海軍には珍しく上手くいったんだと思ったら

    >つまりFlightIIIを構成する重要なレーダーやシステムが完成していない=当初設計のまま予定通り完成するという前提でジャック・H・ルーカスの艤装工事を進めているため、テストが完了して追加修正や工事が必要になっても「これを吸収できるスケジュール的な余裕がない」という意味で、DDG-126とDDG-128の建造も進んでいるため「未検証の技術が予定通り機能せずに遅延を経験したフォード級の教訓が全く生かされていない」と言いたいのだ。
    >2024年1月時点でSPY-6の海上試験期間は30日ほどしか行っていないらしい。

    駄目だこりゃ
    やる気あるのかこいつら

    17
    • 白髪鬼
    • 2024年 1月 15日

    Flight IIですら船体に余裕が無いと乗員の間で不評だったバーク級の船体を、更に無理くり拡張しているようですけど、マジで復元性とか余剰浮力とか大丈夫でしょうかね。

    海自は、イージスシステム搭載艦で新規の大型船体を開発しており、こんごう級の後継艦には、そこで得られた知見をFBできるでしょうからSPY-6、SPY-7いずれを選択しても問題ないでしょうけど。多分こんごう級の後継艦の船体規模は、11,000t~12,000tではないでしょうか。VLS等の搭載数は変わらないものの、発電容量の大幅増と将来装備(レーザー、レールガンなど)の装備スペースを確保しようとすると思われます。

    21
    • 成層圏
    • 2024年 1月 15日

    日本は試験艦あすかを持っていることを感謝しよう。
    海自は先見性があるな。

    36
      • 名無し
      • 2024年 1月 15日

      自衛隊も問題山積だけどこの点に関しては割と慎重だからある程度信頼してる

      20
    • 野戦先輩
    • 2024年 1月 15日

    これはまた随分とわがままボディな船だな…素人目にも明らかに無理のある増量っぷりだよ。DDGXまでの繋ぎとはいえ、アーレイバーク級の船体いじくるにも限界があるだろうに…。

    12
      • T.T
      • 2024年 1月 15日

      もうとっくに限界ですよね。DDGXさんには早く来て欲しいけど、今の所8年後予定か・・・
      タイコンデロガ級を継続建造出来ていたらもう少し余裕はあったかもしれない。これはこれで元が古いけど。

      2
    • ひろゆき
    • 2024年 1月 15日

    米国の製造業には現場猫がうようよいるから陸上テストなしは失敗フラグだぞ

    11
    • 折口
    • 2024年 1月 15日

    レーダーのほうはある程度船のサイズを考慮して性能が決まっている部分があるとはいえ、それを支える電源系統や冷却系統が大容量化していくことを考えると、また大型艦建造の時代が来るのかなと感じます。防空についても、黒海での戦いや紅海の戦闘では攻撃側(陸上・航空・海上問わず)の高性能化に対して防御側艦艇の質と量の対応は必ずしも追随できていない印象をうけます。元来は重ASMをぶら下げた大型哨戒機や戦闘爆撃機への迎撃を想定していたSM-2級の長射程SAMを敵誘導弾に対しても積極的に使わなければいけない・ASBMなどはSM-2と同格の専用の誘導弾が必要な状況も、船の容積を圧迫していくように思われます。

    3
      •  さ
      • 2024年 1月 15日

      大型艦の基準自体が大きく変わるかもしれない。
      1万トンなら寧ろ小さいほう、みたいな感じに

      7
    • 海軍スキー
    • 2024年 1月 15日

    FlightⅡAに比べてかなり太りましたね
    本当に復原性確保できてるのか心配になってくる

    1
    • hiroさん
    • 2024年 1月 15日

    >「SPY-1では検出できなかった目標をSPY-6は検出した」

    ひょっとしてF-35のことだろうか?
    そうだとすると中国に対するアドバンテージになりそうだが、中国版イージス艦の能力はどの程度なのだろう?

    2
    • もり
    • 2024年 1月 15日

    このみっともない艦影、スプルーアンス級を無理やり改造したタイコンデロガ級味あって好きだわ
    時代は繰り返すね

    5
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