ウクライナ戦況

ザルジニー総司令官、マリンカからのウクライナ軍撤退を認める

ザルジニー総司令官は26日「我々はマリンカ郊外に撤退し、場所によっては街の郊外に陣地を構えている。それについて世論の反発を招くようなことは何もないように思える」と述べ、マリンカからのウクライナ軍撤退を認めた格好だ。

参考:Залужный о Марьинке: Нет ничего резонансного в отходе
参考:“Марьинки больше нет”. Залужный заявил об отходе украинских военных

管理人はマリンカ喪失をウクライナ側が認めるまで時間がかかると予想していたが、もののみごとに外れてしまった

ロシアはマリンカの完全占領を主張、新たに登場した視覚的証拠も「両軍の交戦がウクライナ軍がマリンカ北西郊外で行われている」「ロシア軍兵士がマリンカの行政区域端に到達している」と示唆しているが、タブリア作戦軍のオレクサンドル・シュトゥプン報道官は「まだマリンカを巡る戦いは続いている」「我々の兵士はマリンカの行政区域内にいる」「まだマリンカの完全占領を語るのは間違っている」と反論し、ウクライナ人が運営するDEEP STATEですら「現状でマリンカを失っていないと言い張るのは控えめに言っても奇妙だ」と指摘していた。

出典:GoogleMap ドネツク西郊外周辺の戦況(クリックで拡大可能)

ザルジニー総司令官は26日の記者会見で「マリンカの現状」について質問されると「この集落はもはや存在しない。バフムートの時と同じで通り毎に、ブロック毎に我が軍の兵士が埋葬されて現状に至る。これは戦争であり、我々はマリンカ郊外に撤退し、場所によっては街の郊外に陣地を構えている。それについて世論の反発を招くようなことは何もないように思える。戦争とは残念ながら『そういうものだ』とだけ言っておこう」と回答。

これを受けてDEEP STATEは「ザルジニーはマリンカに関する正しい認識を述べた初めての当局者だ。もう何も隠すことはない。ロシア側は(マリンカ占領に関する)十分な映像資料を公開している」と評価、ウクライナメディアも「ザルジニーはマリンカからの撤退に問題はない」「ザルジニーがマリンカ市内から郊外への撤退を発表した」と報じているが、シュトゥプン報道官だけは「敵は完全占領を主張したにも関わらずマリンカへの砲撃を続けている。総司令官が指摘したように我が軍は依然として街の北側に留まっている」と述べて「マリンカを巡る戦いは続いている」という立場を崩していない。

出典:Танкисты ЮВО

セベロドネツク、リシチャンシク、ポパスナ、リマン、ソレダル、バフムートでは「拠点の喪失」を認めるのに時間がかかったため、管理人は「抵抗の象徴(7年間の陣地戦+2年間の積極的な衝突)と化としているマリンカ喪失をウクライナ側が認めるまで時間がかかる」と予想していたが、もののみごとに外れてしまった。

因みに26日の記者会見でザルジニー総司令官は「参謀本部と国防省は動員後36ヶ月間の服務で当該者を復員させることに条件付きで同意した」「2023年と2024年の戦争は根本的に異なるものになる」とも述べており、この辺りの話は別の記事で詳しく紹介する予定だ。

関連記事:侵攻670日目、ドネツク西郊外やバフムートでの戦いはロシア軍優位で進む
関連記事:ロシア国防相、ウクライナとNATOが宣言した反攻作戦の阻止に成功した

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • XYZ
    • 2023年 12月 27日

    支援を継続してもらう為には正確な情報を発信する方が良いと思います。

    また、拠点を死守してなし崩し的に撤退するよりも現状の弾薬などの支援に合わせた戦線の構築をする必要もあるでしょう。

    武器弾薬は今後支援が再開する可能性がありますが、人員は支援がありません。
    今は領土よりも人的被害を最小限に抑える戦いが必要です。

    18
    • 安倍晋三
    • 2023年 12月 27日

    年の瀬も迫り、ウクライナ側は戦艦の大破、ロシア側はマリンカ制圧とそれぞれ戦果アピールに忙しいようだ。
    とはいえ前者が個別戦術レベルの話なのに対して要衝の制圧は戦略レベルの前進と言え、反攻も一段落して後者有利が顕在化してきたのは否めない。

    34
    • のむら
    • 2023年 12月 27日

    マリンカはすでに廃墟で意味がないといった意見もありますが、
    ウクライナがある程度保持し続けたように、廃墟状態でもコンクリの壁や遮蔽物、道路がある時点で防衛拠点なんですよね。
    映像からですが、現状でも更地になっているわけではなく、快適な住居や商業活動ができないだけで以前戦闘では防衛拠点として機能するレベルに見えます。

    ウクライナの反攻もバフムートが完全に落ちる前だったらもう少し東進やバフムート奪還程度はありえたかもしれないですが、
    今は亡き彼が一応最後まで仕事を完遂したのが大きかったですね・・・

    12
      • ppap
      • 2023年 12月 27日

      マリンカはドネツク市街地への攻撃拠点だったのでロシア(特にDPR)としてはドネツク市街地の安全確保のためには何としても攻略したかった場所であり
      戦闘で廃墟になったからと言って無意味な土地と言うわけでもないんですよね
      ウクライナ側としてドネツク奪還の足掛かりを一つ失ったわけでこの影響は大きいと思います

      33
        • たむごん
        • 2023年 12月 27日

        仰る通りですね。

        プーチン大統領とショイグ国防相が、マリンカ陥落を報告する動画を出しており、政治的に重要な拠点である事が分かりやすいと感じています。

        16
    • つぐみ
    • 2023年 12月 27日

    プーチンも来年の大統領選に向けて年内にマリンカという大きな戦果を挙げれてひと息つけるといったところかね

    アメリカからの支援予算が確保できるか不安に打ち震えるゼレンスキーとは対照的に映る

    14
    • Easy
    • 2023年 12月 27日

    ザルジニーさんは「愚直なまでに正直」なのが良くも悪くも、という感じですね。
    ただ、政治家には絶対に向きません。
    向きませんが,国民は信頼してしまうんですよ。だって正直だから。
    非常に皮肉な運命にある人ですね。

    30
      • TKT
      • 2023年 12月 27日

      日本でも日独伊三国同盟加盟の是非が議論された時に、元・駐在武官でドイツ語に堪能で、アドルフ・ヒトラーの
      「我が闘争」
      マイン・カンプを原著で読み、ナチスの日本人に対する偏見を知り、日独伊三国軍事同盟に反対していた米内光政提督が昭和天皇の指名で首相に任命されたことがありました。

      米内光政提督は、煽動宣伝の得意な政党政治家では決してありませんが、外交軍事、特に海軍戦略に精通し、忖度せずにはっきり意見を言うことで昭和天皇や山本五十六に信頼されましたが、ナチスドイツの軍事力、科学力を妄信する陸軍省、外務省の一派の反対により、閣内不一致で辞職せざるを得ませんでした。

      しかしその後、サイパン島失陥などで東條英機が首相を辞任すると、米内光政は再び海軍大臣に就任し、そのまま終戦、さらに戦後まで留任することになったのです。

      いくら煽動宣伝の上手い政党政治家でも、二枚舌のウソツキでは意味がない、特に時局、戦局が重大になればなるほどそういう政治家に政治を続けさせることは国家、国民の破滅に直結するのです。

      11
    • ras
    • 2023年 12月 27日

    過去の彼の声明に詳しくはありませんが、少なくとも反攻作戦後は現実ではなくプロパガンダを配信する政治的なことをしている様子がないですね。
    今回の発表も政府が認めていないのに対してのもので、それが信頼に繋がると同時にまた政府との軋轢を深めそうに思います。

    11
    • n
    • 2023年 12月 27日

    ザルジニー総司令官は軍人として正しい行いをしているのですが、本当のことを言ってしまってゼレンスキー大統領といろいろあった後ですからね。
    最近ようやく収束したかと思ったんですが、また何か起こるかもしれませんね。少し心配です。

    11
    • たむごん
    • 2023年 12月 27日

    マリンカの廃墟の光景は凄いですが、ガザ紛争の前と後では、見る目が少し変わった気がします。
    ガザ紛争により、イスラエルがガザ地区をリアルタイムで廃墟にする光景を我々は目撃しており、住民の疎開も進んでいなかったからです。

    ザルジニー総司令官が、素早く発表する事は、ウクライナ国民・スポンサー国の双方によい事だと思います。
    ウクライナ国民(特にキエフなどの大都市)が真実を知り、自分達・家族も動員される事を意識した時に、戦争支持が揺らがないのか注目したいと思います。

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