ウクライナ戦況

ウクライナ保安庁がSEA BABYの新バージョンを公開、爆薬1トンを運搬可能

ウクライナ保安庁は無人水上艇「SEA BABY」の新バージョンを6日に公開、このプロトタイプは1,000km以上離れた地点に約1トンの爆薬を運搬することができ、様々な武器を搭載できる汎用プラットフォームとして設計されているらしい。

参考:СБУ показала тестування першого дрону «Sea Baby» із тих, на які донатили українці

SEA BABYの新バージョン=Avdiivkaは様々な武器を搭載できる汎用プラットフォームとして設計

ウクライナ保安庁(SBU)は2022年夏に無人水上艇(USV)の開発を開始、最初のプロトタイプはスターリンク経由の通信チャンネルしかなく制御システムも非常にシンプルなものだったが、戦闘用USVというアイデアを誰もが気に入り、9月上旬までに完成した最初のバッチを投入してセバストポリ攻撃(9月16日~17日)を実施した。

出典:Telegram経由 セヴァストポリ周辺の海岸に漂着したウクライナのUSV

SBUと海軍はセバストポリ攻撃に108kgのTNTを搭載したUSVを複数投入、途中で幾つか失われたものの5隻がセバストポリまで約70kmの地点に到達、そこで通信(イーロン・マスクがスターリンクのスイッチを切った事件)が失われたため作戦は失敗に終わったが、何とか2隻を帰還させることに成功して貴重なデータを入手出来たらしい。

この失敗から約1ヶ月後の10月29日、SBUと海軍はセバストポリ湾内でアドミラル・マカロフを攻撃することに成功(自力航行が不能な程度の損傷)したものの、このUSVを開発した企業は品質や支払いについてSBUと対立し、SBUは独自にUSVを開発することを決定してSEA BABYやMAMAIが生まれることになる。

ウクライナ国防省情報総局(GUR)のブダノフ中将は「SEA BABYはクリミア大橋など静止目標に対する自爆型USV」「MAMAIはSEA BABYほど爆発物を搭載していないもののノヴォロシスクまで到達可能な航続距離を備える自爆型USV」と、SBUと決裂した企業とGURが協力して開発したMAGURA V5は「移動目標を攻撃するためのハンターだ」と明かし、我が国のエンジニアらは無人プラットフォームに対空兵器を搭載する作業を行っていると言及していたが、SBUはSEA BABYの新バージョンを公開した。

このプロトタイプは「Avdiivka=アウディーイウカ」と呼ばれており、外観以外の具体的な変更点について「技術的特性に変更が加えられて戦闘能力と操縦性能が向上している」「1,000km以上離れた地点に約1トンの爆薬を運搬することができる」と明かしている。

さらに興味深いのはSBUも「Avdiivkaは様々な武器を搭載できる汎用プラットフォームとして設計された」と述べている点で、恐らくSEA BABYもMAGURA V5と同様に「自爆型USV」から「武装可能なUSV」に進化するという意味なのだろう。

因みにMAGURA V5の制御通信について米ディフェンスメディアのThe War Zoneは「中継器を搭載した航空機(無人機)やSATCOMとの通信に対応している」と報じているため、SEA BABYやMAMAIも同じ方法を採用している可能性が高く、ロシア人ミルブロガーが運営するRYBARは6日「ウクライナ軍はボズネセンスクとウマニの飛行場からTB2を毎日飛ばしている」「TB2はオチャコフやユジネの上空から我々を監視している」と報告しており、TB2がUSVの通信を中継しているのかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Служба безпеки України

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コメント

    • 航空太郎
    • 2024年 3月 07日

    ある程度、高性能化&高価格化した時点で、搭載した魚雷を発射するタイプに変わってきそうですね。今はまだロシア艦艇の対抗能力が低いけれど、いずれは上空にドローンを飛ばして周辺警戒するのがデフォになるでしょうから、そうなったら、敵艦を視認できる距離まで近づいたら長魚雷を撃って、自分はそれ以上近付かない、といった感じになるかと。

    12
      • gobu
      • 2024年 3月 07日

      長魚雷は一発で大きな艦船を鯖折り沈没させるイメージだが
      そんなのがドローン艇に搭載されるような事になれば
      大型艦船の意味がなくなるような…

      4
        • 航空太郎
        • 2024年 3月 09日

        小型拳銃のデリンジャーで殺害できるからと言って兵士が役立たずとはならないように、大型船にはそのサイズでないと載せられない127㎜艦砲であったり、VLSで各種迎撃ミサイルが撃てたり、対潜ヘリを運用できたりと仕事は山盛りなので、大型艦船のニーズが無くなることはありません。

        ただ、雷撃距離まで近づかれて長魚雷を撃たれたらまず助からないので、より遠方でドローン艇を発見、撃破するようなシステムが開発されるんじゃないかと思います。ぱっと考えた程度では、無人偵察ドローン群による濃密な周辺警戒網の常時展開とかでしょうか。結局、位置がバレれば単なる低武装小型艇ですから、127㎜艦砲による砲撃で沈めるのだって容易です。見つけられれば。

        1
    • たむごん
    • 2024年 3月 07日

    爆薬1トンは、凄まじい…。
    今の軍艦は、薄く軽く作っていますから、喫水線に穴が空いて沈むでしょう。

    高さも低く、シンプルな形状ですから、夜間に視認するのも難しそうですね。
    レーダー反射波まで考慮に入れているのかは分かりませんが、レーダー探知も難しそうな気がします。

    この大きさまで、いちいちチェックしてられないでしょうし、厄介な時代になりましたね…。

    21
      • 航空太郎
      • 2024年 3月 07日

      上空にドローンを飛ばして、海面に向けての熱源探知を周辺海域全体に対して行うことで、ある程度の感知はできるようになるでしょう。ある程度の速度で航行すれば、どうしても熱を発することは避けられませんし、水面を航行すれば航跡波もでます。

      悩ましいのは、それで、追いかけてくる、移動してくる半潜航艇を見つけることはできても、問題はエンジンを動かさず、浮いたまま、待ち構えているような場合ですね。ただ、その場合も、海水との温度差は生じるかと思います。太陽に船体を全部晒してる感じになるので。

      常に空中警戒機を飛ばしてる空母みたいな真似をするとなると、最低でも駆逐艦くらいの船体規模がないと難しそうですね。

      6
    • gepard
    • 2024年 3月 07日

    最新の情報としてゼレンスキー大統領が滞在するオデッサ(オデーサ)にて、大統領の車列の150m先にロシアのイスカンデルの着弾があった模様。ほぼ確実に先日の哨戒艇撃沈を受けた対応だろう。
    ウクライナ側はギリシア首相との面談に向かうゼレンスキーを狙った暗殺未遂、ロシア側情報源はゼレンスキーがセレモニーで勲章を授与した特殊部隊将校を殺害したと報じている。

    敵対組織の実働部隊を指揮する要人を排除するやり方はアメリカやイスラエルが得意とする作戦である。
    ロシアは海上でのドローン阻止が現状のやり方では難しいと判定し戦術を変えた可能性がある。

    14
      • たむごん
      • 2024年 3月 07日

      情報ありがとうございます。
      オデッサは前線に近いうえに、黒海に面しているためリスクが高いなと(地上の目撃情報を得られないリスクがある)。

      NATO加盟国の首脳は、政治的パフォーマンスをするにしても、キエフやリヴィウなどにして欲しいものですね。
      ギリシャ首相の行動は、核戦争のリスクを考えた時に、少し軽率に感じてしまいます。

      5
    • ブルーピーコック
    • 2024年 3月 07日

    後はUGVか。エストニアのは戦闘以外で使われてるらしいが。

    1
    • 名無しの悪夢
    • 2024年 3月 07日

    なんだか自動運転より制御しやすそうなのである程度の技術持ってる国なら自前で作りそうな気がします。
    ということは逆にアレですかね。

    2
      • k.ziro
      • 2024年 3月 08日

      フーシ派とかですかね?
      一トンだと艦船より港湾施設やダムとか破壊できそうですが

    • ホテルラウンジ
    • 2024年 3月 07日

    こういうのは以前は情報RMAと呼ばれていましたが、今風に言い直せばDXですよね
    ただ、RMAは個人的には各兵器が情報ネットワーク化される所とサイバー空間での戦いが主眼な感じで、それによって湾岸戦争以降、実際に米軍は無類の強さを発揮していました。
    しかしナゴルノ紛争以降、ドローンでの無人化+ネットワークの組み合わせに加えて、戦場で使う兵器の価格相場観を破壊する激安ドローンの出現がポイントになりましたね。
    スターリンクを始め、ネットワークインフラも大国しか作れない超高価な衛生や通信機ではなく、小型衛星や携帯の電波局や家庭用の通信端末で激安になり、ドローンも激安になり、それらを使った安価な自爆ドローンが戦車やフリゲート艦など高価な兵器を狩る時代になりました。
    軍事界隈はマジで大混乱になってますが、自衛隊が上手くこの新しい時代に適合した形に変貌してくれますように。

    7
      •     
      • 2024年 3月 07日

      ミノフスキー粒子の登場が待たれる

    • ギブ・メルソン
    • 2024年 3月 07日

    ロシア嫌いの過激な赤ちゃんだぜ

    5
      • kitty
      • 2024年 3月 07日

      「ママー、アイー!」(イクラちゃん風)まで揃っているのが草。

      1
    •     
    • 2024年 3月 07日

    最大積載量が増えるほど多くの兵器も搭載できるようになる。
    ステルス性を活かして懐深くに潜入し、対空ミサイルで戦闘機を追い払いながら
    本命の自爆型を突貫させるようなドラマチックなチームプレイを想像してしまいました。

    1
    • T.T
    • 2024年 3月 07日

    ここまでデカくしちゃうと探知・迎撃が容易になるから効果はかえって落ちるんじゃ無いかな。
    半水没じゃ無くて只のモーターボートになってるじゃ無いか。

    2
      • k.ziro
      • 2024年 3月 08日

      使われるのは夜間ですね、あと防潜網とかあるから水上からの方が侵入がしやすいというメリットもあるでしょう。
      震洋ドローンと言ったところです。

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