英国防省は「FCASプログラムに参加(研究開発・共同生産)する」というハリド・ビン・サルマン国防相の声明を否定、戦闘機分野の協力関係をどのように深めるか検討するため実現可能な提携内容の調査を開始すると発表した。
参考:UK and Saudi Arabia sign new agreement during defence minister’s visit
テンペストの開発や生産に英国とサウジの合弁企業が関与してくる可能性は十分あり得る話だ
英国との新たな軍事協定に署名したサウジアラビアのハリド・ビン・サルマン国防相は「将来戦闘機システムの共同生産と研究開発プロジェクトを含む包括的なパートナーシップにより、我が国の防衛能力を強化する『 Future Combat Air System program(FCASプログラム)』への参加に関する文書(意向表明書=SOI)にも署名した」と発表。
We signed a declaration of KSA’s intent to participate in the Future Combat Air System program (FCAS) which will strengthen KSA’s defensive capabilities through a comprehensive partnership that includes joint production and R&D projects for future air systems. pic.twitter.com/PXTmnBHVcB
— Khalid bin Salman خالد بن سلمان (@kbsalsaud) March 1, 2023
これを受けて海外メディアは「英国主導のFCASプログラム=テンペスト開発にサウジアラビアが参加(研究開発・共同生産)することになった。今回の合意はGCAPにサウジアラビアを結びつけるものではないようだ。英国が取り組む次世代戦闘機のアプローチは複雑でGCAPとテンペストは本質的に区別されている」と報じていたが、英国防省は発表したプレスリリースの中で「サウジアラビアはFCASプログラムに参加しない」と説明した。
英国防省の説明を要約するとベン・ウォレス国防相とハリド・ビン・サルマン国防相は昨年12月に合意した軍事協定に署名、これとは別に両国の戦闘機分野における関係を強化し、今後数十年に渡って共有する安全保障上の課題に対処する能力を高め、サウジアラビアが取り組む「Saudi Vision 2030」への協力を支援することなどが盛り込まれた意向表明書(SOI)にも署名したらしい。
🇬🇧 and 🇸🇦 are long-standing defence partners.
Defence Secretary @BWallaceMP and his counterpart signed a Statement of Intent in Riyadh, which initiates a 12-month Partnering Feasibility Study to explore how we can best progress the future of our combat air partnership. pic.twitter.com/Hysro6p5QJ
— Ministry of Defence 🇬🇧 (@DefenceHQ) March 2, 2023
両国は署名したSOIに基づき「戦闘機分野の協力関係をどのように深めるか検討するため実現可能な提携内容の調査(12ヶ月間)を開始し、Saudi Vision 2030の達成を含む両国の繁栄を促進するため「より緊密な産業協力」を推し進めることを確認した」と付け加えている。
産業構造の非石油を図るサウジアラビアは「Saudi Vision 2030」を掲げており、巨額のオイルマネーで装備を買い漁っていた方針にも大きな変化が生じ、今後は自立した装備品のエコシステム確立のため国防予算の大半を海外ではなく国内に投資(国防支出の50%)する方針で、サウジアラビアの装備需要に海外勢が食い込むためには「完成品を輸出する」というやり方を改め「技術や生産ノウハウを移転して現地で製造する」というやり方に切り替えなければ生き残れない。

出典:Collins Aerospace IDEX2023で英国のCollins AerospaceとサウジアラビアのSRB Aerial Systemsが新型UCAVを共同生産を発表
米国のロッキード・マーティンやボーイング、ロシアのロステック、トルコのヴェステルなど多くの海外企業がサウジアラビア企業との合弁会社設立(生産拠点の確立)に動いているのは「Saudi Vision 2030」の環境下でも受注を獲得するためで、サウジアラビアの政策はインドのMake in Indiaに近く、もう安全保障分野の投資は極力現地の産業界に還元する方式でないと受け入れられない風潮が常識化してきた格好だ。
つまり「Saudi Vision 2030下でも自国の防衛産業がサウジアラビア需要に関与したい」という英国の思惑と、巨額の国防投資を取引材料に「英国から技術と生産ノウハウの移転を引き出し自立したエコシステムを確立したい」というサウジの思惑が合致したのが意向表明書(SOI)で、ハリド・ビン・サルマン国防相が「Future Combat Air System program」に言及したことはその期待感の現れであり、英国が何らかの形で「戦闘機分野の研究・生産にサウジ産業界を関与させたい」と考えているのは間違いないだろう。

出典:英国防省 FCAS(テンペスト)のイメージ
今のところサウジアラビアがFCASプログラムの正式なメンバーになることはないものの、テンペストの開発や生産に英国とサウジの合弁企業が関与してくる可能性は十分あり得る話だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Ministry of Defence
まだまだオイルマネーは衰えを見せませんからサウジに出資して貰えば、兵器開発でネックになる資金問題は大分楽になりそうですね。
離婚後の身の振り方を考えるのは自立の第一歩だ。米国はサウジに非礼を働いた。
金をたらふく貰っておきながら、自分の思想を相手に強要できると考える悪い伴侶とは破局する。近所の夫婦関係の終わりの様子を見れば、この先、自分の国も似たようになるかもしれないと気付くだろう
金を出させる為のお財布は日本だけじゃ足りなかったか
その内、UAEやカタールあたりも引き入れそうだな
自国での生産を考えているかどうかの試金石にもなりそうですよね。
「FCAS」と名乗る計画が2つあるって事なのか
イギリスの計画と、ドイツフランスの計画
この話を聞いた時、めっちゃ混乱したし
兵器産業の話なのに、自動車の現地生産の話みたいになってきたな。並ぶハードルの形と大きさは殆ど別物だけど。
GCAPはFCASプログラムの一部という解釈が成り立ちそうですね。
FCASプログラムは文字通りに随伴型無人機システム等を含む英国の次期戦闘機システム全体を指す。GCAPはその中核となる有人戦闘機開発という位置付けではないかと。
英国の随伴型無人機システム開発に本邦が関与しないことからも、そのように推測されます。
「技術や生産ノウハウを移転して現地で製造する」
これね、日本がいっちゃん嫌いで苦手なヤツっすね…
2020年度の製造業において日本の現地法人は1万1,070社。海外生産比率は23.6%で、海外現地法人の売上高は240.9兆円と経済産業省の「第51回 海外事業活動基本調査概要」に書いてあるんですが、これって他国と比較してダメな方なんですかね。
この3年で売上高や法人数は下がっているとは別のサイトで見かけはしましたが。
何で防衛産業の話に民間産業の数字を持ち出してくるの?
防衛企業も民間企業なので全く的外れとはならないのではないでしょうか。
むしろ今までの日本特有の事情から海外生産ノウハウが防衛企業に無いのなら民間企業にはノウハウが豊富にあり、それを活用する機会のある話だと思いますけどね。
言ってもなんだが、サウジアラビア人は働くのか?
結局、周辺国の労働者が働いて、技術漏洩するのではないか?
要はサウジはオイルマネーに任せた完成品購入(主に米国から)を控えて国産兵器を作れるようになりたいってこと。それをイギリスが支援するってこと。