欧州関連

トルコとの対立が悪化するギリシャ、戦争に発展すれば孤立無援になる

トルコとの対立が悪化するギリシャの世論調査は非常に興味深い傾向を示しており、世論調査に回答した48%が「もしトルコとの戦争に発展すればギリシャは孤立するだろう」と回答した。

参考:Türkiye says US may approve sale of F-16 fighters in 2 months
参考:MRB poll: Nearly half of Greeks worried about military confrontation with Turkey

今後も世界は不安定さを増していき「軍事力に担保された安全」しか信じられない状態が続く可能性は高い

ウクライナ侵攻の影響でトルコとギリシャの対立に関心が集まりにくくなっているが両国関係は悪化する一方で、ギリシャ軍によるトルコ空軍機へのレーダー照射問題、ギリシャ軍による非武装化が義務付けられたエーゲ海の島々の武装化問題、米国によるキプロスへの武器輸出の再開、ギリシャによる米国からトルコへの武器販売の妨害、トルコの戦勝記念日を祝うNATOへの難癖など関係を悪化させる要因を上げれば切りがない。

出典:Jerry Gunner/CC BY 2.0 トルコ空軍F-16C

ただトルコも一方的にやり込められている訳ではなく、ギリシャが妨害していたF-16Vの売却で米上院の支持(下院がNDAAに盛り込んだF-16V売却制限を含まないNDAAを可決)を事実上獲得することに成功、この取引が2ヶ月以内に成立する可能性(上院と下院のNDAAを一本化させる過程で制限事項が排除さればバイデン政権はトルコにF-16Vを売ることが出来る)が出てきたため、エーゲ海上空の航空優勢をかけたギリシャとトルコの外交戦は最終局面を迎えている。

このような緊迫した状況下で実施されたギリシャの世論調査は非常に興味深い傾向を示しており、世論調査に回答した47.2%が「トルコとの軍事衝突を懸念している」と答え、もしトルコとの戦争に発展すればギリシャはどうなるかという質問には「ギリシャは孤立するだろう(48%)」「フランスが助けてくれる(27.1%)」「EUが助けてくれる(19.8%)」「米国からの軍事援助がある(17.4%)」と回答した。

出典:Remi Jouan / CC BY 4.0

トルコとギリシャはNATO加盟国なので「どちらか一方の国に味方するという国はない=孤立無援」と考えるギリシャ人が最も多く、次に「フランスが助けてくれる」と考えるギリシャ人が多いのは2021年9月に締結したフランスとの2ヶ国の相互防衛協定が原因だろう。

フランス側は「ギリシャが仮にNATO加盟国から攻撃を受けたとしてもフランスが即座に軍事支援を行う」と語っていたが、ギリシャのアドニス・ゲオルギアディス開発相は現地メディアの取材に対して「相互防衛協定に排他的経済水域(EEZ)の保護は含まれていないことを確認した=ギリシャの主権が及ぶ全権利を保護するようにはできていない。ギリシャのEEZはまだ確定(周辺国との調整が済んでいない)していないからで、我々が宣言もしていないEEZの主権を守るためフランス人はやってこない」と述べている。

出典:Naval Group フランスがギリシャに提案する予定のフリゲート艦

つまり「ギリシャの主権が確定している範囲」でトルコとの軍事衝突に発展すればフランスとの相互防衛協定が機能するという意味だが、本協定がフランスに「ギリシャの安全保障の保護」を義務づけているのかは不明で、そもそも相互防衛協定をギリシャに提供したのは「ラファールや新型フリゲートを受注するためのもの(何も無いよりはマシ)」という見方が強く、米国が提供する安全保障協定と比較すれば安全保障を担保するための強度としては非常に脆い。

恐らくギリシャ人もその辺の事情に薄々気づいているので、世論調査に回答した27.1%しか「フランスが助けてくれる」と信じていないのだろう。

出典:Lockheed Martin

本当にトルコとギリシャが戦争にまで発展するか不明(可能性は低いと信じたい)だが、力のバランスが少しでも崩れると現在の安全保障環境では何が起きても不思議ではないので、今後も世界は不安定さを増していき「軍事力に担保された安全」しか信じられない状態が続く可能性は高い。

関連記事:フランス、ギリシャ海軍が仏製フリゲートを採用すれば中古駆逐艦2隻を無償で提供
関連記事:ギリシャとフランスと締結した相互防衛協定、トルコと対立しているEEZ問題には非対応
関連記事:トルコへのF-16V売却問題、 米上院は売却を容認する国防権限法を可決
関連記事:レーダー照射問題で揉めるトルコとギリシャ、歩み寄りなく関係は悪化の一途

 

※アイキャッチ画像の出典:Κεντρική σελίδα

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コメント

    • ダヴ
    • 2022年 11月 05日

    フランスとか普通にトルコに負けそう。

    9
      • カディロフ上級大将
      • 2022年 11月 05日

      フランスには核があるんだよなぁ
      少なくともフランス本国に飛び火はしない

      26
        • バーナーキング
        • 2022年 11月 06日

        ここでいう「フランスが負ける」にフランス本国(領土・領海)は関係ないでしょ。間にどんだけ第三国挟んでるのよ。

        13
        • 2022年 11月 06日

        その理屈に倣えば、ベトナム戦争でアメリカは北ベトナムに負けてないし、ソ連とアフガニスタンで負けてないな(棒)

        18
    • ななし
    • 2022年 11月 05日

    記事の中に「国連」という言葉がなかった
    国連は安全保障に対し全く役に立たない組織になってしまった

    28
      • くらうん
      • 2022年 11月 05日

      むしろ役立った時を探す方が難しい。

      54
        • ブルーピーコック
        • 2022年 11月 06日

        ガリ事務総長時代に平和強制部隊を作ってソマリアとルワンダのPKOで無様をさらしちゃったので、安全保障に対し全く役に立たない今に始まったことではないですね。

        7
    • STIH
    • 2022年 11月 05日

    どんどん世界情勢が悪化してますね。資本主義が貧困問題を解決できない以上、宗教原理主義や民族主義・国粋主義に回帰しつつある中で衝突が避けられないのは仕方ないとはいえ、嫌な世の中です。
    それでも大国間の直接戦争が核兵器のおかげで抑止されてるだけマシな方かもしれないですが、それすらも時間の問題という気がしてならない。

    24
      • タイヤキ
      • 2022年 11月 06日

      NATOは軍事的に揉めたときに仲介はするだが、ギリシャが挑発行為しているために、ギリシャ不利な交渉内容になるのは確実な上に、挑発して自滅する国にはフランスも助けないでしょうね。
      ルール破るならロシアのように孤立しても戦い続けられる国力は必要。
      国際法は破るのは容易いが、欧米は契約重んじるから、欧米の信用はがた落ちしますからね。

      7
      • 名無し
      • 2022年 11月 06日

      宗教原理主義・民族主義・国粋主義などでも貧困問題解消出来ないのに、何故台頭する傾向があるのか不思議に思っています。
      現実から目をそらし、多少なりともガス抜き出来たら良い、といった所なのですかね?

      1
        • STIH
        • 2022年 11月 06日

        逆に言えば宗教原理主義・民族主義・国粋主義しか無いからだと思ってます。貧困に対抗するには弱者同士で連帯せざるえず、その連帯の受け皿が宗教や民族•国家と言ったものしか残ってないからだと。
        確かにそれらのフレームワークでは経済的な利益は得られないし、多くの理不尽が存在するでしょうけど、それでも仲間はいます。まさに村社会に回帰しつつあるのだと思います。

        3
    • 😁
    • 2022年 11月 05日

    面白いなあ
    外交で法とか契約とかに穴があって~
    みたいな話好き

    4
    • ミリオタの猫
    • 2022年 11月 06日

    「軍事力に担保された安全」しか信じられない状態とは、裏を返せば「当事国の誤解・認識不足次第で、直ちに戦争が起こり得る」と言う非常に危険な状態なんですけどね
    実際、ロシアのウクライナ侵攻にしたって、FSBの幹部がプーチンに対して「今、ウクライナヘ攻め込めばウクライナ人はロシア軍を歓迎する」と言う嘘八百を並べたおべんちゃらな報告書を送ったら、プーチンがそれを信じてしまった事が発端ですし
    もしかすると、人類は自らの本能で滅亡への道を歩み始めたのかも知れません

    5
      • 名無し
      • 2022年 11月 06日

      目先は損でも全体ではトクになる合意形成に政治が失敗して、戦争に突き進むパターンが相変わらず、多すぎる。
      別に平和主義者なつもりは一切無いが、無駄な戦争は無駄。

      7
        • STIH
        • 2022年 11月 06日

        みんな今を生きるのに必死なんですよ。そりゃ経済的に余裕があれば、
        >目先は損でも全体ではトクになる合意形成
        ができますけど、国家も企業も国民も、余裕がなければ目先の利益を取るしかない、と思うのは当然。そのために暴力に訴えるのも、残念ながら必然でしょう。

        10
          • バーナーキング
          • 2022年 11月 06日

          現代の戦争はおよそ「経済的な目先の利益」とは程遠いと思いますけどね。
          1発数百万の砲弾や億を超えるミサイルばら撒いて数億の戦車や百億の戦闘機と働き盛りの国民を潰しあって、
          それを上回る経済的な「目先の利益」を得られるケースは稀でしょう。
          油田やガス田、通行料取れる運河や海峡抑えられるなら中長期的には利益出るかもしれないけど、その場合は抵抗も強固だろうし国際的な支持を得られなければ経済制裁を受けるからトータルでプラスになるかはやはり怪しい。

          16
            • ななし2
            • 2022年 11月 06日

            得られるのは、一時的な自尊心高揚、くらいですかね?
            優勢な場合限定ですが。

            • STIH
            • 2022年 11月 06日

            いや相手の経済的利益を奪うのではなく、自分の少ない経済的利益が奪われないようするために戦争をする、と考えているのだと思いますよ。
            最近の戦争はみんな相手が悪いって言うじゃないですか。平和を愛する我が国を卑劣にも攻撃してきた極悪な国家だと。
            そしたらその結果自分たちに何百億の損失が出ようと、勝てば相手が悪いんですから、全部押し付けることができるとも考えていると。これも一種の経済的に合理的な考え方だと思います。正しいかは別として。

            5
          • ミリオタの猫
          • 2022年 11月 06日

          現代に限らないのですが、戦争その物が「経済的な目先の利益」だけで起こるとは限らないと思います
          例えばロシアによるウクライナ侵攻の場合、そもそもウクライナはつい30年程前まではソ連邦の一員と言う形でロシアによる支配を受けていた訳ですが、ウクライナ人はソ連崩壊の時に独立の道を選んだのに対して、働き盛りの時にソ連崩壊を体験したプーチンは「ウクライナはロシアの一部」だとずっと思い込み続けていて、少なからぬロシア人もプーチンを同じ思いを抱き続けていた事がこの戦争に伏線になっている様に感じられます
          だから、個人的には戦争と言うのは当事国々民や権力層の誤解・認識不足・一方的な思い込みによって引き起こされる可能性の方が高いのではと考えています
          そうでなければ、上の方でバーナーキングさんが指摘された様に『現代の戦争はおよそ「経済的な目先の利益」とは程遠いと思います』と言う事にはならないでしょう

          4
    • ブルーピーコック
    • 2022年 11月 06日

    フランスはギリシャに付いても、ドイツはトルコに付くだろうしな。

    「軍事力に担保された安全」が当然の時代に回帰したというか、ソ連崩壊後の30年間、グローバリズムが平和をもたらしてくれると過度に期待し過ぎただけかも。軍事力の優劣と経済的・人的交流は開戦へのハードルにはなるものの、しばしばそれを飛び越えてまで戦争始める国が現れるから。

    8
      • Hal
      • 2022年 11月 06日

      戦争は自分にとっても痛いと想像させないと戦争の抑止にはならないってことだな
      民衆が死ぬ?自分と取り巻きにミサイルが飛んで来なければノーダメージ
      経済がめちゃくちゃになる?自分はドルを溜め込んでるのでノーダメージ
      結局圧倒的な力で殴られる恐怖だけが独裁者を抑止できると

      23
        • ブルーピーコック
        • 2022年 11月 06日

        仰る通りですね。
        いじめっ子といじめられっ子の関係みたいなもので、手を出したら痛い目を見るのが分かりきってる相手には、そうそう手を出しにくいという。それでも殴るつもりなら周囲を納得させられる理由を宣言してからやるか、懐柔してからでないとイラクみたいになる。

        9
      • 名無し
      • 2022年 11月 06日

      >軍事力の優劣と経済的・人的交流は開戦へのハードルにはなるものの、しばしばそれを飛び越えてまで戦争始める国が現れるから。

      その典型例が某極東の帝国ですかね?
      追い詰められたと思い込み、内政や外交の失敗を開戦で誤魔化したら、結局地力の無さから亡国の憂き目にあったと。

      2
    • 名無し
    • 2022年 11月 06日

    記事を読む限りギリシャがトルコに対して一方的にあらゆる嫌がらせをしているように見えるんだけど?

    まあ犬猿の仲なのは分かるけど

    9
    • たな
    • 2022年 11月 06日

    20XX年に中国が日本の非ナチ化に取り組み出した時に、日本が孤立してないか心配してるのに似てますね

    2
    • makumaku
    • 2022年 11月 06日

    フランスは、油田開発のような利益がなければ、ギリシアのために介入しないだろう。
    農業と観光と海運で食べている小国ギリシアが戦争するのは自殺行為にしか見えない。

    4
      • k.ziro
      • 2022年 11月 07日

      ギリシアと考えると理解しにくいが東ローマ帝国かビザンツ帝国と考えると根が深いことが分かりますよ。
      なんといってもコンスタンティノープルを奪われている訳で

      1
    • 一般人
    • 2022年 11月 06日

    あそこは東欧よりも重要なんだがどうにかならんのか

    2
      • FF-X7
      • 2022年 11月 06日

      重要地点だからこそ手や口を出しにくいんじゃないですかね…。
      迂闊な事をすると関係国が次々に動いてかえってややこしいとか。

      2
    • 黒足袋
    • 2022年 11月 07日

    古代ギリシャの時代から、当時はアケメネス朝ペルシャの一部だった今のトルコから攻め寄せる大軍と、ギリシャ諸ポリスの連合軍とで戦っていた間柄。ウクライナ戦争が始まって、黒海と地中海を結ぶ海峡の両岸を抑えるトルコの地政学的な位置は極めて重要になっているし、バイラクタルの製産国。フランスがギリシャを支援してトルコと戦うとは考えられない。

    2
    • サンディカリスムな名無しさん
    • 2022年 11月 07日

    戦争で経済的利益(短期でも)を得る。
    とかいったい何世紀のハナシでしょうか?
    純軍事力への直接投資の見返り(経済効果)ってほぼほぼ1.0でしょ?
    ソ連やロシアはそれでかつて滅び、そして今滅ぼうとしてるのです。

    1
    • 112 
    • 2022年 11月 08日

    何千年争ってるのよ

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