欧州関連

ラチン回廊封鎖105日目、ロシア軍が停戦違反のアゼル軍に下がれと要求

ナゴルノ・カラバフ地域(アルツァフ共和国)とアルメニアを陸路で結ぶラチン回廊の封鎖は105日目に突入したが、アゼルバイジャン軍が迂回路を閉鎖するためアルツァフ共和国の支配領域に侵入、ロシア軍が元の位置に戻るよう要求している。

参考:The Russian peacekeepers are negotiating with the Azerbaijani side about its retreat to the starting position

恐らく大事に発展することはないと思うが、ウクライナを侵略するロシア軍が「元の位置に下がれ」と働きかえる構図

2020年に勃発したナゴルノ・カラバフ紛争の結果、アゼルバイジャンはアルメニアに奪われた土地の大部分を回復、ロシアは両国が署名した停戦協定に基づき平和維持部隊を派遣、ナゴルノ・カラバフ地域とアルメニアを陸路で繋ぐ「ラチン回廊」の通行権の確保に努めていたが、アゼルバイジャンが停戦協定に基づきラチン、サス、ザブフを迂回する新ルートのラチン回廊を提供、これを受けてロシアの平和維持部隊は「ラチンの管理権」を昨年8月にアゼルバイジャンへ移譲した。

出典:Google Map 管理人作成(クリックで拡大可能)

しかしアゼルバイジャン側の環境保護主義者は「カシェニ鉱山での違法採掘を停止しろ」と新ラチン回廊で抗議活動を始め、道路上にテントを張って車輌の通行を事実上封鎖してしまい、海外メディアは「ステパナケルトの商店や病院から食料品や医薬品が消えた」と報じて注目を集めている。

この問題は「自国領ナゴルノ・カラバフで天然資源の調査を行おうとしたアゼルバイジャン側の立ち入りをアルツァフ共和国が阻止した」のが発端で、独立を主張するアルツァフ共和国側はアゼルバイジャン側が再三要求した立ち入り調査を拒否、そのためアゼルバイジャン側は環境保護主義者を自称する人間を使って合法的=限りなくグレーなやり方で新ラチン回廊を封鎖、アルツァフ共和国側が天然資源の立ち入り調査を受け入れれば「抗議活動を停止する=封鎖の解除」と主張している。

出典:Aykhan Zayedzadeh/CC BY-SA 4.0

ただ「ステパナケルトの商店や病院から食料品や医薬品が消えた」という海外メディアの報道はやや大げさで、現地メディアは「新年を祝う余裕はなく商店にはキャンディ、飲料品やジュース、一部の家庭用品しか残っていないが大きな混乱はない。人々は缶詰などの食料備蓄を持っており、農園や家畜を飼育している農村が都市部に食料を供給している。備蓄された小麦のお陰でパン工場も稼働中で医療品も今のところは不足していない」と報じており、最低限の食料や医療品を輸送するトラック、現地の医療機関で手に負えない急患を移送する車輌などは通行できる。

つまりアゼルバイジャンは「ナゴルノ・カラバフが主権を及ぶ自国領である」という点で絶対に譲ることが出来ないため、限りなくグレーなやり方で「天然資源の立ち入り調査」を認めさせようとしており、アルツァフ共和国も「立ち入りを認めればアゼルバイジャン主権を受け入れた」と解釈されるため絶対に容認出来ず、アルメニアも状況を利用して国際社会に「ステパナケルト空港の再開=アゼルバイジャン主権の制限」を訴える構図だが、封鎖が100日目を超えたところでアゼルバイジャン側が動いた。

出典:Google Map 管理人作成(クリックで拡大可能)

アゼルバイジャン軍は「違法な武装グループ(アルツァフ共和国のこと)がアルメニアからアゼルバイジャン領(ナゴルノ・カラバフ地域のこと)に武器や弾薬を運び込んでいる」と主張し、新ラチン回廊の封鎖箇所を迂回するルートを実力行使で封鎖、この地域は停戦協定上「アルツァフ共和国の支配領域」なのでロシアの平和維持部隊が「元の位置に下がれ」と交渉を行っているらしい。

結局のところアゼルバイジャンが同問題で定期的に強く出るのは、ナゴルノ・カラバフ地域をアゼルバイジャン領の一部だと認める協定に早く署名しろ=国内の手続きを進めろという圧力であり、イランが出てくる前に2ヶ国間で問題を決着させたいのだろう。

恐らく大事に発展することはないと思うが、ウクライナを侵略するロシア軍が「元の位置に下がれとアゼルバイジャン軍に働きかける様子」は何とも言い難いものがある。

関連記事:27日目に突入したラチン回廊の封鎖、誰にも問題の出口が見つからない
関連記事:緊張が高まる南コーカサス、アゼルバジャン、アルメニア、イランは一触即発の状況

 

※アイキャッチ画像の出典:Mil.ru/CC BY 4.0

契約を履行し続けるロシア、アフリカ諸国に対する武器輸出で中国を抜く前のページ

世界中が注目、BAYKARが強襲揚陸艦での運用に対応したTB3を初公開次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    ラインメタル、ドイツ版HIMARSの開発でロッキード・マーティンと合意

    ラインメタルとロッキード・マーティンは「戦闘実績のあるドイツ製コンポー…

  2. 欧州関連

    優勢なアゼルバイジャン軍、アルメニア軍の防衛線を突破

    アルメニアとアゼルバイジャンが領有権を主張するナゴルノ・カラバフ地域を…

  3. 欧州関連

    ウクライナ国防相、F-16を使用したパイロットの訓練が間もなく始まる

    ウクライナのレズニコフ国防相は15日のラムシュタイン会議後「ウクライナ…

  4. 欧州関連

    ドイツ軍の近代化が本格化、議会が戦力強化に約2.6兆円支出することを承認

    ドイツ議会は総選挙に突入する前に約200億ユーロ/約2.6兆円にのぼる…

  5. ウクライナ戦況

    ウクライナ軍のザルジュニー総司令官、バフムートの状況は安定している

    バフムート周辺や市内の状況は膠着状態=全体的には安定しており、ウクライ…

  6. 欧州関連

    人間対AIの戦い、トルコ製ドローンが初めて自律的に敵兵士を攻撃したと国連が報告

    多くの海外メディアは国連が発表した報告書に注目しており、自律的に攻撃可…

コメント

    • かくさん
    • 2023年 3月 27日

    やや不謹慎だがこの平和維持部隊で勤務したいと思うロシア兵は多いのではないだろうか。

    52
    • 折口
    • 2023年 3月 27日

    ウクライナを手に入れるために中央アジアやコーカサスといったCIS圏への影響力を尽く失うロシア…。東部ウクライナが失ったものに見合うといいのですが、ロシアの政治体制を考えると「成果が見合うかどうか議論する」よりは「得られた結果が大勝利になるように目標を再設定する」ほうに行きそうな気がします。その上で、ロシアの極右セクターが主張するスラブ民族主義がちょうど(ウクライナのためにアジアやイスラム地域を失う)現状の肯定に合致する訳ですが、その先にあるのはさらなる領土失陥と国内の民族紛争であり…

    27
    • ブルーピーコック
    • 2023年 3月 27日

    そもそもソ連崩壊からこっち、監督不行き届きだったのに今更なにを。

    20
    • 匿名
    • 2023年 3月 28日

    自国民が居るならそこは自国領で
    実効支配出来たならそこも自国領でしたっけね?

    6
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  2. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  3. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  4. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  5. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
PAGE TOP