欧州関連

ポーランド、LTAMDSが統合されたパトリオットシステムの契約に署名

ポーランドで開幕した防衛機器展示会「MSPO」は仏Eurosatoryや英DSEIに次ぐ規模で、ブラスザック国防相はLTAMDSが統合されたパトリオットシステムの契約に署名、現地メディアは「ポーランドの防空における革命だ」と報じている。

参考:Polish Armed Forces build comprehensive air and missile defence system
参考:Poland buys hundreds of Naval Strike Missiles in $2 billion deal
参考:Poland is first foreigner to buy US Army’s new missile defense radar
参考:Polish Military Will Receive Thousands of Drones Combat Proven in Ukraine
参考:Poland becomes first international LTAMDS customer

現地メディア曰く、初日に署名された4つの契約総額は1,000億ズウォティ=235億ドルを超える

5日にキエルツェで開幕したMSPOは仏Eurosatory、英DSEIに次ぐ規模、中東欧で開催される防衛機器の展示会としては最大の規模を誇り、今年の参加企業数は700社以上(昨年は613社)でアジア・オセアニア地域からもオーストラリア(43社)、韓国(31社)、日本(7社:EIZO、Wacom、Fujinon、中村留精密工業株式会社、キタムラ機械、三菱電機、京セラ)、台湾(7社)、中国(3社)、香港(2社)、インド(2社)、ベトナム(1社)が参加している。

出典:RTX LTAMDS

このMSPOでポーランドはパトリオットシステムの追加調達、Naval Strike Missile(NSM)の追加調達、Pilica(ピリカ)の契約、FlyEye供給に関する契約を発表して注目を集めており、現地メディアは「ポーランドの防空における革命だ」と大きく報じているのが興味深い。

ポーランドはパトリオットシステム(PAC-3構成/AN/MPQ-65)を2セット取得済みで、米陸軍に先んじる形でIBCS(ノースロップ・グラマンが開発した次世代の統合防空向けの指揮統制システム)も取得し、8月にIBCSに接続されたパトリオットシステムの初期運用能力を獲得していたが、ポーランドは米陸軍が採用予定の次世代レーダー「LTAMDS(GhostEye)」についても売却を要請、6月に米国務省がポーランドへのLTAMDS売却を承認、この売却に議会も反対しなかったためポーランドとRTXは具体的な契約交渉を行っていた。

出典:Mariusz Błaszczak Pilica

ブラスザック国防相はMSPOで「パトリオットシステムの追加契約を承認した」と明かし、RTXも「ポーランドはLTAMDSにとって最初の国際顧客になる」と発表、この契約には最大12基のLTAMDS、48基のパトリオットシステム用ランチャー、644発のPAC-3MSEが含まれており、ポーランドはLTAMDSとPAC-3MSEで構成されたパトリオットシステムの導入、同システムをIBCSで運用する初めての同盟国になる。

IBCSにはピリカシステム(ZU-23-2とGROM/Piorunを搭載したSHORADにCAMMを統合した低空域を中距離でカバーする国産の防空システム)が統合される予定で、ここにF-35Aも統合して異なるセンサーとシューターの間でシームレスな情報共有を実現し、非常に近代的で効率的な防空レイヤーを形成するため「防空における革命だ」と表現されているのだろう。

出典:Northrop Grumman IBCS

NSMについては現地メディアが5月「ポーランド海軍が導入済みのNSMを追加取得する交渉(取引額は30億ズウォティ=7.2億ドル前後)が大詰めを迎えている」と報じていたが、ブラスザック国防相は「2個部隊分のミサイルを発注した」と、ポーランド国防省も「指揮車輌、ランチャー車輌、数百発のNSMが含まれるコングスベルグとの契約額は80億ズウォティ=18.7億ドル」と、コングスベルグも「この契約は同社の歴史の中で最大規模の契約だ」と語ったため大きな注目を集めている。

最後にFlyEye供給に関する契約だが、ポーランドは比較的小型のUAVや徘徊型弾薬の開発・製造や輸出が盛んな国で、WB Groupが開発した「FlyEye」は「ScanEagle」よりも小型のISR向けUAVだ。

FlyEyeの構成要素は国内で開発したため使用や輸出に海外からの制約がなく、GPSに依存しない慣性航法装置による飛行、交戦状況で実証された無線リンク、AIによる脅威の検出と判定が行なえ、FlyEyeの運用には射出装置や回収用装置が不要だが、リチウムイオン電池による電気推進なので滞空時間は2.5時間+とやや短いものの同機を提供されたウクライナ軍の評価は良好だ。

ポーランド国防省とWB Groupと締結した枠組みは「2035年までにFlyEyeを約1,700機調達する」という内容で、1,700機という数字は2010年から調達している分が含まれているため「新たに数百機のFlyEye調達が確定した」と現地メディアが報じている。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej 韓国ブースを訪れたドゥダ大統領とブラスザック国防相

以上が初日の発表分で、この他にもK2、K9、Chunmoo、FA-50導入合意に付随する契約(現地生産、整備拠点、技術移転など)がポーランド企業と韓国企業の間で幾つも発表され、MSPOでも韓国ブースは大きな注目を集めている。

因みにポーランドは「韓国と共同で韓国製装備品のデモンストレーションを(ベラルーシ国境に近い演習場で)9月に行う」と発表、実際にはK2やK9を装備した部隊の軍事演習だと言われているが詳細は不明だ。

関連記事:ウクライナ侵攻で統合防空の重要性が高まる、IBCSに欧州8ヶ国が関心
関連記事:ポーランドがCAMMを発注、前例のない技術移転で英国が19億ポンドの契約を獲得
関連記事:ポーランドが米陸軍からAH-64Eを8機取得、NSMの大量調達も進行中
関連記事:ポーランド、米陸軍が開発した次世代防空レーダー「LTAMDS」を調達
関連記事:UAV開発が盛んなポーランド、1,000セットも導入した国産カミカゼドーロンの実力

 

※アイキャッチ画像の出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

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コメント

    • ジュディ
    • 2023年 9月 07日

    ポーランドの熱心な軍備拡張の理由に欧州を信じていない様に見受けられる
    以前、英仏と安全保障を約束された際にドイツやソ連と交戦したら実際には援軍が来なかった
    負けたり、降伏すれば、敵がポーランドにいる間にNATO諸国が核兵器を投下するだろうという不信がある
    かつてはドイツがこのポジションだが、今はポーランド
    それ故に、大きな軍備が求められる

    15
    • kitty
    • 2023年 9月 07日

    なんか写真の、タイヤがアウトリガーに変形するの、誰でも思いつくけど本当に実装する例があったんですね。

    3
      • 第十軍団
      • 2023年 9月 07日

      ベースがZU-23-2だから大昔から有るよ

      4
      • nachteule
      • 2023年 9月 07日

       アウトリガーって接地してないと意味がないけどコイツってタイヤ上げる事で本体のアウトリガー接地する方式じゃないの?エリコンKD 35 mmとか似たようなもんなのでは?

      2
      • kitty
      • 2023年 9月 08日

      なるほど、Z-23ってTOYOTA車に乗ってるイメージが強くて、牽引砲スタイルは印象にありませんでした。

      単に畳んでるだけで、あれ自体がアウトリガーでは無いんですね。車軸が保たんだろうとは思いました。

    • 航空太郎
    • 2023年 9月 07日

    次世代レーダー「LTAMDS(GhostEye)」はイージス艦とは違って3つのレーダーで全方位を常時カバーする仕組みなんですね。ペトリオットシステムとの連携もできて、極超音速兵器にも対応、F-34Aのレーダーとも統合運用可能とは心強い話です。
    ただ、結構いいお値段もするし、その真価は多様なレーダー、シューターの統合運用部分にあると思うので、これほど複雑なシステムとなると、先進国でも一部でしか運用できない気がします。配備数を揃えるのにも四苦八苦しそう。

    これとは別に安価なドローン対応システムも構築しないといけない訳で、今後の軍備は金食い虫になりそうですね。

    2
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