アルメニアのパシニャン首相は「安全保障政策を1つの国に依存するのは戦略的に誤りで多様化に取り組んでいる」と述べたが、アルメニア国防省も5日「米国との合同軍事演習を行う」と発表したためロシアが警戒している。
参考:Armenia-U.S. joint exercise “EAGLE PARTNER 2023” will be held in Armenia
参考:Armenia to exercise with US troops next week, Russia voices concern
アルメニア国内での合同演習実施は誰の目にも「ロシアの影響力が陰りを見せている」と映るだろう
パシニャン首相は「アルメニアの安全保障はロシアに99.9%依存してきたが、ロシア自身が武器や弾薬を必要とする場合、アルメニアのニーズに応えることができないのは明白で、これは安全保障政策において1つの国に依存する体質が戦略的に誤りであると示している。この苦い経験に基づき我々は安全保障政策の多様化に取り組んでいる」と述べていたが、アルメニア国防省も「米国との合同軍事演習を行う」と発表したためロシアが警戒している。
アルメニア国防省は「国際平和維持ミッションへの参加準備の一環として米国と合同軍事演習『EAGLE PARTNER 2023』を実施する」と発表、米国防総省も「この演習に参加する米軍兵士(85人)は小銃を携行するものの重火器は持ち込まない(2015年にも同様の演習を実施)」と説明して「規模の小さい演習=軍事的強度の低い演習という意味」だと強調したが、ロシアのペスコフ大統領報道官は「このような話は懸念を引き起こすため、我々は注意深く分析して状況を監視する」と述べた。
アルメニアはロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国で、国内にはロシア軍の機械化歩兵連隊が3個、戦車連隊が1個、防空ミサイル連隊×1個が第102軍事基地に、エレブニ空港には第4航空防空軍に所属するMiG-29やSu-30が駐留しているが、昨年9月に発生した武力衝突でアゼルバイジャン軍はアルメニア領に侵入、両国は停戦に合意したもののアゼルバイジャン軍はアルメニア領に居座り続けたため、パシニャン首相はCSTOの第4条に基づき「軍事行動を含むあらゆる支援」を加盟国に要求。
しかしCSTOで主導的な立場のロシアはウクライナとの戦争に手一杯、他の加盟国も両国の紛争に関わることを敬遠(カザフスタンは平和維持軍の派遣すら拒否)したため調査団の派遣でお茶を濁す結果となり、アルメニア国内ではCSTOに対する失望感が強く、これが「ペロシ米下院議長のアルメニア訪問」に繋がったという声がある。
パシニャン首相は「パートナーのロシアは『西側が南コーカサスからロシアの影響力を排除しようとしている』と言うが、ロシアの話を聞けば逆に『ロシア自身が南コーカサスから撤退しつつある』と感じる」と述べていたため、米国との合同軍事演習は「安全保障政策の多様化」に基づいた選択になるものの、アルメニアはCSTO演習の国内実施を1月に拒否しているため、このタイミングでの演習実施は誰の目にも「ロシアの影響力が陰りを見せている」と映るだろう。
因みに「アルメニアは初めてウクライナに人道支援を行う」とも報じられており、政治的にも軍事的にもアルメニアの安全保障政策は脱ロシアの方向で進んでいる。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army National Guard photo by Sgt. Zach Sheely/Released
アゼルバイジャンとアルメニアの両方にNATOの影響が及ぶので、(アゼルバイジャンはトルコと協力関係)
コーカサスは摩擦が減って比較的に平和になるかもしれませんね
ただ、アルメニアが辿っている道が過去のウクライナと似てきているので、
将来的にロシアによる圧力を受ける可能性があるでしょうね
まずロシアという国が10年後に存在してるかも保障出来ない状況だからなぁ…
そういう情勢の不安定化も見越して、保険としてNATOに接近してる面もありそう
SFでおなじみの「新ソ連」になったりして。
プーチンも「ソ連時代が懐かしくない者には魂がない」とか言ってたしw
ロシア周辺国を中心に、力の均衡が崩れてきていますね。
ロシアは、ウクライナ戦争で失った物があまりにも多く、米国とアルメニアの関係強化は大失態です。
ロシアにとって、アメリカで言うキューバみたいな位置なわけですから。
イランに対しても、地政学的に大きな圧力になります。
領土を増やそうとしたら勢力圏が減るという素敵なオチですね
日本の親露派はこれも「米国とNATOに嵌められた!」とでも言うんだろうか
自分で投げた石ころで怪我して喚いてる馬鹿を擁護できる能力は俺には無いからなぁ
またウクライナ戦争前より守備する国境が増えてしまうのか。
つくづくロシア君はクリミア貰ってあとは我慢しとけばよかったのにな。
欲を掻いたからこうなった。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」か。
やり過ぎたら結局身を滅ぼすのよね。
何にでも言えるけども。
クリミア奪っちゃった時点でアウトじゃないかなぁ?外交でウクライナ繋ぎ留めておく方向に行けなかったのが現在に繋がってる訳で
カフカス地方はいつも不安定だなあ。アルメニアは敵が多すぎるし距離的にも西側に縋りきりになることはできなそうだし。これ以上ロシア弱体化の悪影響が中央アジアや中東にも波及しないといいけど。
どの口が言うのか
次にロシアの影響力低下でザワつくのは中央アジアかアフリカか。
ロシアが弱体化してくれるなら、それはそれで楽でいいんだが、力の空白が起こるとロクな事にはならないし、こっちに間接的に悪影響を及ぼすからなあ。
2020年のナゴルノ・カラバフ戦争におけるアルメニアとロシアの関係を日本と米国で例えるなら「中国に南西諸島から九州の一部まで占領されている状態で(日本政府の再三の要請にも関わらず)在日米軍が徹頭徹尾不介入を貫き、あまつさえ自衛隊が使う米国製兵器の使用まで差し止めた」って感じですからね。これはもうロシアの影響力の衰退以外の何物でもないでしょう。さりとて米国もイランとロシアに挟まれた国に新しく駐留するほどの余裕も胆力も無いでしょうから、非武装の顧問団を送って演習にオブザーバー参加するというのは程よい加減だと思います。
意味不明過ぎる
中東以上に泥沼な政治バランスの地域で複雑怪奇
ロシアの苦境はあるだろうが、ロシアからすれば欧州やアメリカがこの地域に手を出しても疲弊するだけと思ってる節もありそうだ
プーチンはアメリカの工作員の中でもトップレベルの実績を残しそうだな
うまいなぁ
こういうセンスを身に着けたい
最早選択肢が無い状況ではありますが、周辺国全てと関係が微妙になったので数十年後が怖くはあります。
本質的な関係改善が進むといいのですが。
この地域は中国やイランが積極的に進出しているので、米国にとっても放置できないと言う事情もありそうですね。
とは言え、ウクライナ以上に支援の難しい地域なので、アゼルバイジャンやトルコに対しても「これ以上面倒を起こすな」と言うアピールもありそうです。もちろん、アルメニア国民にも、自制心が求められるところです。
第三者の視点で見るとパシニャン首相は非常に厳しい状況の中で、最善手を選んでいるように見えますが、国民がその選択肢を支持し続けられるかがアルメニアと言う国の運命を決めそうです。
どこが最善手なんだか
トルコが反アルメニアでアゼルバイジャン側にあり、イランが反アメリカ側にある状態でアメリカに頼るなど、本当に政治的センスに欠けて地域を不安定化させるだけの判断をしたものだとしか言いようがない
アルメニアがアメリカに接近してアルメニアの主権は保護する立場にあるロシアやナゴルノ・カラバフで中立を保ったイランまで敵に回そうというならナゴルノ・カラバフどころかアルメニアという国そのまのすらなくなりかねないわ
アルメニアが接近するならアゼル人問題を抱えるイランだっただろうに
イランは無いだろう。
イランはこれだけ国際社会から弾き出されているんだから、そんな国と親密になればなるほどアルメニアの国際的な評判は落ちると思う。ロシアがそのイランと軍事協力してかなりイランも批判されてるわけだし。
脱ロシアをしたいのにロシアとお友達の独裁国家と親密になるのは恐らくあり得ない。
その理屈であればイランが制裁を受ける中、何事もなかったかのようにパイプラインや道路を建設したり、貿易規模の拡大について合意を続けてきた国の評判は既に底に近い状況なのでは。
温めてきた関係もザンゲズール回廊を認めた場合、だいぶ冷え込みそうではありますが。
そもそもパシニャン政権民主化運動から成立した政権で親欧米だしね
善の親米反露民主vs悪の反米親露独裁の二元論でしかものを考えられない人はせめてアルメニアの地理関係を見てみてくれ
まず親ロシア反ロシアの二元論でしか考えられないのがナンセンスというか、その二元論でカフカス地域の問題を語れるのならこれだけ複雑なことにはなっていない
ロシアの弱体化以前に対アゼルでアルメニアに正当性なんかないから誰も助けてくれないんでしょ
ロシアが助けてくれないからとアルメニアがアメリカを頼るのは勝手だが、いざ有事の時にイランやトルコがアルメニアを助けるために米軍の通過を許すなんて思ってるなら間抜けとしか言いようがない
結局アルメニアの苦境の原因はアルメニアの身から出た錆だろう
ロシア/ソ連にとっては、ウクライナ侵攻はアフガン以上の大惨事になってきたな。
国内でどう受け取られているのかは解らないけど。
これでこの地域のロシアのプレゼンスが低下すると思ってるならそんな単純な話ではないです
もうロシアのプレゼンスは低下しきってますからね。
ロシアが全く頼りにならなくなったと言う前提で各国動いてます。
歴史に詳しくないようなので教授させていただくと、第一次紛争は親米反露路線にかじを切っていたアゼルバイジャンをロシア側に引き戻してソ連崩壊後の影響力が退潮していっていたロシアのプレゼンスを回復させる結果に繋がっている
現在のアゼルバイジャンの優勢とアルメニアの苦境も、前者が露土斯との関係を改善して地歩を固めたのと対象的に後者が現実を見ない親米路線で立場を危うくした結果であり、あなたの考えているほどこの地域の問題は単純ではない
アルメニア商人の寝技(悪口)&二枚腰(悪口)に見えます。
なるべく多人数の関係者を巻き込み、利害調整をして、
その過程で自分の利益を得ようとするやり方に思えます。
昔の”ミスター5%”を思い出させられます。その人もアルメニア人でしたね。
今回、何をするつもりか判りませんが、米国は大丈夫かな。
米国議会にアルメニア人ロビーがあるとは思いますが、
うかつに手を出せば、中東問題以上の厄介事と思います。
首相がパシニャンで良かったよ
国内の反発を押し切り停戦に漕ぎ着け、ロシアの代わりになる後ろ盾を獲得しつつある
これが我が文磨くんだったら、アゼル政府を相手とせずとか言って全面戦争して国を滅ぼしかねない
今から考えればこの後すぐにアゼルバイジャンが侵攻していきましたね。
ロシアから許可をもらったのでしょう