欧州関連

アルメニア系住民の脱出が加速、3日間で50,243人がアルメニアに逃れる

第三次ナゴルノ・カラバフ戦争の結果を受けてアルメニア系住民が脱出を開始、26日時点で「13,550人がアルメニアに入国した」と報じられていたが、アルメニア政府は「27日午後15時時点で50,243人が入国した」と発表、3日間で1/3の住民が故郷を離れた計算だ。

参考:50,243 forcibly displaced persons enter Armenia from Nagorno-Karabakh as of 15pm Wednesday
参考:Azeri refugees long to return to Nagorno-Karabakh

第一次ナゴルノ・カラバフ戦争で故郷を追われたアゼルバイジャン人難民は「カラバフへの帰還」を夢見ている

1992年1月に独立を宣言したアルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ地域)は世界の主権国家から承認を得られず、第二次ナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンに敗北したアルメニアも「ナゴルノ・カラバフ地域はアゼルバイジャン領の一部だ」と公言し、第三次ナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンの主権と統治を受け入れたアルツァフ共和国は事実上「消滅」が確定している。

この結果を受けてアルメニアとアゼルバイジャンは10月5日に首脳会談を行う予定で、ナゴルノ・カラバフ地域のアルメニア系住民は一斉にアルメニア領への脱出を開始、現地メディアは「26日午前8時時点で13,550人の住民がアルメニアに入国した」と報じていたが、ステパナケルトとアルメニア領を結ぶラチン回廊は脱出する住民の車で埋め尽くされており、現地メディアは「27日午前8時時点で42,500人の住民がアルメニアに入国した」と報じ、アルメニアの首相報道官も「27日午後15時時点で50,243人の住民がアルメニアに入国した」と発表した。

アルツァフ共和国の人口は推定16万人と報告されているため、3日間で1/3の住民がナゴルノ・カラバフ地域を離れた計算で、現在もラチン回廊は脱出する住民の車で埋め尽くされているため「人口の大半がアルメニアに移住する可能性」が現実味を帯びてきた。

因みに第一次ナゴルノ・カラバフ戦争で故郷を追われたアゼルバイジャン人難民は「カラバフへの帰還」を夢見ており、AFPの取材に応じた67歳のアザド・アバソフ氏は「1992年に家族がアルメニア軍によってウムドゥル村から追い出されたことを決して忘れていない。当時直ぐに家から離れなけれならなかったが、同じように故郷へ戻る準備が出来ている」と、2020年の戦争で夫を亡くしたナザカット・ワリエワ氏も「直ぐに故郷のカラバフに戻りたい。我々はもう戦争に疲れ果てている」と述べたが、アバソフ氏は「再びアルメニア系住民と一緒に暮らすのは容易ではない」とも主張している。

アバソフ氏は「故郷に戻るにはアルメニア系住民との間に存在する『ある種の敵意』を払拭しなければならないが、カラバフを離れたアルメニア系住民にも故郷へ戻れるようにしてほしい」と訴えたが、アルメニアに脱出したアルメニア系住民は「もしトルコ人もカラバフに戻ってくるなら家には絶対帰らない」と述べており、民族間の複雑な感情が落ち着くには長い時間がかかるだろう。

関連記事:ナゴルノ・カラバフ地域で住民脱出が、アルメニアで政府への抗議活動が本格化
関連記事:和平協定の行方、アルメニアがアゼルバイジャンとの首脳会談を発表
関連記事:アゼルバイジャン大統領、不介入のアルメニアを評価し和平協定締結を示唆
関連記事:緊張が高まる南コーカサス、イラン大統領は如何なる変化も容認しない
関連記事:イランがアゼルバイジャンとの国境で大規模な軍事演習、焦点はザンゲズール回廊

 

※アイキャッチ画像の出典:ՀՀ կառավարություն

インド海軍が2隻目の国産空母建造計画を提出、ヴィクラント級空母の再発注前のページ

露調査メディア、DMG MORIの露法人は軍需産業に製品を売り続けている次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    ウクライナ、中国への軍事技術流出が懸念されていたモトール・シーチの国有化に動く

    中国企業によるモトール・シーチ買収で航空機用エンジンの技術流出が懸念さ…

  2. 欧州関連

    平和を望むなら戦争の準備をせよ、ポーランド軍の大増強法案を下院が可決

    ポーランドのモラヴィエツキ首相は11日、平和を望むなら戦争の準備をせよ…

  3. 欧州関連

    NATO事務総長の補佐官、領土放棄とNATO加盟の交換が解決策になると発言

    NATO事務総長の補佐官は15日「(ウクライナとロシアの戦争について個…

  4. 欧州関連

    世界一激しいギリシャ海軍のフリゲート艦受注競争、米英仏独伊蘭の提案が生き残る

    世界一激しいフリゲート艦受注競争に発展しているギリシャ海軍のフリゲート…

  5. 欧州関連

    アルメニア軍が負けた理由、アゼル軍による補給路狙いとシリア内戦の教訓軽視

    なぜアルメニアは25年以上も死守してきた防衛線をアゼルバイジャンに突破…

  6. 欧州関連

    ラインメタル、ドイツ版HIMARSの開発でロッキード・マーティンと合意

    ラインメタルとロッキード・マーティンは「戦闘実績のあるドイツ製コンポー…

コメント

    • 黒丸
    • 2023年 9月 27日

    この手の民族移動の中ではトルコとギリシャ間で第一次大戦後に行われたのが
    比較的きちんとできた事例のような気がしますが、その要因は何だったのでしょうか?
    やはり大国の圧力によるものなのでしょうか。

    1
      • 2023年 9月 28日

      きちんとできた?人口交換の過程でどれだけの人間が死んだのか知らないのか?
      トルコが殺したのはアルメニア人だけではない。ギリシャ人やアッシリア人も浄化してる。

      23
      • 山田さん
      • 2023年 9月 28日

      vさんが上で言ってる通り、希土戦争では戦争中も民族交換中も、ジェノサイドが頻発してますね。
      当時ギリシャのバッグには西洋諸国、特にイギリスがついてましたが、それは虐殺の抑止にはなりませんでした。
      というかぶっちゃけ、人種間憎悪により発生した戦争での民族移動に、過去成功例は無いんじゃないですね。

      11
    • ポンポコ
    • 2023年 9月 27日

    16万の人口の1/3が3日間で脱出ですか。虐殺とかは避けれて良かった。

    しかし、ロシアは面目を失いましたね。

    ロシアはウクライナ戦争を抱えているから、ここでトルコやイランを敵に回すわけにはいかない。ナゴルノ・カラバフのアルメニア人は見捨てるしかなかったのでしょう。

    5
      • 古銭
      • 2023年 9月 28日

      アルメニア本国ならともかく、アルメニアすら国家承認していないアルツァフ共和国の実効支配地域では、歴史的な経緯や両国の関係やCSTOを考慮しても対象外だと思います。
      ソ連時代やアゼルバイジャンの反露政権時代まで含めても、ロシアがナゴルノ・カラバフ地域の実効支配を支持することはなく、アゼルバイジャンの主権を認めていました。

      22
      •  
      • 2023年 9月 28日

      ロシアどころかアルメニアすらアルツァフ共和国なんて認めてないのにロシアが介入する義理なんてねえよ
      むしろアルメニア人にとっての退路であるラチン回廊を2020年の停戦合意に従って駐留してるロシア軍が管理してるからこのように平和に難民大移動が起こってるわけで
      何も知らずにロシアディスやりたいだけなら他所でやれってその方が賛同されるんだから

      22
    • 鼻毛
    • 2023年 9月 28日

    アルメニア内部も避難民で揉めそうですね
    こんなことなら最初から傀儡国家なんか建てなきゃよかった

    7
    • うまぴょい
    • 2023年 9月 28日

    この記事とは関係ないんだけど「韓国のポーランド武器輸出が暗礁に…国会空転で資金調達に支障」という記事があったんだが、もしよかったら有識者詳しく教えてクレメンス。

    6
    • emp
    • 2023年 9月 28日

    脱出した5万人も残るかもしれない11万人も間違いなくアゼルバイジャンを憎むし、アルメニア国民も恐らく憎む
    いつかアゼルバイジャンの軍事力を上回ったと判断した時、奪還に動きそう

    4
      • まー
      • 2023年 9月 28日

      まさにそれが第一次カラバフ戦争で起こったこと。とはいえ、人口でも経済でも資源でも明らかに劣後する上に低出生率と移住で国力差は開く一方、防衛の為の軍事力すら維持できるか微妙なのに、事実上トルコとも同時に戦争してアルツァフに再入植するとか問題外だろうな。むしろ滅亡を早めかねない。米国にしろ露にしろ、アゼルと事を構える理由がないし、アルメニア自体が干渉国以上の価値がない。

      16
    • たむごん
    • 2023年 9月 28日

    大陸国の国境付近・飛び地は、歴史的な経緯なども絡んで、隣国関係が難しいですね。
    住民の虐殺などはないと思っていたものの、ひとまず避難民に犠牲が出ていないのはよかったと思います。

    ただ、停戦協定は履行されていないわけですから、推移を見守りたいですね。
    アルメニアの人口280万人、難民5万人(最大16万人)ですが、日本に換算すれば(単純に45倍すると)難民225万人・最大720万人になります。

    外交の失敗は、一般市民の生活にとって、非常に高い代償をもたらしますね。

    5
      • アイウェア
      • 2023年 9月 28日

      一種の国内避難民とはいえ、世界でもトップクラスの貧困国家たるアルメニアに16万人も流れ込んできたらかなりキツイだろうな

      12
        •  
        • 2023年 9月 28日

        失業者だの難民だのといった社会不安の原因分子を解決するには軍人として雇ってしまうのが一番楽なんだよね
        祖国の現状に憤慨してるアルメニア人ディアスポラも難民には金を出さなくても失地奪還には喜んで支援してくれるかもしれない
        それを煽るデマゴギーなんて現れたらもう最悪だね
        そうならないようにパシニャンには頑張ってもらいたい

        10
      • gepard
      • 2023年 9月 28日

      カラバフの元国務大臣でロシア系アルメニア人のルーベン・ヴァルダニャンが、カラバフからアルメニアに脱出する途上のアゼルバイジャン軍検問所でアゼル側により拘束されたそうです。

      元指導層や戦犯の引き渡し要求はアゼル側からあっても実際に拘束等が行われるのは初めてのケースではないでしょうか。
      こうした動きが広まるのか注視したいですね。

      5
        • たむごん
        • 2023年 9月 28日

        情報ありがとうございます。
        指導者層も、陸路で通常の脱出なのですか(航空基地が破壊されたのでしょうね)

        アルメニアが、ロシアの停戦監視団にエリートの脱出を外交ルートで働きかけてもよさそうですが、見捨てられたのか・無視されたのか・切り捨てたのか気になるところです。
        停戦協定履行(南部回廊の割譲)・捕虜交換などのために、外交カードにされそうですね。

        1
          • きっど
          • 2023年 9月 28日

          旧アルツァフ共和国唯一の民間空港であるステパナケルト空港は、近年改修されるもアゼルやトルコ他の反対によって民間機の就航(当然アルメニア行き)が頓挫したまま現在に至っている様ですね(トルコは、就航させればアルメニアの領空を封鎖するとまで言っています)
          旧アルツァフ共和国軍には固定翼機戦力は存在していなかったかと記憶していますし、全体が山地ですから滑走路を整備するのも困難かと思われますので、恐らくこの空港が唯一のまともな滑走路なのではと思われ
          当然、前回の戦争でヘリ等も破壊しているでしょうから、空路での脱出は指導者層ですら不可能だったのでしょう

          ステパナケルト空港(英語版ウィキペディア)
          リンク

          3
            • たむごん
            • 2023年 9月 28日

            情報、ありがとうございます!
            内陸国は、他国の領空を飛ぶことになりますからね。

    • general
    • 2023年 9月 28日

    満州や台湾から叩き出された日本人入植者やプロイセンやシレジアから追放されたドイツ系住民を想起させられる
    いつの時代も逃避行は悲惨だ

    10
      • たむごん
      • 2023年 9月 28日

      本当に仰る通りです。
      外交の重要性を感じると同時に、エリートがミスした時、末端は汗や血を流すと感じてしまいます。

      10
      • ヤゾフ
      • 2023年 9月 28日

      敗戦国はそんなもんです。

      5
    • けい2020
    • 2023年 9月 28日

    アルメニアが侵略戦争して占領したときに、アゼルバイジャン人を全部追い出して(一部は虐殺して)
    残されたアゼルバイジャン国民の財産は軍とアルメニア人が奪い尽くしてるし、
    そりゃ恨まれてる自覚があるんだろうな

    ずっと自分たちが被害者って歴史改変してたが

    23
    • ヤゾフ
    • 2023年 9月 28日

    虐殺したのが分かってるからさっさと逃げてるのでしょうね。虐殺したらやり返されるのが当たり前なので。

    12
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  2. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  3. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  4. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP