豪州のアルバニージー首相は国防戦略の見直し結果を24日に公開、長距離攻撃兵器の普及でオーストラリアの地理的優位性が根本的に低下=直接的な侵略を伴わない強制力がリスクに浮上、これに対応するため大胆な戦力構造の再編を行う。
参考:National Defence: Defence Strategic Review 2023
陸軍の構造を伝統的な地上戦ではなく「水陸両用戦に対応した構造=海兵隊化」に再編する
見直し内容の一部は非公開もしくは現段階では公開されておらず、海軍の見直しは2023年後半に発表されるため、24日発表の内容は陸軍と空軍をカバーしたものになるが、見直しを託されたヒューストン元国防軍長官やスミス元国防相は「我が国の国防戦略は30年以上に渡ってテロや中東の紛争に焦点を合わせてきたが、世界は大きく様変わりし、中国は第二次大戦以降、どの国よりも大規模な軍備増強を行っており、これにオーストラリアは立ち向かうことができない」と指摘。
特に長距離攻撃兵器の普及で軍事力の質的特性が変化=火力の投射距離が飛躍的に拡張されたことで「直接的な侵攻を必要としない軍事力による強制力」が安全保障上のリスクに浮上、そのためオーストラリアが本来持っていた地理的優位性が根本的に低下し、ミサイル時代と定義した新しい安全保障環境下ではオーストラリアがもつ「距離のアドバンテージ」が失われたと結論付け、新たな国防戦略は「豪州北部の基地や港湾施設などのインフラストラクチャー整備」「豪州北部からの長距離攻撃の強化」「沿岸機動に対応した陸軍の再編」を優先するよう勧告している。
具体的には兵舎の改修や優先度の低いインフラストラクチャー整備を延期もしは中止、次期歩兵戦闘車の調達(450輌→129輌)削減、第2砲兵連隊創設(K9の追加調達)の中止、豪州北部のインフラストラクチャー整備、上陸用舟艇、HIMARS、海上目標を攻撃可能な長距離攻撃兵器の取得スケジュールを加速・拡大、F-35AとF/A-18FへのJSM統合、MQ-28Aの開発を優先することを勧告、これに政府も原則同意すると記述されているので、新しい国防戦略の勧告事項はもはや決定事項と言ってもいい。
要するに陸軍の構造を伝統的な地上戦ではなく「水陸両用戦に対応した構造=海兵隊化」に再編するという意味で、海上目標を攻撃可能な長距離攻撃兵器は米国と共同開発中のPrecision Strike Missile(PrSM=精密ストライクミサイル)のIncrement2やIncrement4を指しているのだろう。
さらに新しい国防戦略はUH-60MとAH-64Eの取得を支持しており、長距離攻撃能力のオプションとB-21を取得するというアイデアは「豪州の戦略に適しているとは言えない」と否定している。
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※アイキャッチ画像の出典:Australian Army/CPL David Said
まあ、そうなるわな、という感想。
中国周辺国は、みなそうなるでしょう。
陸軍の海兵隊化プラス、かつての中国の様に長距離対艦対空ミサイルによる接近阻止戦略。
日本も含めて、その方向でしょう。
そして中国自身も揚陸艦艇や長距離ミサイルの整備に勤しんでいるから、今や太平洋周辺の国々が同じ方向性で戦おうとしているデジャヴ的状況ですわ。
やはり豪州も国防戦略の新しい根幹は中国の長距離攻撃能力に対処する方向性となり、その内容は既に対応を始めている米軍や自衛隊とほぼ同じになりましたね
MQ-28Aの開発が優先されるので、同じく豪州で開発中のUUV(ゴーストシャーク?)も開発が進むでしょう
B-21の導入が豪州の戦略に適していないと言うのも「長距離ミサイルの方がよりコスパが良い」「爆撃機も飛行場が要るからそこを中国の長距離ミサイルに狙われかねない」と解釈しているからだと思いますので理解出来ます
只、出来損ないの為早期退役が決まっているティーガーARH攻撃ヘリの後継機としてAH-64Eを採用すると言うのは攻撃ヘリを全廃予定の自衛隊と異なっていて興味深いです
多分これは対地攻撃用UAV(MQ-28Aよりも地上戦直協寄りの機体)の世界的な開発状況を考慮しての決定かしら?
長距離打撃戦力の取得はわかるし後は海軍の(おもに水上艦隊の)再編内容次第だと思いますが、島嶼戦能力の獲得ともとれる陸軍再編は何を意味してるんでしょうね。有事にはインドネシアやフィリピンや沖縄まで出張って島嶼線を展開してくれるのか、戦争が始まったらメラネシアまで中国軍が進出すると見ているのか。
オーストラリアは今までだって割と何処にでも派兵してるし
台湾にもアメリカやイギリスと協調して派兵するんじゃないかな?
元々のオーストラリアの陸軍てどういう戦略だったんだろ?
大陸丸々一国の海洋国家なんだし、陸軍は元から派兵専門に近かったのが、自国国防用に整えられてくって感じなのかな?
それとも派兵前提で戦場が島嶼戦になるって事かな?
>「我が国の国防戦略は30年以上に渡ってテロや中東の紛争に焦点を合わせてきたが、世界は大きく様変わりし、中国は第二次大戦以降、どの国よりも大規模な軍備増強を行っており、これにオーストラリアは立ち向かうことができない」
今後のオーストラリアの安全保障上の最大脅威は中国という認識ですね。
オーストラリアの安全保障戦略は米豪同盟を機軸にしてますから、米国の戦略シフトに豪州軍の編制も適合させようてことでは。
米軍は既にインド太平洋重視に戦略をシフトしていて、その陸上戦力の中心になるのは海兵隊です。米海兵隊はEABO(機動展開前進基地作戦)を推進し、制海と海洋拒否の任務を重視した海兵沿岸連隊を創設し地域に配備する方針なのは周知かと。
従来の陸軍編制ではオーストラリアの安全保障の根幹を成す一体的米豪共同作戦実施に支障があるという結論なんでしょう。
なるほど。
あくまで基本は英米追従で、その為に戦力構成を変えるって感じなんですね。
兵舎の改修などの待遇改善は新規兵の募集や定着率の向上、応募してくる兵の質的向上にかけたコストの割に有効だと思うのですが、オーストラリアは他国のようにリクルート活動に苦労していないのでしょうか?
むしろ地理的にこれまで陸軍の比重が小さくなかったのが不思議な感
インドネシアなんかと領土問題抱えてるから、上陸作戦用は分かるけど
日本以上に領土も領海も広いから上陸作戦を阻止し切るのが日本以上に難しいとみているのでは。
「MBTを大量に上陸さえさせなければなんとかなる」戦略の日本に対して
オーストラリアは「MBTを含むある程度まとまった陸上戦力に上陸されてもなんとかする」戦略だったけど
「上陸せずに外からどんどこ撃たれたらどーすんねん」とゆー話になった、と。
豪州陸軍は地理的な条件から豪州本土で防衛戦を行う蓋然性は極めて低いと言えます。
一方米豪軍事同盟が国策で、記事にある通りこれまでは米軍との共同作戦を前提に「テロや中東の紛争に焦点を合わせてきた」わけで、豪州陸軍は米陸軍と一体化した海外派遣を強く意識した編制及び規模だったのかと。
B-21を取得してもしなくても、何らかの長距離攻撃能力は持った方が良いと思うが。
K9はライセンス生産の予定だったと思うのですが30両+弾薬補給車15両でペイできるのでしょうか?
海外輸出に活路を開くのでしょうか
IFVや自走砲を削減してボクサーとエイブラムス削減無しみたいなのはどうなんかね。契約進捗に関わる話なのか。