オブザーバー研究財団でシニア研究員を務める元インド海軍士官のアビジット・シン氏は「インドと米国は互いにインド洋に関して相容れない期待を抱いている」と主張して注目を集めている。
参考:THE U.S. NAVY IN THE INDIAN OCEAN: INDIA’S ‘GOLDILOCKS’ DILEMMA
果たしてバイデン政権はインドとの利害を上手く調整してクアッドを前進させることが出来るだろうか?
インドに拠点を置くシンクタンク「オブザーバー研究財団」でシニア研究員を務める元インド海軍士官のアビジット・シン氏は「インドと米国は互いにインド洋に関して相容れない期待を抱いている」という興味深い主張の記事を外交政策と国家安全保障の問題について議論するフォーラム「War on the Rocks」に寄稿して注目を集めている。
シン氏は米日豪印4ヶ国によるクアッドやインド洋におけるインドの利害をインド視点で分析、何故インドが米国やクアッドとの協力に踏み込めないのかについて鋭く言及しており非常に興味深い。

出典:Indian Navy / GODL-India
シン氏の分析によるとインドが米国やクアッドとの協力に踏み込めない理由は主に2つあり、1つ目はインド洋におけるインドと米国の利害がズレている点だ。
まずインド洋東部に関してインドは南アジアにおける支配的な地位を今後も維持したいと考えているため、中国という共通した脅威に対処するためとは言えインド洋東部における米海軍の軍事的プレゼンスが高まるの警戒しており、元インド海軍司令官のアルン・プラカーシュ大将は米海軍が昨年11月に発表したインド洋を管轄する第1艦隊設置について「司令部をシンガポールを置くと距離が近すぎる=インド海軍の活動範囲と重複するという意味」と露骨に反対して第1艦隊の拠点をフィリピンに置くよう提案している。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Nathan Burke/Released
さらにインド洋西部に対するインドと米国の利害はイランに対する対応が決定的にズレており、中東地域における利害が拡大するインドはイランを含む中東諸国との関係改善に努めているので米国のイランに対する軍事的行動を支持しておらず、インド太平洋戦略の範囲をアフリカ東海岸まで拡張する動きに対してインドは「完全に米国の利己的な行動でインドに相応の利益をもたらさない」と考えており、インドは米国やクアッドとこれ以上の関係に発展することを望んでいない。
2つ目はEEZ内の航行の自由を主張する米国の「航行の自由作戦」についてインドと米国が対立しているという点だ。

出典:public domain アーレイ・バーク級駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズ
米海軍が実施している「航行の自由作戦」は1994年に発効した「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」で定められた排他的経済水域(EEZ)の自由な航行権を主張する軍事作戦で、外国船舶の無害航行を認めても第三国の海軍が演習を行ったり航行することを禁止(許可が必要)している国が管轄するEEZ内を無許可で米海軍の艦艇が航行することを指しており、最も有名なのは南シナ海で中国が一方的な設定した「九段線」に基づく主権主張に反対するため実施されている航行の自由作戦だろう。
しかし中国と同様にEEZ内で外国船舶の無害航行を認めても第三国の海軍が演習を行ったり航行することを禁止(許可が必要)している国は少なくなく、インドも第三国の海軍が自国のEEZ内を航行する場合は事前の通告や同意を求めるよう要求しており、これに反対するため米海軍は無許可でインドのEEZ内にあるラクシャディープ諸島の沖合で「航行の自由作戦」を実施してインドを怒らせてしまった。
補足:米国の報告書によればロシア、中国、インド、マレーシア、スリランカ、ミャンマー、バングラデシュ、モルティブ共和国、サウジアラビアなど21ヶ国が自国の排他的経済水域で軍事的な活動を規制している。

出典:米海軍第7艦隊
特にインドの逆鱗に触れたのが「インドは自国のEEZや大陸棚周辺での軍事演習について事前の同意を要求するがこれは国際法に矛盾する主張で航行の自由作戦を実施した」という第7艦隊が発表した声明文で、元インド海軍司令官のアルン・プラカーシュ大将は「今回の行動をわざわざ発表すること自体が不要で友人であり戦略的パートナー関係を結んでいるインドに対して許されることではない。今回の行動をわざわざ発表したの中国に対するメッセージのつもりかもしれないが自分たちが批准もしてない条約を他国に振りかざす状況は皮肉なものだ」と批判して注目を集めている。
要するにインドは「自国の都合を優先させ国連海洋法条約の批准手続きを行っていない米国が国連海洋法条約を持ち出してインドを批判する資格はない」と言いたいのだ。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0
この2点の問題に加え米国のバイデン政権がインドに制裁を加える構えを見せていることも米国やクアッドとの協力に暗い影を落としているが、中国の脅威に対抗するためにインドを取り込むには米国やクアッドの協力範囲をインド洋東部に限定してインドの南アジアにおける支配的な地位が低下しないレベルに米海軍の軍事的プレゼンスを調整する必要があるとシン氏は語っており、米海軍がインド洋に展開して地域のバランスに影響を与えるのではなく米国は支援に徹してインド海軍の軍事的プレゼンスを強化したほうが賢いとも述べている。
飽くまでシン氏の分析はインド視点で語られているので「米国は支援に徹してインド海軍の軍事的プレゼンスを強化する」という著しくインドに有利な条件を米国が容認するとは到底思えないが、インドをクアッドに引き込むためには最低でも南アジアにおけるインドの支配的な地位を保証する必要がある=つまりクアッドのインド洋における軍事的プレゼンスの主体はインド海軍でなければらないという意味で、そうなるとシン氏が主張ようにインド海軍自体の強化にクアッド構成国が協力しなければならないのだろう。
果たしてバイデン政権はインドとの利害を上手く調整してクアッドを前進させることが出来るだろうか?
おそらくシン氏が挙げた2つの課題について日本や豪州が政治的に何かを調整できる余地はないので米国とインドの話し合いを眺める事しか出来ないのが何とも残念だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Indian Navy / GODL-India
中国 対 アメリカ その他数ヵ国
ではなく
中国 対 アメリカ インド その他数ヵ国
って感じ?
アメリカとその同盟国としてはインドは最低でも中立、中国側にさえ行かなければ良く、同盟まで組む必要性はありません。インドの敵にはならない、中国を利することはないと確約さえしておけばインドとしてもそれ以上は必要としていないでしょう。
旧世代の覇者欧州、アメリカ、ロシアと新世代の覇者中国、インドの構図だろう。日本も吸い上げられる金が無くなって来たから、使い捨てられない様、韓国やフィリピン程度にはう甘く立ち回らないと、使い潰されて捨てられる。
>韓国やフィリピン程度には
このあとは「上手く」の誤字と思われるがそこは置いといて、きっと両天秤かけろと言いたいのでしょうがこの二カ国が上手くやれてるかというと疑問符がダース単位でつかない?
フィリピンは米軍を追い出したらそれまで自国領として実効支配していた南沙諸島からおいやられて中国が実効支配。
韓国に至っては自国の国防について三不とか中国で誓わされる始末
なお本邦も鳩山政権時代には同盟関係棄損しかねない事言ってたが、致命傷迎える前に悪化は防げたと思いたい。ということで両天秤とかはよほど上手くやらないとリスクがやべーですわよと
インドは民主主義国家という意見はよく聞くが、非常に宗教色の強いナショナリズム(ヒンドゥーナショナリズム)の色が強いことが日本ではあまり知られていないと思う。
個人的にはインドをアメリカ、オーストラリアと同レベルに軍事同盟を組める相手と思っていては大火傷すると思っている。
オーストラリアもどうかとおもうけどね。
ちょっと前まで中国べったりだったし、捕鯨とかで日本を相当責めてたしね。
オーストラリアはかつて目の前まで日帝に攻め込まれたことがあるので
近隣の強国の中で警戒されるのは多少仕方ないとは思いますが、
それで中共と組んでインドネシアやマレーシアをけん制していこうという矢先に
総加速士の戦狼暴走で本性を垣間見た反動という感なのですが
どーでしょうか?
IWC脱退で南極海捕鯨を止めてから両国間の懸案はほぼ無くなったが、対中を見越してたのか?
そんなの誰でも知ってるわ
敵の敵がは味方だが、その味方の味方は敵である
要はインドは独自の地域大国だからアメリカに主導権を握られたくないんだーもっと尊重しろでOK?
でもインドが中国に劣勢であることは明白なんでアメリカが譲歩する必要性は薄いのよな、印中が和解すれば別だけどそれこそインドが地域大国であろうとするほど困難だ
正直、インドに過度な支援をすると第二の中国になりかねないのでアメリカが目先の利益に囚われ無い事を祈ってるぞ
別に構わない気がするけどね。中国と違って交わした条約については守るだろうし、それ以上は高望みってやつだと思うな。
守るかどうか怪しくないか…?
アジア各国はなんだかんだと条約守らない気がするぞ
今の共産党中国はともかく契約って意味でなら中国人の方がよほど信用できると思う
もうクワッドはおしまい
クアッドに頼りすぎない安全保障を考えたほうがいいかもね。
日米英豪とかできないんかな?
日本抜きで台湾有事にどうやって対処するの?というのと同じでインド抜きでインド洋をどうやって管理するのよってことになるからインド抜きのクアッドはインド太平洋戦略からの後退を意味する。
特定の枠組みだけに頼らない方がいいと思うよ。
日米同盟+クワッド+日英同盟+シックスアイズ(日本も含め)+NATO有志(仏、蘭、独)みたいに。
そうしないとTTPみたいに揉めて全部だめになるかもしれないからね。
これらの複合的な組み合わせ(加算)で対中(北、ロシア)包囲網を構築して行ければGOOD!
正にその通りだが、問題は軍事力による裏付けの無い日本が独自に国際的な安全保障の枠組みを描いても実現性が無いところだろう。
結局は欧米が描いた絵に乗っかるしか無いとこが残念すぎる
「軍事力による裏付けの無い日本」という意味が分からない。
日本には世界屈指の軍事力のある自衛隊がいる。憲法解釈上好戦的に使えない制約はあるが、
しっかりとした抑止力になっている。でなければ、オバマ政権時に尖閣諸島は取られていた。
今回は中国本土を攻撃するわけではなく、中共の膨張的侵略を阻止するためなので、問題ないだろう。
上の人ではないけど、世界屈指の軍事力のある自衛隊があるから尖閣諸島を維持できてるというのは買いかぶり過ぎでしょ。
世界屈指の自衛力を備えた自衛隊の後ろに世界屈指の攻撃能力を備えた米軍が控えているから中国が手を出せないだけだよ。
今回は中国本土を攻撃するわけではなく、中共の膨張的侵略を阻止するためなので問題がないって言ってるけど台湾侵攻が実際始まった時に台湾海峡を渡ってくる中国軍だけを攻撃して撃退可能なんて不可能だよ。
きっとあなたが考えてるのは軍事力ではなく自衛力だね。
上のコメ主だが、自衛力とはすなわち軍事力だ。言葉遊びしても仕方ない。
また、少し前までは海自の規模と能力は中国海軍より圧倒的優位だったのは事実。
だからと言って、そのために尖閣を守れていたとは言って無い。要因の一つではあるが。
アメリカだって当初のオバマなら尖閣を守らなかっただろうよ。中共もその辺の雲行きしっかり見てるよ。
まあ、金ぺーは対応下手だけどね。
元ネタの投稿者ではないので推測ですが、「軍事力による裏付けの無い日本」とは「主権の直接影響下にしか軍事力を行使できない日本」ということをいっておられるのかと受け取りました。
日本国内はともかく、相手方が日本参加のメリットを感じにくいでしょうから。(軍事的参加は無理でも、経済戦争を負担する覚悟を明示できれば可能性はある?)
もちろん、肝心の法的根拠も含め変化(改善?)を進めていますが、現時点で印・中が衝突して(実際には宣戦布告はありえないでしょうが)自衛隊がインド洋はもとより南シナ海でも軍事活動を行うことは無理でしょうから。
せいぜいシーレーンの安全の確保を名目に日米+アルファ?で合同演習をおこなう(これもいろいろな意味で危うい気もしますが)ぐらいでしょうか。
日本船を中心とした民間船の安全確保のためのパトロールぐらい、大手を振って実施してほしいところではありますが。(中途半端な状態で中途半端な現場に投入される自衛隊の方々のご苦労は棚上げしています)
「航行の自由作戦」なんて、日本や韓国相手にもやってるからなあ。
正直、インド洋でウロつくのは、中国とアメリカどちらがいいですか。
選んでねって話でしかなく、交渉の余地インドにとっての第三の選択肢なんてあるのか、
インド洋をウロつくのは中国でも米国でもなく、インド海軍であるべきだと思ってるから米国の誘いに乗らないのさ。
インドは核兵器を保有してるから安全保障の独立性を手放す事は絶対にない
それは日本人的な考えやなあ
インドからしたら中国もアメリカもうろつくんじゃねえよってだけの話
どっちにも付かないとなると
米中両方がインド洋を闊歩するだけでは
米中冷戦の核心部分は「一帯一路構想」で西進戦略(マスコミが煽る太平洋権益を狙う東進ではない)を始めた中国と欧米が印度洋権益で衝突する覇権争い。それで英EUも軍を出してる。今は、中国による南シナ海の完全支配を阻止するために台湾を重武装させて、米が有利な太平洋での戦いに引きずり出そうとしてるが、中国もその挑発には乗ってこない。南シナ海以外の太平洋は一帯一路から外れるので中国にとって実利的なプライオリティは低い。21世紀の覇権争いはインド洋で決まる。ここの話にあるようにインドも都合よく前世紀のように欧米の駒にされるつもりはない。米中を締め出して印度洋を独占したいのがインド。歴史的に結びつきの強い英仏露はインドが覇権を握った後も権益にコミットできるよう今から布石してる。印度洋を失うまいと焦る衰退する米国、一時は上海協力機構で取り込んだインドに離反され一帯一路の前途が怪しくなった中国、今は両天秤の腹芸でいずれ自ら覇権を目指すインド。その三極のグレートゲームなので、反中以外の利害で一致しない米印が腹の中では相互不信なのは当たり前。米が上から目線を続けてるとインドを中国と手を握らせることになる。
アメリカと強固な関係になれなくても、その同盟国の日・豪とで今は関係を深めてほしい
イラン抹殺したいマンの米国の中東政策がある限り、今までと同じくインド洋の覇者でありたい米国と、パキスタン絶対コロスマンのインドはイランと良好でかつインド洋に制海権を保持したい、これは難しいは。
インド洋はもちろん豪州にとっても裏庭で、米国ならまだしも印度の風下になんか絶対立つ気無いだろうし、反中国以外でクアッド結びつける要素ないよね、これはこれで厳しい。
インドもロシアも多極主義を前提にしてるんでしょ
その協力関係で中国を牽制するのはいいにしても、アメリカが一極覇権を諦めプレゼンス縮小を飲み、自由民主主義の押し付け内政干渉をしないことが条件
日本の戦後政策も第三世界とかを支援し、長期的に多極主義にすることでアメリカの戦力を分散させ日本への支配圧力を減らそう、って試みはあったと思う
問題なのは、多極主義が実現しつつある世界に日本が適応できなかったこと
日本に比して中国が大きすぎる割に、中露関係が維持されてしまって、しかも朝鮮半島問題もある
日本の多極主義的自立に必要なのが核武装にしても、できる国際状況的見込みがないままここに来てしまった
こうなると日本にとっては多極主義よりアメリカ一極主義のがよほどマシだったと認めるのがインド太平洋政策だけれど上手くいってない
中東の石油ガス利権を手放せない米国は、結局中東政策でインドとバッティングする。
問題の核心は中東であって、インド洋ではないとみるべき。
アメリカは第三国が全部日本みたいな反応をしてくれると勘違いしてんだろうな
米国との二国間関係が安保上の基盤である日豪とインド洋である程度自由な安保戦略を取りうるインドとじゃあ前提が違うからな。
印中の国境紛争にしたってじゃあアメリカに声明出す以上の具体的支援ができるかと言われれば無理だし、インドからしたら米海軍には中国海軍がマラッカ越えないよう見張っといてもらえれば正直それで十分なんよ。
インドと敵対関係にあるパキスタンが実質的にアメリカの同盟国なのも関係あると思うが
印パ戦争ではインド海軍がパキスタンを脅かし事を有利に進めていたが
ともかくクアッドが多国間の個別協定になるのは日本の事実もあるが、インドパキスタン間で戦争が起こった場合はインドだけに肩入れできないって問題もあるな
クアッドを渋っているのは米パ関係への牽制もあると思う
まぁインドがいないとインド洋で何か有ったとき味方がいないというか、米軍が関与し続けるにしても金が掛かりすぎるからね。
軽空いずもや搭載F35Bが出て行くにしても世界の警察アメリカ有りきの補助戦力レベルだからねぇ。
アメリカが外交上手になれればいいね、という感じで確かに日本としては関与する範囲が狭いね。
エネルギー革命が起これば正直インド洋などそこまで重要でもないが。
なお日豪の緊密化は10年以上前からの話で心配はしていない。