インド太平洋関連

オーストラリア空軍の将来を左右する無人戦闘機開発とF-35A後継機問題

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)で防衛戦略の上級アナリストを務めるマルコム・デービス氏(豪政府の元防衛顧問)がオーストラリア空軍の将来や戦力更新について述べており、幾つか興味深い内容が含まれている。

参考:Editors’ picks for 2020: ‘Australia’s air force should already be planning to replace the F-35’

F-35Aの後継機は特定任務に最適化されたプラットフォームに回帰するのが正解か

オーストラリア空軍は現在、複数の近代化プログラムが進められており最終的にF-35A×72機、F/A-18E/F×24機、EA-18G×11機、P-8A×12機、E-7A×6機、MQ-4C×6機、MQ-9×12~16機、ロイヤル・ウィングマン×調達規模不明で構成される予定だが、オーストラリア戦略政策研究所で防衛戦略の上級アナリストを務めるマルコム・デービス氏は空軍の将来や戦力更新について以下の様に述べている。

空軍にとって当面F/A-18A/BをF-35Aに更新する作業に集中(完全作戦能力を2023年までに獲得予定)することになるだろうが、最新バージョン「BlockIII」にアップグレードすることも可能で対艦巡航ミサイル「AGM-158C LRASM」の統合が確定しているF/A-18E/Fの重要性は依然として高いとデービス氏は指摘した。

出典:Peter Bailey from Ipswich, Australia / CC BY 2.0

デービス氏はイスラエルと同じようにF-35のステルス能力が長期間効果を維持できると思っておらず、特に中国が開発を加速させている量子センサーやAIといった技術が数年以内にステルスの効果を損なわせる可能性があるため、LRASMを使用して目標を遠距離からの攻撃可能になるF/A-18E/FはLRASM運用プラットフォームとして価値が高いと見ている。

補足:イスラエルはF-35Aが戦場で技術的優位を保てるのは10年前後だと見ており、同機のステルス能力が効果を発揮できなくなる未来に備えてイスラエルはF-35Aに独自の電子妨害装置を搭載するなど対策を進めている。

しかしF/A-18E/Fも2030年代半までに後継機に更新する必要があるのだが、オーストラリアのF-35A導入プログラム「AIR6000」はF-35Aの追加導入(28機)を示唆しているのでF/A-18E/FはF-35Aで更新される可能性が高いと言われている。しかし国防省は過去に「F/A-18E/Fの後継機候補にはF-35Aだけでなく無人戦闘機も含まれており、新たな技術と脅威の評価が十分に行われる2020年代に後継機を決める」と言っているのでF/A-18E/Fの後継機決定は開発中の無人戦闘機「ロイヤル・ウィングマン」の評価が定まって以降になるのだろう。

出典:ボーイング

特にオーストラリアはF-111を失って以降、航空機による長距離攻撃能力を喪失した状態で「米空軍が開発中のB-21を導入すべき」との意見が飛び出すほど長距離攻撃能力の最取得に関心が高く、デービス氏も「政治的にも財政的にも問題が多いB-21導入や単座で長距離攻撃に最適化されていないF-35Aよりも、無人で運用可能なロイヤル・ウィングマンこそ理想な長距離攻撃のプラットフォームに成長する可能性を秘めている」と期待ており、良くも悪くもオーストラリア空軍の将来はロイヤル・ウィングマンの出来次第と言ったところだ。

ただ日本と同じようにオーストラリアも長距離攻撃を重視しており、デービス氏は「F-35AやF/A-18E/Fに長距離攻撃が可能なミサイルを統合するだけでは不十分」だと語り、航空機に搭載されたレーダーを超える射程を有するミサイルを海上移動する目標に対して効果的に使用するためには「レーダーを搭載した無人システム(無人航空機や無人艦艇)や導入が予定されている地球低軌道上の監視衛星など偵察・監視能力を同時並行で整備する必要がある」と指摘している。

出典:public domain

最後にデービス氏はF-35Aの後継機についても興味深い指摘を行なっている。

国防省の計画ではF-35Aの更新検討が本格化するのは2035年頃(更新開始時期は2040年後半頃)だと言っているが、デービス氏は間違いなく空軍内でF-35Aの後継機問題に関する話し合いは始まっているだろうと語り「オーストラリアはF/A-18A/Bを更新するため2002年にF-35プログラムに参加したが更新用のF-35Aを実際に受け取るのに約18年も掛かっているので更新作業を前倒す必要がある」と主張、F-35Aの後継機は特定任務に最適化されたプラットフォームに回帰するのが正解なのかもしれないと言っており非常に興味深い。

デービス氏は「F-35は複数の任務を単一の機体に集約化させるというアプローチで開発されたため、これはF-35Aが特定の任務に最適化されていないことを意味する。そのためF-35Aの後継機は特定任務に最適化されたプラットフォームに回帰して航空優勢を確保するための制空戦闘機、長距離攻撃任務に適した戦闘爆撃機、電子攻撃に特化した電子戦機を迅速に獲得したほうが正解なのかもしれない」と言っている。

出典:public domain

恐らくデービス氏は米空軍のデジタルセンチュリーと呼ばれる戦闘機開発アプローチにも触れているため、F-35Aの後継機は用途を絞って開発期間を短縮しないとF-35の二の舞になると言いたいのだろう。

なかなか興味深い主張だがF-35Aの後継機をオーストラリアが単独で開発することは難しく、どうやってF-35Aの後継機を調達するのかに関してはデービス氏も「米国や英国との協力を促進する」と表現するに留まっているが、仮に彼の主張を実現するには英国のテンペストプログラムに参加して豪州好みの独自仕様機を導入するしか実質的に選択肢がない。

勿論、デービス氏の発言はオーストラリア国防省の立場を示すものではないので個人的な主張もしくはシンクタンクによる提言レベルに留まるが、リスク分散の観点から空軍の戦闘機をF-35Aに統一するのは危険で特に中国の技術革新によってF-35Aのステルスが数年以内に効果を損なうだろうと予測している点や、F-35Aの後継機は特定任務に最適化されたプラットフォームに回帰する方が正しいのかもしれないという意見は斬新(正解かどうかは不明)だ。

果たしてオーストラリア空軍はF/A-18E/Fの後継機にロイヤル・ウィングマンを採用するのか、F-35Aの後継機に何を持ってくるのか興味を惹かれる。

関連記事:米空軍、次世代戦闘機のプロトタイプを製造して試験飛行中だと明かす
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※アイキャッチ画像の出典:public domain オーストラリア空軍のF-35A

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    中国の量子センサーとやらを待ってたら、F-35の後継機の開発が進まないぐらい、中露の対ステルスが進んでないな。
    アメリカは、F22用の対ステルスを想定した、全翼機の準備が終わってるらしいけど。

    10
    • にわかミリオタ
    • 2021年 1月 04日

    ロイヤル・ウイングマンの評価次第ってことか。
    結局、テンペストの豪州仕様を導入することになるのかもな。

    13
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      オーストラリアはミラージュを使っていたが、最近は米国機ばかりだし。ユーロファイターも候補にならなかったから、今更欧州機というのも考えにくいかも。

      6
        • にわかミリオタ
        • 2021年 1月 04日

        どうなんだろう。
        欧州機を買わないってなると、実質選択肢がゼロになるからなぁ。
        米国は売るつもりはないって言ってるし、よもや日本の次期戦闘機が選択肢に入るとは思えないからね。

        4
          • 匿名
          • 2021年 1月 04日

          日本にはテンペスト開発後の独自進化は好きにするよろしって言ってたからテンペスト計画に参画さえしたらほぼ米国機に(アメリカ企業の協力を仰いで)リファインできるかもしれない

          1
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      英国製の戦闘機って暑い地域じゃ動けないことがあるからなぁ……

      4
        • にわかミリオタ
        • 2021年 1月 04日

        また熱帯地域型でも作りますかな。

        5
        • 匿名
        • 2021年 1月 04日

        国土の大半が砂漠の国だからモスキートみたいにキノコが生える心配はないでしょ

        2
    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    ステルス開発に苦慮してる間にステルスが無効化されたら泣くに泣けないね
    F3は遅れるほどにコンセプトの問い直しを求められる運命

    4
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      ステルス無効化されても、非ステルよりは発見し難い﹙探求距離が短い﹚のじゃないかな。
      特にMRAAMに搭載可能なセンサー相手だと。
      今程決定的な差で無くなっても、お互いのセンサーの能力に極端な乖離が無い場合は、低RCSの方が有利なのは変わらないと思います。

      26
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      ステルスを無効化するシステムとそれを載せた兵器によるよね。一部戦域でしか配備されなかったらそれ以外ではステルス機が良いように暴れるとか?

      1
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      たとえ次世代戦闘機を作る予定がなかったとしても、そして作っても無効化されるとなっても、対ステルス兵器を独自に作るつもりがあるならステルス開発は意味がありますよね
      ステルス無効化されるなら開発しても無駄・・・とはならないと思います
      対ステルス技術を持たなければステルス化されたロシアや中国の航空機・艦船に一方的にやられますから

      9
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      ステルスに代わる全く新しい探知方法や妨害方法が開発されでもしない限り
      ステルス>非ステルスなのは変わらんのだから何の問題も無いでしょ
      機載レーザーやら新型レーダーやら無人機リンク用コンピューターやらを
      改修で搭載できる余地さえあればF-3が完成するまでに
      決定的な遅れが生じる可能性は今のとこ無さそうだけどね

      1
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      量子レーダーって所詮はまだ研究室レベルのもので、実用化にはまだまだ時間がかかる。
      それに、量子レーダーでもステルス機の検出は困難みたいですよ。

      NewSphere「戦争を変えるか、研究進む「量子レーダー」 高解像度とステルス性を実現」より引用
      記事・リンク

      大きなメリットをもたらす量子レーダーだが万能というわけではない。もともとはステルス機の検出が期待されていたが、ポピュラー・メカニクス誌によると、現在では難しいと考えられているようだ。ステルス機も微弱ながらレーダー波を反射するため、量子レーダーでそれを捉えられると考えられていたが、技術的にはそう簡単ではないという。

       さらにMRT誌によると、現在では比較的短距離でのみ実験に成功しており、研究室の外での実用化には時間がかかりそうだ。ただし、この技術自体の将来性は高い。低出力であるという利点を生かし、電磁波の低減が求められる医療目的での応用も期待されている。軍需・民生を問わず広く活用されることだろう。

      日本の防衛装備庁が研究してる弾道ミサイル・ステルス機対処技術や次世代警戒管制レーダなどなどの方がカウンター・ステルスとして確実だと思う。

      2
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      そう量子レーダーは、オーロラや空気が熱で出すレーダー波と同じ周波数の波と自分の出したレーダー波形を見分けられるだけで、RCSが小さいとどうにもならない。
      特にF22クラスだと、無尾翼だとさらに。

    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    日本の自動車関連メーカーが雨の夜間に200m先の人間を感知する量子レーダーを開発している、中国が量子レーダーを開発するころには日本も同等以上の物を開発している。
    その場合はやはり戦闘機+ミサイルの性能が問題になるから高性能なF-3開発の必要性は減らない。

    19
    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    日本もオーストラリアとも何か共同開発できないものですかね。F-3でないにしても無人機辺りなら。もう少し関係を深めたいところ。

    3
    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    空中給油機の増配ではイカンのだろうか。
    必要なら空軍基地だって作り放題な人口密度のイメージだが。

      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      空中給油機自体が高価値目標になるからなあ。航続距離に対する完全な回答にはならないだろう

      4
        • 匿名
        • 2021年 1月 04日

        そこでMQ-25ですよ。ついでに砂漠上を移動できる空母も作って、ドリルミサイルも配備してエリア88ごっこだ!
        現実に戻ると、まぁ単座機は1人しかパイロットいないし、身動きもとれないし、マンパワーの限界はありますね…(じゃあF-35にAI積めよ的な)

    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    国情に沿った足の長い機体が売ってないから無人機でお茶を濁しているように思える。
    F15EではF111の代替にならないんだろうか?ロイヤルウィングマンはボーイングなんだから相性良さそうだが。

    4
      • A
      • 2021年 1月 04日

      >ロイヤルウィングマンはボーイングなんだから…。
      いわゆる純正品と言う考え方は理解しやすいですね。
      不具合が出ても別メーカーならば責任の押し付け合いになりますから。
      しかしあのボーイングですからね。
      ある日、無くなっちゃったりして。
      (まさかね)

    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    要求性能は近いんだし上手いことF-3を売れないものか
    にしてもテンペストはそこまで量産効果は見込めない代わりに
    後からでも各国派生モデルを作る事が出来て柔軟に対応するのが強みよね

    2
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      F-3をオーストラリアに輸出するには必ず日本人に馴染みのないオフセットを求められるから難しいんじゃないかな。

      でも輸出を否定してるわけじゃないよ。

      輸出できる物なら輸出すればいいと思うけど、オフセットとしてF-3の一部製造に参加させろと言ってきたとき日本に対応できるのだろうか、、、

      9
        • 匿名
        • 2021年 1月 04日

        ワールドワイドで分散生産してるF-35のロッキードが最有力みたいだから、技術移転/技術保護のほうの協力も仰げばいい具合に収まるんじゃないかな(ロッキードに決まればという前提は必要)
        私の皮算用的には4兆円以上とも言われてる開発の1/4 (1兆円)の費用負担と日本と同じ100機ぐらいの運用確約ぐらいあれば文句なし

      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      出来てもいない物を捕らぬ狸の皮算用
      ロッキードから輸出許可を貰える確証も無い

      7
    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    高Gに耐える強度、大推力エンジン、推力偏向ノズル、アフターバーナー、高い空力性能、機銃、AI…
    ドッグファイトなんて現代じゃまず発生しないのに要求があまりにも多く厳しい
    格闘戦は諦めて民生のエンジン使えばオーストラリアでも十分実用に足るUAVを作れるのでは
    おまけに安い!

    1
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      ロイヤルウイングマン自体が既に民生エンジン使用していますがな
      当然、台湾みたいにアフターバーナーでもつけない限りは、民生の亜音速機レベルの性能に制限されますが

    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    オーストラリアとかイスラエルとか、機体調達に国情が見えて面白いな
    きっと日本もそう思われてるんだろう

    6
    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    しかし日本時代遅れ感半端ないね。
    F-15買った時はアジア最強!みたいにイキってたんだけど、今や中国に抜かれ、豪州にも遅れを取ってる。
    まぁ衰退国家に似合いの中小国装備ってとこかな?

    2
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      記事の内容+中国or韓国=日本は遅れてる
      このテンプレでしか書き込みできないの?

      18
      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      その日本が買ったF-15を見て、
      「日本が持ってるのにウリが持ってないのは癇癪起こるニダ!!」
      とF-15Kを買った国はどんだけ出遅れてるのかな?
      F-35(A型)のときもF-35Bも、それを乗せるつもりの空母もそうだよね?

      11
        • 匿名
        • 2021年 1月 06日

        K型ってストライクイーグルベースでしこたま爆弾積めるし照準ポッドも高性能なやつだし普通に羨ましいわ

          • 匿名
          • 2021年 1月 22日

          鈍重な複座が羨ましいとかw

      • 匿名
      • 2021年 1月 04日

      どんなに強がっても、そんな国にしがみついて生きていくしかないという悲哀…正月から泣かせますね。

      4
        • 滅共の松明
        • 2021年 1月 04日

        「パラサイト」なる映画がヒットしたのは、その様な東アジアの現実をよく風刺していたからでしょうか?

        5
      • 直ちに影響はない
      • 2021年 1月 04日

      核燃料が投下されました。

      3
    • 匿名
    • 2021年 1月 04日

    まあ
    単体としてどんな優秀なステルス戦闘機や無人機持ってようが、決め手となるのは結局
    >レーダーを搭載した無人システムと地球低軌道上の監視衛星など偵察・監視能力を並行して・・・
    ですよねえ(納得)

    そらトルコやイランやお隣の半島が必死で自前のロケットと人工衛星欲しがるわけだわ

    3
    • 匿名
    • 2021年 1月 05日

    F-35は量産効果で安いから
    将来有力な機体が現われても、その時はコスパ面で難航しそうな気がします

    • 匿名
    • 2021年 1月 05日

    コメントも楽しみたいのだけれど、もう何処に行ってもコメント欄で不毛な争いしてる、ゲンナリしかしないからどっちもホントにやめてくんないかなー

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