中東アフリカ関連

アラブ首長国連邦の選択は韓国ではなく中国、L-15を最大48機調達か

アラブ首長国連邦は中国から高等訓練機L-15を12機調達するための契約を締結すると報じられており、米国依存からの脱却=UAEに対する米国の影響力低下が懸念される。

参考:U.A.E. to Purchase 12 Chinese L-15 Trainer Aircraft

注目しなければないらないのはUAEが中国製のL-15を選択した点で、ここに込められた意味は決して軽くない

アラブ首長国連邦(UAE)は空軍近代化の一貫としてM346導入を発表したものの契約条件で行き詰まり計画は白紙化、しかしボワルディ国防担当国務大臣が韓国航空宇宙産業(KAI)を訪問するというニュースと政権関係者が防空システム輸出に関連して「これは両国間の安全保障協力おける始まりに過ぎない」と語ったため韓国メディアは「UAEがT-50導入に関心を示しているのではないか?」と解釈していたが、この予想は外れてしまう。

出典:한국항공우주산업

UAEは中国から高等訓練機L-15(JL-10)を12機調達するための契約(36機の追加調達オプション付き)を締結すると報じられており、タワズン経済評議会(UAEで防衛と安全保障に関わる装備品の買収権限を有する機関)議長も「中国との交渉は最終段階で間もなく最終合意が成立するだろう」と述べているのでL-15導入はほぼ確定的と見て間違いなさそうだ。

ただUAEが必要とする高等訓練機の数は60機前後と予想されているので、残り枠にT-50が滑り込む可能性(+追加調達オプションをUAEが行使しないケースも)もなくはないが、ここで注目しなければないらないのはUAEが中国製のL-15を選択した点だろう。

出典:U.S. Air Force photo by J.M. Eddins Jr.

トランプ前政権はイスラエルとの国交樹立に応じたUAEにF-35AやMQ-9の供給を約束、退任の1時間前に総額233.7億ドル(約2兆4,600億円)もの対外有償軍事援助をUAEと締結したにも関わらず中東政策の見直しを掲げて大統領選挙に勝利したバイデン氏が武器輸出プロセスを停止、F-35Aの輸出プロセス再開の条件に「ファーウェイや中国との関係断絶」を要求してUAEに圧力をかけているのが、米国の対中国重視の政策と相まって米国離れが起きている。

つまりバイデン政権が人権を重要視して武器輸出ポリシーを変更したため米国製兵器の導入が難しくなっており、仮に許可が下りても米国製兵器の運用・維持を人質に人権問題=イエメン内戦への関与などUAEの安全保障問題に干渉してくることが予想され、さらにF-35Aについては「中国との関係を切れ」と要求してくるためUAEは米国以外に目を向け始めた。

出典:Public domain パキスタン空軍のJF-17

その証拠にUAEは昨年11月、ドバイ航空ショーの初日に「中国の防衛産業企業と共同で航空機のスペアパーツ供給や製造を行う物流拠点をアブダビ国際空港に設立する」と発表して米国を驚かせた。

UAEの防衛産業企業「EDGE」と中国国営の中国航空技術輸出入総公司(CATIC)が共同で設立する施設は「軍用及び民間航空機のスペアパーツ供給拠点」として機能する予定で、主にMENA(中東と北アフリカを合わせた市場)の顧客をカバーして「スペアパーツの取り寄せにかかる時間を現在の数週間から48時間以内に削減する」と言及しており、これによりMENAの顧客は高価なスペアパーツの在庫を保有する必要がなくなる=コストの削減につながるという意味だ。

当然、同施設は軍用スペアパーツの供給拠点としても機能するため「中国製のJF-17やUAV/UCAVの競争が高まる」と懸念されており、中国との関係を切れと要求しているのに逆に強化する方向に動くUAEをバイデン政権は苦々しく思っているだろう。

出典:鵬陳 / CC BY-SA 2.0 L-15

そこに「UAE空軍が初めて中国製の航空機を導入する」というニュースが飛び込んできたので「米防衛産業界が期待していたUAEへのF-35A輸出は更に難しくなった」と報じられており、米国の影響力低下も避けられそうもない。

勿論、直ぐに中国が米国にとって変わるという意味ではないが「UAEがL-15を導入する」という選択に込められた政治的意味は決して軽くないはずだ。

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※アイキャッチ画像の出典:Xu Zheng / CC BY-SA 4.0

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コメント

    • バクー油田
    • 2022年 2月 24日

    バイデンの無能さには本当にため息がでるなw

    24
    • 無名のミリオタ
    • 2022年 2月 24日

    バイデンになって、フーシ派弾圧を理由にUAEとサウジに武器輸出制限かけたのはどの程度影響してるんだろ?

    同盟軽視と言われたトランプだが、中東同盟国にはかなり肩入れしてた方だと思った。
    ASEAN、EUは軽視っぽかったが。

    14
    • 戦略眼
    • 2022年 2月 24日

    アメリカを軽視するのはいいが、アメリカの保護を失って国を維持できるのか?
    周囲が、宝の山を狙っているよ。

    2
      • 匿名
      • 2022年 2月 24日

      あんまり言いたかないがあそこらへんの国は他国に保護だの何とかして守ってくれだのそういう意識は薄いから日本がそうだからといって世界もそうだとは思わない事だな

      10
    • 四凶
    • 2022年 2月 24日

    L-15導入するならT-50別枠で入れる必要はないと思う。T-50のシステム中心は米国だから首に紐付けられるのには変わらない。

    ここまで来るとT-50の主要パーツの割合9割ぐらいにしないと西側がお好みではない行動する国へのセールスが難しくならないかな。

    9
      • G
      • 2022年 2月 24日

      韓国のT-50練習機や派生COIN機のエンジンはアメリカからキットを輸入して組み立てたものでアビオニクスやエンジンにアメリカの紐が付いている以上、いつ機体やメンテパーツの供給に制限がかけられてもおかしくなく、そもそもF-35の輸出条件として中国との関係弱体化を望んでいたアメリカがT-50を無条件で輸出許可するとも思えませんでしたしね

      しかしT-50の最大の売りはF/A-18C/Dと同系のエンジンによる高速性なので、韓国がひもが付いていない同レベルのエンジンを用意できない以上、難しいどころか事実上不可能ですね

      開発中のKF-21にしてもエンジンはT-50と同じくGE製で、しかもキット購入ではなく完成品輸入のようですし

      5
    • もり
    • 2022年 2月 24日

    ガキ大将「ガキ副大将仲間外れにしようぜー!あいつと遊んだ奴ハブなー‪w」
    ガキ軍団「う、うん…」
    ガキ副大将「帰って皆でVALORANTやろーぜ!俺ん家集合なー全員分のゲーミングPCあるぞー」
    ガキ軍団「うん!わかったー」
    ガキ大将「…お、おい待てよ!俺ん家でHaloやろーぜ!!Xboxいっぱいあるから!!!」

    ガキ大将の明日はどっちだ!

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