米国関連

E-3の退役に伴いE-7Aの需要が急増、ボーイングは生産拡大を検討中

ボーイングのE-7Aは米空軍とNATOから発注で30機以上のバックオーダーを抱えることになり、Breaking Defenseの取材に「急増する世界的需要に応えるため生産強化を計画している」「E-7Aの年間生産数は年6機に達するかもしれない」と明かした。

参考:Boeing aims for annual output of 6 E-7 Wedgetails to fill global early warning ‘gap’

他の兵器システムに比べて市場規模が小さい早期警戒管制機分野への投資はリスクが高い

米空軍のE-3は2014年に開始したアップグレードによって「2030年代まで運用できる」と言われていたが、米太平洋空軍司令官のウィルズバック大将は2021年2月「707ベースのプラットフォームは古すぎるため飛行可能な状態を2030年代まで維持するのは挑戦に等しい」と、米空軍航空戦闘軍団のマーク・ケリー大将も「情報収集・監視・偵察戦力のプラットフォームは古すぎる。民間での運用が終了した707のサプライチェーンは全く残っておらず同機の運用維持は危機的状況にある」と指摘。

出典:U.S. Air Force photo/Airman 1st Class Chris Massey

政府説明責任局も2020年の報告書の中で「E-3はスペアパーツとメンテナンスの問題で2011年から9年連続で空軍の設定した準備率を達成できていない」と、このニュースを報じた当時のDreaking Defenseも「スペアパーツの入手性が悪化しているE-3の稼働率は40%台という悲惨な状況だ」と指摘、空軍内部から相次ぐ危機感の表明にブラウン参謀総長も動かされ「E-7はE-3よりも新しく韓国、オーストラリア、トルコで運用実績がある優れたプラットフォームだ」と、ケンドール空軍長官も「E-7は米空軍に必要な航空機かもしれない」と表明し、空軍は2021年11月にE-7Aの研究・検討を正式に開始した。

米空軍やNATOが複雑で大規模な航空戦術を駆使できるのは強力な航空支援能力を有しているためで、この優位性を崩すためロシアや中国は早期警戒管制機や空中給油機を遠距離から狙える長射程の空対空ミサイルや地対空ミサイルの開発を進めており、米空軍は少数のAWACSに「交戦空域の監視・管制能力を依存するリスク」を危惧し、アドバンスバトル・マネージメントシステム(ABMS)に地上、海上、空中、宇宙ベースのISR資産を統合して戦場認識力を分散させる方針だが、まだ実用化には程遠いため2022年4月に「E-3をE-7で更新する」と発表。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. James Richardson オーストラリア空軍のE-7Aウェッジテイル

空軍は2032年までに計26機(米軍仕様にカスタマイズされたプロトタイプ×2機+量産機×24機)を取得する予定で、E-7Aに搭載されているMESA(多機能電子走査アレイ)について「E-3よりも高度な空中移動目標機能、戦闘管理、指揮統制能力が提供できるようになる」と說明、ウィルズバック大将も「第5世代機を保有する空軍は第5世代センサー(AMTI能力が優れたセンサーシステムのことを指す比喩的な表現)を整備しなければ真の第5世代空軍にはなりえない」と述べている。

NATOも2019年に「E-3を2035年までに廃止して新しいプラットフォームに置き換える=Alliance Future Surveillance and Control(AFSC)」と発表、こちらも米空軍と同じように分散型ネットワークを想定しているのだが、まだAFSCは初期コンセプト段階なので2023年11月「E-3の後継機としてE-7Aを6機取得する」と発表、英国もE-7Aを調達中(調達数を5機から3機に削減)で、韓国もE-7Aを追加発注(推定4機)する可能性が高く、サウジアラビアもE-3の後継機としてE-7Aに関心を示しているらしい。

ボーイングは急増する世界的需要に応えるため早期警戒管制機の生産強化を計画しており、同機のプログラム・マネージャーを務めるストゥ・ボボリル氏はBreaking Defenseの取材に「世界中でE-3退役への動きが始まったため需要と供給の間にギャップが生じている。一時は存続が危ぶまれたE-7の生産も需要の拡大で記録的な生産量に向かっている」と明かし、Breaking Defenseは「E-7Aの年間生産数を4機から6機に引き上げる計画をボーイングは話し合っている」と報じているものの、これはノースロップ・グラマンがMESAの増産に動くかどうかに掛かっている。

MESAの製造には非常に高度なスキルを備えた労働者、設備、材料が必要で、これを増産するにはノースロップ・グラマンだけでなくMESA製造に関わるサプライヤー全体の投資が必要なのだが、他の兵器システムに比べて市場規模が小さい早期警戒管制機分野への投資はリスクが高く、積み上がった30機以上のバックオーダーを細々と作り続けるのかもしれない。

出典:Airman 1st Class Dwane R. Young/Public Domain

但し、宇宙ベースのAMTI能力と言った他のオプションが実用化されるのは何年も先の話なので、サウジアラビアや新たな顧客からの発注があれば投資に動く可能性も十分ありえるため、今のところE-7Aの将来性は(ビジネス的に)ポジティブだと言えるだろう。

西側市場におけるE-7Aの競合はノースロップ・グラマンのE-2DとサーブのGlobalEyeで、空母運用が前提のE-2Dは運用上の制約(機内が非常に狭いため肉体面で長時間任務に適しているとは言い難い)が多く、ビジネスジェットベースのGlobalEyeはE-2Dよりもスペース面に余裕があるものの、E-7AとGlobal Eyeを比較した韓国空軍は「常時360度の監視能力でGlobal EyeはE-7Aに及ばない(Global Eyeは前方と後方の監視能力に死角が存在するためジグザクに飛行する必要があるらしい)」と指摘している。

Global EyeはNATOのE-3後継機選定でもE-7Aに敗れているため、少なくとも「能力優先」で早期警戒管制機を選ぶなら「E-7Aが最も優位な地位を確保している」と言えるが、要求要件や予算は国によって様々なので「Global Eyeが顧客に選ばれない」という意味ではない。

関連記事:E-3を2035年までに廃止するNATO、米空軍に続きE-7A取得を発表
関連記事:米空軍がボーイングに契約を授与、E-3の後継機としてE-7を計26機調達
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関連記事:米空軍トップがE-7導入へ前向きな発言、但し本命はレーダー衛星を活用した分散型ネットワーク
関連記事:英空軍の早期警戒管制機「E-3D」運用が終了、後継機E-7Aの運用開始は2023年予定

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by 2nd Lt. Mark Goss

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コメント

    • 朴秀
    • 2024年 1月 09日

    戦闘機はロッキード
    旅客機はエアバスがあるにしても
    早期警戒機についてはボーイングに頼らざるを得ないか
    頼むから真面目に作って欲しい

    9
      • hage
      • 2024年 1月 09日

      早期警戒機云々以前に、我々が日常的に利用する旅客機から真面目に作って欲しいんですが
      非常口ぶっ飛んだ事故で同型機検査したらボルトゆるゆるでしたって、生産現場どうなってるんだよと

      41
        • 名無し
        • 2024年 1月 09日

        >生産現場どうなってるんだよと

        えっ、我々が認識しているアメリカの製造現場の典型なのでは。
        一点もの作らせるならイタリアとかのほうが、まだ丁寧だぞ。

        24
        • たむごん
        • 2024年 1月 09日

        仰る通りです。
        5年前、ボーイング737MAXの墜落・各種トラブルにより、システム不具合の隠蔽が明るみになりましたからね。

        生産現場でも、何かあっても不思議ではないなあと…。

        14
    • emp
    • 2024年 1月 09日

    kc46やf15が競合に撃墜されつつあるボーイングにとって、唯一まともに売れてる

    でも最近のボーイングならE7もなんかやらかしそう

    20
    • DEEPBLUE
    • 2024年 1月 09日

    10年後には軍用機で生き長らえててもおかしくないですからねえ、ボーイング・・・

    1
    • 幽霊
    • 2024年 1月 09日

    日本のE-767はどうなるんでしょうね?
    E-3の退役が進むなら将来的にはレーダー関連のアップデートや部品の調達が難しくなるでしょうし。
    まあE-767が退役する頃には分散ネットワークが実現されているかもしれませんし、されてなくてもE-7若しくはその後継機を購入するだけか。

    17
      • kitty
      • 2024年 1月 10日

      767ベースでほぼ特注品でJWACSとまで言われましたが、ケチケチと長く使う分には結果的には悪くない選択だったのかなあ。KC-767もだけど。

      6
    • 無印
    • 2024年 1月 09日

    エアバス機ベースのAWACSって開発されないんですかね
    空中給油機と違って数が無いから、採算合わなくてやれないんでしょうか?

    5
    • rty
    • 2024年 1月 09日

    E-7も737MAXベースにして信頼性と航続距離を改善しよう(名案)

    9
    •  
    • 2024年 1月 09日

    E-737じゃ最も重要な管制能力がE-3に及ばないからスペック比べで言えば能力低下は避けられないのでは?
    まあそれでも部品がなくて飛ばせないE-3よりはマシって判断だろうけど

    7
    • 匿名
    • 2024年 1月 09日

    空力特性・アンテナ効率は知りませんが、どうしてもバー?ロッド?形状がブサく見えてしまう円盤世代…。

    13
    • 58式素人
    • 2024年 1月 09日

    AWACS(E-3、E-767)と AEW&C(E-7/7A)の違いは何なのでしょう。
    大きな違いはないとされているようなのですが。
    もし、大きな違いがあるなら、今回の米空軍の発注は米空軍使用だそうですから、
    AWACSの方向に改装をするということでしょうか。

    2
      • 匿名希望係
      • 2024年 1月 09日

      NG社からMESA仕入れているんならE-737のMESAをE-2Dに載せ替えとかもしてバリエーション増やしてくれませんかね。
      割とまじめに

      4
      • 123
      • 2024年 1月 09日

      AEW&CはAWACSより小型だから物理的なレーダーのサイズの関係で探知能力が劣るとされている他、
      乗員(オペレーターの人員)が少なくなるので、AWACSより管制能力が劣るとされてる。

      技術の進歩でこの辺りの差は埋まってきてる可能性があるけど、
      乗員が少ないと交代乗員も少ないわけだから、連続作戦時間がAWACSより短くなる可能性はそれでもある。

      13
        • 名無し
        • 2024年 1月 09日

        米空軍自体がE-7AはE-3よりも移動目標探知能力、指揮統制能力が上と言ってる以上、小さいから劣るという部分に説得力ないのでは

        3
          •  
          • 2024年 1月 10日

          じゃあかわりに詳細の解説すれば?

          5
            • 名無し
            • 2024年 1月 10日

            ?意味が分からない
            素人「機体サイズ、レーダのサイズが小さいと探知能力、指揮統制能力が劣るとされてる」
            米空軍「E7Aは移動目標探知能力、指揮統制能力でE-3より上」

            どちらに信憑性があるかってだけの話じゃないすか
            米空軍関係者ですら知り得ない情報を持ってる素人なんて者がいるならそっちの話を信用しますよいるんならね

            6
        • AAA
        • 2024年 1月 10日

        アンテナサイズで言えばEー7のMESAの方がE―3のAPYー2より開口面積でかくて高性能

        1
      • 58式素人
      • 2024年 1月 10日

      以前に、F/A-18で。
      C/DからE/Fにする時に、「大きな変化は無い」と議会を説得して、
      その実、全く別の機体を作った実績(?)がありますから、
      心ひそかに期待(笑)するところはあるのですが。
      おそらく、韓国/トルコ/オーストラリア/EUとは別物(?)になるのでは。
      そして、E-7A/Block・・・とか言い出しそうな気がします。

      4
      • John Smith
      • 2024年 1月 12日

      AWACSはE-3、E-767につまれているコンポーネントの製品名で、E-3、E-767はAEW&Cの一種。
      イージス艦みたいにAEW&Cの中で1番高性能だったのと、管制機能がないAEW機との違いを混同してしまい、AWACSはAEW&Cの上位互換なんて俗説が日本に定着した。

        • 58式素人
        • 2024年 1月 12日

        なるほどです。ご教授ありがとうございます。
        AWACSとAEW/Cはボーイングの言い方でしたから、
        別のものと思っていました。

    • たむごん
    • 2024年 1月 09日

    部品が生産さなくなれば、共食い整備になるんですよね。
    事故などで、主要部位の一部が破損すれば、もう飛べなくなるという事が有り得るという事でしょう(例えば主翼)。

    ジャンボジェット機として考えれば、30機での生産維持は難しいですね…。

    ジャンボジェット機は、中古機・リース機として30年以上と息が長いですから、共通プラットフォームにするならばその後の部品調達などを考える必要がありますね。

    >…民間での運用が終了した707のサプライチェーンは全く残っておらず同機の運用維持は危機的状況にある

    2
      • 名無し
      • 2024年 1月 09日

      707に関しては機体自体がボロボロというのもあるけど、搭載しているJT3Dエンジンのサポートが打ち切られるのが一番のネック
      同じエンジンを使ってるB-52は機体寿命がまだあるからエンジン換装での延命に踏み切ったけど、
      元が旅客機ベースでB-52ほど期待寿命が残っていないE-3については体液になったわけで。

      あとどうでもいい補足をすると、ジャンボジェットは747の通称なので707を指す単語としては使わないかな。

      7
        • たむごん
        • 2024年 1月 09日

        B-52の機体寿命は、仰る通り、異常なくらいに長いですよね。

        やや話が逸れますが、コストパフォーマンスの重要性、基本設計のゆとりを感じてしまいます。
        エンジン換装(再設計・改修)で対応できるという事は、数の重要性(ビジネスとして)を感じてしまいますね。

        これは仰る通りです、ありがとうございます。
        >ジャンボジェットは747の通称なので707を指す単語としては使わないかな。

    • はひふへ~ほ~
    • 2024年 1月 09日

    機体そのものは737の旧型とは言え、機体のトラブルが多いから大丈夫かね?

    • 名無し
    • 2024年 1月 09日

    つい最近737MAXの不備が表沙汰になったもんだから不安を感じてしまう
    まっ我々は開発する力もノウハウも無いからバランスは取れてるんだけどね

    2
    • arisona
    • 2024年 1月 09日

    もう一つ質問いいかな? ここにあったボーイングとノースロップ・グラマンのE-10どこに行った?

    6
      • SIERRA GOLD
      • 2024年 1月 09日

      MESAって、もともとE-10用に開発されたレーダーじゃなかったでしたっけ?

        • 匿名希望係
        • 2024年 1月 09日

        それの相対的小型のスピンオフだった記憶>E-737

      • 綴命の錬金術師
      • 2024年 1月 09日

      「…君のような勘のいいボーイングマニアは嫌いだよ」

      11
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