欧州関連

ドイツ、中東情勢の変化を受けてサウジアラビアへのタイフーン輸出を解禁か

ドイツは「ジャマル・カショギ氏殺害事件」や「イエメン内戦」への関与を理由にサウジアラビアへのタイフーン輸出をブロックしていたが、ショルツ首相は「中東情勢の変化」を受けて方針を転換する可能性が高いと報じられている。

参考:Germany drops block to Eurofighter jet sale to Saudi Arabia
参考:Germany lifts block on Eurofighter Typhoon sale to Saudi Arabia: Reports

サウジアラビアへのタイフーン輸出は解禁される可能性が高い

サウジアラビアは2006年に72機のタイフーン導入で英国と合意、途中で機体価格の値上げ問題などを経験したものの2017年6月までに72機全ての引き渡しを完了。これを受けて両国は48機の追加調達で合意したのだが「ジャマル・カショギ氏殺害事件」へのムハンマド皇太子関与が取り沙汰され、ドイツは事件に対するサウジアラビア側の説明に納得できないという理由で武器の禁輸措置を発動。

出典:Alan Wilson / CC BY-SA 2.0

ここにイエメン内戦への批判も加わり、ショルツ首相は2023年7月「サウジアラビア向けのタイフーン輸出を直ぐ承認することはしない」と言及、ロイターは独政府筋の話として「この問題を連邦議会の任期が切れる2025年まで議論しない」と、政府文書を入手した現地メディアも「イエメン内戦が終結するまでサウジアラビアに対する輸出許可を認めない方針だ」と報じ、サウジアラビアは「ドイツフリー」を求めてラファールに関心を寄せていたものの、ショルツ首相は中東情勢の変化を受けて方針を転換したらしい。

イスラエルを訪問したドイツのバーボック外相は「10月7日を境に中東は全く異なる場所になった。サウジアラビアが(イスラエルに向けて発射されたフーシ派の)ミサイルを撃墜したのはリヤドやイスラエルの利益を守り、地域紛争の拡大防止に貢献している現れだ」と述べ、Politicoは「ドイツがサウジアラビアに対するタイフーン輸出のブロックを解除する」と報じている。

出典:Gordon Zammit/GFDL 1.2

ドイツ通信社も首相報道官の話を引用して「サウジアラビア空軍はタイフーンを使用してイスラエルに向かうミサイルを撃墜した。これらの動きを踏まえて政府はタイフーン輸出に関する立場を調整している。この評価を首相も共有している」と報じており、米国のディフェンスメディアも「サウジアラビアへのタイフーン輸出は解禁される可能性が高い」と予想している。

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※アイキャッチ画像の出典:Copyright Eurofighter

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コメント

    • 名無し
    • 2024年 1月 09日

    輸出されるのかどうかは置いといて
    自分とこの都合で方針がこんなフラフラ変わる国の装備は怖くて買いたくねえな

    61
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2024年 1月 09日

      敵の敵は味方なんでしょうけど、ウクライナ紛争でもそうですがドイツの態度の切り替わりの早さと言うか不安定さは「こいつ何考えてるんだ?」という気持ちになります
      ちょっとフラフラしすぎでしょう

      25
        • 拓也さん
        • 2024年 1月 09日

        極端な例だけど独ソ不可侵条約からのソ連侵攻みたいな潔さ?を感じる。AfDの支持率も伸びてるしドイツさん大丈夫かなあ。

        12
      • kitty
      • 2024年 1月 09日

      しかも最新鋭機にはキルスイッチ内蔵まで付いてくるからナア。

      3
    • emp
    • 2024年 1月 09日

    日本も武器を売るなら覚悟が必要だぞ
    アメリカですら民間人を殺してるし、第3世界の国とかなら尚更
    フランスのように吹っ切れれば、輸出先の国からは信用されるが、日本だと国内から相当叩かれる
    ドイツのように煩いと、誰も買ってくれない
    ドイツは実績があるが、日本の武器にはないし、安くもない

    45
    • ひろゆき
    • 2024年 1月 09日

    ドイツとかスウェーデンとか意識が高い国は人権とか口にしてコロコロ方針が変わるけど建前を相手に見透かされてるんだから無意味だし、むしろ反感をかうからやめればいいのに
    そういう意識の高いところがグローバルサウスの反感を買うんだぞ

    37
    • にわか
    • 2024年 1月 09日

    ラファールでええやん。

    17
    • 123
    • 2024年 1月 09日

    普段は環境ガー人権ガーと言ってるのに、
    イスラエルの為になるなら全て許してしまうドイツくんはお茶目だね

    25
    • lang
    • 2024年 1月 09日

    兵器輸出って北のミサイル喰らってるウクライナ見ると割に合うのかな?

    メンテがないとすぐダメになる兵器ならいいのかな?

    3
    • たむごん
    • 2024年 1月 09日

    『環境がー!』石炭また燃やします
    『原発がー!』フランスを予備にしてます
    『平和がー!』武器売りまくります、ロシアから天然ガス買います
    『人権がー!』独裁国家・グローバルサウスに武器売ります

    左翼は、ドイツの何を推してるんですかね?

    34
      • たむごん
      • 2024年 1月 09日

      『核兵器がー!』核兵器を置いてます、ニュークリアシェアリングやってます。

      これ忘れてたので追記しときます。

      15
    • とある経営者
    • 2024年 1月 09日

    敵の敵は友ですか?ドイツも節操が無いですね。やはり日本は武器輸出をやってはいけません。こういう節操の無い振る舞いをすれば国際社会からは相手にはされません。日本をドロドロした国際社会の暗部で汚させるわけにはいかない。

    5
      • タチコマァ
      • 2024年 1月 09日

      寧ろ国際社会なんて西も東も南も節操のない国だらけでは……
      というかその節操だって其々の国によって基準があって、他国からすれば無節操に見えてもその国からすれば筋が通っていたりするわけでして

      11
    • ポルスカ
    • 2024年 1月 09日

    「直ぐやらない」と言っておきながら、すぐやっちゃうドイツ政府さんは行動が迅速ですね♡

    2
    • 朴秀
    • 2024年 1月 09日

    そこまでして欲しがるような機体なんですかね…?

      • 765
      • 2024年 1月 09日

      そこまでして欲しいかって、当然の権利の様に5Gen戦闘機が飛び交う極東に毒され過ぎちゃいないか

      9
      •  さ
      • 2024年 1月 10日

      だからタイフーンはあまり売れてないのでは?(汗
      ラファールの方が、となるけど製造キャパが限界近いらしいから、順番待ちがなぁ、という

      1
    • さめ
    • 2024年 1月 10日

    昔ドイツに住んでたときから思ってたのだが 
    「自分が優位なポジションを維持し続けられる」という前提のもとで、自身が考える正義の実現を周りを巻き込んで目指す、という独善的な性向が強い国なんよな
    ある種成熟した西側諸国のモデルケースとなった国だけど、大いなる矛盾を抱え続けてきた
    タイフーンの輸出もそう。禁輸した根本原因は一切取り除かれていないのにこの判断
    EV推進にしても移民受け入れにしてもそうだけど、大層なお題目を掲げる割に、自身の負担が予想より大きいぞとなったらその政策に舵を切った背景や理由がどうあれすぐ翻意する

    間違いなく有力で日本にとっても大切な国ではあるけど、一部の人が言うような全幅の信頼を置ける理想的な国ではない

    18
    • hiroさん
    • 2024年 1月 10日

    サウジアラビア軍は国民を護る義務は無く、サウド家の私兵の様な存在なので、国民が飢えていないだけで北朝鮮とあまり変わらない国なのでは。
    王家主流派の意思だけで何をするか分からないのに、兵器供給をする危険性は分かっているのだろうが、資源大国の存在感は凄い。

    4
    • ブルーピーコック
    • 2024年 1月 10日

    以下は2019年3月のロイター記事。この記事からもう5年近く経ってるから、ドイツ産業界は危機感どころか切羽詰まってるのかもしれない

    『欧州では、武器に対する異なるスタンスをいかに調整するかという問題は今に始まったことではない。
    だが今回がこれまでと違うのは、企業がドイツのサプライヤーを排除しようとしていることだ。
    全部品の約3分の1を占めるドイツ製部品をユーロファイターから排除することはほぼ不可能だが、エアバスは中型戦術輸送機C295にドイツ製のナビゲーションライトを使用しないで済むよう再設計に着手したと、同社の関係者は先週ロイターに語った。同ライトはC295の部品の4%を占めている。
    同社はまた、空中給油機「A330 MRTT」で使われている部品の約15%を占めるドイツ製品の代替品を探していると関係者の1人は明らかにした。同給油機はサウジを含む12カ国に売られている。
    フランスは、ドイツと共同開発し1970年代に完成させた対戦車ミサイル「ミラン」の後継を独自に開発中だ。また関係筋によると、同国の防衛トラックメーカー、ARQUUSは中東向けに「ドイツフリー(ドイツ製を含まない)」のトラックを売り出している。

    ドイツの信頼性と自主性は危機に陥っていると、ドイツ大統領の顧問をかつて務め、現在はシンクタンク「ジャーマン・マーシャル財団」(ベルリン)に所属するトーマス・クライン・ブロックコフ氏は指摘する。

    「現在の輸出政策が及ぼす長期的影響は、ドイツにもはや防衛産業が存在しなくなる、ということかもしれない」と同氏は語った。

    武器システムからドイツ製部品を排除する動きは、完了までに2、3年はかかり、それをまた元に戻すにはさらに長い期間を要する可能性があると、ある関係筋は言う。

    「ドイツフリー製品にいったん切り替えてしまったら、元に戻るには何年もかかるだろう」』

    2
    • 帝国
    • 2024年 1月 11日

    この件は当面進むのだろうが、サウジはBRICSの新たなメンバーになり、ペトロダラー体制(石油代金の払いはサウジ通貨ではなくドルでないと売らないという制度。この不自然でムシのいい制度の代償として米国がケツを持ってきた)からも離れつつある(人民元等でも売るようになった)ので、兵器の購入先も煩いことを言わず安くて大量生産中の中露や印ブラジル南アに変わって行くのだろう。中国なら太客を逃さないためにステルス機でも纏まった数を今すぐ納入しそうだ。

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