米国関連

米国、ウクライナに提供するJDAM-ERにGPS妨害の照射源攻撃能力を追加

ウクライナに提供されたGPS誘導兵器はロシア軍の妨害によって有効性が低下しており、米空軍はウクライナに提供するJDAM-ERへのHome-on GPS Jam seekers(GPS妨害の照射源攻撃能力をもつシーカー)統合を進めている。

参考:U.S. Department of Defense
参考:JDAM-ER Winged Bombs With Seekers That Home In On GPS Jammers Headed To Ukraine

米空軍はHome-on GPS Jam seekers(GPS妨害の照射源攻撃能力をもつシーカー)の購入を進めている

The Economist紙は昨年11月「ウクライナ軍のザルジニー総司令官によれば侵攻当初の戦場でEWの影響は限定的だったものの、静的な接触線が出現したことでロシア軍は強力なEWシステムを効果的な場所に配置できるようになった。ウクライナ軍は2023年3月にエクスカリバー砲弾が目標を外し始めことに気づき、JDAM-ERもGMLRS弾も目標を外し始めた。一部の地域ではGMLRSの大半が間違った方向に飛んでいく」と報じていたが、ラプランテ国防次官も「ウクライナに送ったGLSDBは期待外れだった」と示唆して注目を集めた。

出典:SAAB GLSDB

戦略国際問題研究所が主催するパネルディスカッションに出席した国防総省のラプランテ国防次官は「誰とは言わないが、ある企業が空対地兵器を地上発射型の長距離攻撃兵器にするというクールなアイデアを思いついた。このシステムを出来るだけ早くウクライナに届けるため、我々は主要なテスト要件を切り捨て『安全性のテストのみ行え』と命じ、これを直ぐ送り届けたが電磁干渉、戦術、技術、手順、教義、組織、訓練、資材など複数の理由で上手く機能しなかった」「命がけ戦っている人々に何かを送っても上手くいかないと直ぐ諦めてしまうことがあり、このシステムにもそれが起こった」と言及。

上記の特徴はGLSDBと一致しているため「ウクライナに送ったGLSDBは期待外れだった」「ウクライナ人はGLSDBを諦めた」と解釈されているが、ディフェンスメディアは「SDBがGPS信号の妨害に脆弱だと証明されたのであれば大きな影響を及ぼす」「米軍は大量のSDBが備蓄し、かなりの数の同盟国もSDBを使用している」「米国は特定地域で暗号化されたGPS信号の出力を高めることが出来るものの今回の問題を克服できるかは不明だ」と指摘していたが、米空軍はHome-on GPS Jam seekers(GPS妨害の照射源攻撃能力をもつシーカー)の購入を進めている。

出典:Ukrainian Air Force

国防総省は3日「カルフォルニア州に拠点を置くScientific Applications and Research AssociatesはHome-on GPS Jam seekers取得とJDAM-ERへの統合に関する契約を空軍から授与された」「この契約にはウクライナへの対外軍事販売が含まれる」と発表、これを受けてディフェンスメディアは「ウクライナへ供給するJDAM-ERにHome-on GPS Jam seekersを統合しようとしている」と報じた。

AGM-88 HARMにはHome-on Jam能力が組み込まれているものの、GPSを妨害する電波の周波数に対応しているのか不明で、ディフェンスメディアは「シーカーの詳細は不明なもののHome-on GPS Jam seekersをJDAM-ERに統合することは非常に合理的だ」と述べている。

出典:U.S. Department of Defense

因みに国防総省は「JDAM-ERへのHome-on GPS Jam seekers統合作業は2025年10月1日までに完了する予定」と述べているため、F-16の提供に合わせてGPS妨害の照射源攻撃能力をもつJDAM-ERが提供される訳では無い。

関連記事:米国防次官、ウクライナに送ったGLSDBは上手く機能しなかったと示唆
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※アイキャッチ画像の出典:Boeing

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コメント

    • F-117A
    • 2024年 5月 04日

    効果があるなら、一発目はGPS妨害照射源攻撃能力付きで攻撃してGPS妨害を止め、時間差をつけて二発目で目標を攻撃すれば有効そう。
    と思ったが、2025年10月1日って、ずいぶん先だな。

    21
      •   
      • 2024年 5月 04日

       GPS妨害装置を一撃で無力化出来れば良いけど。
       低価格なアンテナだけ破損みたいな対策を取られると、jdamホイホイみたいになって、結局、目標を破壊できないオチになったりして。

      17
        • F-117A
        • 2024年 5月 04日

        アンテナだけの破壊でも、一時的にでも妨害できなくなったら、その間の第二弾の命中は期待できるので。

        あとHome-on GPS Jam seekersが作れるなら、安く作れるドローンにつけて、アンテナを破壊しまくるのも手かも。
        まずはアンテナをつぶして、二機目のドローンで壊したアンテナの近くにいる他の機材を攻撃すればいいと思う。

        18
        • 名無し
        • 2024年 5月 04日

        Pole-21のアンテナは、軍用の専用品ではなく、民生用の携帯電話基地局アンテナを流用してるようなので、
        破壊されるのを見越して、複数設置するのは、比較的容易かも。

        23
      • Whiskey Dick
      • 2024年 5月 04日

      GPS妨害照射源攻撃能力の付与は1年以上掛かるほど難しいものなのか?原理的には対レーダーミサイルと同じだと思うが。確かに製造と試験の時間が必要なことは分かるが、現在のロシア軍の進撃ペースだと1年半後にはドンバスどころかハルキウ辺りまで侵略されてしまう。更に本件のような情報がロシアに伝われば、この技術が確立された時点で何らかの追加対策を取られる心配もある。
      アメリカ単体であれば兵器開発に数年の猶予は許されるだろうが、今のウクライナは1年先の見通しも不透明だ。兵器開発の分野で開発ペースの迅速なベンチャー企業を参入させるとか、他国から代替となりそうな兵器を購入するなど迅速な対応が望まれる。

      7
    • あばばばば
    • 2024年 5月 04日

    つまりGPS妨害装置を大量に、米国が生産できるJDAM-ERの数量を年間で上回る数を生産できれば、当たってほしくない場所に攻撃を充てられる可能性は低くなるな(脳筋の発想)

    11
      • イーロンマスク
      • 2024年 5月 04日

      一方ロシアはアンテナを増やしたw

      38
    • もり
    • 2024年 5月 04日

    1年半後までウクライナに反攻戦力と継戦意思があるといいね

    16
      • F-117A
      • 2024年 5月 04日

      プーチンはウクライナで5年戦うって言ってるらしいし、間に合うやろ。

      13
    • たむごん
    • 2024年 5月 04日

    ウクライナに届く前に、ロシアがこの爆弾と同じような物を大量に作る予感が少ししました…。

    原理は難しくないからです。

    12
      • F-117A
      • 2024年 5月 04日

      大量に作ったはいいが、ウクライナ軍にGLONASS妨害能力があれば、今困ってない。

      11
        • たむごん
        • 2024年 5月 04日

        仰る点も理解できます。
        だだ、ウクライナも、そのうち似たような衛星電波妨害装置を用意したときに、でてるだろうなと(そもそも用意できなければ負けです)。

        この戦争、すぐ休戦で終わる性質のものではなさそうなんすよね…。

        5
        • jimama
        • 2024年 5月 04日

        もうお互いに壊しあってるみたいですね。ウク軍がGPSジャマーを誘導弾で破壊したとかいう報道もありますし
        GPSの妨害装置自体は15年ぐらい前から通販で買えるし(出力次第で数kmの妨害も可能みたい)ウク軍も自前の電子戦装備持ってる以上その機能はつけてるはず
        ということはロシア軍側はそこまでGLONASSに依存してないのかも

        3
    • 暇な人
    • 2024年 5月 04日

    混ぜて時間差つけて両方とも打ち込むような感じになるのかな?
    広範囲に妨害電波だす電子戦兵器は効果でしょうからそれなりの効果になりそう

    ただ無誘導で大量に量産したほうが汎用性がありそうなんですけどね。

    5
      • あるまじろ
      • 2024年 5月 04日

      そうすると発射母機も数倍必要な訳で

      4
    • 戯言
    • 2024年 5月 04日

    鳴り物入りで紹介しているけど大丈夫か?

    12
    • hoge
    • 2024年 5月 04日

    誘導兵器の妨害と対策がいたちごっこなのは大昔のベトナム戦争のときも同じだったようなので、どれだけ対策のPDCAを早く回せるかの勝負になりそうですね。

    8
    • マダコ
    • 2024年 5月 04日

    こういうものは、黙ってやらないと、対策されてしまうと思うのですが、米国の場合は、商売優先だと思うので、このように宣伝しておけば他に売れるという考えもあるかもしれません。

    9
      • Easy
      • 2024年 5月 04日

      対策というコストを強要する、ことにもそれなりの意味はあるので効果無しではありません。
      が、ちょっと考えても、単に複数のアンテナを本体から100mくらい離してケーブルで繋ぎ。一定時間ごとに送信アンテナを切り替えるような運用で欺瞞効果が充分に得られてしまうので、攻撃側のミサイルのコストに対して防御側が圧倒的に安く対策を作れてしまいそうです。
      そもそも次世代GPSはまだロシアに対策されてないはずですから、単にGPSをアップデートする方がはるかに前向きですね。

      6
      • F-117A
      • 2024年 5月 04日

      国防総省が業者と契約したって話だから、隠しようがないと思う。
      限られている秘密予算から出すほどの案件ではないし。

      8
    • 58式素人
    • 2024年 5月 04日

    昨日の他所の記事によると。
    英国は、自国製兵器のロシア領内への攻撃制限を解除したみたいですね。
    ストームシャドウミサイルが、セヴァストポリだけでなく、ノヴォロシースクにまで
    届いたりするのでしょうか。黒海艦隊は、居場所が無くなるのかな。
    母機のSU-24に、給油機あるいバディポッドが必要でしょうが。
    GPS誘導の有効性復活はMコードかINSの付加と思っていたので、意外です。
    それも、時間のかかりすぎのような。なんででしょう。

    2
    • Mr.R
    • 2024年 5月 04日

    実際のところ使えるのかな……?

    教えて! JDAM博士!

    1
      •  
      • 2024年 5月 05日

      単品で見れば使えるとは思いますが、JDAMはお安いGPS+INF誘導だからこそバカスカ使えるのが利点なわけで、コストのかかる対輻射源レーダーを積めばその利点を投げ捨てることになって兵器として微妙になるのではないかと思います
      それで狙う輻射源のアンテナの方も大してコストのかかるものではありませんしね

    • 名無しパン
    • 2024年 5月 05日

    低速なんだし画像認識で地形追従させた方が効率いいのでは。いくらロケットとはいえ何十キロも予想とはずれることもあるまいし。

    1
      •  
      • 2024年 5月 05日

      滑空爆弾はその名の通り滑空しますから風に弱く補正しなければ数キロは平気で流されますよ
      画像認識による地形追従はありですね、レーダーを積むよりは安く済みます

    • いよいよか
    • 2024年 5月 05日

    有線ドローンからのレーザー誘導ならば既存技術の組み合わせだから試作品で1か月、量産で3か月あればできるかも。

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