米ミサイル防衛局長官を務めるジョン・ヒル海軍中将は3日、現時点で米軍が保有する手段の中で極超音速兵器を迎撃できる可能性があるのはSM-6だけだと語り注目を集めている。
参考:SM-6 Missiles Are America’s Only Defense Against Hypersonic Weapons Missile Defense Chief Says
飽くまで極超音速兵器を迎撃する手段してSM-6に可能性があるという話で宇宙ベースのセンサーが完成しないと効果は非常に限定的
通常タイプの弾道ミサイルでも目標に向けて最終降下を行う段階で極超音速域=マッハ5.0以上に達するが、一般的に極超音速兵器と呼ばれるタイプの新兵器は「比較的迎撃が容易」とされる宇宙空間を慣性飛行している状態=ミッドコース・フェイズ段階での迎撃(ICBMを迎撃するGBIやSM-3Block2Aが該当)を回避するため大気圏内を極超音速域で飛行し、さらにインターセプターコースの算出を困難にさせるため飛行コースを不規則に変更しながら目標に向かってくるので従来のミサイル防衛シールドを貫通できると言われている。

出典:米国政府説明責任局 弾道ミサイルと極超音速滑空体の飛行コースの違い
つまり極超音速兵器を迎撃するには最低でも同等以上の速度を発揮できる高機動な迎撃ミサイルと、対処時間を稼ぎつつインターセプターコースの精度を向上させるため遠距離で向かってくる極超音速兵器を検出して追尾できるセンサーの両方が必要になるのだが、米ミサイル防衛局長官を務めるジョン・ヒル海軍中将は「現時点で米軍が保有する手段の中で極超音速兵器を迎撃できる可能性があるのはSM-6だけだ」と出席したシンポジウムで語ったため注目を集めているのだ。
SM-6は海軍の艦艇が搭載する艦対空ミサイルSM-2シリーズの後継モデルで、現在配備されているSM-6BlockIA(RIM-174 Standard ERAM)はSM-2ER BlockIVにAIM-120AMRAAMのアクティブシーカーと協調的エンゲージメント機能を追加されているのでターミナル・フェイズ(終末段階)段階での弾道ミサイル迎撃にも限定的に対応しているが最高速度がマッハ3.5止まりのため、極超音速兵器に向けてSM-6BlockIAを発射してもインターセプターコースに誤差が生じると修正して再び目標に接近するのが難しい。

出典:U.S. Navy photo アーレイ・バーク級駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」から発射されるSM-6
しかし現在開発中のSM-6BlockIBは本体を再設計してサイズを拡張(13.5インチ→21インチ)、さらにSM-3が使用する固体ロケットブースターが統合されているため最高速度がマッハ5.0以上に向上(最大射程も240km→370kmに拡張)しており極超音速兵器を迎撃できる「可能性」を秘めている。
米メディアはヒル長官の発言について「SM-6のバージョンに言及してはいないものの現時点で極超音速兵器の迎撃を見込めるのはSM-6BlockIA、SM-6DualI/DualII(終末段階での弾道ミサイル識別能力を向上させ特殊なモデル)、SM-6BlockIB(実用化は2024年以降)だけだが、これは極超音速兵器を迎撃できる初期の可能性を示しただけで開発が開始されたグライド・フェーズ・インターセプター/GPIが達成する迎撃速度や機動性には及ばないだろう」と報じているのが興味深い。

出典:Northrop Grumman
さらに言えばSM-6をMk.41のセル内に搭載しただけで極超音速兵器の迎撃が可能になる訳ではなく、米宇宙軍が2023年にプロトタイプの打ち上げを予定している宇宙ベースの極超音速兵器追尾システム「HBTSS衛星群」や宇宙開発庁(SDA)が主導している数百基の小型衛星で構成された「分散型宇宙センサー(日本が米国と協力すると言っている衛星コンステレーション計画はSDA主導の計画)」が実用化され迎撃手段とセンサーがリンクするようになった場合の話だ。
そのため現状で極超音速兵器に対するエリア防空(着弾地点以外からの迎撃)が可能かどうかと尋ねられると「超限定的なケースを除いて非常に困難」というのが正解だと思うが、極超音速兵器が狙う拠点にたまたま弾道ミサイルの下層防衛に迎撃に対応したパトリオットPAC-3が展開していれば迎撃できる可能性は残されてものの事前情報が十分揃っていないと対処時間が短すぎてコチラも迎撃が難しいだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo
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基本的な話としてなんで中露(北朝鮮もか)のほうが極超音速兵器が進んでるのかよくわかっていない。
単純にイージスとかのミサイル防衛に関して西側が進んでたからそれを突破するための手段に力を入れたってことなんですかね?
>ミサイル防衛に関して西側が進んでたからそれを突破するための手段
基本はその通りですね。
ソ連はアメリカのABM(弾道弾迎撃ミサイル)を回避する極超音速兵器を研究開発していましたが、ABM条約が締結されてソ連は極超音速兵器の研究開発を凍結。
2000年代に入って、アメリカがミッドコース段階の迎撃システム(GBI等)を導入したことにより、ロシアがミッドコース段階の迎撃システムを回避する極超音速兵器の開発を再始動。
中国はロシアの後に続いて研究開発し、北朝鮮はロシアの技術支援を受けて開発した可能性が高いですね。
かなり前のインタビューで、我々はステルスに対しスピードで対抗するって言ってたから、結構前から研究してたんだと思う
日本が開発中の極超音速滑空兵器(HGV)である「島嶼防衛用高速滑空弾」や、極超音速巡航ミサイルである「極超音速誘導弾」は、敵基地攻撃にも使える射程であるべきだと思う。
抑止力になるからね。
「島嶼防衛用」なんてわざわざ頭に付けてるのがいかにも日本だよね。
そもそもJASSMーER導入の時点で射程の自粛を破ってるのに、なんでまた制限をかけるのか。
島嶼防衛用高速滑空弾の射程は、JASSM-ER以上の可能性もあるよ。
島嶼防衛用高速滑空弾の飛翔速度の推定や、推定した飛翔速度をもとに射程を推定したウェブページがあるから、リンクを貼っておくね。
スペックの話じゃなくて、「島嶼防衛用」というエクスキューズの話かと。
「島嶼防衛用」なんてわざわざ頭に付けてるけど、スペック的には敵基地攻撃にも使える可能性があるということを言いたかったんだ。
『島嶼間射撃』と言うのは表向きの話で、実際には中国大陸の策源地を焼くのが狙いだったりして。
考えすぎかな?
仮に、装備的には敵基地攻撃能力を獲得したとしても、
政治的に敵基地攻撃等を容認されていない以上、自衛隊の装備としての位置付けは防衛用の装備。
他所様の領土に届くかもしれない射程も、あくまでも「島嶼防衛用」で、他意はない「建前」。
それ故の『「島嶼防衛用」というエクスキューズ』ですね。
『いかにも日本』らしいなと、自分も思います。
あと、仮に政治的に解禁されなかった場合は、「島嶼防衛用」の建前のまま退役を迎えるとも。
そして、軍事的な緊急事態により、解禁の政治的決断が強いられる事が無いことを願っています。
迎撃困難な超兵器なんて米国が一番進んでそうな物なんだが。
急げば取り返せる遅れなのか、中露が決定的な新技術を保有してるのか。
いずれにしても有効な迎撃手段が整うのはまだまだ先になりそうだな。
整う前に実戦が起きなきゃいいけどねぇ、
まぁ、中国のはロシアのを参考だろうね
使えるのかどうか怪しいけど
弾道ミサイルだって、精度が良くないから爆発の規模で補うやり方だったはずだし、狙われる可能性のあるロシアが正直に教えるわけない。
「中国の極超音速兵器(DF-17)は射撃試験で標的の数メートル以内に着弾した」とアメリカ政府関係者がコメントしています。
また、今の中国の弾道ミサイルの精度は昔と違って米ロと大差がありません。
SM-6は一般的な極超音速ミサイルのみならず、対艦弾道ミサイルでも終末段階なら迎撃できるっていう認識で良いのかな。
南シナ海での作戦における脅威度が低減されそうではあるな。
リンク
動画によるとDF-21にも対処可能とされているけど、コメント欄に「DF-21Dは再突入段階で変則機動を取れてなおかつマッハ10の速度があるからSM-6では迎撃できない」と突っ込んでる人がいて、これが本当なら無理そうだけど・・。
そもそもDF-21Dの情報が少なくてどこまでが本当なのかわからない。
以前、このブログで管理人さんも言ってたけど、PAC3は迎撃の姿勢制御能力に振り切ったミサイルだから、これにブースター追加したら、結構いい迎撃ミサイルになるんじゃないのかな?
射程距離も延びて、いいんじゃない?