米陸軍がカミカゼドローンと呼ばれる徘徊型無人航空機(UAV)の調達を本格化させており、米防衛産業企業「AeroVironment/エアロバイロメント」が開発したSwitchbladeシリーズに発注が相次いでいる。
無人機単体で既存の兵器体系をひっくり返すほどの力はなく万能な存在でもないが、現代の軍隊が活用できる新たな戦術的選択肢であることに間違いはない
エアロバイロメントが開発したSwitchblade300は折りたたみ式の主翼や尾翼を備えた電動推進式の徘徊型UAV(作動範囲10km/滞空時間15分/発射装置や輸送キットを含む重量は2.5kg)で、米陸軍が以前から少量調達して評価テストを行っていたが昨年辺りから調達数が増加、ついに先月にSwitchblade300に関する複数年契約(契約額4,496万ドル/約49億円)をエアロバイロメントに授与したと発表したのだが本契約に対外有償軍事援助(FMS)を通じた同盟国からの発注分を含まれておりSwitchblade300を同盟国として初めて発注したのは英国軍だと言われている。
さらにSwitchblade300の派生型「Blackwing」は水中発射に対応したUAVで潜航中の潜水艦からデコイ発射装置を使用してBlackwingが収められたチューブ状のキャニスターを発射、海面に到達後に空中へ射出され潜望鏡ではカバーできない範囲の状況認識能力を潜水艦の指揮官に提供するシステムで米海軍の攻撃型原潜が順次導入を進めているのだが、このUAVが収められたキャニスターは浮遊式なので大量のキャニスターを水中からばら撒いて当該海域から安全な後方に離脱した後、必要に応じてUAVを射出・収集したデータを戦術データリンク経由で受信するといった芸当も出来るらしい。
※4年前のBlackwing紹介動画なので浮遊式のキャニスターが描かれていないが同社のホームページ上にある最新の動画では浮遊式のキャニスターが描かれている
因みに水中発射型のUAVは数年前から潜水艦に導入する動きが観測されており、少なくともフランス海軍の新しいシュフラン級攻撃型原潜には装備されている可能性(特殊作戦用途向け)が高く、海外市場にUAVを供給する複数の防衛産業企業も水中発射型UAVの開発や販売に注力しているのでAIP機関のように何れ多くの潜水艦運用国がこれに対応してくるかもしれない。
海軍は最近実施された有人艦隊と無人技術を統合(有人・無人チーミング)する実証演習「Unmanned Integrated Battle Problem 21」で敵水上艦艇にカミカゼドローンと呼ばれる徘徊型UAVを複数発射して目標にスウォーム攻撃をしかけたシナリオを実行したと明かしており、この演習にはロサンゼルス級原潜のハンプトンが参加していたため水中発射に対応したUAVが用いられた可能性(詳しい内容は公開されていないので管理人の推測)もある。
海兵隊も昨年末にスウォーム攻撃に対応した徘徊型UAVに関する情報収集のためRFI(情報提供依頼書)を発行、空軍もエアロバイロメント製UAVではないがステルス無人戦闘機「XQ-58Aヴァルキリー」のウェポンベイから偵察・監視や自爆攻撃に対応したArea-I製の小型UAV「ALTIUS-600」の分離テストを行っており、低コストだが耐久性に劣る小型UAVを距離の離れた戦場に直接投射する方法の実用化を模索しているのだろう。
少々話が逸れたが今回の本題はエアロバイロメントが開発した電動推進式の徘徊型UAV「Switchblade600」についてで、これはSwitchblade300の拡大発展型(作動範囲90km+/滞空時間40分以上/本体重量22.7kg)でイスラエル製の徘徊型UAV「ハロップ」に近いサイズ感だが、こちらも折りたたみ式の主翼や尾翼を備えた電動推進式なのでチューブに収納された状態だと非常にコンパクトで対戦車弾頭も装填可能なため装甲車輌に対する破壊力も格段に向上している。
この新しいSwitchblade600についてエアロバイロメントは「米特殊作戦軍(陸海空の特殊作戦部隊を統括する組織)から2,600万ドルの発注を受けた」と明かしており、注目されるのは点は2,600万ドルの契約に特殊な海上プラットフォームへの統合が含まれている点だ。
要するに海上プラットフォームへの統合が含まれているので海軍特殊部隊のネイビーシールズか海兵隊特殊作戦コマンドのマリーン・レイダース向けの発注である可能性が高く、南シナ海や太平洋地域の沿岸海域で実施される特殊作戦=つまり中国との戦いを想定してSwitchblade600の導入を進めていると解釈でき、米軍は全軍(陸海空に加え特殊部隊)を挙げて徘徊型UAVの積極的な導入を進めていると言っても過言ではない。
勿論、小型UAVの活用は米軍の専売特許ではなく欧州やロシア・中国でも積極的に活用が進められているが、小型UAVを構成する技術の大半は高度な戦闘機とは異なり純粋な軍事技術ではなく民生技術なので先進国以外の国でも活発に研究・開発が行なわれているのが特徴で、徘徊型UAVは無人航空機技術で先行するイスラエル、トルコ、イラン以外にもポーランドが国産の徘徊型UAV「ウォーメイト」を開発して1,000セットを導入済み、ウクライナは他国では採用例のない変わった運用方式の徘徊型UAV「サンダー」を開発中で注目を集めている。
アゼルバイジャン軍のUAVにしてやられたアルメニアでは国産の無人航空機開発プロジェクトが始動、すでに国産のカミカゼドーロンがフィールドテストを行っており数十種類の各種UAVやドローンを開発するため政府が資金を投資しているらしい。
参考:Armenian-Made Kamikaze Drones Undergoing Tests
中央アジアに位置するカザフスタンでも国産の偵察・監視型UAV「Shagala」が開発中でプロトタイプのテストが行われており、韓国では両手で数えるのが難しいほどの小型UAVが大手企業やベンチャー企業主導で開発を進めており自国軍への採用に向けたフィールドテストも実施されている最中だ。
#Kazakhstan trialling locally made Shagala #UAV, with an endurance of 2.5 hours and a range of 30 km. The system can also deal with 50 km/h wind gusts. #drone https://t.co/D4AbUejcZ8 pic.twitter.com/VsFzoiyL8D
— Charles Forrester (@securitysplat) February 9, 2021
世界各国の小型UAVや徘徊型UAVの開発状況を挙げればキリが無くなるのでこの辺りで言及を止めておくが、偵察・監視用途の小型UAVや自爆攻撃を仕掛ける徘徊型UAVなどは単体で既存の兵器体系をひっくり返すほどの力はなく万能な存在でもないので必要以上に恐れる必要はないと思う。
ただサイズや用途の違いに関わらず無人で低コストのUAVは現代の軍隊が活用できる新たな戦術的選択肢で、既存の兵器体系の効果を高めるのに欠かせない状況認識力の拡張やリスクの高いミッションに相性が良いので今後も多くの国が独自の無人機開発に挑戦してくるはずだ。
関連記事:米空軍、ステルス無人戦闘機「XQ-58Aヴァルキリー」から小型UAVを分離することに成功
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※アイキャッチ画像の出典:Photo by Cpl. Jennessaa Davey
既存の有名どころじゃなくてベンチャーとかがバンバンでてくるから面白い
兵器に限らず新機軸の発明や製品はベンチャーから出て来る事が多いよ
兵器関連だと割と有名なのが米海兵隊のLVT(AAV7のご先祖様)
これは元々、ある発明家がハリケーン時の救助作業等を目的に開発したら米海兵隊が目を付けて、発明家の所へ兵器化を依頼したと言う経緯がある
ドローンは軍民問わずこれからの発展が望める製品だから今後も色々なベンチャーからドンドン出て来ると思うよ
日本もUAVベンチャーは結構でてるんですけどねえ
肝心の自衛隊の方が、、
ようやく民生品の試験運用段階という
日本のUAVベンチャーが自衛隊向けに開発するのはリスキーすぎるような。
例え採用されても大量には採用されないでしょうし、採用されてしまうと海外向けに販売できないような気もします。
民生需要からは忌避される様になるしね
「お前の会社は軍需企業と取引するのか!」って攻撃を受けるからね
米軍装備大好き自衛隊もこれ導入すんのかな?
日本はドローン関係にあれこれ規制かけまくってるから開発しようとする企業は見かけないよね
FMSで買えるし、発表されている契約額を見ると価格も手頃そうだから自衛隊も導入する可能性が高そうだね
日本の場合、ドローンメーカーはトイ用・産業用含めるとそこそこ有るので開発していない訳では無い
規制を強化していると言っても目的は犯罪やテロ防止なので産業用の需要はかなりあるし、最近は官公庁や企業を問わず中国製ドローンを排除しつつあるから、需要の面では国産メーカーもチャンスが有る
只、規制の絡みで新規参入が難しかったり新たなアイデアが出辛い可能性が有るので、これを機に防衛省がSwitchblade300等の欧米製ドローンを導入する事で国内メーカーに刺激を与える必要性はあると思う
自衛隊の場合はドローンの導入も課題だけど、最大の問題は運用ノウハウやドーロンを既存の戦術に組み込む戦闘教義を研究開発していないところでしょ。
多少は水面下で研究してるかもしれないけど実機の徘徊型UAVを導入してないんだから机上プランに近いだろうね。
米軍からノウハウから戦闘教義を輸入すると言う手もあるけど、本当に米軍頼みなら他力本願すぎて残念過ぎる。
残念ながら、日本の場合「三矢研究」事件(日本有事を想定したシミュレーションを自衛隊がやったら野党がシビリアンコントロールからの逸脱等と言う因縁を国会で付けた)の後遺症で戦闘教義の研究開発は困難な為、米軍からノウハウを輸入するしか手は無いよ
だから、日米はほぼ毎年何らかの形で共同演習を行っているし、陸自がM24狙撃銃を導入した時は装備だけで無く運用マニュアルごと輸入した
水陸機動団のAAV7も事情は同じだと思われる
本邦の場合「必要な機能を有する既存兵器があれば、新たな開発はしない」方針なので、購入できるならば開発費用は認められないでしょう。民間にドローン技術があっても兵器開発を自己責任でする酔狂な企業はないかと。
今後研究が進み、自衛隊として「必要な機能」が他国と違ってくると(例えば常識外な航続距離)予算がついて開発されるのでは?
徘徊型UAVではないけど、偵察用の小型UAVなら「無人偵察機システム」や「JUXS-S1」とか既に配備されてるけどね。
徘徊型のUAVは、下のコメントにあるように96式とかあるからあんまり興味ないんじゃない?
対ドローン用の対空レーザとかは研究しているみたいだし。
徘徊型UAVじゃないけど、小型の偵察UAVなら「無人偵察機システム」とか「JUXS-S1」とかもう配備されてるよね。
徘徊型UAVは、下コメントにもあるけど96式とかあるから興味ないんじゃない?
対ドローン用の対空レーザとかは研究しているみたいだし。
ここ20年、有人機と同じ作りのグローバルホーククラスを除く、小型UAVは、米軍でさえベンチャーに開発を発注、少量生産して、イラク戦争、アフガン戦争でテスト後、後継機の開発発注を繰り返していましたが、FMS分獲得とかついにエアロバイロメント来たってことか。
自衛隊も、本格導入はともかくまず実物を買って調査・研究するべき。公開してないだけで動いているなら良いが……
ほんと、実物買っての研究開発、対策して行って欲しいですね。いくら情報があっても実際に触れて見ないと分からない事って多々あります。無人機による戦闘システムはこれから更に発展して行くでしょうから、取組の強化をして頂きたい。
日本の場合まず軍事アレルギーをなんとかしないと民生技術の軍事利用に必ず騒ぎ出す奴が邪魔をする
日本はそのあたりマスゴミが妨害しかしないからな
DSEIの会場を貸すだけで幕張メッセに抗議文を出してくる奴らがいるからなぁ…
そういう連中の妄言を国民が完全に黙殺する様な社会になって欲しいですね。
マスゴミだけで無く、野党に学術界・法曹界と今の日本は「非国民」揃いだから難しいですよ……(震え声)
日本国内を非国民と国民に二分して争っても一切国益にならないので、私個人としてはマスゴミ・左翼・アカなどの言葉を使用しないようにしています。
あくまでも個人的な考え方です。
Kamikaze Drone という言葉が海外で使われているのか、ググってみたらちょこちょこ出てきますね。
例えば。
トルコはシムセック訓練システムを神風ドローンに変換
リンク
まあ、複雑な気分です。
テロリストによる、子どもを使った自爆攻撃や、民間人を狙った自爆攻撃を「カミカゼ」と呼ばれるよりは大分マシだと思ってる。
無人機での軍やテロリスト相手の攻撃でしょ?・・・卑劣な民間人に対するテロにカミカゼの名称が使われてたのは本当に忸怩たる思いだったからなぁ。日本軍の特攻は軍相手にやってたんだ。民間人へのテロじゃない。とはずっと思ってた。
カミカゼドローンがあれば、艦艇に巡航ミサイルの飽和攻撃なんて非効率なことをせずに、艦艇にドローンを張り付かせておいてカミカゼさせるかフレアをまいた直後にミサイル突入させるだけで十分になるのでは
将来的にはイージス艦など高級な的にしかならず、小型艦艇がドローンのプラットフォームとして生き残らないと予想
>ドローンを張り付かせておいてカミカゼさせるかフレアをまいた直後にミサイル突入させるだけ
それ言うほどお手軽ではないよね
張り付いてるカミカゼドローンとやらが
巡航ミサイルより排除しにくいと考える根拠を
是非聞きたいところ。
ここの管理人が定期的に無人航空機の話題を取り上げるのは対策が遅れている自衛隊のことをディスりたいだけじゃないの?
対策遅れてる自衛隊ディス自体の何が気に入らんのかよー分からんけど(笑)
マジレスすると海外軍事メディアのホットな話題は無人機関連が多いんだろ東西関わらず
深読みし過ぎだとは思うが ケツ叩く分にはいいと思うよ
いいレスもあるんでぜひ参考にしてもらいところ
実際遅れているのは確かだし有事の際に困るのは自衛隊だよ?
問題点等を指摘して批判することは悪くないし上司に忖度し批判なき軍隊がどうなったか大平洋戦争で学んだはずだと思うんだけど‥
管理人は自衛隊をディスる為に指摘や批判してるんじゃないよ
常に新しい戦術戦略に関心を持たないと敗北するってのも太平洋戦争から学んだことだな
自衛隊やら政府やらがそういう事をやりだすと常に新しい話題に飢えてるマスコミが9条ガーを言い出すんだよね。
なんで?としか言いようがないよね
次世代の神風は若者が戦場で命を部品に敵艦艇に突っ込まなくて良くなりました!
これは喜ばしい事ですとでも発表すれば良い
今最もホットな話題だからあたりまえだろう…
これだけあちこちから矢継ぎ早にポコポコ新兵器が開発されてくるとかそうそう無いぞ
あとデータを並べての事実の指摘と単なる悪意の振り撒きとじゃ話が全然違うわ
数秒ごとにEMP爆発を行うことで伝統的な戦場を守る
そんな未来が来るといいな
さすが対応が早い。
誘導迫撃砲弾でいいのでは?と思っていたが
それなり高価だし射程距離や滞空できる利点も考えるとUAVに分があるかな
米軍はないだろうけど「自爆型ドローン」の普及拡大は散発的な紛争勃発へのハードルを下げることになるだろう。
徘徊型ドローンならぬ徘徊型ミサイルならば、陸自の96式多目的誘導弾が世界に先駆けている訳だけれどもね
現在は射程を延伸した上で、大規模だったシステムを小型化した改良型を開発中
光ファイバー誘導だから、電波妨害には強いぞ
スパイクミサイルの方が先に実用化されてない?
1発5,000万円じゃ費用対効果で太刀打ちでなさそう・・・
スイッチブレードって徘徊型だっけ?
遠隔操作型じゃないっけ?
自律的な自動ターゲティングに対応+何時でも人間が操作に介入可能だから徘徊型+αて感じだね
カミカゼドローンっていう名称
海外で通用するのかね
海外で徘徊型ドローンのことをカミカゼドローンと呼んでるだから通用するでしょ