米空軍は発表したF-22Aの後継機開発に対する提案を2024年中に1本化する予定だが、ケンドール空軍長官は「2種類のNGADを導入する気はない」「NGADはF-35で直面した買収上の悪習慣を排除する」と言及して注目を集めている。
参考:Avoiding F-35 “Acquisition Malpractice” Aim Of Next Gen Air Dominance Fighter
今後のプラットホーム開発は誰をインテグレーターに選んでも新規サプライヤーの参加を可能にする
米航空戦闘軍団のケリー司令官は「インド太平洋地域向けに大きなペイロードと航続距離を備えたタイプと、比較的戦場までの距離が短い欧州向けのタイプに分かれるかもしれない」と証言したため、NGADは主翼のサイズが異なる2種類に分かれるのではないかと予想されていたが、このアイデアについてケンドール長官は「開発コストが高価過ぎるため2種類のNGAD(Next Generation Air Dominance)を導入する気はない」と否定、つまりNGADの設計はインド太平洋地域向けも欧州向けも共通になるという意味だ。
さらに興味深いのは国防総省の官僚として10年以上も調達や技術開発に携わってきたケンドール長官が「買収上の悪習慣を排除する」と言及した点で、この問題を簡単に言うと「ある請負企業がF-35のような開発プログラムを受注するとプログラム全体の所有できる」という習慣のことで、F-35プログラムを獲得したロッキード・マーティンは機体の重要なデータを所有する権利が認められているため「製造」「運用」「維持」「アップグレード」に関する作業を独占できてしまう。
要するに他社がF-35の能力向上に画期的なアイデアを持ち込んできても、ベンチャー企業やスタートアップ企業がF-35の問題解決に役立ちそうな技術を提案してきても、競合企業の製造部門に余力あってもロッキード・マーティンが技術的データの開示に同意しない限り何も出来ず、空軍もデータ開示を強制することができないためケンドール長官は「技術的データの大部分を政府所有にしてオープンな設計に改め、今後のプラットホーム開発は誰をインテグレーターに選んでも新規サプライヤーの参加を可能にする」と主張している。
この習慣を改めることでロッキード・マーティン、ボーイング、ノースロップ・グラマンの中から誰をNGADのインテグレーターに選んでも、幅広いサプライヤーと協力することができ、ここにはインテグレーターに選ばれなかった競合相手も含まれるため、ロッキード・マーティンが開発したNGADの製造にノースロップ・グラマンが参加したり、アップグレードの開発をボーイングが担当するということも可能性になるという意味だ。
因みに空軍の開発計画全般を管轄するムーア中将は「F-22AとF-35の主契約者でNGADの開発にも関与しているロッキード・マーティンは航空部門の技術者が慢性的に不足している」と指摘し、議会が要求するF-22Block20のアップグレードを行うなら「F-35Block4の開発作業に携わる技術者」を引き抜く必要があると述べた事がある。
もし買収の悪習慣=機体の重要なデータを所有する権利を認めてなければ、開発作業をボーイングやノースロップ・グラマンに任せることが出来ていたのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Courtesy by Kyle Larson
政府のお金で開発してる以上、政府が権利を持つのはおかしくないし、今まで1つの民間企業に権利を持たせていたのが不思議…
開発に関する権利は詳しくはないが、オープンにしてイノベーションを起きやすくのは大事だね。
でもこれ企業が乗っかるメリットが無くなりますよね。
いわゆるインクカートリッジやカミソリ商法のように、本体の開発費用が赤字でも消耗品の定期購入で利益出すビジネスモデルができないわけですから、企業側が設計情報を提案するだけ損と思ったら、真面目な提案しなくなるか、ふっかけてくるんじゃないかと。
研究開発等での一品物なら難しくないでしょうけど、戦闘機みたいな量産品は、軍に一定の生産管理能力が無いとキツイんじゃないでしょうか。
一方で以前ニュースになってた、認証絡みでB25のトイレの蓋を作ってくれる会社が無い、みたいなことは無くなるから良いとは思いますが。
消耗品ビジネスの場合はあくまで研究費は自社資金ですけど、そもそも戦闘機は政府持ちなので、その点は大きな心配いらない気がします。
多少値段は上がるかもしれませんけど…
>本体の開発費用が赤字でも消耗品の定期購入で利益出すビジネスモデルができないわけですから、真面目な提案しなくなるか、ふっかけてくるんじゃないかと。
開発費の補填を量産で行えないと、
開発費の高騰の可能性は当然あるでしょうね。
開発費の高騰は、
①後から超過分を開発費に計上
②リスク分を高めなマージンに転化した、高額見積もり
③リスクを嫌って細かなフェースの細切れ契約にする事で、開発が非効率化して、結果論で開発費高騰を招く
そんな三パターンを予想しました。
実際にはもっとあるだろうけど。
以下、軍ではなくITの話なので、畑違いになりますが、契約って何に対してお金を払うかを決めるものなので、どこでも同じようなものではないかと思います。
・設計や製造など、成果物が明確な場合に交す請負契約
金額は固定で、「設計書」「プログラム一式」の製造を行う
・技術支援みたいに成果物が明確ではない場合に交す業務委託契約
時給Z円の人が、X人、Y時間働いたからX人 * Y時間 * Z円 請求する
みたいな形態があります。
大規模開発プロジェクトなので前者だと思いますが、その中で製造物の著作権が
1.発注者が全て製造物の権利を召し上げ、請負者には何も残らない
2.発注者と請負者で製造物権利を共有
3.請負者が製造物の権利を持ち、発注者は使用権だけ得る
みたいな形があります。
日本のIT業界の契約は1が多いように思います。
一方、外資系の請負企業は当初3を主張し、何とか2で落とそうとします(3を主張しろと法務部が指示する)。
1と2の中間くらいでLMが肝となる権利を、何らかの事情で確保したのでしょうけど。
・もとからLMが自社で育成してきた技術をベースにしたから、譲らされる理由はない
・LMがおいしいところを確保できるよう、知財部が3に近いような、うまい(ズルい)契約にした
とか、でしょうか。
総額方式はボーイングがKC-46A空中給油機やT-7A高等練習機で契約していますが、こちらのブログで紹介されている通り両方ともボーイングが損失垂れ流し状態ですね。
ソフトウェアもですが、「成果物が決まっている」というのがやっぱり難題で
・仕様が決まってない
・実現するための仕組みやフォローアップの仕組みができていない
・要求はまとまっているがそれを取捨選択・現実に持ってために必要な条件が確定していない
・そもそも要求自体が決まっていない
・議会で予算だけ通して要求も決まってないのに見切り発車して後から要求だけ増えていく
などカタチが定まっていないものを具現化する難易度は時代を追うごとに上がっているように見えます。
IT業界だと分割発注して要件定義・設計・製造・試験などのフェーズごとに契約形態や権利に関する条項、発注業社変えたりとかする動きもありますが、成功しているか、というと難しいと思います。
今回の動きは知的財産権をメーカーと発注元の合衆国政府で共有する形を想定しているものと見受けられますが、体制も含めた仕組み作りの難易度は高そうです。
F-35も早めに生産打ち切られる気がしてきた
悪評ばかりきこえてくる
そんなことはありませんよ。F-35は先進国がこぞって導入を続け、今も納入順番待ちの列が長く延びているほどですよ。大人気の機体だからこそ母数が大きくなるぶん悪評も多く聞こえるのでしょう。
輸出向けは確かにそうなんだけどデジタルセンチュリーシリーズの進展次第によってはF35の予定分を食うのはありえるのでは?
米空軍はデジタルセンチュリーの有人機への採用を見送り
現在計画中の無人機群の開発計画CCAでの採用を計画している段階ですね。
そ、そんな~
せっかく有象無象の新型戦闘機が沢山見れると思ったのに・・・
👉「船頭多くして船山に登る」
例えばF35のように印刷屋にデザイン含めて印刷発注するとデザインの変更や追加印刷は同じ印刷屋となる。しかし、印刷データや著作権も引き渡しを受けていれば別の会社へ発注もできると‥。
印刷であればデータフォーマットがある程度決まっているので現実的ですが、特許や機密の塊、車以上の部品サプライヤーを束ねて途方もない製造ラインへの投資が必要な戦闘機が同じように契約できるのかとても興味があります
他企業の事業参入により開発企業が以後の生産やサプライチェーン上の契約を失うということではないでしょう。
主契約社という基本的ポジションが保障されなければやってられません。合理性があれば、政府指定の企業が事案単位で事業参入する可能性を排除しないてことかと。
ざっくり言えば政府の裁量権(干渉権)を拡大するてことでは。
F-35以上に機体設計データにアクセスしやすくなりそうですね…中国が。
それはないのでは?
機密が企業の管理から国の管理になるわけなので。
単純に
設計データにアクセスできる人が増える→データが流出しうる機会が増える
ということでは?
政府自身や政府が厳選した企業であってもそこから情報が漏れる可能性は0ではないわけですし。
F-2開発の際にF-16の設計検討の詳細の内容が企業でなく属人的で、検討の担当者個人に直接アクセス可能する必要すらあった様です。
(その時、担当者は個人所有のスクラップブックとかに情報を保管していたとか)
(設計ノウハウは、企業ではなく担当者個人のモノ、との思想だとか)
そんな属人的な状態が、政府管理下になるのなら、セキュリティが向上する部分もあるかと思います。
関係者増によるリスク増大との掛け算なので、どちらに転ぶかは難しい問題でもありますが。
この方式のメリットはもちろん分かりますが、全体管理と責任が曖昧になるデメリットも相当大きいですぜ。また情報保全の労力が大変どころではなくなる。既存の組織で管理できるとは思えないな。
軍の工厰を一次管理者にするとか工夫しないと、炎上の予感しかしません。
こういう知的財産と商法、ソフトウェアの話は貴重
より注視したい
無人機や各種兵器の長射程化により制空専用戦闘機に再び天秤が傾いている気がする
逆に爆撃機のマルチロール化は進みそうだが
以前から、アップグレードに他社が入らないのは、
何故かと思っていました。他の例はいくつも聞くのですが。
契約のやり方が障害だったわけですね。
他所の国のことですが、それでは、限られた開発能力の
有効利用にはならない(遊びができる)のでは。
すでにNGADのプロトタイプが極秘裏に飛行中とのことですが、やはりロッキード・マーチンが主導しているのでしょうか?
ATFプログラムではYF-22とYF-23のフライオフの進展状況が日本の航空雑誌にも掲載されていましたし、JTFではインターネットで動画も公開されていたのと比べると今回は防秘が凄いですね。F-117の公表前を彷彿させます
いかに極秘でも、米本土の試験飛行では一般市民に目撃される機会はあるでしょうし、スマホやSNSがこれほど普及している現代に何も出てこないのはかなり不思議に思います
米空軍の開発・研究・調査はエドワーズ空軍基地を拠点としていますが、ステルス機等秘匿性の高い航空機はネバダ州砂漠地帯の広大なネリス試験訓練場内エリア51で行われています。
エリア51周辺は飛行禁止空域で警備は徹底されてており、同エリアでの試験飛行が市民や一般軍人に目撃されることはないようです。
そして、地下には墜落したUFOが
>つまりNGADの設計はインド太平洋地域向けも欧州向けも共通になるという意味だ。
インド太平洋地域向けって、オーストラリアや韓国ってことかな?
F-3を開発している日本も含まれるのかな?
在日豪韓米軍やグアムに配置する機体の事では。
正直、過去2回のロッキード・マーティンの選考は不透明な政治的判断が目に付いたので実機ノウハウがあるノースロップが良い気がします。
>ケンドール長官は「開発コストが高価過ぎるため2種類のNGAD(Next Generation Air Dominance)を導入する気はない」と否定、つまりNGADの設計はインド太平洋地域向けも欧州向けも共通になるという意味だ。
というか「そこまで長大な航続距離を必要としない欧州にNGADは投入しない」んじゃないですかね。
当面はF-35の能力向上や運用強化で十分、ということでは。
フライトシミュレーターの感覚で実機もこんな感じに気軽に?開発に参加出来るようにしたいという事は、対中国を相当意識しての事だと思いますよ、新しい才能が速く欲しいというアメリカのメッセージなのでしょう。
F/A-18の場合
リンク
Mig-21の場合
リンク
ロックウェルやフェアチャイルドなど航空機事業を終了した企業は事業や知的財産権を他社に売却したりしてますから、こうした権利の移動が国際的なリスク問題になることを懸念した動きでしょうね。
戦闘機事業が実質ロッキード・マーティン1社に集中するのは避けたいのでしょうが、ITと同じでより高い発注者能力が求められますし、そのための人員を民間から登用するのも1社集中になってしまうと難しそうです。
>ロッキード・マーティンが開発したNGADの製造にノースロップ・グラマンが参加したり、アップグレードの開発をボーイングが担当するということも可能性になるという意味だ。
新規開発の能力を失った感のあるボーイング、
上記により延命するのか、
それとも新規サプライヤーの台頭により寿命が尽きるのが早まるのか、
どちらに転ぶのかな?
開発コストやリスクを政府が負担するなら可能。ライセンス生産させてもいいと思うが核心のところは渡したく無いよな
やっぱ失敗だったってことよね。ステルス・スーパークルーズ・VTOL・4軍統合っていう目標は達成したけど、それ以外が手薄だった。
1機種に絞るなんて、独占を許したら結局は同じこと。良さげな言い方をしてるけど、メーカーからの圧力による指針だろう。どうあっても競争を維持するのがアメリカの強さの源泉だったのに。