ウクライナ戦況

戦争は適応力の勝負、現在効果を発揮している兵器も1年後に効果が減少

Washington Postは24日「米国製のGPS誘導兵器はロシア軍の妨害技術に耐えられず、ウクライナ軍は一部兵器の使用を中止せざるを得なかった」と報じ、ウクライナ当局者は「今効果を発揮している兵器も1年以内に効果が減少する」と予想した。

参考:Russian jamming leaves some high-tech U.S. weapons ineffective in Ukraine

解決策が見つからないエクスカリバー砲弾は戦場から退場、JDAMは改良を経て有効性を取り戻す

The Economist紙は昨年11月「ウクライナ軍のザルジニー総司令官によれば侵攻当初の戦場でEWの影響は限定的だったものの、静的な接触線が出現したことでロシア軍は強力なEWシステムを効果的な場所に配置できるようになった。ウクライナ軍は2023年3月にエクスカリバー砲弾が目標を外し始めことに気づき、JDAM-ERもGMLRS弾も目標を外し始めた。一部の地域ではGMLRSの大半が間違った方向に飛んでいく」と報じ、ラプランテ国防次官も「ウクライナに送ったGLSDBは期待外れだった」と言及。

出典:SAAB GLSDB

Washington Postは24日、入手したウクライナの機密資料を引用して「米国製のGPS誘導兵器はロシア軍の妨害技術に耐えられず、ウクライナ軍は一部兵器の使用を中止せざるを得なかった」と報じ、この記事の主要部分を要約すると以下のようになる。

“GPS誘導のエクスカリバー砲弾は戦場で有効性を示し、2023年初頭までの命中率は50%以上だったが数ヶ月後には10%以下に低下し、米国はロシア軍の妨害技術に対する改善策が見つからないためエクスカリバー砲弾の供給を停止した。しかしウクライナ軍の砲兵は供給停止よりも前からエクスカリバー砲弾の使用をほぼ止めていた。時間のかかる特別な計算やプログラミングが必要で通常砲弾より扱いが難しいため、砲兵はエクスカリバー砲弾の使用を敬遠していた”

出典:U.S. Army Reserve photo by 1st Sgt. Michel Sauret

“HIMARSは前線よりも後方に位置する敵司令部や弾薬庫の攻撃に成功して称賛されたが、ロシア軍がGPS信号を無力化すると完全に効果を失った。そのためウクライナ軍は高価なHIMARSの弾薬を優先順位の低い目標への攻撃に使用するようになった。まだウクライナ軍はHIMARSを見限っていないものの、妨害環境下では最大50フィートも目標から外れることがあり、ある大隊司令官は「HIMARSの攻撃を観測するため無人機を飛ばしたが、モニターを通じてロケット弾が目標を外すを落胆しながら見ていた」と言及、現在はHIMARSを使用する前に目標近くの妨害装置をドローンで破壊しなければならず運用自体が複雑になっている”

“JDAMも妨害技術に対する耐性がなく実戦投入から数週間後には命中率が低下、ウクライナ軍からフィードバックを受けた国防総省とボーイングは3ヶ月後に改良したシステムを供給し始め、改善された命中率は60%以上になった。GBU-39は戦場で妨害技術に耐性があると証明され、戦場で使用されたGBU-39の90%が目標に命中したが、GBU-39の地上発射型(GLSDB)は空中投下型と比べて効果がないと判明した”

出典:Zelenskiy/Official

“英国が提供したStorm Shadowは慣性航法誘導や地形プロファイルマッチングなども備えているため妨害の影響を受けにくいものの、ロシア軍はStorm Shadowの迎撃で一定の成功を収めている。ATACMSも戦場で成功を収めているが、ウクライナ当局者は「今効果を発揮している兵器も1年以内に効果が減少するだろう」と、別の当局者も「ロシアは今効果を発揮している兵器との戦いを学ぶはずで、これが軍拡競争の仕組みだ」と述べた”

Foreign Policy Research Instituteのロブ・リー氏もWashington Postの取材に「多くの兵器は投入直後に強力な効果を発揮したが、時間の経過と共に効果は失われていく。これは常に適応し、改善を試みる敵対者との絶え間ない駆け引きの一部で、妨害技術のようなロシアの防衛手段を克服するには防衛企業の関与が重要だ。問題なのは西側諸国の防衛企業にロシアの防衛企業と同じレベルの緊張感がない点だ」と指摘しており、当事者意識の有無が適応スピードの差に現れているのかもしれない。

出典:Photo by Lance Cpl. Nicholas Guevara

どちらにしても戦場環境、戦い方、対抗技術などは猛スピードで変化するため、ATACMSやStorm Shadowの有効性も時間が経過と共に低下していくことが予想される。

関連記事:米国防次官、ウクライナに送ったGLSDBは上手く機能しなかったと示唆
関連記事:米国、ウクライナに提供するJDAM-ERにGPS妨害の照射源攻撃能力を追加
関連記事:戦争は適応の芸術、米国製ドローンがウクライナで存在感を失った理由

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by John Hamilton

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コメント

    • ポレ
    • 2024年 5月 25日

    電波妨害の分野、ロシアは結構得意なので
    あっという間に対策してきましたね
    以前ニュースでモスクワのタクシー運転手が
    時々ナビが使えないと言ってたので
    ドローン対策もやってるのでしょうな

    ちなみにウクライナは民間のセスナを装った
    自爆ドローン飛ばしてるらしいけど
    戦時国際法違反にならんのかね

    59
    • 2024年 5月 25日

    ロシア相手でこれだと中国と戦って技術的優位に立てるのかな?

    38
    • うくらいだ
    • 2024年 5月 25日

    日本も金がかかるミサイル防衛よりロシアのような電子による妨害装置に舵を切るべきだな

    27
      • マトポック
      • 2024年 5月 25日

      核ミサイルの場合、目標を外しても日本領域内に落ちると困るので引き続き迎撃能力向上に予算を割く必要があると思われます。

      22
      • かず
      • 2024年 5月 25日

      弾道弾って基本は放り投げた石ころみたいな物ですから電子妨害なんぞ効かないと思いますよ

      20
    • 名無し
    • 2024年 5月 25日

    戦争中はほんとこれ
    ゼロ戦も格闘戦最強でミッドウェイでも残された一隻だけでも互角以上に戦えたのに
    一撃離脱F6Fで機銃6で範囲攻撃、VT信管輪形陣でほぼ的に
    平時では50年とか使ってるのに数年で陳腐化だもん

    米ロの使ってるミサイルや対空兵器もこの戦争終わった頃には攻略法が確立され簡単に破壊されそう

    1
    • NHG
    • 2024年 5月 25日

    >“HIMARSは前線よりも後方に位置する敵司令部や弾薬庫の攻撃に成功して称賛されたが、ロシア軍がGPS信号を無力化すると完全に効果を失った。そのためウクライナ軍は高価なHIMARSの弾薬を優先順位の低い目標への攻撃に使用するようになった。

    反攻作戦開始直前か直後ぐらいに一野砲にATACMSを使う映像が出回って疑問を呈されてたけど、これが原因か
    最近はクリミアのS-300かS-400が破壊したみたいだけど、今まで射程外だったから対策怠ってたとのかな?
    最新の対策バージョンの可能性もあるけどどっちだろう

    12
      • チョコ
      • 2024年 5月 25日

      クリミアのは飽和攻撃の結果じゃないかな?

      8
        • NHG
        • 2024年 5月 25日

        希少なATACMSで飽和攻撃??と思ってたら、答えっぽいリポストあったから転載(記事の内容と少し齟齬があるから米側の対策も結構してそう)

        [粗製]@Sogekisyu01·3時間
        ATACMSが有効なのは、そもそも弾道ミサイルなので、終末時以外はGPS妨害の影響を受けにくく、GPSが多少妨害されようが、慣性航法とクラスター弾で対象に十分効果的な誘導が出来るからではないかな?と思う

        21
    • 分析
    • 2024年 5月 25日

    誘導兵器に対する電子妨害なんてずっと以前から言われていた事で、GPS妨害なんかも当然想定される事案なので、米軍は解決策を持っていると思っていましたが…
    もしかしたらウクライナに供与する誘導兵器はそのシステムを切っていて、アメリカ軍主力が使うまで対策されないようとっておきにしているのかもですが

    8
      • 無名
      • 2024年 5月 25日

      ここ数十年アメリカが戦った相手は圧倒的な格下ばかりだったので、今までは問題にならなかっただけでしょう。

      49
        •   
        • 2024年 5月 25日

         ロシアや中国はGPSあるのにloarn残したけど。西側はgpsがあるからと破棄したからな。
         LORANは出力という脳筋で妨害を防いでいるけど、相手に対する尊重、慎重さが違うな。

        10
          • イーロンマスク
          • 2024年 5月 25日

          eLORANだと誤差8mなのでまあまあ使えそうだな
          まあロシア相手だとクソデカ出力のジャマー作ってきそうだけどw

          6
      • F-117A
      • 2024年 5月 25日

      GPSのMコードが対策なのかも?

      「“JDAMも妨害技術に対する耐性がなく実戦投入から数週間後には命中率が低下、ウクライナ軍からフィードバックを受けた国防総省とボーイングは3ヶ月後に改良したシステムを供給し始め、改善された命中率は60%以上になった。」はYコードのJDAMなんだろうか。

      8
    • たむごん
    • 2024年 5月 25日

    戦争当事国・戦争当事国でない国、この違いは大きそうですね。
    防衛企業に、開発予算・設備投資を、割り当てているのか気になります。

    ウクライナ戦後を見据えれば、ロシアが対応した技術は、当然のように中国・イランなどに流れると考えるべきなのでしょう。
    西側諸国の抑止力、今までのような効果が、発揮されにくくなることを懸念しています。

    >問題なのは西側諸国の防衛企業にロシアの防衛企業と同じレベルの緊張感がない点だ」と指摘しており、当事者意識の有無が適応スピードの差に現れているのかもしれない。

    31
    • 名無しのゴン太郎
    • 2024年 5月 25日

    猛威を揮ってるロシアの誘導滑空爆弾も、同様の電子対抗が可能な筈なのに、西側の協力が薄いから対抗できないって事かな。
    何にせよ、旧式含むとはいえ西側兵器が短時間で対策された訳で、その対応内容は、全部中国へ筒抜けと考えるべき。
    台湾有事では西側兵器が、初手から無効化されてる可能性すらあるんじゃないかなぁ。

    1
      • kitty
      • 2024年 5月 26日

      いや出し惜しみとかではなく素でロシアの電子戦能力に対抗できていないだけでは。
      冷戦終結後にサボりすぎていたのでしょう。

      1
    • 正論
    • 2024年 5月 25日

    西側陣営は冷戦が終わってからというもの
    明らかな格下相手の非対称戦しか経験がない

    雑魚をノーリスクで叩くための
    お上品な武器ばかりで
    本物の戦争でメッキがハゲたと言う事でしょう

    58
    • さとし
    • 2024年 5月 25日

    ロシアはこの戦争で勿論戦力を多く削られましたが、それ以上に全面戦争を行わずに最新の西側兵器への対処法を編み出してしまいました
    これはNATOの目論見が外れ、結果的なロシアの脅威度を引き上げてしまったのではないかと思います

    49
      • 通りがかりさん
      • 2024年 5月 25日

      なので送る兵器の選別していたのですが、現状はコンコルドしてるように見えるわ。

      5
    • ras
    • 2024年 5月 25日

    もちろん最先端技術を出し切っているわけではないですが、このウクライナでの代理戦争で対策を確立されていくのなら中国やその他の将来の衝突を見越した時に不利になってしまう。
    結局全面戦争でもない中ではなりふり構わず支援するわけにもいかず、ウクライナ側は生産力も能力も限られた兵器を扱うことになるのですよね。

    それにしても海の方のドローン対策はロシア側も遅れに遅れておりましたが最近の戦果はあるのでしょうか? 港に張り付けてるのかもしれませんが、それでもある程度の対策は確立できたのですかね。

    4
      •  
      • 2024年 5月 25日

      最先端なんていらないんですよ
      必要なのは実証された、確実な、安定動作する、枯れた技術の、適応力の高い、数が揃えられるシステムなんです

      26
        • ras
        • 2024年 5月 25日

        いやまあそうなのですが、それを疎かにして最先端という名の高価な生産ラインを作ってきて足りなくなってるのですよね…
        しかもそれはウクライナ内でもあり、既存ラインの複製じゃなくて新たにレオパルド工場とか現場が求めているものを反映できず高性能思想が抜けていないのが問題で…

        5
      • 通りがかりさん
      • 2024年 5月 25日

      海は方は、実のところ現状の水上艦を近海から駆逐する可能性すらあります。大型艦は一層、居場所をなくすでしょうね。かつての自爆ボートでも傾向は出ていましたが。
      なので各国は攻撃ドローンの開発は当然としてドローン艦まで作っていたりするわけですね。恐らくは無人航空機と同じような運用になるかと。
      話を戻すと、技術的な問題もさることながら莫大な費用も時間もかかる艦船への対策装備は当分無しとしてネットで大事に守ったままだと思います。

      5
    • あるまじろ
    • 2024年 5月 25日

    当然の話として、活躍しているロシア兵器も活躍しなくなる場合があるんだろう。
    ぱっと思いつくところだと攻撃ヘリとか。

    8
      • F-117A
      • 2024年 5月 25日

      ウクライナ戦争でヘリは活躍してない印象

      4
    • 通りすがり
    • 2024年 5月 25日

    妨害環境下では最大50フィートも目標から外れることがあり
    って50フィート=15メートルで多連装ロケットが手榴弾の殺傷範囲内に着弾するなら当たりと言って良いと思うんですが

    16
    • たら
    • 2024年 5月 25日

    技術者としては新しい手段を考える機会が生まれて楽しいですね。

    1
    • DEEPBLUE
    • 2024年 5月 26日

    対テロとかいうお上品で高いだけの兵器より、程々の値段で数を揃えられるようにするパラダイムシフトが必要なのでしょうね。

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