米国関連

海上での無人機迎撃、米海軍が駆逐艦にCoyoteとRoadrunnerを導入

米海軍は低コストの空中目標=フーシ派が使用する無人機や安価なミサイルの迎撃コストや高価な迎撃ミサイルの消耗に頭を悩ませており、Military.comは27日「今夏に展開予定の空母打撃群にCoyoteとRoadrunnerを配備する」と報じ、このシステムは空母打撃群に加わる駆逐艦に搭載されるらしい。

参考:Roadrunner and Coyote: Navy Set to Deploy Land-Based Anti-Drone Systems at Sea

Roadrunner-Mに至っては交戦で消耗しない限り再使用が可能なため、陸上と比べて補給手段が限られる海上での運用に適しているのだろう

RTXは国立海洋大気庁がWP-3Dを使用して実施しているハリケーン追跡調査向けに小型無人機=Coyoteを開発、これを偵察・監視用途に米空軍と米陸軍も導入したが、RTXはCoyoteをベースに対無人機迎撃弾=Coyote Block2とCoyote Block3(Block2とは別物で非運動エフェクターを搭載して無人機のスウォーム攻撃迎撃に対応)を開発、米陸軍は2023年12月「2029年度までにCoyote Block2とCoyote Block3を計6,700発調達する」と発表していたが、Andurilも2024年10月「国防総省とRoadrunner-M供給に関する契約を締結した」と発表した。

出典:RTX Coyote Block2

Andurilが開発したRoadrunnerはジェットエンジンで駆動し、モジュール式ペイロードを交換することで様々なミッションに対応できる無人のVTOL機だが、この設計を流用したRoadrunner-Mは「再利用可能な徘徊型迎撃弾(管理人独自の解釈)」と呼ぶべき存在で、攻撃を受ける兆候があると判断された時点で発射され空中を徘徊、実際に脅威が接近してくれば迎撃に向かい、交戦しなければ自律的に帰還して再使用が可能なため、根本的に従来の迎撃弾とは運用方法の概念が異なる。

Andurilは「米軍に高度な防空能力を提供するため国防総省から2.5億ドルの契約を受注した。この契約は無人機攻撃の脅威に対処するためのもので、2025年末までに500機以上のRoadrunner-Mと追加のPulsar(新たな脅威に対応するため迅速な再プログラム可能な電子妨害装置)が納品される」と発表していたが、Military.comは27日「今夏に展開予定の空母打撃群にCoyoteとRoadrunnerを配備する」「どちらのシステムも無人機に対抗するため特別に設計されたものだ」「元々陸上での使用を目的に開発されたものだが海軍は海上でテストし有効性を確認した」と報じ、空母打撃群に加わる駆逐艦に搭載されるらしい。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class William McCann/Released

デル・トロ海軍長官は上院の公聴会で昨年4月「紅海での作戦やイスラエルをイランの攻撃から守るため10億ドル=約1,500億円近い軍需品(SM-2、SM-6、SM-3など)を消耗した」と述べ、米海軍のマクレーン中将も1月「約15ヶ月間の作戦でMk.45の5インチ砲弾を160発、SM-2を120発、SM-6を80発、ESSMとSM-3を合わせて20発使用した」「リスクが低い脅威にはMk.45、電子戦システム、固定翼機や回転翼機で対処した」と明かした。

マクレーン中将は迎撃弾の消耗について「許容範囲内」「艦艇の指揮官らは迎撃弾のコストに心配する必要はない」と述べたが、新たに浮上した問題は「Mk.41VLSへの再装填時間=戦力の空白」で、空になったVLSにミサイルを再装填するのは港に戻る必要があり、デル・トロ海軍長官は「(将来起こりうる西太平洋での作戦を念頭に)駆逐艦やフリゲート艦のVLSに2週間もかけてミサイルを再装填する余裕はない。海上でVLSにミサイルを再装填する技術=Transferrable Reload At-sea Methodの開発継続が重要で、これさえあれば前方海域から港に戻って来る必要がなくなり、前方展開を維持する能力が大幅に向上する」と言及。

出典:U.S. Navy photo by Eric Osborne

この能力はタイコンデロガ級巡洋艦など一部艦艇に採用されていたが、冷戦終結後「作業に危険を伴う実用性の低い技術」という理由で忘れ去られてしまったものの、中国の脅威が高まったため「海上での再装填時間技術(コンテナに収められたミサイルを燃料・物資と同じように海上補給する技術+艦艇側のクレームを使用して空になったコンテナと交換する技術)を再取得する必要」が生じ、2010年代から研究とテストを繰り返し、昨年10月に航行中の補給艦とタイコンデロガ級巡洋艦の間でコンテナを移送するテストが成功している。

デル・トロ海軍長官は「2年~3年以内にTRAMを実践配備する」と述べているが、高価な空中目標を迎撃するため開発されたSM-2、SM-6、SM-3を「安価な空中目標」の迎撃に使用すれば補充が追いつかなくなるため、量が確保できる低コストの迎撃手段が求められていたが、どうやら海軍は陸軍が調達を始めたCoyoteとRoadrunnerに目をつけたらしい。

恐らく海軍はVLSや固定式ランチャーではなく駆逐艦艦尾のヘリコプター甲板でCoyoteとRoadrunnerを運用する可能性が高く、迎撃機本体も小型なので再装填も容易で、Roadrunner-Mに至っては交戦で消耗しない限り再使用が可能なため、陸上と比べて補給手段が限られる海上での運用に適しているのだろう。

関連記事:米海軍、駆逐艦のVLSに2週間もかけてミサイルを再装填する余裕はない
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※アイキャッチ画像の出典:Anduril

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コメント

  • コメント (20)

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    • あああ
    • 2025年 3月 29日

    こんな話よりウクライナの話題をプーリズ

    1
      • いいい
      • 2025年 3月 30日

      ウクライナなんかよりこんな話をもっと欲しい

      16
    • ニーモーター
    • 2025年 3月 29日

    ドローンは確かに被撃墜率は高いでしょうが相手のお財布と迎撃弾在庫に痛撃を与えてますから、コストで比較したら敗北ですね。
    やっぱり機関砲の時代復活か……

    22
      • 他人事では無い
      • 2025年 3月 29日

      そうですね。

      1
      • ネコ歩き
      • 2025年 3月 29日

      本命は高速対艦ミサイル対処も可能な高出力レーザーでしょう。
      システムとしてまだまだ大掛かりで搭載艦が限られるのが現状で、広く搭載されるのはある程度先の話になります。
      CoyoteやRoadrunnerは対処法改善の過渡的手段てところでは。

      12
        • T.T
        • 2025年 3月 29日

        HELIOSがそろそろ大量配備開始してくれないかな。

        2
        • のー
        • 2025年 3月 29日

        レーザーって悪天候時、特に霧の日には使え無さそうですが、実際のところどうなんでしょうね?

        6
      • nimo
      • 2025年 3月 30日

      小型の無人機に機関砲や擲弾発射機を搭載して迎撃してほしい

      1
    • メロン
    • 2025年 3月 29日

    生産能力が中露に劣り始めたと自覚した以上、高価な弾を使い捨てなんてやってる余裕ないよなぁ……
    しかも海上じゃ中国海軍相手に数的優勢を取れない可能性も高くなってるから、再利用の方向は大いにアリかと
    立場が逆転しそうになっても、こういう対応策を取って来れるアメリカは流石だなぁ

    11
      •      
      • 2025年 3月 29日

       再利用が安いのか、使い捨てが安いのかは微妙な問題。

      >RTXは国立海洋大気庁がWP-3Dを使用して実施しているハリケーン追跡調査向けに小型無人機=Coyoteを開発、これを偵察・監視用途に米空軍と米陸軍も導入した
       偵察、監視用なら良いけど。迎撃用に再利用は過大になりそうな気がするな。

      12
    • HSST-8
    • 2025年 3月 29日

    コヨーテとロードランナー……ミッミッ!

    18
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2025年 3月 29日

      それだとCoyoteが失敗しまくるじゃないですかー!!ヤダー!?

      13
        •     
        • 2025年 3月 29日

        この名前は確信犯だよね。たぶん。偶然?

        3
      • ブルーピーコック
      • 2025年 3月 29日

      落下するコヨーテと落ちてくるカナトコによる二段構え・・・!

      8
    • 58式素人
    • 2025年 3月 29日

    どのくらいの射程を想定しているか判りませんが。
    APKWSを航空機用のポッドに入れて運用したら?、と思ったりします。
    海軍機用のLAU-61C/A(19発装填)があったと思います。
    これなら、塩害対策もある程度見込めるのでは?。
    APKWSであれば、それこそ、手動再装填も可能かな、と。
    最悪、ポッドごと交換すれば?、と思ったり。

    2
      • Panzer
      • 2025年 3月 29日

      流石にRoadrunnerなどは射程50〜100km以上はあるでしょうからAPKWSでは代替にならないでしょうが、BAEシステムズも積極的に開発しているAPKWSのドローン迎撃弾化は興味深いものであり、技術開発が進めば将来的には海でもSeaRAMの一部任務を代替する存在になりそう、と思っています。

      9
    • shiki
    • 2025年 3月 30日

    この帰還方法で揺れる洋上で艦艇に帰投できるのはすごいかも

    1
    • 七面鳥
    • 2025年 3月 31日

    素人質問ですみません。
    「こんごう」級あたりまでは、自前の再装填クレーンを持ってた(ので、発射可能セル数が少ない)と思ってましたが、
    ・あれは洋上で使うようなもんじゃない
    ・そもそも、アレを使う技術も、アレを造る技術も失伝した
    ということなんでしょうか?
    識者の方に解説いただければ幸甚です。

      • ネコ歩き
      • 2025年 4月 01日

      結論を言えばストライクダウンクレーンによる洋上再装填作業は危険度が高く実用性は低いものでした。幸い必要になる事態は発生しないまま冷戦が終結し、戦略がテロとの戦いにシフトし作戦上の艦隊防空強度が低下した結果、必須装備ではないと判断され廃止された経緯です。
      その後、インド・太平洋重視に戦略シフトし想定作戦強度も見直され、洋上再装填装置の必要性が再認識されているのでしょう。現用全てのM41VSLに適用でき、より安全かつ効率的なシステムを考案・試験している状況と思います。

      1
        • 七面鳥
        • 2025年 4月 01日

        ありがとうございます、スッキリと腑に落ちました!

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