米国関連

Boeing、米陸軍が廃止するAH-64Dに関心を示す国が現れると期待

米陸軍は「包括的な改革」の一貫としてAH-64D廃止を予定しているが、米国を含む大半の国では「ドローンの台頭で攻撃ヘリが終焉する」と考えておらず、徘徊型弾薬を統合した攻撃ヘリの需要は高まるばかりで、Boeingも「廃止されるAH-64Dに関心を示す国が現れるだろう」と述べた。

参考:Boeing May Shop U.S. Army’s AH-64D For Foreign Sales

廃止されるAH-64Dに「関心をもつ国が現れる」というBoeingの見込みは現実的な期待と言えるだろう

米陸軍参謀総長のジョージ大将は「従来の調達計画を根本的に覆す大改革が進められている」と述べていたため防衛産業界はパニックに陥っていたが、ヘグセス国防長官が本当に「包括的な改革」を陸軍長官に命じ、ハンヴィー、JLTV、M10 Booker、ストライカーの調達中止、AMPVの調達削減、AH-64DとGray Eagleなどの旧式機材廃止、無人戦闘車輌=RCV計画の中止、新型自走砲を巡る競争の一時停止、新型ヘリ用エンジン=T901開発中止、RQ-7Bの後継機調達計画=FTUASへの投資中などが発表されている。

出典:US Army Photo by Joseph Cooper

ドリスコル陸軍長官は「改革に適応出来ず主要企業が防衛分野から撤退しても構わない」「トランプ政権は改革のための痛みを容認している」「変化を始めなければ死が待っている」と、ミンガス副参謀長も「もし何もしなければより大きな痛みが生じ、近代化が遅れれば遅れるほど費用がかさみ混乱も大きくなる。これ以上待つ余裕はない」と述べ、陸軍からAH-64Dのアップグレード受注(約90機分)が絶望的になったBoeingも「我々は陸軍の決定を支援する」「廃止されるAH-64Dを取得してAH-64E V6バージョンにアップグレードを行うことに関心を示す国が現れるだろう」と述べた。

米陸軍のAH-64D廃止は「攻撃ヘリの終焉」と勘違いされがちだが、AH-64Eにアップグレードされた約700機の廃止は予定されておらず、最新のV6バージョンは無人機とのチーミング能力が強化されており、センサーとシューターを分離する戦術のコアとして機能するため、英国、オランダ、エジプトも保有するAH-64をV6バージョンにアップグレード中だ。

出典:Arquimea

さらにオーストラリア、モロッコ、ポーランドもV6バージョンの新規取得を進めており、欧州や韓国でも既存のヘリに無人機とのチーミング能力や徘徊型弾薬を統合する動きが活発化しており、最も最近の動きだとAirbusのスペイン法人とArquimeaが14日「NH90にArquimea製徘徊型弾薬=Q-SLAM-40(滞空時間25分/到達範囲15km~20km)を統合することで合意した」「ヘリコプターとドローンの統合は将来のスペイン軍にとって必要不可欠だ」「徘徊型弾薬を戦術ヘリに統合することはネットワーク化された戦闘概念において大きな進歩だ」と発表している。

ドローン戦争の当事国=ロシアからも「攻撃ヘリの終焉」という主張は登場しておらず、イタリアとトルコではAH-64に匹敵する新しい重攻撃ヘリの開発が進められており、インドでもAH-64Eを補完する国産攻撃ヘリ=Prachandの量産(156機を正式発注)が開始され、イスラエルのAH-64は独自のアップグレードを経てAH-64Eと異なる方向に進化を遂げ、ギリシャはドローン刈りに投入されているイスラエルの攻撃ヘリ運用に関心があるらしい。

出典:陸上自衛隊

日本ではAH-64DやAH-1SをUCAVで更新するため「攻撃ヘリの終焉」と感じているかもしれないが、海外における攻撃ヘリの位置づけは「ドローンを統合することでより高い柔軟性、生存性、有効性を獲得し、将来の陸上戦闘をリードしていく存在」と定義されているため、廃止されるAH-64Dに「関心をもつ国が現れる」というBoeingの見込みも現実的な期待と言えるだろう。

因みにポーランドがV6バージョンを96機も新規発注したためBoeingの生産ラインは2031年までの仕事量を確保、米陸軍と共同で最新バージョン=V6.5も開発中で、航空ポートフォリオの方向性としてLaunched Effects=発射効果を設定し、AH-64やMH-60といったヘリコプターへの長距離攻撃能力付与に取り組んでいる。

出典:U.S. Navy

米陸軍よりも先に大規模な部隊再編計画=Force Design 2030を発表したも米海兵隊もAH-1Zへの長距離攻撃能力付与に取り組んでいる最中で、Red Wolfと呼ばれる未知のLaunched Effectsは「3桁前半の射程(278kmという具体的な数値も登場している)と2桁程度の飛行時間を備えている」「水平線の下に隠れる敵への攻撃能力付与」と言われており、恐らくRed Wolfは従来型対戦車ミサイルの長射程バージョンではなく亜音速で飛行する徘徊型弾薬だろう。

関連記事:米陸軍副参謀長、いま改革を実行しなければ痛みはもっと大きくなる
関連記事:関連記事:米陸軍の改革に救済なし、適応できない主要企業が撤退しても構わない
関連記事:米空軍がKC-46A納入再開を発表、米陸軍は請負企業から修理権を奪還
関連記事:米陸軍がUGV開発を中止、AMPVも調達削減、ストライカーも調達停止
関連記事:M10 Bookerが調達中止になる要因、重量増に加え拡張性がないモンスター
関連記事:米国防長官が陸軍に改革を指示、ハンヴィー、JLTV、M10の調達を中止
関連記事:新型攻撃ヘリがまもなく登場、LeonardoがAW249をEurosatoryで披露
関連記事:米国務省がポーランドへのAH-64E売却を承認、120億ドルで96機
関連記事:トルコにウクライナ製エンジンが到着、重攻撃ヘリ「ATAK2」が今月中に試験を開始
関連記事:トルコ、AH-64Eクラスの国産重攻撃ヘリ「ATAK2」にウクライナ製エンジンを採用
関連記事:センサーとシューターの分離が進む中国、UAVによるミサイル誘導に成功
関連記事:イスラエルと韓国が徘徊型UAVシステムを共同開発、韓国軍に有人無人チーミングを提供

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Sgt. Vincent Levelev

Shahedを使用した攻撃方法の巧妙化、一部の機体は光に反応する前のページ

オーストラリアも欧州再軍備計画に参加できる可能性、米国のみ除外か次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米陸軍のブラッドレー後継車輌、GD案とラインメタル案で競争試作

    米陸軍のブラッドレー後継プログラムには5チームが参加しており、予備設計…

  2. 米国関連

    ウクライナがクルスクで得たものは東部戦線で失ったものを上回る?

    Washington Postの取材に応じたウクライナ軍兵士は「まだポ…

  3. 米国関連

    APSを搭載した新しいブラッドレー、米陸軍がM2A4E1を公開

    陸上戦闘システムの開発責任者を務めるグレン・ディーン少将は3月末「ブラ…

  4. 米国関連

    F-35Aを悩ませてきたGAU-22/A、遂に25mm機関砲が効果的になる

    F-35AはGAU-22/A(25mm機関砲)の問題に長年悩まされ続け…

  5. 米国関連

    兵士にとっては地獄?米海軍、早期警戒機「E-2D」に空中給油用プローブを装着

    米海軍は、空中給油が受けられるよう燃料補充用のプローブを装着した、最初…

  6. 米国関連

    米陸軍がトマホークを取得、MK.41を流用したロングレンジウェポンの実用化

    米海軍は巡航ミサイル「トマホーク BlockV」を154発調達するため…

コメント

  • コメント (20)

  • トラックバックは利用できません。

    • ドゥ素人
    • 2025年 5月 19日

    日本は攻撃ヘリを全廃しますが、無人機のチーミングなら攻撃ヘリでなくても輸送ヘリ(武装ヘリ?)でもいい気がしますが、どうなんでしょうか?

    戦闘機のステルス性と同様に、乗員の生存性を少しでも上げるために細身ので機動性の高い攻撃ヘリの方が良いと言うこと?

    日本はヘリを使った無人機の管制はやらないんでしょうか…
    山間部+海岸線の多い日本は向いてない…てことはないと思うんですが

    5
      • ななし
      • 2025年 5月 19日

      UH-1系列は航続距離短めだし、UH-60は後部の積載スペースがかなり無駄になるけど、具体的に何を改造するので?
      ならアンテナ等の搭載や長時間向きの設計されてるAHにやってもらったほうがいいかなって…

      1
      • 匿名希望係
      • 2025年 5月 19日

      ありものだと結局ah-64eになりそうな予感

      1
    • サラダ
    • 2025年 5月 19日

    ヘリを使った無人機の管制はやらないのかと言う質問ですが、空自の次期戦闘機で無人機とのチーミングが予定されているからたぶんヘリでも検討はされていたかもしれませんが人員不足の理由から結局無人機1本で行こうになったんじゃ無いですかね。

    3
    • ののの
    • 2025年 5月 19日

    日本もAH-64Dの調達で大失敗しなければAHを維持していたのになぁと思ってしまう。ドローンの登場で費用対効果が云々なんてものは全部後付けでしょうね。装備調達行政の尻拭いに荒業使っただけのこと。

    後継機の調達はさっぱり進まず、そもそもヘリがティルトローターに置き換わる過渡期かもしれないので買ったところで時代遅れになる可能性もあり、そもそもミサイル防衛に予算取られまくって高額なAHは買えないし、そうこうしてるうちに旧式のコブラは老朽化でどんどん退役して戦わずして部隊壊滅、みたいな悲惨極まりない現状だったので、ウクライナ侵攻でのAHの苦戦やドローンの活躍を渡りに船とばかりに「いっそのこと廃止しよう」と全部無くしたにすぎない。

    仮にあそこで調達上手くやって、例えばAH-64Eへの速やかな更新が出来るようになったとか、そもそもAH-1Zを後継機に指定してたとか、あるいはOH-1のエンジン不具合や談合事件が発生しなくて国産攻撃ヘリをちゃんと生産できていたとか、そういうIFを辿ってればウクライナの戦争を経ても普通に陸自はAHを維持していたと思う、

    10
      • あまつ
      • 2025年 5月 19日

      陸自の攻撃ヘリ運用は北海道に上陸された場合を主に想定していたが南西方面での島嶼戦想定で運用環境が変わってしまい、遮蔽物の無い洋上ではヘリは会敵する前に落とされてしまうだろうというのが廃止の理由でしょ。
      その結果が一気に進んだ巡行ミサイルの取得とその長射程化による敵防空圏外からの攻撃方針。
      せっかく長年運用してきたのにもったいない、と感じるのは当然ですが我が国の運用想定では正直使い処が無い以上は仕方ない決定でしょう。

      6
    • たむごん
    • 2025年 5月 19日

    ロシア軍ウクライナ戦争でも、ウクライナ南部攻勢の防御・最近ではベルゴロド方面の防衛に、攻撃ヘリが活躍しているというのを見かけました。

    結局のところ、諸兵科の組み合わせのなかで役割があるわけで、攻撃ヘリの兵器搭載能力・柔軟性をどのように生かしていくのかを注目したいですね。

    1
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2025年 5月 19日

      ヘリが必要とされる局面はまだあるとは思いますが、低空においての空からの遠距離攻撃という観点ではドローンがかなりヘリの居場所を奪ってしまっているのも事実だと思います
      費用対効果、訓練時間の長さ、整備拠点を必要とする事などの運用上の問題点から、攻撃ヘリそのものは縮小していくのは避けられないかと思います

      5
        • たむごん
        • 2025年 5月 19日

        たしかに仰る通りですね。

        アパッチ1機100億円以上なんてのを見ると、あまりにも価格高騰しているのを感じます…

          • 航空万能論GF管理人
          • 2025年 5月 19日

          AH-64Eの調達単価は4,000万ドル後半~5,000万ドル前半ぐらいですよ。

          機体単価とスペアパーツ、武器、訓練、サポート、関連費用込みの調達コストでは意味が異なります。

    • NIVEA万能論
    • 2025年 5月 19日

    よし、日本は攻撃ヘリ廃止を廃止してこれ買おう()

      • 特盛
      • 2025年 5月 19日

      こんなバカ高いのではなくAH-1Zを…

      4
        • NIVEA万能論
        • 2025年 5月 19日

        確かにそれは激しく同意

        2
        • ido
        • 2025年 5月 19日

        個人的にはもうUH60を大量導入してESSS翼を付けて簡易的な攻撃ヘリにすれば良いんじゃ無いかなぁと思いますね。ヘルファイア、ハイドラ、ドアガン等なんでも付けれますし。付けれないのは30mmチェーンガンくらいだし(もしかして一番重要だったり)。今からAH1Zは維持が大変そう…。

        2
    • 猫二等兵
    • 2025年 5月 19日

    ドローンキャリアーとしてのヘリは確かにアリだなと
    型式もAHからDCH(ドローンキャリアヘリ)に変えればいいんじゃないかな

    2
    • KF-21
    • 2025年 5月 19日

    てっきりAH-64前期退役かと思っていたら対象がD型でE型は残るとの事。
    1ミリオタとしては少々安心。

    3
    • あばばばば
    • 2025年 5月 19日

    おそらく忘れ去られているだろうけど、陸自のAH-64D廃止は佐賀で起きたメインローターがすっぽ抜けて墜落した事件が大きな要因ではないだろうか。

    所であんまり関係ないけど、去年の契約にまだOH-1の機体定期修理と改修があるみたいだし、ちらほらと運用再開しているみたいだ。
    これは攻撃ヘリ・偵察ヘリの将来廃止(時期と期間までは指定してない)的な意味なのだろうか?

    3
    • 58式素人
    • 2025年 5月 19日

    どうなのでしょう。
    仮に、長射程のATGM(例:イスラエル製スパイクNLOS)や、
    ランセットUAVに狙われたら、生き残れるのかな。
    目立つだろうし、と勝手に想像します。
    回避運動中は、他のコントロールをするどころではないのでは?。
    敵の見通し線上から逃げるなら、遠く(50kmくらい?)へ行くか、
    小型化しないと、じゃないでしょうか、などと思います。
    遠くへ行くなら、中継が必要だろうし、どうなることでしょうか?。
    大きさでいうと、以前のどこかの記事にあったと憶えていますが、
    縦/横6フィート(≒1.8m)以下が良いとされていたような。

    • Authentic
    • 2025年 5月 19日

    どうなんだろうな
    撃墜映像とか見ると結構怖いけどね
    どうしても地上との距離が近い分撃たれてからの猶予がないから

    2
      • もん
      • 2025年 5月 19日

      被弾した時点で墜落は避けられない事態になっていることが多いから自分だったら地表に激突するまでの恐怖を感じる時間が少ない低空の方がいいな

  1. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  2. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  3. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  4. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  5. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
PAGE TOP