米国務省は21日「ポーランドへのAH-64E売却を承認した」と発表、最大120億ドルの契約内容にはAH-64E×96機、T700-GE-701D×210基、ヘルファイア×1,844発、JAGM×460発、スティンガー×508発、APKWS-II×7,650発などが含まれている。
参考:POLAND – AH-64E APACHE HELICOPTERS
参考:Die Bundeswehr sucht einen neuen Kampfhelikopter und wird beim ADAC fündig
ウクライナとロシアの戦争で攻撃ヘリの有効性を疑問視する声もあるが、攻撃ヘリに対する需要は旺盛
ポーランドのブラスザック国防相は昨年9月「Mi-24を更新するためAH-64Eの売却を米国に打診した」と発言、さらにポーランドと米国は5月「AH-64Eを手に入れるまで米国が8機のアパッチを提供することで合意した。数週間以内にポーランド人パイロットの訓練が開始され来年にポーランド東部へ配備される」と発表していたが、米国務省は21日「ポーランドにAH-64Eを売却する可能性を承認して議会に通知した」と発表した。
国務省が承認した最大120億ドルの契約内容にはAH-64E×96機、T700-GE-701D×210基、ヘルファイア×1,844発、JAGM×460発、スティンガー×508発、APKWS-II×7,650発などが含まれ、ボーイングが言及していた通り“Manned-Unmanned Teaming (MUMT) Unmanned Aerial System (UAS) Receiver”と“MUMT Air-Air-Ground kits”も含まれているため、ポーランドが調達するAH-64EはMUM-T=有人・無人チーミングに対応したV6バージョンだ。
V5バージョンまでのAH-64Eは無人機(MQ-1CやRQ-7Bなど)から映像やデータを受信するだけだったが、L3HarrisのMUMT-Xを採用したV6バージョンは無人機のセンサーや飛行ルートを直接制御(通信範囲も30km~100kmまで拡張)できるようになり、V4バージョンから組み込みが始まったLink16、V6バージョンでデータ送受信機能が追加された統合戦術無線システムを統合することで、AH-64Eは戦場のネットーワーク化におけるハブと機能し、FACとしての能力も拡張され、統合部隊間の状況認識力や調整力の向上が期待されている。
さらに米陸軍はAH-64EやUH-60に徘徊型弾薬を統合するつもりで、昨年5月にオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、英国と共同で史上最大のドローンスウォーム演習(ネットワークのボトルネックを特定して複雑な意思決定のプロセスを検証するため同盟国が参加したらしい)を実施、約30機の異なるUAVのチーミングによる戦場認識力の拡張をテスト、ヘリ部隊、地上部隊、司令部がネットワークで結ばれ、UAVが収集した情報を元に作戦を実行したらしい。
シンプルに言えば有人ヘリがリスクの高い空域外で複数のUAVを発射、このUAVはリスクの高い空域に侵入して視覚的な戦場情報を収集、これをヘリ部隊、地上部隊、司令部がリアルタイムに共有して最適な行動を選択=目標に最も効果的なシューターを選択することで「戦闘効率を向上させる」という内容で、AH-64Eは有人・無人チーミングのコアとなると期待されているのだが、米国の研究機関(MITRE)は「攻撃ヘリの無人化に要求される自律性の獲得レベルは2030年~2040年まで大きな変化はなく、戦場で発生する『複雑で高度な問題』を瞬時に対処するにはパイロットを攻撃ヘリに乗せる必要がある」という技術分析を発表。
MITREは「認識力を拡張するため無人機を使用することはあっても、戦場認識のコア=攻撃ヘリが担っている高度な作業、繊細さ、反応速度などをAIで代替するのは当面不可能で兵士は最良のセンサーで有り続ける」と主張しており、戦闘機分野でも無人戦闘機を制御するコアとして有人機が予定されているのと同じ趣旨なのだろう。
V6バージョンへのアップグレードは米軍だけでなく英軍やオランダ軍でも始まっており、人民解放軍も同様のコンセプトを攻撃ヘリに採用済みでセンサーのシューターの分離を演習で披露、イスラエルと韓国は同様のコンセプトを実現させる研究・開発を進めている最中で、ウクライナとロシアの戦争で攻撃ヘリの有効性を疑問視する声もあるが、オーストラリアとポーランドはAH-64Eを、チェコとスロバキアをAH-1Zの調達を決定、AH-64運用国はV6バージョンへのアップグレード、無人機開発を主導するトルコもAH-64に匹敵するATAK2の開発を進めており、今のところ攻撃ヘリの役割を無人機で更新すると打ち出したのは日本だけだ。
ドイツ国防省はティーガー(PAH-2)の後継機に対戦車ミサイルを統合したH145Mの採用を検討しているが、軍のパイロット達はピストリウス国防相に宛てた手紙の中で「H145Mは使い物にならないので購入しないで欲しい(ニジェールでの作戦で能力不足が露呈した本機の採用は仕事を失うエアバスの救済策だと批判されている)」と訴え、手頃なコストで軍のニーズを完全に満たすAH-1Z導入を押す声が登場、ベルもドイツ政府に対して「AH-1Zを導入するなら生産ラインを米国からドイツに移転する」と提案したらしい。
AH-1Zの調達単価は3,000万ユーロから4,000万ユーロの間で、ベルの提案に乗れば「軍のニーズ」と「産業界のニーズ」の両方を満たせるため軍と政治家が飛びつく可能性もあるが、現地メディアは「今回調達する有人攻撃ヘリは一時しのぎに過ぎず、軍上層部は将来的な代替手段として徘徊型弾薬(ドイツ、ハンガリー、イスラエルはUvision製徘徊型弾薬を共同生産することで最近合意)に期待している」と報じている。
ドイツ軍が最終的に攻撃ヘリを徘徊型弾薬で置き換えるのか、有人の回転翼機と徘徊型弾薬の組み合わせで置き換えるのかは不明だが、少なくともドイツは「機甲部隊に対する低空域からの火力支援のため48機分の攻撃ヘリを提供する」とNATOに約束(8年以内)してるため、ティーガーの後継機を今後数十年は手放さないだろう。
日本には独自の要求要件や事情があるため世界のトレンドに合わせる必要はないものの、まともなUCAVの運用経験がない状態で「攻撃ヘリを無人機(UCAV)で更新できる」と判断した経緯だけは気になるところだ。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Spc. Joshua Zayas
ポーランドは、防衛力の増強を進めていますが、アメリカも積極的に援助していますね。
対ロシアの最前線になっていますが、ウクライナ支援にも積極的で頼もしく感じます。
NATO発足当初は、西ドイツとポーランドを戦場とする計画だっため、フランスが要になっていました。
加盟国が東に拡大・安保環境も変化しており、ポーランドの本気度・切迫度が伺えますね。
あくまで備えなんでしょうけど、ポーランドの急速かつなりふり構わない防衛力強化を見ているとウクライナの敗北を既定路線として米・ポーランドは見ているのかなと思ってしまいます
ポーランドはユーロ加盟国だけど通貨は独自通貨のズウォティ(ズロチ)なので国債を発行してるのかも
これまでロシアに痛い目にあわされてきたのでウクライナを見て明日は我が身だと国民も理解していると思う
国債発行してもそれは償還せねばなりませんので。
基本的には国内への強いインフレ圧力となりますから、ただでさえウクライナ難民受け入れで物不足に陥ってる国内経済状況をさらに悪化させることになりますね。
対ロシアにコスパが良いとは決して言えないアパッチを1兆円以上で買う、というのはちょっと常軌を逸している感がありますね。他に買うべきものがたくさんあるように見えますが。
>まともなUCAVの運用経験がない状態で「攻撃ヘリを無人機(UCAV)で更新できる」と判断した経緯だけは気になるところだ。
AH-Xが頓挫したから無人機への移行を決めただけだったりして…。
UH-60にも徘徊型弾薬が統合されるなら自衛隊もUH-60の増強と改修はやったほうがいいとは思います。
もともとAH-Xで三菱が提案してましたしね。
ある豪華客船が航海の最中に沈みだした。船長は乗客たちに速やかに船から脱出して海に飛び込むように、指示しなければならなかった。船長はそれぞれの外国人乗客にこう言った。
アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」
イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士です」
ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則となっています」
イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」
フランス人には「飛び込まないでください」
日本人には「みんな飛び込んでますよ」
この件は日本らしくないなと思いつつもコブラの陳腐化とアパッチの件で攻撃ヘリに金使うくらいなら無人機に使いたいんだと思ってる
戦闘機も無人機関連の操作負担が増えたら複座がまた返り咲くこともあるのだろうか?
J-20に複座型が出たってありましたね
無人機の指令機なるんじゃないかって言われてたような
日本の場合、そもそも貧乏で戦闘ヘリの配備数が泣けるほど少なかったので、UAV切り替えの意見が通ったのかと。
しかし、戦闘ヘリからUAVを複数射出して、それらを制御しつつ、自前の戦闘行動もするなんてのは、ニュータイプでもないと無理でしょうから、ガンナーはUAV操作中は攻撃できないとか、色々制約が付きそう。
いずれは攻撃機能のあるUAV同士を互いに潰し合う時代がくるかもしれませんね。
>ガンナーはUAV操作中は攻撃できないとか、色々制約が付きそう。
では3人乗りですかね。現在の運用空域よりやや後方に下がって攻撃ヘリではなく汎用ヘリで運用でしょうか
対空ミサイルに狙われたら攻撃ヘリでも汎用ヘリでも耐えられない。なら多くの人員と機器・武装を搭載できる汎用ヘリの方が使い勝手がいいかもしれませんね
固定翼機の方が向いている気もしますが空軍の管轄ですからね。陸軍は回転翼機の優位性を主張するでしょう。
ポーランド経済は堅調な成長を続けており、これからもそれが続くようであればこの防衛費でも問題ないだろう。
ただ、成長が鈍化すれば重しになることは間違いない。
外から兵器を買ってくる=国内経済に寄与しない形であれば尚更で、結構リスキーなことするなあと思う。
リストに載っている”APKWS-II”は何でしょう。
APKWSに比べて、進化しているのでしょうが。
射程とか誘導方法とか変わったのかな。
日本のコブラ、アパッチの後継になるUCAVは何になるんですかね
TB2なのか、リーパーなのか、リーパーの発展型のモハーヴェなのか…?
フィナンシャル・タイムズなどによると主に国債で、韓国からの爆買い分に関しては、その7割をカバーする12兆ウォンのローンを韓国輸出入銀行が提供し、さらに追加もあるかもしれないとのこと。ポーランドの債務GDP比は49%で西欧諸国と比べれば低めだが、昨今の金利変動や国債の売れ行きからすると支払いには不安が残るのでEUやNATOの支援が欲しいというのが元外相の談。
こんなの金の無駄遣いだね
何を見てそんなことを?
パレードで編隊飛行をさせるだけでも十分やる気を示せますぜ
攻撃ヘリは時代遅れで現代戦ではコストに全く見合わない無駄使い が日本の専門家の間では常識
既に世界は、攻撃ヘリの新しい運用方法に話が移っているんだと思いますよ。
その話題について行けていないのが日本の専門家。
攻撃ヘリが汎用ヘリに勝る点は、武器搭載量と装甲の厚さです。しかし対空火器の発達により多少の装甲では攻撃を防ぎきれなくなった(空飛ぶ物体は重量制限があるので装甲には限界がある)。敵の対空火器を避けるには敵の射程外から攻撃を行えばよいが、これは汎用ヘリにセンサーと武装を取り付ければ可能です。また汎用ヘリは平時には輸送任務に使えるため運用面で攻撃ヘリに勝ります。
重装甲による生存性の利点が失われた攻撃ヘリですが、武器搭載量は汎用ヘリより勝るので戦術爆撃機のような使い方はできると思います。但しネットワークを利用して汎用ヘリのセンサーで捉えた敵を地上発射型のミサイルで攻撃するといったことも将来可能になるかもしれないので、こうなると攻撃ヘリの優位性は更に失われます。
>>「攻撃ヘリを無人機(UCAV)で更新できる」と判断した経緯だけは気になるところだ。
チーミング管制のUH2軽攻撃型も整備するはずでUH2と無人機で編成でしょう。飛ぶだけで精一杯の骨董品コブラの代替ならぶっちゃけ何でもいい状態です。完全無人化は時期尚早というよりもコブラが飛べなくなる前に再編したいだけの話に思える。
今話題の無人機ならより多くの予算を取れるという程度の意味合いでしかない事を突き詰めても何も出てきやしません。既存のコブラ対戦車ヘリ隊がそもそも何の更新も無い機体で膝上端末でネットワーク戦闘してる風を装ってるだけな事を考えるとそら無理こいて急がんとあかんでしょ。