欧州関連

突然始まった武力衝突、アゼルバイジャン軍がアルメニア国境に向けて前進か

13日深夜に突然始まったアゼルバイジャン軍とアルメニア軍の衝突は現在も続いているが、双方とも「相手が先に挑発行為を行った」と主張して今のところ衝突が収まる気配がない。

参考:Armenian-Azerbaijani clashes: Armenian death toll reaches 49
参考:Armenian armed forces commit large-scale provocation in directions of Dashkasan, Kalbajar and Lachin

パシニャン首相はアゼルバイジャン軍の攻撃が民間施設や民間人を標的にしていると国際社会に訴えている

アルメニア側は「アゼルバイジャン軍が多連装ロケットシステム、大砲、UAVを使用してゴリス、ソトク、ジェルムクなど攻撃、幾つかの方向から国境に向けて前進を試みている」と主張しており、アルメニアのパピキヤン国防相とロシアのショイグ国防相は「状況を安定化させるための措置を講じることで合意した」と報じられている。

さらにアルメニア国防省は国境に向けて前進を試みるアゼルバイジャン軍部隊の様子も公開しており、パシニャン首相も「現時点で49人の民間人が死亡した。アゼルバイジャン軍の攻撃は民間施設や民間人を標的にしている」と国際社会に訴えた。

一方のアゼルバイジャン側は「12日夜にアルメニア軍が両国の国境に近いダシュカサン、カルバジャル、ラチンに侵入、アゼルバイジャン軍陣地に接続された道路に地雷を設置しようと試みたため緊急措置を講じた。過去1ヶ月間にアルメニアは相当量の兵力と装備を国境沿いに集中させており、これはアルメニアが大規模な軍事的挑発を準備していた証拠で、国境地域で実施している我々の大規模なインフラ整備を妨害して国境地域の緊張を維持することを狙っている」と主張。

ゴリス、ソトク、ジェルムクなどの民間施設に対する攻撃についてアゼルバイジャン国防省は「アルメニア側の偽旗作戦だ」と述べ、13日深夜に開始された攻撃は「侵入してきたアルメニア軍を阻止するためのものだ」という立場を崩していない。

どちらの主張が正しいのか不明だが現在も国境地域で衝突が続いており、これを抑止する存在のロシアはウクライナ侵攻で手一杯なため南コーカサスではロシアを後ろ盾にするアルメニアが影響力を落とし、トルコを後ろ盾にするアゼルバイジャンが存在感を高める可能性が高い。

関連記事:アゼルバイジャン軍がアルメニア領に激しい砲撃、両軍間で激しい衝突
関連記事:アゼルバイジャン軍がラチンを掌握、ナゴルノ・カラバフ地域への通行権を管理
関連記事:アゼルバイジャンは完全な非武装化を、アルメニアは非接触線への不可侵を要求
関連記事:アゼルバイジャン軍、TB2を使用してアルツァフ国防軍に報復攻撃を実施
関連記事:ナゴルノ・カラバフで軍事衝突、アルツァフ共和国側は軍事動員を宣言
関連記事:和平交渉を開始したアゼルバイジャンとアルメニア、再びナゴカラで戦闘
関連記事:アルメニアで数千人規模の抗議集会、ナゴルノ・カラバフを敵に売り渡すな
関連記事:ウクライナ侵攻失敗で低下したロシア軍のプレゼンス、きな臭いコーカサス

 

※アイキャッチ画像の出典:Moshe Schwartz

アゼルバイジャン軍がアルメニア領に激しい砲撃、両軍間で激しい衝突前のページ

アゼルバイジャンとアルメニアの停戦は40分でゴミ箱行き、現在も交戦中次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    フランス陸軍、米国や英国に続き徘徊型弾薬「Switchblade」を調達

    ユーロサトリ2022で取材に応じた仏陸軍のグジョン大佐は米国や英国に続…

  2. 欧州関連

    危機的なドイツ軍、砲兵装備も防空システムも艦艇もヘルメットもない

    ドイツ連邦軍の作戦準備に関する極秘報告書を入手したSüddeutsch…

  3. 欧州関連

    ドイツ、海軍の艦艇約100隻にロシア製ナビゲーションシステムを採用して問題化

    ドイツ海軍が運用中の艦艇約100隻にロシア企業が開発したナビゲーション…

  4. 欧州関連

    入手経路が謎、ウクライナ軍が青と黄の二色旗をまとったブラックホークを公開

    欧米諸国がウクライナに提供したヘリコプターは旧ソ連製が中心で「ブラック…

  5. 欧州関連

    無人航空機対策を優先するドイツ、次世代防空システムを止めて近接防空システムに投資

    ドイツ国防省は弾道ミサイル迎撃に対応した次世代防空システム「TLVS」…

  6. 欧州関連

    米国、他国が発注したパトリオットシステムをウクライナに回す予定

    Financial Timesは20日「米国政府はウクライナが十分な防…

コメント

    • 名前
    • 2022年 9月 13日

    ナゴルノカラバフならともかく、アルメニア本国に攻撃は露骨すぎて誰も支持できんでしょ
    そしてCSTOが何の役にも立ってねぇ
    なめられ過ぎでしょ

    50
    • zerotester
    • 2022年 9月 13日

    アルメニアはロシアによる集団安全保障(CSTO)に加入しており、要請があったら介入しなくてはいけないのですが何ができるのでしょうね。オイルマネーがありトルコがバックについているアゼルバイジャン軍は結構強いので、半端な介入では返り討ちに合うでしょうし。かといって見捨てると威信に大きく傷がつきます。

    プーチンは旧ソ連圏の復活を夢みてウクライナに侵攻したのですが、ことごとく裏目という話ですね。

    73
      • 鼻毛
      • 2022年 9月 13日

      ロシアはもうウクライナ戦争で核攻撃くらいしかやることがないと言われていますが、アゼルバイジャンを核攻撃なんてするわけにもいかないですよね。てかそんな義理ないだろうし

      26
    • パセリ
    • 2022年 9月 13日

    心情的にはアルメニアよりだけどどうしようもないよねぇ
    アルメニアは親ロやし、アゼルは欧州にエネルギー供給してる以上欧米は口先しか出さんし、ボロボロのロシアが支援のために部隊を出すとも思えん

    43
    • TA
    • 2022年 9月 13日

    WW3っぽくなってきたな
    連鎖的にどんどん紛争が起きる

    17
      • 名無し
      • 2022年 9月 13日

      WW3とまでは言う気はないけれども、ロシアの化けの皮が剥がれたせいで世界的に影響は大きいやね。
      ロシアも輸出用に作ったチェックメイトとか本来格下のウクライナ相手に航空優勢とれてない時点で売れなくなっちゃったでしょう。

      57
      • かくさん
      • 2022年 9月 14日

      それが行き着く先は、WW3というよりハルマゲドンなんじゃ?
      文明崩壊のカウントダウンが始まったのかねぇ…

      3
    • けい2020
    • 2022年 9月 13日

    ロシアの後ろ盾に好き勝手にしてたアルメニアが、
    ロシアの軍事力の化けの皮が剥がれて、国際的立場も没落したもんだから
    味方皆無の状態になってる

    あのロシアの有様をみたらイラントルコも深く介入しないだろうな

    56
      • 短い11両編成
      • 2022年 9月 13日

      そういえば、同じくロシアの後ろ盾で好き勝手しているアサド大統領の
      シリアも反政府組織が復活して内戦が再開するのかな?
      でも欧米の支援が得られそうにないから、現状維持かな

      16
    • 2022年 9月 13日

    アゼルバイジャンはこの機にナヒチェヴァンを陸続きにするつもりだろうな
    こちらの戦争も簡単には終わりそうにないな

    8
  1. アメリカ上院外交委員会がアゼルバイジャンとの安全保障解消を提言しましたね
    今回に限ってはどっからどう見てもアゼルバイジャンの侵略戦争だしそうなるわな

    12
      • けい2020
      • 2022年 9月 13日

      アルメニアのロビー活動ってもろ分かりだし、提言まででしょうね
      そもそもがアルメニアの侵略戦争が原因で、アゼルバイジャンは祖国奪還・防衛戦争ですので

      32
    • ブルーピーコック
    • 2022年 9月 13日

    アゼルバイジャンを抑えることができるのはトルコと、近所だけどシーア派のイランぐらいか。
    アゼルバイジャンから伸びるトランスアナトリア・パイプラインの安全を確保するためにトルコが動くかもしれないが、それはそれでこの地域の主導権を握ることになるから、天然ガス以外のエネルギー源を確保できない限り欧州各国にとってトルコが第二のロシアに成りかねないのよな。

    3
    • bbcorn22
    • 2022年 9月 13日

    虎の威を借りる狐たちは これから大変だわ。
    まあ 狐たちも虎があほすぎてあきれてるだろうけど。
    自分たちで何とかしないとね。

    5
    • h4
    • 2022年 9月 13日

    停戦監視団は国連に入ってもらわないと(=自分の側から仕掛ける可能性も消さないと)国際社会に訴えても動きが鈍い、ということになりそうですね。

    5
    • かくさん
    • 2022年 9月 13日

    軍事とは関係ないけど冷戦中はサッカーでカラバグダービー(オールスター戦)やるくらいの関係だったと言われてる
    エレバンに住むアゼリ人やバクーで働くアルメニア人からすれば何の関係のない話で、ソ連崩壊の民族自決で意識せざるを得なくなった皮肉

    6
    • 名無し
    • 2022年 9月 13日

    アルメニアにとってCSTOはもはや頼みに出来ないどころか、侵略国家ロシアのお仲間と看做されるリスクの方が高い
    昔からトルコ、イランの草刈り場になってきた場所で、ロシアの南下によって結果的にそれらの圧力から逃れてきた経緯があるが、アルメニア系移民が欧米で強力なロビー勢力を持っているんだから今後は西側陣営へシフトしていくしかなさそう

    16
    • BC
    • 2022年 9月 13日

    自然に考えれば、今回の電撃戦
    (未だルハンシク・ドネツク方面へ攻撃継続中)
    ハルキウ州ロシア軍大敗北をみて

    アゼルバイジャンがロシア軍弱体化して
    介入は無いと確信して飛び地完全解消に向けて
    再進撃してきたとみるのが自然かな

    ウクライナにとっては、ロシア軍兵力が
    コーカサス地方に一定以上張り付かせる効果が
    あるから間接的な同盟国機能を果たしていて
    アルメニア軍には悪いが、有り難いだろうな

    さらにジョージア軍も兵力が2008年の
    ロシアとの戦争で兵力を回復・増強させていれば
    そちらでの再進撃も大いにあり得る

    25
    • h4
    • 2022年 9月 13日

    タス通信談で一応停戦したようで、もしこの短時間で手打ちに達しているのであれば、トップの意思に基づかない現場の独断による行動だった可能性がありますね。

    2
    • 折口
    • 2022年 9月 13日

    集団安全保障条約機構(CSTO)に関しては、2020年のナゴルノ・カラバフ戦争の時にアルメニアが派兵を要求していたにも関わらずロシアは生返事のまま黙殺していますし、逆に22年のカザフスタン情勢不安の際には頼んでもないのに迅速にロシア連邦軍が投入されたりしているので、西側にあるような法や規則に基づいて動く国際協力機構だと思わないほうが良いと思います。言葉を選ばないのであれば「ロシアが旧ソ連/旧帝政時代の帝国版図で起こった反ロシア的な運動を鎮圧する軍事オプションを、多国間枠組みの体裁をとって肯定するための手続き」くらいに思ったほうがいいでしょう。その枠組にしても、皆さんご存知の通りウクライナ侵攻では全く機能しなかった程度の求心力しかない集いだった訳ですが。

    アルメニアはロシアに頼るくらいなら今からでも安保理を招集するなりアメリカに宗旨変えして助けてもらうなりしないと、アゼルとトルコが地続きになる回廊地帯が出来ても誰も助けてくれないのではないでしょうか。

    30
    • エア
    • 2022年 9月 13日

    ロシア国防省の主張の方がよっぽど信用できるというね

    • バクー油田
    • 2022年 9月 13日

    ウクライナとロシアの戦争
    アゼルバイジャンとアルメニアの戦争

    今後発生の可能性があるのが
    ギリシャとトルコ
    イラク内戦?
    ベネズエラとコロンビア
    そして
    中国と台湾・日本
    ぐらいか

    4
    • インドと中国の国境も年々緊張度が高まっているようですよ。
      中国側が実効支配するため住宅建設して住民移住させたりミサイル配備したり…
      インド側も国境付近のインフラ整備進めるとともに米軍との共同軍事演習も実施しているようです。

      5
    • 無能
    • 2022年 9月 13日

    もういっそオスマントルコが復活した方があの辺安定するんじゃねーか?

    9
      • ミリ猫
      • 2022年 9月 13日

      それはない(T_T)
      家の義理の息子はギリシャ国籍。。。

      1
      • メルク
      • 2022年 9月 14日

      オスマン帝国時代にスミルナの大火とか色々ジェノサイドやらかしてるし、多民族過ぎて統制が効かなくなったのが原因で崩壊してるからムリぽ。

      6
    • うまぴょい
    • 2022年 9月 13日

    露が宇で手一杯のドサクサに紛れて、国境未画定地域で戦略的に有利な高地をアゼル側に取り込んだ上で従来の国境線をずらそうという魂胆らしい。

    3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  2. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  3. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  4. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  5. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
PAGE TOP