欧州関連

フランス国防相、生産効率に改善が見られなけれな防衛ニーズの優先を強制

フランスのルコルニュ国防相は26日「防衛産業界の生産スピードに改善が見られないのはジャスト・イン・タイムに原因がある。改善が見られなければ人員、在庫、生産設備を徴発し、商業ニーズより防衛ニーズを優先するよう強制する」と発言した。

参考:French defense minister attacks industry over production rates, threatens requisitioning

これらの厳しい要求は防衛装備品の輸出競争が激しくなっていることにも関係があるらしい

フランスのマクロン大統領は2022年6月「戦時経済への移行」を産業界に要請、NexterはCaesarの納期短縮(30ヶ月間→15ヶ月間)と増産に取り組み、2024年までに月2輌だった生産量を月8輌まで引き上げ、MBDAもミストラルの生産ペースを倍増(月40発)させ、ThalesもGM200の納期短縮(18ヶ月間→6ヶ月間)に成功したが、ルコルニュ国防相はAster-15とAster-30の生産スピードについて不満を口にしていた。

ルコルニュ国防相は今年1月、Le Parisien紙とのインタビューの中で「Aster-15とAster-30は現在の私にとって最優先事項だ。この迎撃弾は紅海でフーシ派の無人機やミサイルを阻止するのに使用されており、ウクライナに提供されたSAMP/Tにも搭載されている。MBDAはAsterの生産に時間がかかり過ぎているため納期を半分にするよう要請した」と述べていたが、フランス海軍はフーシ派の攻撃阻止にAsterを22発(内6発が弾道弾迎撃に対応したAster-30)使用したため在庫状況に問題を抱えているらしい。

MBDAは納期を半分にするよう要請されているため、2023年1月に受注した9億ユーロ相当(約200発分)のAsterを2026年ではなく2024年後半に納品する必要があり、ルコルニュ国防相も26日「Asterの納期が遅れている。生産スピードに改善が見られない原因はジャスト・イン・タイムで仕事を進めたい誘惑に惑わされているためだ。企業は十分な原材料や部品の在庫を持たないことで固定化された財務リスクを負いたくないのだろう。しかし、ウクライナでの戦いを目の当たりにした後で改革を継続しないという選択肢はあり得ない」と指摘。

出典:MBDA

さらに「産業界の生産効率に改善が見られなければ権限を行使して元請け企業や下請け企業から人員、在庫、生産設備を徴発し、商業ニーズよりも防衛ニーズの契約を優先するよう強制する。MBDAの下請け企業に防衛ニーズを優先させるという考えは至極当然な話だ」と主張、MBDAの広報担当者も「ルコルニュの主張を好意的に受け止めている」と述べ、産業界全体で商業ニーズよりも防衛ニーズを優先する方針を支持したが、産業界の関係者は「防衛ニーズの優先には追加コストが発生するだろう」と指摘している。

匿名を条件に取材に応じた産業界の関係者は「元請け企業は別にしても下請け企業まで『防衛ニーズの優先』を浸透させるのは難しい。下請け企業の生産量に占める防衛ニーズが仮に1%に過ぎなかった場合、99%の商業ニーズよりも1%の防衛ニーズを優先させるなら追加コストが発生するだろう」と述べ、国防省が権限を行使して防衛ニーズの優先を強制してくることに警戒している。

出典:Killersurprise64/Public Domain

因みにルコルニュ国防相は「Nexterが生産する155mm砲弾(5.5万発)の納期短縮、Safranが生産するAASMの増産(2024年600発/2025年1,200発)にも期待している」と述べており、これらの厳しい要求は防衛装備品の輸出競争が激しくなっていることにも関係があるらしい。

ルコルニュ国防相は「我々が提示した納期は競合と比較して遅すぎたため、フランス産業界は幾つかの契約を逃してしまった。これは我々全員への警告だ。我々の潜在的な顧客には時間がないのだ」と指摘しており、保有する全てのCaesarをウクライナに提供したデンマークは「納期が早い」という理由でCaesar(24ヶ月)ではなくATMOS(18ヶ月)を選択しているため、デンマークは逃してしまった契約に含まれているだろう。

追記:フランスがAsterの在庫に問題を抱えているのはウクライナへのAster供給(2023年1月の契約は提供分の埋め戻し分に相当し、イタリアと共同で最大700発のAsterを調達予定)に加え、紅海での作戦が何処まで続くか分からない=Asterの消耗量が予測できないという意味も加味されるため、22発消耗しただけで在庫状況に問題を抱えている訳では無い。

関連記事:フランスがウクライナ支援のため砲兵連合を設立、さらにAASM提供も発表
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関連記事:ウクライナにCaesar提供したデンマーク、納期が早いATMOS調達を決定

 

※アイキャッチ画像の出典:MBDA

タイ海軍の中国製潜水艦調達、契約を水上艦艇調達に変更することで決着前のページ

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コメント

    • 理想はこの翼では届かない
    • 2024年 3月 28日

    遂にフランスが戦時体制に入る…んですかね?今更感がありますし、本当にやれるの?っていう気もしますが
    何よりフランスはウクライナ紛争をどうしたいのかよくわからんです

    31
      • k.ziro
      • 2024年 3月 29日

      ロシアの兵器輸出が止まって、丸儲けしているところなんですよ。
      もう少し地道に続けて欲しいんじゃないんですかね?

      6
    • クリームパン
    • 2024年 3月 28日

    ウクライナの戦況から解放された航空万能論は圧倒的だな。

    北米、欧州、南米、インド太平洋、中国、そして日本、これだけ世界中の話題をよく集めらるもんだと関心する。

    73
    • 幽霊
    • 2024年 3月 28日

    政府が確実に金を出すなら企業はいくらでも設備の増設を行い生産能力の向上を行う事は出来るでしょうね

    9
    • 無印
    • 2024年 3月 28日

    ミサイル1発作るのに、どれぐらい時間掛かるのかな
    急かして早くなるモノなのでしょうか

    7
      • Whiskey Dick
      • 2024年 3月 28日

      本記事のような高速ミサイルの場合、推進剤の固体燃料の調達がネックになる。この手の固体燃料は民間用だと人工衛星打ち上げ用ロケットの補助ブースター、気象観測用ロケット、打ち上げ花火ぐらいしか需要が無く、日本もアメリカも製造企業は1社のみです。フランスならアリアンロケットの補助ブースターがあるので、宇宙開発を犠牲にして軍需向けに割り当てることになるかも。

      22
        •   
        • 2024年 3月 29日

         ボトルネックを分析して解消しないと、安易な生産は仕掛品の山になるだけ。
         部品一つの不足でも完成できなくなる。
         ジャストインタイムが問題な訳じゃない。

         物量作戦をバカにするけど、生産計画と物流をしっかりしないと、物量作戦は無理なんだ。
         複雑で部品が多いのは、そもそも難しい。

         第二次世界大戦のアメリカとソ連は、異常。

        29
    • 黒丸
    • 2024年 3月 28日

    各種ミサイル類は通常仕様のものとは別に戦時急造用に民生技術を流用した
    寿命半分・価格半分・納期半分の撃てるんですシリーズの検討や設計・生産ライン計画も必要かもと思います。
    中国側が同じ発想で軍事力急造を計画するかもしれないので。

    13
      • バーナーキング
      • 2024年 3月 29日

      仰る通りですが、戦時にいつもと違う急造品を「さあ使え」渡されても現場も困るので、平時からハイ・ローミックスならぬハイ・コッツミックス、あるいはハイ・ロー・コッツミックスを進めておくべきでしょうね。
      ほぼ市販品、規格品、汎用工作機や3DプリンタにCAMデータぶち込めばどこでも作れる部品、特注でも通常ラインで量産できる物(単純な板材やケーブル類、ワイヤハーネス等)だけで構成される装備品を1割でいいから運用しておけば、必要な時に大きな追加投資無しに10倍20倍の増産ができるので。

      6
    • たむごん
    • 2024年 3月 28日

    自動車のサプライチェーンは、部品3万点と言われます。
    自走砲は、単純に考えて砲塔があるため、自動車の部品点数よりもさらに多い訳です。

    トラックのシャーシを流用するなどして、緩和する方法はあります。
    国防省も、防衛関連の仕事は儲からない上に、納期・規制も細かいため、下請けから敬遠されている事に目を向ける事でしょうね。

    11
    • kitty
    • 2024年 3月 28日

    カンバン方式は、在庫の負担を下請けに押しつけ、公共の道路を倉庫にするものですから、「大企業の効率」を追求する限り、どうしようもないです。

    あと軍需の市場規模の小ささも問題の要因の一つです。
    世界大戦の時代には軍需だけで食っていけた企業も数多くありましたが、大戦が終わると軍事専業の企業は苦しくなり合併・統合しても結局消滅を免れなかったりしています。
    市場原理を無視して企業事業体を存続させられる体制の国はその点有利。

    23
      • たむごん
      • 2024年 3月 29日

      仰る通りです。
      Caesarの出荷台数は、自動車業界・トラック業界などと比較すれば、笑われるような発注数です。

      下請け企業からすれば、失注してもどうでもいい規模感であり、優先する経済合理性がありません。
      国営化、もしくは何らかの強制力がないと、仰る通り厳しいと思います。

      8
    • マイクのテスト中
    • 2024年 3月 28日

    ジャスト・イン・タイムってつまるところ戦力の逐次投入でしょ?そりゃ軍事には向かないわ

    12
    • 2024年 3月 28日

    政府が継続的に発注して備蓄しておけば良かったのでは?🤔
    在庫負担に耐えられるのは政府じゃないのかな、下請けじゃなくて

    19
      • Easy
      • 2024年 3月 29日

      それをやると有権者の突き上げで政府が政治的に耐えられないという問題がありまして。
      平時に先軍政治をやっても国は豊かにならないし,イコール票にならないんですよ。民主主義のジレンマですね。

      8
    • ホテルラウンジ
    • 2024年 3月 29日

    現代のハイテク兵器生産の世界ではどのくらいのフレキシビリティが求められるのか分かりませんが
    少なくともドローンや砲弾といった数揃えてナンボのものは同じものを大量に作るライン生産が適しているでしょうから、ジャストインタイムは不適切ですよね
    現代の兵器企業がジャストインタイムになってるのは縮小してきた兵器市場の中で同じラインで様々な兵器を生産できるようにする事でコストダウンで生き残りを図っての事でしょう。
    ライン生産するにはそれなりの設備投資と在庫を抱える必要がありますから、じゃあそのリスクは国が背負ってくれんの?という所が企業側の言い分になるでしょうね
    あと、フランスが派兵するだのこの記事のように戦時生産体制にしようとしたり本格的に動いていますが
    フランス独自で今後何が起こるのかについて情報を掴んでるんですかね?
    まあ日本も必死で準備してますので別にフランス独自に限らず焦ってる所は焦ってるんですが、それでもG7すべてが同じ感度で慌ててる感じでも無い中で、フランスは積極的に一段階エスカレーションさせてる感じがします。

    3
    • 反革命分子
    • 2024年 3月 29日

    フランスって大戦の戦間期にも同じミスしてましたね。
    第一次大戦では世界最大規模だった航空機産業を終戦で縮小、企業が耐えられなくなって減勢、戦時の需要に間に合わない。挙句に航空機産業を消滅させたはずのドイツに一蹴されて国家消滅。

    まあこれはフランスに限った話ではないし、戦間期の軽武装化や過度の軍縮は当然と言えば当然なんですが、その結果かえって大きな損失を招くというのもまた必然ですね。

    14
    • イーロンマスク
    • 2024年 3月 29日

    民間「税金払いたくない」→政府「お金払いたくない」→企業「投資したくない」→軍隊「武器が無い」
    みんな誰かのせいにしたいんや

    12
    •  さ
    • 2024年 3月 29日

    冷戦後長らくは、兵器産業にとっては不況の時期だったからなぁ
    そりゃぁ、在庫抱えるのを避ける生産手法にするよね、という
    そうでないところはつぶれていったわけだし

    で、企業側からしたらこの特需(?)がいつまで続くかわからないのだから
    設備投資に二の足踏むのも当然なわけで

    国が(特需があろうが消えようが変わらない状態になるよう)支援と保証をするしかないだろなぁ

    6
    • tk
    • 2024年 3月 29日

    メーカーの心情なら戦争の継続と拡大は必須だろう
    フランス政府その可能性が高いと見ているのかそれを望んでいるのか

    2
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