欧州関連

スイス政府は次期戦闘機にF-35Aを選択、但しグリペン導入を撃墜した国民投票の実施が濃厚

スイス政府は次期戦闘機の選定結果を6月30日に発表、提案された4機種(F-35A、F/A-18E/F、タイフーン、ラファール)の中から勝者に選ばれたのはロッキード・マーティンのF-35Aだ。

参考:Swiss pick Lockheed Martin’s F-35A as next fighter jet

スイス政府は予想通りF-35Aを選択、しかし米国製戦闘機の調達に反対する勢力も予想通り国民投票に向けて動き出す

スイスの国民は昨年9月に実施された国民投票で政府が進めている次期戦闘機調達プログラムを承認、これを受けてスイス政府はF/A-18C/Dの後継機として提案された4つ機種(F-35A、F/A-18E/F、タイフーン、ラファール)の比較検討を進めて30日にF-35Aを次期戦闘機に選択したと発表した。

この結果についてヴィオラ・アムヘルト国防相は「他の3機種と比較した場合F-35Aの技術的優位性は顕著で調達コストも我々が設定したプログラムコスト60億フラン/約7,200億円を下回る」と説明、さらにロッキード・マーティンが2021年2月に提示したF-35A×36機調達にかかるコストは50.7億フランで30年間分の運用コストを含めるとスイスの支出は155億フランに達するが「F-35Aの総コストは他の提案よりも20億フランも安い」と付け加えたと報じられており、2014年のグリペン導入失敗を経たスイスの次期戦闘機選定はようやく決着を迎えたと思うのは、、、早計だ。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Mary Begy

スイス政府の決定を受けて軍は議会にF-35A調達を要請する法案を提出→これを議会が承認すれば法的にもF-35A導入が確定、この決定は国民投票をもってしても覆すことは不可能なのだが、米国製戦闘機の調達に反対するスイスの政党(スイス社会民主党や緑の党)や市民団体(軍隊なきスイスを目指す会)はすでに「反F-35イニシアチブ」を発表、F-35A調達に関する議会審議の結果が出る前に署名を集めて国民投票に持ち込むことを狙っており現地メディアは「高い確立でF-35A調達の是非を問う国民投票に持ち込まれるだろう」と予測している。

補足:スイスの国民投票は義務と任意の2種類に分けれており、任意の国民投票は政府や州の決定が公式に発表されてから100日以内に有権者5万人分の署名を集めるか、8つ州が国民投票を要求した場合に実施が義務付けられている。
要するに米国製戦闘機の調達に反対する勢力は6月30日から100日以内に有権者5万人分の署名を集めてなければならないという意味で、市民団体の「軍隊なきスイスを目指す会(GSoA)」は30年前にF/A18C/D導入に反対するため18万人分以上の署名を34日間で集めたが国民投票でGSoAの主張は受けいられず導入阻止に失敗、しかし2014年のグリペン導入反対は国民を集めることに成功してグリペン導入阻止に成功している。

つまりスイスの次期戦闘機に選択されたF-35Aは2014年のグリペンと同じ立場に立たされ、もし国民投票で調達が否決されれば次期戦闘機の調達候補から外され再選定が実施されるという意味だ。

出典:public domain グリペン

これについて現地メディアのターゲス・アンツァイガー紙は「もしF-35A調達が国民投票によって否決されると選定をやり直すか空軍を廃止(比喩的な意味)するかを選ぶことになる」と報じており、スイスのF-35A選択を報じたロイターも国民投票に持ち込まれる可能性が高いと報じているので、スイスの次期戦闘機調達を巡る戦いに決着について語るのはまだ早いのかもしれない。

参考:Diese Schallmauern muss die F-35 noch durchbrechen

果たしてグリペン調達を撃墜したスイスの国民投票は本当に成立するのか?仮に成立した場合F-35A調達にどのような裁定を下すのだろうか?

因みに大半の米メディアは国民投票の可能性を一切報じない形で「F-35A勝利」と伝えており、フランスやドイツのメディアはF-35A勝利を伝えると同時に「軍隊なきスイスを目指す会がF-35A導入阻止に動き出した」と付け加えているので置かれた立場によって情報の切り取り方が異なるのが興味深い。

ただ今回の選定で蚊帳の外状態だったボーイング(F/A-18E/F)はスイスの決定について「失望した」と声明を発表している。

関連記事:スイスの次期戦闘機選定でF-35Aがトップスコアを獲得、但し勝者に選ばれるかは別問題
関連記事:破竹の勢いを見せるフランス製戦闘機、スイスもF-35Aではなくラファール導入に傾く?
関連記事:スイスの次期戦闘機候補、エアバスがタイフーン現地組立を認めて優位に?
関連記事:スイスの次期戦闘機候補、圧倒的なコストパフォーマンスでF-35Aが優位か

告知:軍事関係や安全保障に関するニュースが急増して記事化できないものはTwitterの方で情報を発信します。興味のある方は@grandfleet_infoをフォローしてチェックしてみてください。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis

イスラエル、GNSS拒否環境下でも作動する新型ミサイル「SEA BREAKER」を発表前のページ

兵士を病気にさせる騒音問題が再発、英国は次期装甲戦闘車「Ajax」のテストを再び中断次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    韓国にライバルが登場、ポーランドの次期主力戦車に食い込んできたM1エイブラムス

    ポーランドが陸軍近代化の一貫として進めている次期主力戦車調達計画「Wo…

  2. 欧州関連

    これで5度目の漏水、今度は英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」の機関部が水浸し

    英海軍のクイーン・エリザベス級空母2番艦「プリンス・オブ・ウェールズ(…

  3. 欧州関連

    兵士を病気にさせる騒音問題が再発、英国は次期装甲戦闘車「Ajax」のテストを再び中断

    走行中の騒音問題が解消されたはずの次期装甲戦闘車「Ajax/エイジャッ…

  4. 欧州関連

    事実上のNATO艦隊、英海軍がインド太平洋地域に派遣する艦隊の陣容を正式に発表

    英空母打撃群司令官を務めるスティーブ・ムーアハウス准将が今年後半にイン…

  5. 欧州関連

    完全に見かけは民間機、英国が空中給油機に派手な塗装を施した理由

    英国はVIP輸送に対応した空中給油機「A330 MRTT/ボイジャー(…

  6. 欧州関連

    アルメニア軍が負けた理由、アゼル軍による補給路狙いとシリア内戦の教訓軽視

    なぜアルメニアは25年以上も死守してきた防衛線をアゼルバイジャンに突破…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    国民投票で軍備を選ぶとは凄いな
    もし、日本が真似したら海自は人気と知名度で
    イージス艦だらけになりそう

    3
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      装備自体を選んでるんじゃなくて、行政の決定に対する賛否を問うだけだからそれは無いんじゃ

      32
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    米軍では議会から運用コストが高いと怒られ、他方スイスではライフサイクルコストが安いから採用と言われ
    結局高いのか安いのか

    というより、ライフサイクルコストが安いならアメリカ議会はなぜ目先の?運用コストを問題視するのか

      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      過去にここの管理人が言及してたけど、運用コストの算出方法は国よって違うらしいよ。

      米軍の運用コストは比較的低コストな国内運用と駐留費用が嵩む海外運用の合算だからF-35の運用コストは米軍と国内運用しかしない同盟国とでは異なるみたい。

      うる覚えだけど

      13
        • 匿名
        • 2021年 7月 01日

        それは米軍での航空機の運用コストが嵩む理由であって
        同じ国の中で運用される兵器の中でコストの優劣を語る理由としては不十分では?

        1
        • 匿名
        • 2021年 7月 01日

        う「ろ」覚え警察だ!

        5
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      声が大きいのと正しいのはまた別で、ボーイング派とか、次世代戦闘機を急ぐ派とかあって、いろいろ言われてるだけ。議会はそういうのを説得する場。

      F-35の悪い評価で正しくおおきいのは、万能最強戦闘機になるのは二年後のソフトがブロック4,ハードがサイドキック対応後以降で、ソフトにもアップデート費用がかかること。

      バックオーダー3000以上で、低レート年130、フルレート年180じゃ、スイスには関係ない話かな。

      3
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      実機を飛ばすかの違い
      アメリカはスクランブルや訓練で機体を消耗するが、スイスは最低の飛行時間さえ達成すればあとは高性能のシミュレーターでいいと喜んでいる

      10
        • 匿名
        • 2021年 7月 01日

        ああそういうことなんですね
        日本のスクランブル貧乏が解決されたのかと思った

        1
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    ここでボーイングの声明って必要?
    蚊帳の外感丸出し

      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      〉F/A-18C/Dの後継機として提案された4つ機種(F-35A、F/A-18E/F、タイフーン、ラファール)

      いるんじゃないか?後継機だし、それにFA-18E/Fの最新アップデート(未完成)の最初のユーザーとか、調子悪いボーイングを期待しる人が気にしてるよ。

      8
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    グリペン蹴落としたらもっとすごいのが来ちゃった。またひっくり返すのでしょうね
    にしてもボーイングのオチで笑う

    14
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      最終的にボーイングで落ちたりして。
      周辺機器は、今のが流用出来そうだし。

      1
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      前回グリペンに反対した層の中には「グリペンじゃ能力不足」ってのがあったから
      そこが賛成に回るのはほぼ間違いないし、またひっくり返るかどうかは完全に予想不可かな

      まあ、過激な軍縮論者以外は流石に今回蹴ることの意味くらい分かるだろうから通りそうなもんだけど

      13
        • 匿名
        • 2021年 7月 01日

        人類皆友達で平和ボケしてるから分からないかも。

          • 匿名
          • 2021年 7月 01日

          それを過激な軍縮論者というのでは

          4
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    新戦闘機導入の是非は去年の国民投票で是とされたので、反対派は選定機種の否決というパターンを繰り返すつもりなんでしょうね。
    グリッペン導入が拒否された前例から米国製でなければ良いという訳でもなさそう。
    最終的に空軍存続の是非を問う国民投票が提議されたりして。

    6
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    最後の某イングの声明は失笑ものだが記事中の政党名がどれもこれもヤバい

    14
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      また人類には早すぎる思想…と思う。

      5
        • 匿名
        • 2021年 7月 01日

        いいよねスイスは、どこかの侵略国家に狙われても友好的3ヶ国という防衛壁に囲まれてるから
        もっとも今後は戦闘機よりもドローン等によるテロ対策に取り組むべき
        ただ富裕であるゆえに憎まれるのが格差社会だからね
        スイスも平和的に見えて国際経済的にはかなりブラックだし、いつ狙われてもおかしくない

        3
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    日勤のパートタイマーパイロットで運用してて夜間と日祭日と昼休みは
    スクランブルを他国任せにしてた危機感が無い国にF-35とか贅沢でしょ。
    ハイジャック事件で恥をかいて今は24時間体制になったらしいけど。

    4
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    スイスの戦闘機選定がどれだけカオスかと端的に説明する役割を果たす「関連記事」のリンクたちがちょっと笑える

    10
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    ボーイングは失望する側でなく、される側だろって感じたのは俺だけではないはず

    4
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    軍隊なきスイスを目指す会、ってマジで?
    警察をなくせば犯罪が減ると信じてる人達がスイスにも居るのか

    6
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      スイスは日本と違って直接国境を接している敵対国がありませんからね。

      5
        • 匿名
        • 2021年 7月 01日

        返信ありがとう
        しかし果たして軍隊を持たないということは国境を持たないということです。それを目指すのであれば国境の結果としての軍の武器を廃止するのではなく、完全なるEU化の結果としての軍隊廃止が本筋ではないかと考えた次第です
        まさかスイスの民主主義はそのステージまで進化していると言うのかッ

        3
          • 匿名
          • 2021年 7月 01日

          流石にそこは武装警察的な組織を設立するんじゃないか

          2
          • 匿名
          • 2021年 7月 01日

          GSoAについて知りたければwebサイト見てくれば?
          ここ
          リンク

      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      そうは言っても国民皆兵の歴史を抱えてるから、いざとなれば軍隊でなく国民が国防に立ち上がればいいという次元ですよ
      余談ですが、日本共産党は昭和まで自衛隊不要論の根拠として、侵略を受けたら国民がゲリラ戦を展開すればいいとか唱えてました
      つまり軍隊でなくお前ら人民が国家のために死ねって理論ね
      有り難いやら悲しいやら、発想が兵隊を使い捨ててた旧日本軍と変わらない

      13
      • A
      • 2021年 7月 01日

      こういうネタってのは左巻きの方々が大喜びで飛びつくでしょうね。

      1
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    日本もスイスを見習って国民投票を実施すればいいんじゃないかな、だって日本人はスイス大好きなんだから。
    国民投票なら声だけデカイぱよを弾くことができる。

    1
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    徴兵制は政府廃止意向で国民投票で支持されたんだよな
    軍備なき〜の影響力がわからん

    2
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    廃棄する時までのコストや部品・アップデートの供給考えたら妥当だろう
    というか選択肢がほぼ無い
    それにしても国民投票とか衆愚政治も良いところだな
    特に判断する知識が無いことで
    なんでこの世に間接民主主義が生まれたと思ってんだが

    4
      • 匿名
      • 2021年 7月 01日

      愚かな民ならば愚かな政治家を選ぶから、結果はほぼ変わらないでしょう
      スイスは民衆自治の気風が強いとしか

      7
    • 匿名
    • 2021年 7月 01日

    スイスは同時にパトリオット購入も表明してる。スイスが買う買わないは別問題として、低迷するボーイングの株価を引き上げるために、投資家向きにばら撒いてる話でしょ。ユナイテッドの737の大量購入とか、ボーイング救済に躍起という感じ。よほどヤバいんだろ。(パトリオット作ってるレイセオンもユナイテッドもボーイングの系列会社)

    2
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 欧州関連

    再掲載|導入自体が間違い?タイフーンを導入したオーストリアの後悔
  2. 軍事的雑学

    打つ手なし? ドイツ軍兵士は一般的な乗用車を「プーマ歩兵戦闘車」と思い込まされ訓…
  3. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  4. 日本関連

    海外メディアも注目、横浜で護衛艦「いずも」の空母化工事が始まる
  5. 軍事的雑学

    ようやく本領発揮、世界最強の戦闘機F-22Aが「神の視点」を味方に提供
PAGE TOP