ロシア関連

ロシアの兵士募集にかかるコスト、契約一時金が約20倍に跳ね上がる

ロシアではウクライナとの戦争に参加する契約軍人の募集コストが高騰し続けており、モスクワのソビャニン市長は今月23日「市独自のボーナスを100万ルーブルから190万ルーブルに増額する」と発表、プーチン大統領も31日「契約締結ボーナスを引き上げる法令」に署名した。

参考:Путин подписал указ о выплате контрактникам, участвующим в СВО
参考:Evgeny Istrebin

2023年8月時点の地域ボーナス額は最高10万ルーブル、現在は最高190万ルーブル

ロシア軍の人員構成は契約軍人と義務的徴兵(年2回/1年半~2年)で招集された兵士で構成され、ウクライナ侵攻のような国外作戦に義務的徴兵で招集された兵士の動員は禁じられており、プーチン大統領は不足する侵攻戦力を補充するため2022年9月に部分的動員(義務的徴兵を終えた予備役30万人の強制動員)を実施したが、余りも不評だったため契約軍人の動員(直接契約に基づく義務的徴兵を終えた予備役の動員)に切り替えた。

出典:Минобороны России

ウクライナ侵攻作戦への参加を前提にした契約軍人の募集には「契約締結ボーナス」が設定され、2023年8月時点の地域ボーナス額は最高10万ルーブルだったが、人々を戦争に駆り立てるためボーナス額はどんどん増加され、タタールスタン共和国では5月末「共和国独自のボーナスを50.5万ルーブルまで引き上げる」「都市、地方自治体、企業からの支援金を加えるとボーナス額は70万ルーブルに達する」「これはロシア国防省が支給する一時金に加算される」と発表。

サマラ州も6月21日「州独自のボーナスを15万ルーブルから100万ルーブルに増額する」と発表、ロシアの動員状況=契約軍人の動向を監視しているウクライナ人(Evgeny Istrebin)も「ロシア人は戦争に行きたがらず、各地方の首長らは割り当てられた契約軍人の供給数を達成するため競うようにボーナスを増額している。そうでなければ首長らは深刻な問題に直面するからだ」と指摘していたが、モスクワのソビャニン市長は今月23日「市独自のボーナスを100万ルーブルから190万ルーブルに増額する」と発表。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

さらにプーチン大統領も31日「国防省が提供する契約締結ボーナスを19.5万ルーブルを40万ルーブルに引き上げる法令」に署名、そのため8月1日から契約結ぶロシア人は最大230万ルーブル(モスクワ市民の場合)の一時金を手に入れることが出来るが、ロシアが負担する契約軍人の募集コストは重くなるばかりだ。

メドヴェージェフ元大統領は7月4日「2024年も大統領が設定した契約軍人の確保が目標を達成しつつある」「1日あたりの平均契約数は約1,000人だ」「これまでに約19万人のロシア国民が国防省との契約に署名した」と述べており、仮に1人に支払う一時金(国防省と地方自治体が提供するボーナスの合算)が仮に100万ルーブなら月300億ルーブル、年間3,600億ルーブル=約6,300億円が、採用した年36万人を1年間働かせるのに最低でも8,812億ルーブル(契約軍人の最低給与20.4万ルーブル/2023年5月発表額)=1.5兆円が必要だ。

2023年10月1日に軍人給与は10.5%引き上げられており、特別軍事作戦への参加手当も給与とは別に1日4,242ルーブル、もし交戦地域で直接戦闘に参加した場合は1日8,000ルーブルの支払いが必要で、戦死者には500万ルーブル、負傷者には300万ルーブルの支払いも行わなければならず、仮に6万人の戦死者が生じていれば3,000億ルーブル=約5,200億円もの補償を行わなければならない。

ロシアは資金を供給できるかぎり契約軍人をウクライナとの戦争に活用できるものの、この規模の人員動員を経済的にどこまで続けられるのか管理人には分からない。

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※アイキャッチ画像の出典:Минобороны России

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コメント

    • 2024年 8月 01日

    素晴らしい話ですね。
    愛国心と自己犠牲精神に対して施政者が支払うべき対価は
    際限なくインフレすべきなのが道理だと私は考えます。

    愛国心と自己犠牲精神の重要性を誰よりも声高に叫ぶ人達は、なぜかこの主張をしませんが…

    23
      • 名なし
      • 2024年 8月 01日

      コストが跳ね上がって人員動員に影響が出てくるだろう、と言う趣旨の記事に対して、給料上げるのは素晴らしい、と言うコメント。。。

      13
        • kitty
        • 2024年 8月 01日

        いやいや、どう見ても皮肉でしょうw。

        22
      • ななし
      • 2024年 8月 01日

      ちゃんと支払ってくれればね
      以前、ロシア側の兵士が増額について「自分を含めて部隊の誰一人として受け取っていない」みたいな記事があったと思う
      空手形のリップサービスか、あるいは予算は組まれたけどお偉いさんか誰かの懐に入って兵士には渡されなかったというオチだったとしても全然驚かない
      ウクライナで戦死した兵士の遺族に毛皮のコートをプレゼントというのがあった。
      確かにコートはプレゼントされたが、渡されている動画を撮影した後にコートは取り上げられた。
      あの国の言うことやる事を信用するのは危険

      36
      • 特盛
      • 2024年 8月 01日

      流石に皮肉であることを願う

      5
    • たむごん
    • 2024年 8月 01日

    日本が、大日本帝国で示しましたが、インフレを使うのは最強ですね。

    ルーブル建てで支払っているのが、ポイントと思います。

    20
      • だれも
      • 2024年 8月 01日

      誰もルーブルで貯め込もうとは思わなさそう。

      2
        • たむごん
        • 2024年 8月 01日

        これまた外貨に換金が難しそうな…

        1
          • 特産物
          • 2024年 8月 01日

          ゴールドにしとくのがよさそう。
          家が売れてるのもルーブルより不動産の方がマシというのもありそう

          1
            • たむごん
            • 2024年 8月 01日

            仰る通りです、インフレ対策ですね。

            1
    • ablahamristy
    • 2024年 8月 01日

    ロシアの事をいつまでも見下して書かれたくだらない記事に影響されるのをやめねばならない。

    兵士に支払われた自国通貨建ての手当は、主に国内に還流または蓄積する。これに伴う政策と経済活動が健全であれば、長期に渡っては問題とならない。クレムリンのインテリジェンスは持続可能性の目処がついた戦略を実行している。

    一方で、膨大な国富を海外流出させている例がある。
    日本の燃料の輸入費は、年間30兆円前後。この金額の多くの部分は本来不要なのだが、政治的理由で膨大な浪費が続いている。

    かたや2兆か3兆か程度。かたや30兆。現実の数値の桁くらいは見ておくべきだろう。
    自分たちの愚かさの質と量を見誤ってはならない。

    32
      • 名なし
      • 2024年 8月 01日

      いや、単純に人が集まらないので持続不可能でも上げざるを得ない状況だと思うよ?

      32
      • kitty
      • 2024年 8月 01日

      日本の原子力発電量は中国の1/10近いレベルまで落ち込んでいます。
      ドイツのように意図的に減らしているならまだマシなのですが。
      中国は最新世代型の原子炉の実用化でもトップを走っています。

      6
        • 通りがかりさん
        • 2024年 8月 01日

        最新というなら融合ではないかなと思います。
        中国のアプローチは面白いけど。低温とか

        3
      • 名なし
      • 2024年 8月 01日

      うん、原発を止めた2011年から貿易赤字の大きな原因の一つ。
      早く原発を再開しなきゃね。

      27
        • たむごん
        • 2024年 8月 01日

        仰る通りです。
        原発止めて・火力発電叩いて・(中国から輸入の)太陽光発電所に力を入れて・外資も参入して、左翼色を強めた結果ドンドン貧乏になってる感じがしています。

        製造業捨てたのかと思ったら、そうでもないみたいですし、エネルギー政策いきあたりばったりに感じています。

        24
      • tk
      • 2024年 8月 01日

      政策金利16%を続けてるロシア経済が健全なわけないでしょう
      それこそ現実的な数値を見るべき
      間違いなく大きな反動を伴う

      13
      • バーナーキング
      • 2024年 8月 03日

      > 兵士に支払われた自国通貨建ての手当は、主に国内に還流または蓄積する

      物を生み出さずにに金だけ国内にばら撒いてもインフレ起こすだけでしょーが。
      まあ実際には支払われなかったり回収されたりするから大丈夫(?)でしょうけどねw

      2
    • 匿名
    • 2024年 8月 01日

    まあ景気がいいのはいい事です、制裁のお陰(?)で資産が外国に逃げにくい部分もあるでしょうし。
    3食365日食事が無料を売り文句にリクルートしている何処かの国とは大違いです。

    21
    • 通りがかりさん
    • 2024年 8月 01日

    資料を弄ってなければ、コロナ影響下の2021年より2023の方が財政赤字は大幅に低下しているようですし吸収可能な範囲だと思われます。今のところは。

    30
    • paxai
    • 2024年 8月 01日

    ソチ五輪で5兆円使ってたな・・・

    4
    • どねつくぼうし
    • 2024年 8月 01日

    お金で本人の同意を取り付けた志願兵を集めて前線の戦力とする
    何の問題もないではありませんか
    ロシアのお金が尽きるかウクライナの動員対象人口が尽きるかのチキンレースが起きているだけです
    次の演目であるロシア予備役招集拡大VSウクライナ若年層動員の催行に関しましてはいましばらくお待ちください

    28
    • 花火大会
    • 2024年 8月 01日

    戦争が経済の起爆剤という事実は、いつの時代でも同じです。
    また、経済が成長する過程でのインフレは避けられないことも事実です。
    プーチン大統領とロシア政府が、今次の戦争からロシアを発展させるかは、
    今後10年、20年経ってみないとわかりません。

    14
      • アフガニスタン侵攻
      • 2024年 8月 01日

      アフガニスタン侵攻のときにソ連経済はイケイケだったんだろうか

      9
      • Masari
      • 2024年 8月 01日

      起爆剤っていうかドーピングだよ
      常識的に考えて生産人口擦り減らしながら経済活動には何ら役に立たない兵器を片っ端から消費して経済成長するわけないでしょ

      ロシアが今年2月までに消費した戦費が推定2100億ドルなんで、もうGDP比で10%近く使ってることになる
      イラク戦争がGDP比10%、ベトナム戦争が15%なんでまあ今後余裕で超えますわな

      26
        • 名なし
        • 2024年 8月 01日

        インフレの主な原因はルーブル安による輸入物資の高騰と、労働人口減少による人手不足に伴う人件費増加だからね。
        これを背景に政府支出を突っ込んだらインフレが行きすぎて、極東の住宅価格まで高騰していると言う…
        まあ持続可能性は低いけど、原油価格が持ち直して来たのでまだまだ大丈夫。
        経常収支が赤字になって首が回らなくなってからが本番。

        12
          • 匿名
          • 2024年 8月 01日

          もうすでに焦り始めてるのでは。
          中国の金融機関に二次制裁をチラつかせてるし、最近急にインフレ率上がったし。
          併合宣言した州だけ何としてでも奪い取って、「ハイ戦争は終わり、これ以上攻撃するなら核使うよ」で逃げたいんでしょ。
          でないと出口が見当たらないし。

          7
    • lang
    • 2024年 8月 01日

    兵役がわりに合わないってのが世界的にバレてしまった感じ・・・

    今後も採用コストはうなぎのぼりでしょう・・・

    8
    • 慌てる乞食は貰いが少ない
    • 2024年 8月 01日

    でも、あんまり待つと追加動員されそう

    8
    • BOB
    • 2024年 8月 01日

    ウクライナのような拉致動員するよりも結果的にコストは下がるかも。
    街中を徘徊する徴兵官のコストや、男性が仕事にも行けず家で隠れているので労働力や税収の減少。
    何より前線に穴があき無駄に兵士が死ぬのは国家として1番の損失。

    15
    • L
    • 2024年 8月 01日

    大航海時代の船員みたいに死ぬまでコキ使えば給与払わなくてオッケーなライフハックが横行しそう

    9
      • バーナーキング
      • 2024年 8月 03日

      受け取るべき遺族がいる場合はそっちも謎の◯を遂げる怪現象が起きる訳ですね。
      おそロシアおそロシア…

      2
    • lang
    • 2024年 8月 01日

    兵役が割に合わないのが世界的にバレてきたという・・・
    これからもどんどん上がるでしょう というか兵器開発に回す金捻出できるんでしょうか・・・

    3
    • さとし
    • 2024年 8月 01日

    移民やら出稼ぎ()の人たちはゴリゴリ戦場に送っても、自国民兵はまだお金で集めれてるようで
    こりゃロシア内で反戦、嫌戦ムードが起きづらいでしょうね

    6
    • 2024年 8月 01日

    ウクライナも兵士の報酬増やして志願させればいいのに。
    ハイエース強制動員や脱出阻止の国境警備にコストかけるくらいなら。
    この件に関してはロシアのほうが西側ぽくてウクライナのほうがソ連ぽいぞ。

    17
      • paxai
      • 2024年 8月 01日

      報酬で志願させるとしたらウクライナ兵の賃金がどの程度になるのか気になるな。

      8
    • とある帝國臣民
    • 2024年 8月 01日

    戦争の規模や人員数にしては安いと思うけどな

    7
    • 匿名
    • 2024年 8月 01日

    倍率1倍のころに契約した人は損だなぁ。
    コストはまだ上がるだろうから50倍超えるまで待ったほうがいいなぁこれは。

    5
    • 鼻毛
    • 2024年 8月 01日

    地方財源への圧迫が長期化すると市民生活が困窮しそう。都市インフラがメンテナンスされなくなって電気ガス水道が止まったら戦略爆撃されたのと一緒ですし外にも様々ある地方自治体の機能が停止・停滞したらどうなることか。地方への戦費押し付けはロシアにとって諸刃の剣だと思います

    6
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