ウクライナ戦況

ウクライナ侵攻で結束するNATO、ロシアの失墜で空中分解寸前のCSTO

ウクライナとの戦争に手一杯のロシアは南コーカサスや中央アジアでの軍事的プレゼンスが低下しており、アルメニアも安全保障の後ろ盾をロシアから米国に乗り換える可能性が浮上している。

参考:В Ереване – протест с требованием выхода Армении из ОДКБ
参考:For Armenians, CSTO missing in action
参考:Вторжение в Кыргызстан. МИД назвал произошедшее спланированным вооруженным актом
参考:Kazakh President Urges Swift Resolution to Armenia-Azerbaijan Border Conflict at CSTO Extraordinary Session

プーチン大統領はCSTOが空中分解して、米国と中国に南コーカサスや中央アジアが侵食されるとは思っても見なかっただろう

13日に突然始まったアルメニアとアゼルバイジャンの武力衝突は何とか停戦で合意、しかしアゼルバイジャン軍がアルメニア領から撤退しないためパシニャン首相は集団安全保障条約機構(CSTO)の第4条に基づき「軍事行動を含むあらゆる支援」を加盟国に要求した。

出典:CSTO アルメニアに派遣した調査団

しかしCSTOで主導的な立場のロシアはウクライナとの戦争に手一杯、他の加盟国も両国の紛争に関わることを敬遠(カザフスタンは平和維持軍の派遣すら拒否)したため調査団の派遣で様子を見ており、アルメニア国内ではCSTOに対する失望感が強く、これが「ペロシ米下院議長のアルメニア訪問」に繋がったという声がある。

米国のブリンケン国務長官はアゼルバイジャンに「アルメニア領からの即時撤退」を要請、エレバンを訪問したペロシ議長も「アルメニアの領土保全、主権、民主主義は我々にとって価値のあるものだ」と述べ、この訪問に随行したパローン議員も「アルメニアの安全保障がロシアとの取り決めの一部であることは承知しているが、米国はアルメニアの安全保障を非常に懸念している。我々に出来ることは何でもしたい」と主張しているため、アルメニアが安全保障の後ろ盾をCSTO=ロシアから米国に鞍替えするのではないかという憶測が流れているのが興味深い。

出典:Telegram 交戦中のタジキスタン軍とキルギス軍

CSTO加盟国のタジキスタンとキルギスも16日に武力衝突が発生、3度目の停戦が発効して交戦自体は減少したものの現在も散発的な発砲が続いており、両国とも「相手が先に侵攻してきた」と主張しているため戦いの収束が見通せておらず、CSTO加盟国のベラルーシはロシアのウクライナ侵攻に加担、ロシアと一定の距離をとるカザフスタンも中国に接近しているため、特定の加盟国に集団防衛を提供できる状態にないのは誰の目にも明らかだ。

EUやNATOの結束を乱してバラバラにすることを目論んでいたプーチン大統領は、CSTOが空中分解して米国と中国に南コーカサスや中央アジアが侵食されるとは思っても見なかっただろう。

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※アイキャッチ画像の出典:CSTO

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コメント

    • 横田
    • 2022年 9月 19日

    すごくわかりやすい解説
    ロシアが頂点だった安全保障の構図がどんどん崩れて
    名実ともに中国とロシアは立場を交代しつつあるわけか

    78
    • 南蛮一の知恵者 朶思大王
    • 2022年 9月 19日

    米国のアルメニア贔屓が露骨だが、NATO同盟国のトルコの立場はどうなる?

    29
      •  
      • 2022年 9月 19日

      アメリカとトルコ、イスラエルの微妙な関係が続きそうですな。まぁ今までもそうだったんだけども、NATOの不安要素の一つではあるんですよね。

      5
      • たま
      • 2022年 9月 19日

      トルコなんて米国の立場フル無視で立ち回ってるし、お互い様だと思う。
      っていうかアゼル支援してるのもそこまで覚悟もってやってるわけじゃないでしょ。
      アルメニアがアメリカに従うならすんなり鞍替えすると思うよ。

      5
    • ミリオタの猫
    • 2022年 9月 19日

    でも、NATOとCSTOがこう言う状況になったのは、ウクライナ軍による東部反攻が予想以上の成功を収めて現在も進行中だと言う点を忘れてはいけないでしょうね。
    もしも、ウクライナ軍の反攻が失敗するか行えなかったら…と考える度に寒気がします。
    実際、NATO諸国も先月までは今のCSTO加盟国に近い状態の国が少なく無かったし、冬場のエネルギー問題も有りますから、その問題が顕在化する直前に行われたウクライナ軍の東部反攻は、政治的にも戦略的にもグッドタイミングだったと思います。

    76
    • たまねぎ
    • 2022年 9月 19日

    ここまではほぼ米国の思い通りもしくは想定以上に上手くいったというところでしょうか。
    欧州の盟主ドイツが中途半端な態度でここまでEUでの地位を下げるまで予想してたかは知らんけど…

    中国もインドもロシア軍の体たらくにプーチンを見限った感があるし、ロシアを経済的に利用するくらいしか今後価値を見出さないのでは。

    36
    • たなか
    • 2022年 9月 19日

    この情勢見ると加盟しているくせにNATOとEUに中指立ててロシアに接近してるハンガリーってもしかしてかなりまずいんでは?

    60
      • たなか
      • 2022年 9月 19日

      自己回答で申し訳ないですが調べたところハンガリーはきついお仕置きをEUから受けることになりそう

      リンク
      日曜日(9 月 18 日)、EU 委員会は汚職と法の支配に関する懸念を理由に、EU 資金の 65%、推定 75 億ユーロをハンガリーに一時停止することを勧告しました。

      58
      •  
      • 2022年 9月 19日

      ハンガリー、旧ユーゴスラビア諸国(特にセルビア)この辺りはいつでも西側嫌いなんで地政学的なリスクを無視して国民が現政権を倒す可能性は常にありますよね。

      12
    • ロシアが沈めば中央アジアで
      米中の角逐が、きつく
      なってくるんでしょうね。

      あー黒海から中東へのルートもだめ
      北極海航路にでる体力もなくなると
      この先どんなドミノ倒しになるやら

    • 無題
    • 2022年 9月 19日

    CSTOって基本ロシアが興味ある紛争以外はガン無視だもんな
    今回の紛争が無くてもそのうち空中分解してたよ

    47
    • ブルーピーコック
    • 2022年 9月 19日

    自分はウクライナがロシアに対抗できるのか懐疑的だったから他人のことをとやかく言えないが、ロシアに対する過大評価が中央アジア諸国を抑え込んで地域の安定をもたらしてはいたんだな。ナゴルノ・カラバフ紛争からウクライナ侵攻の結果、威信と秩序がT-72の砲塔みたいに吹き飛んじゃったけど。

    53
      • 劇場型クローザー
      • 2022年 9月 19日

      このたとえはすごくすき

      11
      • たま
      • 2022年 9月 19日

      こんなのまだまだ序の口、本当の爆弾はロシア国内に抱え込んでんだから

      4
    •  
    • 2022年 9月 19日

    名実ともに米中冷戦に完全に移行しましたね。
    上海協力機構が東側の規範になるんでしょうが、その加盟国も記事に名を連ねた紛争当事国なのでやはり一枚岩とは行かなそうですね。インドも加盟国だし。
    NATOとて火種を抱える組織ではありますが、果たしてどんな世界が待ってるやら?

    14
    • スポンサー・ドリンク
    • 2022年 9月 19日

    中国も面食らってそうですね
    あてにしていたロシアとプーチンがボロボロで

    25
      • けい2020
      • 2022年 9月 19日

      中国は習近平がプーチンを個人崇拝してるってのが、色々中途半端になってる原因ですね
      中国のロシア派も多くないし、ましてプーチン派なんてねぇ

      5
        • 八菜
        • 2022年 9月 19日

        中国内政に詳しいわけではないのですが、
        このままロシア劣勢もしくは敗北ということになれば習近平への反発は高まったりしないのでしょうか。

        1
    • AAA
    • 2022年 9月 19日

    NATOとてトルコとギリシャがかなり焦げ臭いので空中分解しそうながCSTOだけとは言い切れないんだよなあ

    6
      • あお
      • 2022年 9月 19日

      より面倒な隣国が健在なうちは、まぁまぁ内輪もめ程度で終わるのでは?

      それに、領土的野心から国際協調の枠組みを踏み外すとどうなるか?という実例を目に魅せられているので、
      ガス抜きできれば落ち着くと思いますが。

      12
    • VRTG
    • 2022年 9月 19日

    米を中心に英仏独伊ら大国複数をかかえるNATO。
    対するCSTOはロシア一強、その屋台骨がボロボロで連鎖倒壊の危機。
    目先の利益と危険から纏まれない筈のEU/NATOが”正義”をお題目に纏まり、結束している筈だったCSTOが独裁者の保身のため分裂しかけ、という皮肉。

    38
    • h4
    • 2022年 9月 19日

    前から言われてますが、アルメニア人のロシアに次ぐ移民先がアメリカで、アメリカ政治でもアルメニア人票はまあまあまとまった票数で日本で言えば参院比例で当選者を1人出せるか出せないかくらいの職業団体くらいの存在感はありますから、ロシアに代わる後ろ盾はアメリカになるんでしょう。

    まあ、あとはNATOがなんだかんだ言っても集団運営組織であり英仏独も存在感があって小国も対等という名目は崩していないわけですが、CSTOは露骨にロシア会プーチン組という一極集中の色が濃すぎて、ロシアにメリットがないと他のメンバーは無視され旨みがないのがあからさまでしたね。せめてロシアと中国が加盟して駆け引きしてくれたりすると、そこに小国の付け入る立場というのものが出来るのですが、プーチン都合で全部決まる組織について行けるのは非独立国のカディロフくらいでしょう。

    40
      • 名無し
      • 2022年 9月 19日

      アルメニアって、領土的に、果たしてアメリカの支援を受けられるかなあと。。。
      海無しで海運不能な状態で、アゼルバイジャン、イラン、トルコ、ジョージアに囲まれてるので、何千トンもの軍事物資輸送するのに、どこから輸送するのよ、という。。。
      輸送機も公海飛んで侵入することが不能なので。

      唯一、トルコ経由なら出来そうだけど、それって、「いいよ。代わりに俺がNATO代表として戦車部隊を送るから。安心して。(そして国道を間違える)」って、エルドランに断られるんだろうなあと。。。

      そういう意味では、「ペロシなんか来ても無駄でした。」の最初の悪しき例になりそうな気がしております。。。

      8
    • K(大文字)
    • 2022年 9月 19日

    いや、中共は笑いが止まらんでしょうなぁこれ。
    ロシアの没落で中央アジアへの足がかりができて、そのロシア本体もジュニアパートナーに嵌め込む事も窺っている。
    かと言って西側陣営としてはロシアの今回の所業を捨て置くことは出来ない。
    としたら、もう最善策はロシアを徹底的にボコすしかないんだよね。覇権主義国たちへの抑止と、中共のジュニアパートナー化への備えとして。
    どうせそのルートが避けられないならばロシアを北極朝鮮と言えるレベルまで弱体化させれば、まだマシと言うもの。
    どちらにせよ最悪の中の最善でしかないが。
    あのハゲ、トチ狂いやがって…

    11
    • パセリ
    • 2022年 9月 19日

    こういうところで友好国の面倒を見てやらんからみんなロシアから離れて西側に鞍替えしてくんよ•••
    中国でさえちゃんと飴も与えてるのにムチしか与えないロシアの外交は酷いの1言

    52
    • バクー油田
    • 2022年 9月 19日

    ロシアの影響力が無くなり、中央アジアが流動的な情勢になるとどうなるんでしょうね?
    まずは米中で陣地の取り合いが始まるのでしょうけどロシア自身も崩壊して最終的に
    中央アジアのどこかの国が巨大化してロシアのチュメニからアフガニスタンまでを束ねてユーラシア大陸を左右で分断するデカい国家もしくは国家連合とか出来たら面白いですね
    インド中国を有するユーラシア大陸の右側と、左側の欧州の間に割って入って交易で儲ける国みたいな
    いや面白くないかもしれませんが

    2
      • アクアス
      • 2022年 9月 19日

      プーチンが切れて何かのボタンを押したくならないかが心配

      5
      • 2022年 9月 19日

      中央アジアのテュルク系国家はIOTC、TURKPA、OTSなどを作って相互に影響力を強めています。旗振り役は無論トルコで、特にカザフスタンとウスベキスタンの天然資源が狙いではと言われています。ちなみに上記の機関に紛争当事者のキルギスは含まれていますが、タジキスタンは含まれていません(タジク人はイラン系なので)
      ただトルコはシリア、ギリシャ、アゼルバイジャンの問題で忙しく、中央アジアまで手が回らないのではと考えられています。今回の紛争でエルドアンがタジキスタンを非難しましたが、それだけです。中国の進出が考えられますが、遠距離ならともかく自国近くにこれ以上のイスラムを抱えたくないため慎重になっており、近年は動きが鈍いようです
      中央アジア諸国で一番国力があるのはカザフスタンで、ウラン埋蔵量世界一なのと自分たちはアジア文化よりヨーロッパ文化であるとの意識が強く、欧州の視線を気にしてるそうです。国が巨大化するならまず一番手はカザフスタンでしょう。無論すぐに揉める国内政治をどうにかするのが先ですが
      あとカザフスタンにはバイコヌール宇宙基地があるため、ボストチヌイ宇宙基地が完全稼働するまでロシアは一定の影響力を保持したがると思われます

      10
        • モンパ
        • 2022年 9月 20日

        カザフスタン良いですね。
        カザフスタンがロシアと決別すれば、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンはロシアとの陸路での交通が遮断されます。
        トルクメニスタンだけはカスピ海経由でロシアと繋がることができますが。
        ロシアと決別することができれば、中央アジア四カ国あるいは五カ国の連合というのはありうる。
        もちろんカザフスタンが中心。
        訣別できるか?
        ロシアの力を利用して前大統領を追放し、翌月にはロシアの派兵要請を蹴っちゃうという策士のトカエフ大統領。
        もうひとつ、おもしろいことやってくれんか?

        5
    • らっしー
    • 2022年 9月 19日

    およそ本題からハズレまくりで恐縮だが、
    査察?に来たロシア軍の幹部?が顔も体型もまんまオークやん…って思ってしまった…。

    6
    • 黒足袋
    • 2022年 9月 19日

    ロシア軍の弱体が暴露されるや、中央アジア各地で紛争が勃発し始めている。
    ロシアの勢力を弱めるつもりだろうが、ロシアの周辺国の政治家は、ウソや裏切りは当たり前の狸オヤジ揃いだから、手を出さない方が良いと思う。

    6
      • A
      • 2022年 9月 19日

      まんまアフガニスタン化ですかね。

      1
    • 匿名
    • 2022年 9月 20日

    プーチンって本当に全てを賭けのテーブルに乗せて負けてしまったんだな

    5
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