新華社通信の中国人ジャーナリストは19日「100機以上の小型ドローンを搭載できる空中空母=大型無人機が6月に初飛行を予定している」と報告、South China Morning Postも「無人機空母=九天が6月末までに初飛行を実施し、無人機運用の範囲拡張の土台を築くだろう」と報じた。
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ドローンがどこまで伝統的な戦い方を破壊していくのか見当もつかない
米中央軍の司令官を務めていたマッケンジー米海兵隊大将は2021年2月、シンクタンクでの講演中「ドローンがもたらす脅威は効果的な対抗手段の欠如と相まって即席爆発装置以降、最も懸念される戦術の一つだ」「敵対者が米軍を最も安価に攻撃する兵器はコストコに売っている」「小型ドローンは安価で数を揃えやすく費用対効果の面で敵対者に有利だ」と述べたが、この懸念は2022年に勃発したウクライナとロシアの戦争で現実のものになり、商用ドローン、FPVドローン、光ファイバー制御のFPVドローン、徘徊型弾薬、自爆型無人機は地上戦の形さえ変えてしまった。

出典:Oklahoma National Guard photo by Sgt. Elliott Kim
米海軍はウクライナ侵攻以前から攻撃型原潜に水中発射型UAV=Blackwing(ブラックウィング)の搭載を始めていたが、米陸軍はウクライナ戦争の現実を受け入れて「伝統的な戦力構造」や「既存プログラム」の見直しを開始し、戦術弾道ミサイル=PrSMへの徘徊型弾薬や精密誘導兵器を組み込みを検討するほど戦い方の比重をドローンとAIに移し始めており、西側諸国でも攻撃ヘリ、多目的ヘリ、MQ-9やTB2のようなMALE UAV、様々な地上プラットホームに徘徊型弾薬を統合する流れが加速している。
新華社通信の中国人ジャーナリストも19日「100機以上の小型ドローンもしくは1,000kgのミサイルを搭載して7,000km飛べる空中空母=Jiu tian SS-UAVが6月に初飛行を予定している」と報告、South China Morning Postも「中国の無人機空母=九天(Jiu tian)が6月末までに初飛行を行い、無人機運用の範囲拡張の土台を築くだろう」「この九天は昨年11月の珠海航空ショーでデビューした」と報じて注目を集めた。
九天の基本性能は最大航続距離7,000km、最高到達高度15,000m、最大離陸重量16トン、ペイロード6トンで、8つのハードポイントには有人機向けの兵器システム(PL-12、TL-17、FT-12、LY-V501など)を携行可能だが、九天最大の特徴は機体下部がモジュール方式の多目的スペースになっている点で、ここには最大100機の徘徊型弾薬、自爆型無人機、小型ドローンを搭載して空中発射することができ、沿岸海域から離れた海のど真ん中でドローン群を作り出すことが出来てしまう。
勿論、九天と徘徊型弾薬、自爆型無人機、小型ドローンの組み合わせは技術検証の意味合いが強く、このアイデアが直ぐに実用化されることはないと思うが、米中を含む多くの国が「無人機を遠距離の戦場に投射するアイデア」を追求しており、この技術が将来の戦闘に役立つと考えているのは誰の目にも明白だ。
因みにドローン戦争の当事国であるウクライナ軍の兵士はkyiv Independentの取材に「光ファイバー制御のFPVドローンは電子妨害の影響から解放され、無線制御のFPVドローンでは飛行できなかった地域にもアクセスできるようになった」「ケーブルの長さは10kmが標準で15kmのものある」「まだ20kmのものはテスト中だ」「より長いケーブルがあれば後方の安全な物陰から敵を攻撃することが出来る」と述べ、光ファイバー制御のFPVドローンがもたらした最大の変化について以下のように述べている。
“大きな小屋や倉庫ような建物に侵入し、この中に敵が隠れていないか確認することも、発見した敵を直ぐに攻撃することも出来るのは本当に素晴らしい能力だ。森林地帯での戦闘でも同じことが言える”

出典:АРМІЯ TV
この戦争は当初「第一次世界大戦の塹壕戦によく似ている」と言われていたが、量産化体制が整うと兵士1人への攻撃にFPVドローンを使用できるようになり、もはや前線付近の塹壕や陣地に兵士を詰めて保持するのは人的損失を増加させるだけなので、前線地域のグレーゾーンはドローンで監視し、敵が侵入してくるとドローンで攻撃し、兵士同士の直接戦闘は概ね減少傾向らしい。
無闇に不安を煽るなと起こられそうだが、それでも「地上戦の優位性」がドローン密度に左右されるようになると拠点・陣地制圧の概念、さらに水陸両用作戦にも影響を及ぼす可能性があり、ドローンがどこまで伝統的な戦い方を破壊していくのか見当もつかない。
Part of RMN plan under RMK13 will be procurement of 6 VTOL UAV to be operated out of its surface combattant ships.
Among candidate to be considered will be the AR-36 VTOL UAV marketed by CATIC. A full scale mock up is currently being displayed at CATIC’s LIMA 2025 booth pic.twitter.com/HTszyVVCCP
— Garuda Rajawali (@GardaAramis) May 20, 2025
追記:中国航空工業集団はマレーシアで開催されている防衛装備品の展示会でVTOLタイプの新型無人機=AR-36を公開、Shield AIのV-Batに似たコンセプトだが、プロペラは垂直離着陸用と水平飛行用に別れている。Janesの取材に関係者は「この無人機は軍事及び民間用途に対応している」「既に生産に入っている」「年100機の供給能力がある」と述べている。
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※アイキャッチ画像の出典:Li Zexin
ここまで大型機なら、有人機のように母機ごと撃ち落とせば良いような気がするがどうなんだろう。ウクライナで序盤は活躍したTB2も、今では濃密なSAMを前に手も足も出ない状態だし…
あるいは前線が固定化してSAMやECM装置がスタンバイする前に前線に素早くドローンを供給するような使い方なのだろうか。それなら限られたSAMを防空制圧で一時的に黙らせてしまえば奥地にドローン巻き放題なので結構脅威。
極論、無人機ですし海上で用いるならば艦が搭載してる対空ミサイルより多く突入させればいいんじゃないですかね
デコイや普通の巡航ミサイルと併用すれば不可能ではない気がします
お金…
大量のドローンを、高空から・慣性をつけて発射・射程距離が非常に長くなるうえに、3次元にばらけさせることもできるため厄介でしょうね。
電子戦で対応できるのかなと考えましたが、ロシア=ウクライナを除いて、世界各国の対ドローン電子戦装備部隊が充実しているのか疑問に感じます。
陸上自衛隊=米陸軍の合同軍事演習の時に、米陸軍に電子戦装備の概念がなかったため、(対ソ連を見据えて装備のあった)自衛隊が指導していたエピソードを陸自将軍OBが紹介していたのを思い出しました。
これは凄いなぁと普通に思いますね。思うって言うか感心する。
この空飛ぶ巨大なプラットホームはその性能はともかく「飛んでるだけで価値がある」んです。
落とされない限り。
問題なく機外に放出出来るなら後はそれぞれのドローンが勝手に動いていくだけでしょうし、まして飛びながら外に出すなら発射地点がバラバラになりこれだけで迎撃は難しくなる。そしてこの親機が撃墜されても、人的被害は出ないし、人間が乗ってコントロールするものよりもあれこれオミット出来るでしょうから、一度出来たら後は改良次第でコストも下げられるはずです。
俺は前は中国と米国が激突したらなんやかんやあっても当分は米国が強いままだろうと思ってました。
でもこんなのを出してくるようなら全くわからない。
だとすると、トランプが無茶苦茶やりながらもなんとかして製造業を米国で改めて定着させようというのは、頭のおかしい老人の商業では無いと思います。難しいとか大変だとかでは無く、やらなきゃいけないのでやるんだよ、ってだけなんではないかと。
しかし、こうなると英国やEUが(名目上の盟主は米国で無くてもいいや。俺達は次はそれを中国にするだけだ)と考えていてもおかしくは無く、そしてもしもそうなら欧州や北欧諸国を楽にするためにウクライナを支援する意味は米国には本当に全くない事になります。
実際はどんなものでしょうねえ。
ここまでやるなら、B-21みたいな全翼ステルスにして「無人ステルス無人機母機」にしてしまえば…思ってしまうけど、そこまで行くとコスト面で中国も許容できないのか、アイデアはあるけどまだその時じゃない、のかはたして?
一方米軍は同じ事にCCAを、ロシアは無人化した輸送機を使った、なんてなりそう
ウクライナ戦。ロシアが兵力的に圧倒的優位なのに攻めあぐねてるのは西側が大量のドローン提供してるからでしょ。このドローン地帯を突破すればウクライナ崩れるんで、この戦争の間に、対ドローン戦術も進化してしまうかも