欧州関連

緊張状態が続いたトルコとギリシャ、関係改善に向けてアテネ宣言に署名

トルコのエルドアン大統領は7年ぶりにアテネを訪問、ギリシャのミツォタキス首相やサケラロプル大統領と会談し、エネルギー、貿易、教育、輸送、投資、観光、スポーツといった15分野の合意内容をまとめた「アテネ宣言」に署名した。

参考:Türkiye, Greece seek to turn Aegean into ‘sea of peace’
参考:Μητσοτάκης – Ερντογάν: «Να βρούμε νέους δημιουργικούς δρόμους»
参考:Αμεση ανάλυση – Κ. Φίλης: Το στοίχημα της επόμενης ημέρας

笑顔で握手をしてみせただけだが、戦争に発展するよりはマシな選択だ

トルコとギリシャの間には「キプロス問題」「東地中海のEEZ設定問題」「エーゲ海の領海問題」「欧州に天然ガスを輸送するパイプライン問題」「移民問題」といった問題が山積し、特に両国が自国のEEZだと主張する海域には天然ガスなどの資源が埋蔵している可能性が高く、2020年にトルコが当該海域で掘削調査を強行したため軍事衝突の一歩手前まで両国関係が悪化してしまい、これを契機にギリシャは大幅な軍事力拡張に乗り出すことになる。

出典:w:en:User:Future Perfect at Sunrise / CC BY-SA 3.0左:トルコが主張する6海里 右:ギリシャが将来的に主張するかもしれない12海里

そのため東地中海の軍事的緊張が極度に高まっていたのだが、2022年にウクライナ侵攻、2023年にスーダン内戦、ナゴルノ・カラバフ戦争、イスラエルとハマスの戦争が勃発したため両国を取り巻く状況にも変化が起こり、トルコのエルドアン大統領は7年ぶりにアテネを訪問、ギリシャのミツォタキス首相やサケラロプル大統領と会談し、エネルギー、貿易、教育、輸送、投資、観光、スポーツといった15分野の合意内容をまとめた「アテネ宣言」に署名した。

エルドアン大統領は「我々の間に解決できない問題はない。同じ空間を共有する隣国同士が意見の相違を持つのはごく自然なことで未解決の問題を解決したい。トルコとギリシャは今後の行動で世界に模範を示すことを望んでいる」と、ミツォタキス首相も「我々は平和の中で共存し、既存の相違を明確にし、話し合いで解決策を常に模索し続けなければならない。仮に溝を埋めることが出来なくて緊張や危機を生み出してはならない」と述べており、恐らく両国は周辺一帯の安全保障環境が極度に不安定化したためバランスの調整=状況緩和で意見が一致したのだろう。

出典:Kyriakos Mitsotakis

ギリシャのKathimerini紙は今回の合意について「いつも緊張のスイッチを入れるのはトルコでギリシャの立場には何の変更もない。そして今回も緊張を解いたのはトルコからだ。両国は最近の出来事を忘れ、両国を分断する相違をひとまず棚上げしただけだろう。このアプローチは論理的でアテネ宣言には友好と関係改善へのロードマップが含まれているものの、何十年も解決できなかった問題について協議する環境が整うのかは今のところ不明だ」と指摘して以下のように結論づけている。

“非エスカレーションの維持、協力分野の拡大、情勢の多様化という現実的な目的を完全に達成したためミツォタキス首相とエルドアン大統領の会談は成功といえる。明日以降、トルコ政府の関係者がギリシャを攻撃するのは難しくなるだろうし、ギリシャの主権に対する現実的な動きも出来なくなるだろう。トルコ・リビア協定(トルコが主張するEEZの範囲をリビアが認めるという内容)も発効が難しくなって凍結状態に置かれるはずだ。この状況はキプロス問題に対するトルコ側の動きを抑制するに好影響をもたらすだろう”

出典:Kyriakos Mitsotakis

両国とも諸問題が話し合いで解決すると思っていないものの、現実的な状況に対応する必要性から「笑顔で握手をしてみせただけ」だが、戦争に発展するよりはマシな選択だ。

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※アイキャッチ画像の出典:Kyriakos Mitsotakis

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コメント

    • 古銭
    • 2023年 12月 08日

    エブロス川は……

    3
    • lang
    • 2023年 12月 08日

    トルコが欧州にすり寄ってきたのは経済がやばいのかも

    5
    • イメージパース
    • 2023年 12月 08日

    何日持つことやら

    4
    • 58式素人
    • 2023年 12月 08日

    ”笑顔で握手をしてみせただけだが、戦争に発展するよりはマシな選択だ”
    同意です。この国は暫くの間、内政主体にする方が良いのでは。
    クルド人問題とか。
    アルメニアと中東から手を引いた方が良いのでは。
    北欧は先日の仕打ちを絶対に忘れないだろうし、手前勝手は良くないのでは。

    17
    •  さ
    • 2023年 12月 08日

    ギリシャ側の記事なら、そりゃぁギリシャは悪くないよね?的な論調になるよなぁ
    私的にはギリシャも大概だと思うけども

    6
    • たむごん
    • 2023年 12月 08日

    ヨーロッパの海上交通の要衝ですからね。
    エーゲ海(ギリシャ沖)~ダーダネルス・ボスボラス海峡(トルコ)~黒海・アゾフ海~各国運河

    ドナウ・黒海運河、ライン・マイン・ドナウ運河などがありますから、両国の戦争が始まれば、EUに甚大な影響を受ける事になりますからね(ロシア・ウクライナも勿論です)。
    平和的な解決を模索しているようで、何よりです。

    9
    • 折口
    • 2023年 12月 08日

    東部ウクライナ、パレスチナと来てガイアナそしてエーゲ海となっていたらいよいよ世界大戦と呼ばなければいけないところでしたからね、表面的でも何でも和解は歓迎すべき出来事でしょう。トルコとしては対イスラエル(直接的にはシリア)や対イランが大きな安保上の懸念になってしまっている現状、3つ目の正面であるギリシアとは当面は仲良くしておきたいというところなのかもしれませんね。と言いつつ一銭も払っていなければ一歩も譲歩していないので、エルドアン大統領が何考えてるのかは分かりませんが。

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