韓国防衛産業界は今月19日、ソウル近郊で開幕した防衛装備品の見本市「Seoul ADEX 2021」で新しい装備品や開発計画を発表して世界中から大きな注目を集めている。

FA-50のアップグレード計画をKAIが正式に発表、軽攻撃機のFA-50を真のマルチロール戦闘機に進化させる

まず国産訓練機T-50の軽攻撃バージョンFA-50のアップグレード計画を韓国航空宇宙産業（KAI）が正式に発表、このアップグレードは2022年から実行に移される予定で戦闘能力の向上と航続距離の延長の2本立てで構成されているらしい。

出典： Republic of Korea Air Force / CC BY 2.0離陸中のFA-50

戦闘能力の向上にはマルチモードの新型レーダー、大型コックピット用ディスプレイ、電子戦システム、目標照準ポッド、目標指示に対応したヘッドマウント･ディスプレイ、新型の戦術データリンク、三重の冗長性をもたせたフライトコントロールシステム、空対地巡航ミサイル（ノルウェー製のJSM、トルコ製のSOM、ドイツ製のKEPD350-2、KF-21向けに開発中の国産巡航ミサイルが統合候補に挙がっている）、視界外空対空ミサイルの統合が含まれている。

航続距離の延長は300ガロンのコンフォーマル･フューエル･タンク（密着型増槽/CFT）と空中給油能力の採用が予定されており、英国のジェーンズは「輸出向けに供給される軽攻撃バージョンFA-50を真のマルチロール戦闘機に進化させる」とKAIの関係者が語ったと報じているのが興味深い。

出展：Leonardo S.p.A 軽攻撃タイプのM-346FA

精度の高い情報は無いのだが、マレーシア空軍が発行した軽戦闘機調達の提案依頼書（RFP）は9月末に設定された回答期限を過ぎて6社（韓国のFA-50、インドのテジャスMK.1A、ロシアのMiG-35、イタリアのM-346FA、中国のJL-10、トルコのヒュルジェット）が入札に応じたと言われており、マレーシア空軍が要求している軽戦闘機は訓練機としての役割とF/A-18DやSu-30MKMの戦闘を補完する能力（特に視界外戦闘能力）の両方を求められているためFA-50のアップグレード計画を実行に移すのではないかと思われる。

因みにT-50は派生型のTA-50やFA-50を含むと計208機（内64機が海外輸出分で2021年に計8機の新規受注を獲得している）を量産しており、調達コストは推定2,500万ドル（T-50）～3,500万ドル（FA-50）前後で累計1,000機以上生産された英国のホークと比較すれば足元にも及ばないが、イタリアのM-346を量産数（未納の受注分を含めて140機ぐらい）で上回っているというのは意外な結果だ。

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完全な電動駆動の基本訓練機「Black Kite」を韓国空軍に提案

韓国空軍の次期基本訓練機として韓国航空宇宙産業（KAI）は電動式の複座型航空機を発表、この航空機は「Black Kite/鳶」と呼ばれており最大の特徴は電気で駆動する4つのプロペラを備えている点（最大出力は1,600馬力以上らしい）で、T-50/TA-50やKF-21と互換性のあるデジタルコックピットを採用しているため訓練効率も高く、パイロットの訓練体験を最大化するためAR（拡張現実）やVR（仮想現実）技術も取り入れられるらしい。

完全な電動駆動のBlack Kiteは低騒音で環境にも優しく「燃料を一切使用しないため飛行コストの削減にも期待できる」とKAIは説明しているが、今のところ韓国空軍は現在使用しているKT-1の後継機を要求していないためBlack Kiteは飽くまでKAIによる自主的な提案という位置づけだ。

世界的なトレンドに合わせて無人航空機やエア･チーミングを主役に据えきたADEX 2021

韓国航空宇宙産業（KAI）がADEX 2021で披露した様々な展示物の中には韓国陸軍向けに開発を進めている軽攻撃ヘリコプター「LAH（エアバス製H155をベースKAIが開発）」の無人機バージョンや、FA-50の無人戦闘機化が提案されており、有人のLAHやKF-21とのエア･チーミングを示唆する内容となっている。

特に韓国の防衛事業庁が9月末に公開したKF-21の新しい動画に登場したステルス無人機（K-UCAV/2030年代に実用化を予定）についてもKAIは触れており、この無人機は胴体下部にウェポンベイを備えておりKF-21のロイヤル･ウィングマン（忠実なる僚機という意味）として空対地ミッションを行うことが出来ると説明。

さらにKAIは今年3月にイスラエル航空宇宙産業（IAI）と締結したLAHと徘徊型無人航空機システムを統合するMUM-Tプログラムについても新たなコンセプト動画を発表、韓国軍のエア･チーミング（有人機と無人機の協調能力）がどの様に機能するのかを分かりやすくアピールを行っており、英国のジェーンズは「韓国の無人ヘリはLAHだけでなくAH-64Eともエア･チーミングを実行可能でリスクに晒されるパイロットの命を守ることが出来るだろう」と評価している。

出典：한국항공우주산업 軽攻撃ヘリコプターLAHの無人化バージョン

出典：한국항공우주산업 軽攻撃機FA-50の無人化バージョンとエア･チーミングを行うKF-21

出典：한국항공우주산업 ステルス無人機K-UCAVがウェポンベイからミサイルを発射するイメージ

とにかく数が多すぎるので何とも言えないがADEX 2021では偵察･監視、自爆を含む攻撃用途、輸送用途など様々な無人航空機が大量に出展されており、まさに世界的なトレンドに合わせて無人航空機やエア･チーミングを主役に据えた見本市と言えるのかもしれない。

因みに韓国航空宇宙産業は今年3月の契約に続き「イスラエル航空宇宙産業（IAI）と徘徊型無人航空機システム分野での協力を拡大する契約を締結した」と20日に発表している。

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追記：米陸軍が調達を決定したAIM-9Xインターセプターに似たコンセプトの近距離防空システムをLIG Nex1が発表

韓国は昨年発表した国防中期計画（2021年～2025年）の中で韓国型アイアンドームの開発計画を盛り込んでいたが今年6月に開催された防衛事業推進委員会で正式に開発を進めることを決定、早くも韓国の防衛産業企業「LIG Nex1」が近距離防空システム（C-RAM）のコンセプトモデルをADEX 2021に出展している。

この防空システムは海軍向けに開発した海弓（RIM-116に相当する赤外線誘導とアクティブレーダー誘導に対応した短距離艦対空ミサイル）を流用した構成で、米陸軍がパトリオットシステムの脆弱性（地平線よりも下を移動する目標を迎撃する能力が著しく欠けている点）をカバーするために調達を決定した「エンデュアリング･シールド/Enduring Shield（通称：AIM-9Xインターセプター）」と似たようなコンセプトなので中々興味深い。

ただしLIG Nex1が出展したC-RAMが韓国型アイアンドームの原型なのかは不明。

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※アイキャッチ画像の出典：한국항공우주산업 ステルス無人機K-UCAV