米国関連

再び破られた約束、KC-46Aの不具合解消は2025年から2026年にずれ込む

米空軍は2022年10月「KC-46Aの不具合解消(RVS2.0のリリース)が2024年3月から2025年10月にずれ込む」と発表していたが、ハンター空軍次官補は12日「RVS2.0のリリースが2026年にずれ込む」と明かし、空軍とボーイングは再び約束を破る格好となった。

参考:KC-46’s New Remote Vision System Likely Delayed Until 2026

RVS2.0の開発過程で何が起きているのか、いつ完成するのか、いつ交換が始まるのか

KC-46Aの空中給油システムは信頼性が高いKC-10のものを使用するはずだったのだが、米空軍は予備設計後に空中給油システムの制御をアナログからデジタルに変更するよう要求、未検証の技術で構築されたリモートビジョンシステム(RVS1.0)は新規設計と呼ぶに相応しいものだったにも関わらず、予備設計の審査を簡略化して初期設計に移行し、プロトタイプのテスト中に報告された不具合も軽視し調達を強行した結果、RVS1.0の不具合で空中給油能力が制限される事態に直面。

出典:U.S. Air Force photo/Airman 1st Class Colby L. Hardin 3Dメガネを装着してRVSを操作する様子

この不具合は小手先の修正で何とかなる問題ではないと判明し、米空軍とボーイングはRVS2.0開発を決定して「2024年3月から交換作業に入る」と発表したものの、1から作り直すRVS2.0には未検証の新技術(自動空中給油システムなど)が含まれており、これを標準的な手順で検証すればリリースは2026年頃になると予想されていたものの、空軍とボーイングはスケジュールを守るため再び予備設計の審査を簡略化し、米政府説明責任局から「再び同じ失敗を繰り返そうとしている」と警告されていた。

交換時期を2024年3月に設定したのは「ブリッジタンカーの入札」が関係しており、空軍は「予備設計の段階で完全なプロトタイプによる入念な検証は現実的でない」「初期設計後の通常試験でRVS2.0のテストを行うため問題はない」と主張、米政府説明責任局は「未成熟なRVS2.0の問題を予備設計の段階で潰した方がコストと開発スケージュールを節約できる」と反論したが、空軍は警告を無視して「予備設計審査の完了」を宣言したものの2022年10月「KC-46Aの不具合解決が19ヶ月遅れる」と発表。

出典:U.S. Air Force photo by Chustine Minoda

空軍とボーイングはRVS2.0のリリースが2024年3月→2025年10月にずれ込む理由について「一部のハードウェアの入手性が極端に悪化しているため」「耐空証明を取得するプロセスも原因の一つ」と説明していたが、ハンター空軍次官補は12日「RVS2.0のリリースが2026年にずれ込む可能性が高い」と明かして注目を集めている。

ハンター空軍次官補は開発遅延の原因について「スケジュールに対するプレッシャー」と「耐空証明を取得するプロセス」に言及したものの、これ以上の詳細については口を閉ざしており、空軍もボーイングも沈黙したままだ。

RVS2.0の開発過程で何が起きているのか、いつ完成するのか、いつ交換が始まるのか、恐らく空軍やボーイングでさえ良く分かっていないのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Airman 1st Class Joshua Hastings

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コメント

    • 匿名希望係
    • 2024年 3月 14日

    エアバスさんや給油システムだけ売却するきない?

    6
      • 名無し
      • 2024年 3月 14日

      「今ならA330MRTTが漏れなく付いておトクですよ!」

      17
        • 戦略眼
        • 2024年 3月 14日

        by ロッキード・マーティン

        0
    • ブルーピーコック
    • 2024年 3月 14日

    テキトー男な夫(ボーイング)
    ワガママな妻(空軍)
    割りを食う子供(KC-46)

    16
      • 名無し
      • 2024年 3月 14日

      ボーイングが全面的に悪いかとおもってたら、鬼門の全自動給油システムつけろと言ったのは、空軍だったのか。

      16
      • Whiskey Dick
      • 2024年 3月 14日

      後付けによる費用は上昇するかもしれないが、ガワだけでもKC46Aに更新して給油システムは従来のものを使用→新方式はテスト用機体で入念に欠陥を潰した後、量産型KC46Aに導入するということは出来なかったのだろうか。KC135はそろそろ機体寿命を迎え、運用コストが増大しているのだから後付け方式でも総合的な費用は削減できるはず。
      (海軍の電磁式カタパルトでも同じことがあった、なお中国は地上及び実験船で入念にテストしているとのこと)

      8
        • ブルーピーコック
        • 2024年 3月 14日

        本来はF-16やM1エイブラムスのように、そうすべきなんでしょうけどね。KC-46BとかCからは別物みたいな。
        効率やコストを追い求めた結果、逆になってる感が否めないんですよね。

        16
    • すえすえ
    • 2024年 3月 14日

    さすがにひどいと思ってたけど
    改めてひどいw

    でも評価は下がらないもともと最低だったから

    31
    • kitty
    • 2024年 3月 14日

    3Dメガネが使われているのがよくわかる写真ですね。
    しかし、逆に言えば属人的な職人芸が必要とされる作業だと言うことですね。
    もう何かオートでできるような仕組を考えれば良かったのに。

    4
    • 牛丼チーズ
    • 2024年 3月 14日

    これ日本も導入するんだよなぁ…
    運用実績が無いからとA330MRTTを候補から外したのは失敗だったのでは

    4
      • Minerva
      • 2024年 3月 14日

      A330はボーイング767より一回り大きな機体なので運用する飛行場が制限される
      単純に導入できる機体ではない

      16
    • DEEPBLUE
    • 2024年 3月 14日

    ボーイングの告発を予定していた元関係者が不審死とか、そんなのばっかりですね

    12
      • 朴秀
      • 2024年 3月 14日

      ボーイングは航空機の設計と開発と生産以外は得意なんですねえ

      10
    • daishi
    • 2024年 3月 14日

    KC-46Aは
    ・KC-767ATのリース提案・実質ボーイング1社指名による調達公平性の問題で議会で揉めて延期
    ・日本・イタリアに輸出したKC-767とあまり変更がないので問題はないと米空軍とボーイングがテスト簡略化を主張、議会が通す
    ・延期ついでに米空軍が色々ほしいこと詰め込んでテスト簡略化
    ・テストが雑で問題噴出
    という流れで良かったんでしたっけ。
    今より先進的ではないかもしれませんが、最初からKC-767ATを普通の契約で提案、ちゃんと入札してれば機能追加も最小限で影響少なかった可能性もあったのではないかと思うと「Oh…」としか言えないですね。
    軍縮時は開発そのものの機会が減るので機能追加満載になるのは宿命ではあるのですが。

    4
    • nachteule
    • 2024年 3月 14日

     KC−135の無人化計画で給油もミッションの内に入っていたと思うけど、RVS2.0が物にならない事には先に進まないんじゃないだろうか。それとも別の技術で無人給油するんだろうか?

      • 航空万能論GF管理人
      • 2024年 3月 15日

      あれはKC−135に自律的な無人飛行能力を付与するためのデモンストレーション(基本的な空中給油操作の有効性を披露することも含まれる)で、空軍が次期空中給油機の要求要件を策定するための性格が強く、現時点で実用化に直行するような話は登場していません。

      RVS2.0に含まれる未検証の新技術として言及した自動空中給油システムは、RVS2.0のリリースと共に自動空中給油システムが提供されるという意味ではなく、RVS2.0の拡張性として自動空中給油システムに関するものが組み込まれるというニュアンスです。

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