米陸軍が開発を進めているブースト・グライド・ビークル搭載の極超音速兵器「Dark Eagle」は能力実証で躓いており、陸軍のブッシュ次官補も「会計年度内の実戦配備は困難になった」と述べたが、追加テストを行うことで年内配備を目指すと付け加えた。
参考:US Army’s Dark Eagle hypersonic weapon fielding delayed to year’s end
陸軍の調達責任者は主要テストのデータがないままHGVの製造に深入りしてはならないと警告
米国はブースト・グライド・ビークル(HGV)搭載の極超音速兵器開発でロシアや中国に遅れをとっており、このギャップを埋めるため米空軍は「2022年までにARRW(AGM-183A)を実用化させる」と、デジタルエンジニアリング採用を主導した当時のローパー空軍次官補も「従来プロセスで開発すれば初期作戦能力の獲得は2027年になるが、デジタルエンジニアリングを採用して開発すれば僅か4年で実戦配備できる」と豪語していたが、量産移行に不可欠な試射が尽く失敗して性能確認が出来ない問題に直面。
2022年5月と2022年12月に試射で成功して量産移行への希望が見え始めていたが、ケンドール空軍長官は2023年3月の試射が再び失敗したため「あと2回行う試射の結果を元に2025会計年度予算でARRWプログラムを継続するかどうかを決めることになるだろう」と言及、試射の結果によってはARRWの開発中止もあり得ると示唆したものの、ハンター空軍次官補は下院軍事委員会に提出した報告書の中で「プロトタイプのテストが終了してもARRWを調達するつもりは今のところない」と明かしたため、空軍は事実上「問題だらけのARRW」を見捨てた格好だ。
米空軍が進めていた極超音速兵器の早期実用化は暗礁に乗り上げたが、米陸軍と米海軍は極超音速兵器「Dark Eagle(Long-Range Hypersonic Weapon=LRHWとも呼ばれている)」の開発を進めており、米陸軍はDark Eagleランチャーのプロトタイプを受け取って運用部隊を創設済み、米海軍はDark Eagleを「Intermediate-Range Conventional Prompt Strike=IRCPS」としてズムウォルト級駆逐艦とバージニア級原潜に採用予定で、ズムウォルト級駆逐艦にDark Eagleを挿入するための改修工事も開始されているものの、こちらも実用化が怪しくなってきた。
昨年実施されたIRCPSの試射は飛行中の異常でデータの一部が収集できず、今年3月のDark Eagle試射は技術的な問題(バッテリーの不具合)で中止、9月6日に予定されていた試射も直前で中止されたため「年内のDark Eagle実戦配備は怪しくなってきた」と報じられていたが、陸軍で調達を担当するブッシュ次官補も18日「9月に予定されていたテストは“開発段階”ではなく“運用能力の実証”に近く、2023会計年度内のDark Eagle実戦配備は困難になった」と言及。
さらにブッシュ次官補は「Dark Eagleを2023年末までに実戦配備するため追加テストの実施を検討中だ」とも述べており、米ディフェンスメディアは「会計年度内の配備は達成できない見込みだが、陸軍は年末までにDark Eagleの提供を目指している」と報じているが、ブッシュ次官補は「Dark Eagleが設計通りに機能し、運用に携わる兵士の安全に確信が持てるまで実戦投入する気はない」とも付け加えている。
因みに陸軍の調達責任者を務めるラッシュ中将は「少しでも早くDark Eagleを手に入れるため陸軍はテストと製造を同時並行で進めており、既にハードウェアの一部を製造している。しかし設計の正しさを裏付ける主要テストのデータがないままHGV(Dark Eagleの弾頭部に搭載されるブースト・グライド・ビークルのこと)の製造に深入りしてはならない」と警告している。
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※アイキャッチ画像の出典: Lockheed Martin
データがないなら、とにかく撃って撃って撃ちまくって経験値を稼ぐしかないのでは
中国はそうやって、極超音速兵器の実用化に成功したんでしょう
ここに来てデータを得るのにケチってどうするのか…
予算は有限ですからデータを集めるのにも限界があるのでしょう。
いくら軍が予算が必要だと主張しても実際に予算を決めるのは議会ですし。
デジタルエンジニアリングってベトナム戦争時のミサイル万能論と同じヤバさを感じる
魔法の杖じゃないんだから、新技術と机上のシミュレーションだけで現実がその通りに動くわけがない
将来的にはともかく現段階では過去のデータの蓄積だけじゃまだ足りないってことなんだろけど
いや日本の民間でも普通に使われて3Dプリンタ併用して開発期間の何割かの短縮、とかは十分できてるんですよ。
問題はその辺すらデジタル上で済ませて何倍もの期間短縮とかを目指しちゃってるところで、モデルやデータが十分に整うン十年後はともかく現状ではまだまだそこまでは難しい、って事じゃないかなぁ。
デジタルセンチュリーシリーズとかいうヤバそうな計画もありますあります
F-35なんか遅れに遅れまくっても諦めずに開発を続けたのに、早々に諦めるのでしょうか?
ロシア・中国のミサイル防衛技術を甘く見て、切迫感が足りないのかも。
F-35は一応国際開発ですからね
旗振り役のアメリカが一抜けたするわけにもいかなかったのでは?
仮に開発が完了しても量産までに時間がかかりそう
つまり、まともな配備はまだまだ先
増して海外配備などいつのことやら
この分野に関してはメッチャ遅れてるなアメリカ
そんなに技術的に困難なんか?
ある意味正直に結論を言っているだけではないかと?
失敗作や未完成兵器をパレードに出す陣営と議会から突っ込まれる陣営の違いだと思いますが
すっ転んでるのが母機からの分離だのバッテリーだの、極超音速での滑空とか推進とはあんまり関係ない部分だからなぁ。
それはそれでどーなんだ、とも思うけど。
この分野に関しては中国側が堅実なのがなあ
本邦の「島嶼防衛用高速滑空弾」を輸出できればよいですね。最初から欲張ってなかった分、開発は順調に
進んだように思えるけど。
ウクライナに投入されたキンジャールが思ったより大した事なかったのも向かい風でしょうか。極超音速兵器はヤバイ強いという前提が崩れてどのくらい効果があるのかという議論からやり直しもありうる
SpaceXがデジタルエンジニアリングにあたるかわからないですが、
開発速度を上げてその分で「とにかくたくさん試して」成功に近づける、に見えます
予算や期間を短縮する手法ではないような
この手の長距離誘導弾、最近では日本のほうが上手くやってない?
それにしても動力車と離れたミサイルランチャーってのは何か理由があるのだろうか。逃げるのに連結作業の無駄ができるからかなりの時間がかかりそうだが。