ウクライナ戦況

米国とイスラエルが協議中、最大8つのパトリオットシステムがウクライナに移転される可能性

Financial Timesは27日「米国、イスラエル、ウクライナはイスラエルが保有するパトリオットシステム(8セット)のウクライナ移転を協議中だ」と報じており、これが実現するとウクライナの防空能力が劇的に向上し、久々に戦場の様子が大きく変わるだろう。

参考:US in talks to send Israel’s Patriot systems to Ukraine
参考:Израиль передаст Украине системы Patriot. Решение вот-вот примут, – источник

バイデン政権はロシアとイランが急速に接近していることでネタニヤフ政権を説得しようとしている

米国のパトリオットシステムは1991年の湾岸戦争中にスカッドミサイルの一部迎撃に成功、イスラエル国防軍もパトリオットシステムの運用を開始したが「直面する脅威」と「能力」が一致せず、独自の要求要件に対応したIron DomeやDavid’s Slingなどを開発して多層式の防空レイヤーを構築したため、パトリオットシステムの使用は過去十年間で10目標(2018年のシリア軍機撃墜を含む)の迎撃に留まり、同システムを運用する部隊の機種転換が進められていた。

Times of Israelは4月30日「イスラエル空軍は数ヶ月以内に埃を被っていたパトリオットシステムと別れを告げ、より先進的な防空システムに移行する」「ウクライナがパトリオットシステムを求めている中で、イスラエルが手放すパトリオットシステムがどうなるかは不明だ」と報じていたが、Breaking Defenseは5月1日「ウクライナがパトリオットシステムの追加提供を求める中、イスラエルが手放すシステムがウクライナに向かう可能性は低い」と指摘。

Breaking Defenseの取材に応じたエルサレム戦略安全保障研究所のエフライム・インバール副所長は「パトリオットシステムの売却には米国の許可が必要で、これを米国に売却すれば別の場所に向かうことも可能だが、そんなことをイスラエルがするとは思えない。ウクライナに同情していないからではなく、ロシアがイスラエルの国益に反した行動(シリアやイランに対する軍事面での支援強化)に出ることを恐れているのだ。イランに支援されたヒズボラとの深刻なエスカレーションを懸念している時期に、このような変化が起こるわけがない」と述べた。

出典:Kremlin.ru / CC BY 4.0

ユダヤ人政策研究所のヤーコプ・カッツ研究員も「イスラエルはウクライナに武器(ミサイル防衛を含む)を提供しないという原則を貫いてきた。それを今になって変更し、イランに先端兵器を提供する口実をロシアに与えるとは考えにくい」と述べ、両者とも「イスラエルの安全保障に与えるロシアの影響力」を理由に「手放すパトリオットシステムがウクライナに向かうことはない」と主張していたが、Financial Timesは27日「米国、イスラエル、ウクライナはイスラエルが保有するパトリオットシステム(8セット)のウクライナ移転を協議中だ」と報じている。

Financial Timesは「3ヶ国の大臣や政府高官の間で協議が行われており、まだ最終決定に至っていない」「イスラエルはシリアに影響力をもつロシアを刺激するウクライナ支援に慎重な立場だが、バイデン政権はロシアとイランが急速に接近していること、特に軍事協力の分野で差し迫った懸念があること主張してネタニヤフ政権を説得しようとしている」「もし合意が成立すればパトリオットシステムは米国経由でウクライナに送られる可能性が高い」と言及。

出典:U.S. Army photo by Eugen Warkentin

イスラエルが保有するパトリオットシステムは弾道弾迎撃に対応したPAC-3ではなく、限定的な弾道弾迎撃に対応したGEM-Tバージョン=PAC-2で、どちらかと言うと航空機や巡航ミサイルの迎撃に効果的なシステムだが、Financial Timesの取材に応じたアナリストは「イスラエルはウクライナが必要している迎撃弾(パトリオットシステムで使用するGEM-T弾)を相当量もっている」と述べており、パトリオットシステム×8セットと十分な量のGEM-T弾が移転されればウクライナの防空能力は劇的に向上する。

3ヶ国の協議は最終決定に至っておらず、パトリオットシステムのウクライナ移転はイスラエルの対ロシア関係を考慮すると政治的ハードルが高く、仮に合意が成立しても8セット全てがウクライナに移転されるかどうか不明だが、これが実現すると久々に戦場の様子が大きく変わるだろう。

追記:RBC-Ukraineはイスラエル国防軍筋の話として「先週にウメロフ国防相とガラント国防相が会談し、イスラエルが保有するパトリオットシステムを米国経由でウクライナに供給する可能性を協議した」「まだ最終決定は下されていないものの近いうちに決定は下される」「ガラント国防相はパトリオットシステムの移転について『決定はレバノンとの本格的な戦争が勃発するかどうかに左右される』と述べた」と報じている。

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※アイキャッチ画像の出典:IDF Spokesperson’s Unit / CC BY-SA 3.0

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コメント

    • 古銭
    • 2024年 6月 28日

    交換条件もしくは問題となっているのはイランやレバノンというより今続いている戦争関連な気はしますが、可能性が生まれたというのは重要なことでしょう。

    8
    • baka
    • 2024年 6月 28日

    昨日もF16に使用されると言う飛行場をロシア軍がミサイル攻撃を行ったそうですが
    ウクライナはほぼ全てを撃ち落とし、唯一超音速だけは無理だと言ってました
    真実は解りませんが、ミグの爆撃があると定期的にこの飛行場を攻撃してるみたいです
    前線でのウクライナ側の損失が、ウクライナ発表の3万7千とある情報筋の180万の違いを
    コメントで指摘されてる人がいるのですが、その方によると前線で命令無視による
    勝手に撤退してる大隊が6から8はいるそうで、大型のFABによる影響も出てきてるみたいです
    ゼレンスキー?氏か解りませんが和平交渉に早速移らないと数ヶ月で多くの物を
    又失うので、ロシアとの交渉に入るべきだと訴えてるとか?
    外国の方の戦況図を翻訳で見てるだけですので真意は解りませんが
    ハリコフの攻防もウクライナが押してるよりも被害が大きくなってると指摘されてる
    通りになってるみたいなので

    13
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2024年 6月 28日

    必要性は理解できるけど、被侵略国が侵略国から防衛用兵器を貰おうとする事の是非はどうするんでしょうね?

    16
      • nachteule
      • 2024年 6月 28日

       その基準でNATOの国々は侵略国にあたらないと?

      5
        • 牛丼チーズ
        • 2024年 6月 28日

        逆に聞きますが、あたると?

        5
        • 理想はこの翼では届かない
        • 2024年 6月 28日

        NATOは「侵攻」はしたことがありますが「侵略」はしてないんですよ

        侵攻…領土内へ攻撃すること
        侵略…領土を攻め取ること

        言葉遊びや建前ではあるのですが、ユーゴスラビア紛争は侵攻であって侵略では無いのです

        14
      • せい
      • 2024年 6月 29日

      被侵略国に是非を問われる余裕があると?

      3
    • emp
    • 2024年 6月 28日

    ロシアはイランにSu-35を売るって契約があったはず
    そうでなくとも、大量のドローンやミサイルの対価が民生品だけとは思えない
    イスラエルなら対価を掴んでそうだし、その報復としてならパトリオットをウクライナに遅れるんじゃ無い?
    こういう時真っ先にやり返すのがイスラエルのやり方だと思ってたけど

    8
    • たむごん
    • 2024年 6月 28日

    本当にできるのか興味深いですね。

    米軍も、中東地域で攻撃されている訳ですから、(駐留米軍にもニーズがある中で)パトリオット移転を決断するのか注目したいと思います。

    5
      • あるまじろ
      • 2024年 6月 28日

      米軍が、必要なら、さっさと本国から輸送して配備するんじゃない?

      4
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