米国関連

米海軍のボクサーが故障続きでノックアウト、復帰は2026年秋になる見込み

オーバーホールを終えたワスプ級強襲揚陸艦「ボクサー」は故障続きで、4月に故障した舵の修理について「夏頃に復帰する」と発表されていたが、米海軍は頻発する故障を根本的に解消するためドック入りを計画しており、ボクサーの復帰は2026年10月になる見込みだ。

参考:N00024-25-R-4428 USS BOXER (LHD 4) FY25 SRA
参考:Amphib Boxer soon to be sidelined again for 18 months of maintenance

本当に戦える状態でリングに戻ってこれるのかは誰にもわからない

オーバーホールを終えたワスプ級強襲揚陸艦「ボクサー」は1年以上も港に係留されたままで、Military.comは3月「3つの異なる工学的故障、手続き厳守の欠如、監督不十分、乗組員の怠慢でボクサーは運用できない状況にある」と報じて注目を集めた。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Roland Ardon

海軍海洋システムコマンドはオーバーホールのスケジュールとコストを圧縮するため「請負業者の作業チェック」を省略し、取り付け位置を間違った蒸気タービンエンジンの強制通風ファンが2022年11月8日に故障、乗組員が定められた手順を厳守しなかったため2023年5月14日にボイラーが故障、2023年7月11日には潤滑油がないまま作動させた減速機が故障、さらに海上試験を行うため8月11日に出港したものの「何らかの工学的な故障が発生した」と宣言して港に戻ることになった。

この件を調査した報告書は「機関部の上級士官は減速機の事故を24時間以上も艦長に報告せず、全ての事故に立ち会っていた勤続27年以上の技術士官も何も出来ず、技術部門を取りまとめる下士官も配属されておらず、機関部では下士官が関与した暴行事件も発生していた」と指摘していたが、ボクサーは展開準備のため2024年4月1日に出港したものの、カリフォルニア沖でMV-22Bの受け入れ中に再び故障してしまう。

出典:U.S. Navy Petty Officer 2nd Class Connor Burns

USNI Newsはボクサーの故障について「海軍は追加メンテナンスを受けるためサンディエゴに戻ったと説明した」「ボクサーの故障は舵に関連したものだ」と報じ、匿名の国防当局者も「(ボクサー配備が遅れているため)予定されていた作戦や演習が台無しになり、インド太平洋地域の作戦担当者はフラストレーションが溜まっている。海軍は国防総省の誰かがクビになるまで壊滅的な保守管理を受け入れ続けるのだろうか?」と述べていた。

USNI Newsは4月30日「右舷側の舵とベアリングに問題が生じている」「海軍はボクサーの乾ドック入渠を検討したもののBAEのサンディエゴ造船所には空きがなく、ポートランドにあるVigorの造船所にボクサーを移動させるにはウィラメット川にかかる橋が障害となった」「そのためダイバーによる水中での修理を選択した」「この修理には最大2ヶ月ほどかかる見込み」「海軍は今回の故障原因が材料、部品、施工の欠陥にあるのか調査を行っている」「今回の故障が2023年7月の減速機故障と関連があるのかは不明だ」と報じていたが、どうやらボクサーは頻発する故障にノックアウトされてしまったようだ。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class James Finney

米海軍は2025年4月から2026年10月までの予定でボクサーのメンテナンス(舵の故障とは無関係)を実施できる請負業者を探しており、Breaking Defenseも30日「海軍はボクサーの問題を水中修理で何とかしようと考えていたが、現在は問題の多い同艦を18ヶ月間ドック入りさせる計画を立てている」と報じている。

2026年10月に海に戻れたとしても最後の配備から6年以上も時間を無駄にする格好で、本当に戦える状態でリングに戻ってこれるのかは誰にもわからない。

関連記事:故障続きの米強襲揚陸艦ボクサー、乾ドックに空きがなく水中修理を選択
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy Photo by Seaman Trevor Welsh

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コメント

    • 朴秀
    • 2024年 5月 31日

    中国「なにもしてないのに壊れた」

    40
      • sada
      • 2024年 5月 31日

      キアサージやジョン・F・ケネディが燃えた2020年頃は、中国の仕業を疑う声がこの掲示板にも居たようですが、
      隔世の感がありますね

      27
        • 2024年 5月 31日

        メッキが剥がれまくり

        17
    • 2024年 5月 31日

    格下の弱小国や貧乏ゲリラとばっかり戦争してたから気が緩みまくってんだろ
    平和ボケしてるのは日本だけではなかったのだ

    49
      • ふむ
      • 2024年 5月 31日

      ガザに救援物資送ると言って作った桟橋も壊れたようですし、なんかガタガタですねアメリカ…

      27
      •   
      • 2024年 5月 31日

       戦争沢山しているのに平和ボケとは、不思議な言葉。戦争ボケって無いのかな。

      5
    • nnm
    • 2024年 5月 31日

    「本当に戦える状態でリングに戻ってこれるのかは誰にもわからない。」

    ボクサーなだけにですか

    50
    • きりる
    • 2024年 5月 31日

    一通りメンテナンスが追いつくまで日韓に頭下げるしかないな
    機密性の低い艦は腹括って民需やってるとこに投げる

    大島に身売りした長船の乾ドック(400mと1km)あるし
    相手がバラ船なら違約金積めば割り込めるだろ

    11
    • 58式素人
    • 2024年 5月 31日

    珊瑚海海戦後のヨークタウンの修理作業とは隔世の感がありますね。
    当時は3ヶ月予定の修理を3日の緊急修理で終わらせたそうですが。
    余計なことですが、ボクサーの機関出力は70,000hpだそうですが、
    これを受け止められる軸受は民間船にはないのかな。
    タンカーかコンテナ船にありそうな気がするのですが。
    もひとつ余計に、真珠湾か横須賀に回航しては?。

    4
      • daishi
      • 2024年 6月 02日

      民間修理だとこの辺が課題ですね。
      ・ボイラー・蒸気タービン艦は新造船がなく修理ノウハウを持つ所が限られる (現行船はディーゼル機関かガスタービン)
      ・タンカーやコンテナ船は速度が割と遅めで船体規模に対して機関出力が小さい (燃費対策)

      戦闘艦に求められるものと商用船に求められるものが違う上にボイラー周りのノウハウを持つところが限られるので、ガスタービン採用のワスプ級最終艦のマキン・アイランド以外はドックはあっても修理ノウハウをどうするか、が問題ですね。

    • もへもへ
    • 2024年 5月 31日

    軍需の需要が割とあるアメリカがこの惨状だと、造船業が割と生き残ってる日韓除いた西側諸国(特に欧州)ってもうまともに海軍の運用できないじゃないか疑惑が湧いてきそう。

    29
    • AH-X
    • 2024年 5月 31日

    日韓の造船所に委託って言っても両国ともに蒸気タービン艦は退役してますからメンテは難しいかもしれません。

    10
    • たむごん
    • 2024年 5月 31日

    アメリカ海軍、弱くなりましたね。
    造船業など、製造業の基盤が弱くなっているのでしょう。

    ベアリングは消耗品のため、下記どれがボトルネットなのか考えていたのですが、どちらかと言えば全てなのかもしれませんね。
    ・取り外しに時間がかかる
    ・交換品が予算不足で買えない
    ・交換品が特注のためすぐ製造できない
    ・そもそも購入したベアリングの精度が悪かった

    >「右舷側の舵とベアリングに問題が生じている」

    6
    • Rex
    • 2024年 6月 01日

    ネットとか金融業に全振りしてたツケが来たな。
    国家の基盤である産業を蔑ろにしすぎた。

    4
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