欧州関連

EUがウクライナ向け砲弾の共同購入で合意、払い戻し対象は欧州製砲弾のみ

EUは3日「ウクライナ向け155mm砲弾の共同購入について合意した」と発表、欧州平和ファシリティ(EPF)の払い戻し対象になる砲弾は欧州製に限定されたものの、砲弾製造に必要な部品の域外調達を容認する内容だ。

参考:EU member states reach deal on joint ammunition procurement for Ukraine

今度は労働力の確保が課題、EUは加盟国に「夜間労働を制限する規制」の緩和や免除を提案

レズニコフ国防相はEU加盟国に宛てた書簡の中で「ウクライナ軍が1ヶ月間に発射する砲弾量(平均11万発)はロシア軍の1/4(平均45万発)に過ぎず、月25万発の砲弾供給してほしい」と要請、これを受けてエストニアは2月「年内に100万発の155mm砲弾を提供するべきだ」とEUに提案、最終的にEU加盟国は3月末「今後12ヶ月間で100万発の155mm砲弾を供給する」という政治的合意を発表したのだが、この取り組みは3つのステップで構成されていて各国の利害対立に巻き込まされていく。

出典:Сухопутні війська ЗС України

この合意は「①砲弾の即時納入に10億ユーロ、②砲弾の共同購入に10億ユーロ、③砲弾生産の増強」の3つのステップで構成され、①の取り組みでウクライナに提供された砲弾は4.1万発(内1.3万発は未着)に過ぎず、②の取り組みは「欧州平和ファシリティ(EPF)」の資金による払い戻し対象をEU域内に限定するか、EU域外からの調達にも適用するかで加盟国が対立。

EU加盟国は砲弾の共同購入としてEPFから10億ユーロの支出を承認(購入費用の50%~60%を払い戻す内容)したが、フランスは「EPFの資金はEU域内の契約に限定されるべきだ」と主張、しかしポーランドやエストニアは「調達性を優先してEU域外の企業にも契約を解放するべきだ」と主張して対立、議長国のスウェーデンが調整に奔走して「払い戻しの対象はEU域内で製造された砲弾に限定」されたものの、砲弾製造に必要な部品の域外調達を容認する内容で決着した。

出典:Rheinmetall Denel Munition

要するにEU域外から「砲弾本体や炸薬」を調達してEU域内で組み立てると払い戻し対象に含まれるが、韓国や南アフリカから「完成品」を輸入しても払い戻し対象にならないという意味だ。

不透明だった③の取り組みについてもスウェーデンは「砲弾生産の増強に計10億ユーロ(EDFとEDIRPAから5億ユーロ+民間部門の基金から5億ユーロ)を投資する=払い戻し割合は最大40%」と発表、つまり今回の合意で欧州の防衛産業界には「60億ユーロ以上=9,000億円以上」の資金流入をもたらすが、本当に砲弾100万発を12ヶ月間以内に供給できるかどうかは「労働力の確保」に懸かっているらしい。

出典:U.S. Marine Corps photo by Sgt. Andy O. Martinez

EUは加盟国に「夜間労働を制限する規制」の緩和や免除を提案しており、資金が確保されても防衛産業界の生産体制を戦時に移行できなければ「砲弾100万発の供給」は絵に描いた餅で終わる可能性がある。

因みに今回の合意は5月5日までに加盟国が異議を唱えなければ正式に発効する。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Sgt. Victor Everhart, Jr.

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コメント

    • ガタイ
    • 2023年 5月 04日

    なぜ実現不可能な目標を発表してしまうのか(呆れ) しっかりと生産能力を考慮して、少なくても確実に送った方が頼りになると思うんだが

    5
      • 名無し
      • 2023年 5月 04日

      いつものEUじゃん
      ついこの前も実現不可能な脱炭素政策を転換して合成燃料okにしたしな(その合成燃料もコスト考えたら出来るわけがない)
      どう考えても実現不可能な目標でもEUが発表すれば両手を挙げて礼賛する左翼という名の馬鹿が世界中にいるから手に負えない
      言っちゃ悪いけどEUが自分で掲げた目標を達成してるとこを見たことがない
      あるとすれば軍縮くらい?
      良い加減学習しろよって話だよなぁ

      22
    • 2023年 5月 04日

    今ある砲弾を部品一つ外して輸出したら儲かるのかな?

    関連記事の数がすごいです

    2
      • 戦略眼
      • 2023年 5月 04日

      弾殻や装薬をバラバラで輸入するのではなく、溶塡した状態で、持って来れればいいですね。

      2
      • hiroさん
      • 2023年 5月 04日

      昔のことですが、中国で製造した機器を日本で検査·梱包だけしてMADE IN JAPANとして販売するメーカがありました。
      法的に問題無いと言っていましたがどうなのだろう?

      2
    • general
    • 2023年 5月 04日

    いい妥協点なんじゃないかな

    4
    • 名無しさん
    • 2023年 5月 04日

    そもそも安全性や労働者の確保の問題があるから、欧州企業も域外での生産を始めたはず。
    労働力も生産設備も足りていないのに欧州生産に拘るが、肝心のフランスには満足な生産力もない。
    (おそらく労働者も権利意識が強いので満足には集まらないでしょう。)

    欧州域内に拘ろうが、域外を認めようが、ドイツ企業にお金が入るか入らないかの違いでしかないと思いますけどね。

    4
      • nachteule
      • 2023年 5月 05日

       肝心のフランスに満足な生産力が無いデータは?作っているのはNexterグループしかないはずだけどNexter Munitionsと別のグループ企業?の2カ所で生産している量が分からない事には足りないか足りるとか言えないでしょうに。
       確かにここ1年以内に公開されたカエサル生産ラインは平時レベルで職人が必要な1部品の製造期間が一番ネックになっている感じで緊急の需要増には対応出来そうに無いと思ったが。

       あと何で砲弾製造しているのがラインメタルだけみたいな話になるの。記事に出ているスウェーデンだって実績からして投資先はラインメタルじゃなくて自国のSAABでしょ、もしくはBAE Systems Boforsか両方か。

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