欧州関連

ドイツはF-35A導入に傾きつつあり、フランスとボーイングが打撃を受ける

ドイツは米国との核兵器共有協定を維持するためF-35A導入に傾きつつあり、次期戦闘機を共同開発するフランスやF/A-18E/F受注を期待しているボーイングが打撃を受けるだろうとロイターが報じている。

参考:Germany eyes Lockheed F-35 fighter jet; no final decision

ドイツがトーネードの後継機にF-35Aを導入するのはほぼ間違いので今後はF-35Aを何機導入するのかに注目が集まる

ドイツのメルケル政権は米国との核兵器共有協定(ニュークリア・シェアリング/NS)を維持するため核兵器の運搬能力を統合されたトーネードの後継機にF/A-18E/Fを導入(トーネードECRの後継機にはEA-18G、トーネード IDSの後継機にはタイフーンを導入)すると決断したが、この決定に反対する国内勢力との調整に手間取っている内に米国家核安全保障局が戦術核兵器B61/Mod12の統合機種からF/A-18E/Fを除外してしまい、新たに誕生したショルツ政権はF-35AとタイフーンECR/SEADの導入を行うよう1月に指示したと報じられていた。

出典:public domain ドイツ空軍のトーネード

ダッソーの最高経営責任者を務めるエリック・トラピエ氏は「ドイツがNATOの核協定維持のためドイツが米国製戦闘機を導入するのはプログラムに悪影響を与える=なし崩し的にドイツがF-35A導入規模を増やせば次期戦闘機の導入時期にズレが生じたり、スペインがレガシーホーネットの後継機にF-35Aを選択するのを反対できなくなるという意味」と懸念を吐露していたが、ボーイングも米海軍の発注打ち切りが度々浮上するF/A-18E/Fの新規生産ラインやサプライヤーを守るためドイツ発注に期待している部分があったので、ショルツ政権の方針転換は両者に大きなショックを与えている。

特にボーイングはショルツ政権の方針転換後も「ドイツ政府が間もなくF/A-18E/FとEA-18Gの購入要請書類を発行する」と強弁して独企業に情報提供依頼(RFI)を発行する動きを見せていたが、ロイターは「米国との核兵器共有協定を維持するためドイツはF-35A導入に傾きつつある」と独国防省筋からの情報を元に伝えており、次期戦闘機を共同開発するフランスやF/A-18E/F受注を期待しているボーイングが打撃を受けるだろうと報じている。

出典:U.S. Navy photo by Lt. Cmdr. Darin Russell/Released

独国防省筋は「まだF-35A導入が決定された訳ではないもののショルツ首相が来週ワシントンを訪問した際に米国側と協議を行うだろう」とロイターに明かしたが、F-35Aを何機導入するのかについては何も明かさなかったらしい。

メルケル政権の方針を最大限引き継ぐならF-35A×30機、タイフーンECR/SEAD×15機、タイフーン・トランシェ4×90機で落ち着くだろうが、F-35Aで電子戦任務や敵防空網制圧を行うならF-35A×45機とタイフーン×90機でも問題ないなく、ウクライナ問題対処で悪化した対米関係改善や次期戦闘機開発の主導権争いで揉めているフランスへの圧力といった政治的要素が絡むとF-35Aとタイフーンの調達比率を調整してくる可能性も0ではないだろう。

ドイツが核兵器の運搬能力が統合されたトーネードの後継機にF-35Aを導入するのはほぼ間違いので、今後はF-35Aを何機導入するのかに注目が集まるはずだ。

関連記事:独トーネード後継問題は最終的に先祖返り、ショルツ政権がF-35A導入検討を指示
関連記事:ボーイング、ドイツ政府が間もなくF/A-18E/FとEA-18Gに購入要請書類を発行する
関連記事:先延ばしにし続けたドイツのトーネード後継機問題、米国にも梯子を外され八方塞がり
関連記事:仏独の新型哨戒機開発の行方、フランス人はP-8Aを導入したドイツを誰も信じていない

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Zachary Rufus

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コメント

    • samo
    • 2022年 2月 04日

    ドイツ空軍はF-35Aを45機寄こせっていうのが本音なのだろうけれども…
    NATOの防衛力強化という観点からみればF-35一択だし。

    ボーイングも本気でマレーシアの受注取りに行かないと、F/A-18の命運も尽きそう

    27
    • 匿名
    • 2022年 2月 04日

    優柔不断のドイツさん自由奔放すぎ!そんなんじゃ信用されないよ!

    7
    • samo
    • 2022年 2月 04日

    だからドイツを混ぜるとグダるとあれほど…
    FCASはもうフランス単独でやるのがベストでしょう

    29
    • まつ
    • 2022年 2月 04日

    F35A 3A型という核弾頭積めるもの希望だと思われる ただTu22mにはどうするつもりなのかね 迎撃には速度たりないんだが?
      

      • tofu
      • 2022年 2月 04日

      F-35で速度が足りないなら、満載状態での最高速がM1.1のスパホは尚更ダメなんじゃ

      まあ、その辺はEF-2000も居るなら問題ないんじゃないですかね
      その辺についてはめちゃくちゃ優秀だし

      25
      • 破軍
      • 2022年 2月 04日

      それを考える必要あるの?スパホだって速度的には話にならないし、タイフーンでも数ある資料の中でもっとも早い速度を信じるならTu22mには追い付けない。

      レーダー探知してコリジョンコース取るならそこまで問題になるのかね。航続長い機体だろうがAFばかり使っていたら航続距離激減するし、会敵してミサイル撃つチャンスがあれば問題無いのでは。Tu22mが巡航速度で飛行する限りはF-35からは逃げられないし。

      15
      • daishi
      • 2022年 2月 04日

      ニュークリア・シェアリングでB61自由落下核爆弾をNATOの総意でドイツ国内に投下してロシアから侵攻した地上部隊に打撃を与える「エースコンバット5で言うところのベルカ式国防術」がNATOでのドイツの役割です。

      なので、B61さえ使える機体はNATOの義務を果たせる必要数あればいいので、その他の機体はドイツの都合でいいわけです(ツポレフの迎撃は航空機以外でも良いですし)

      今回の問題は、
      ・アメリカは現在運用中のB61を全てB61 mod 12に全部置き換える方針
      ・F/A-18E/FはB61 mod 11を利用可能だが、mod 12の適合試験対象外になっている

      で、ドイツはニュークリア・シェアリングと電子戦を担当していたトーネードの後継機としてニュークリア・シェアリングを履行するための最低限のF/A-18E/FとEA-18Gを入れて残りはタイフーンと将来はFCASで、と考えてたのが外れたのでF-35を入れるかどうか、になってます。
      B61 mod 12に対応する第四世代機はF-16とF-15E系なので、そっちを入れるのもアリですが、ドイツは他のニュークリア・シェアリングホスト国と違ってF-16を入れてないので運用コスト面で効果が薄く、実質F-35一択です。

      6
        • 匿名希望
        • 2022年 2月 04日

        NATO内中古のF-16いれたら笑うけどね。

        5
        • 匿名
        • 2022年 2月 06日

        F-18E/Fが有力候補だった頃﹙B61 mod 12運用可能と見なされていた頃﹚と現在のF-16の扱いの違いが、その説明では見えません。

        「F-18E/Fが有力候補だった頃」は、FCASのためにF-35導入を回避する志向だったと思います。
        そのロジックが活きていたら、「﹙ドイツが﹚F-16を入れてないので運用コスト面で効果が薄く」は、優先順位的に低い要素だとも。
        F-16と同様F-18E/Fも、ドイツ的に運用コスト面で効果は薄かっただろうし。

        F-35一択でF-16の存在が無視されるとしたら、記事の「次期戦闘機開発の主導権争いで揉めているフランスへの圧力」が既に発動しているから、の方が腹落ちし易いです。

    • 無無
    • 2022年 2月 04日

    一度失った信頼を取り戻すためにはどうすればいいのかね、いや、一度じゃないかも。
    遠い目で

    3
      • 無理
      • 2022年 2月 04日

      今のウクライナ情勢に対するドイツ国民の考えを知っていれば、欧州各国から信頼を取り戻そうと動いたりしないのでは?と思いますね。

      何より、ドイツは直接影響が出なければ絶対に動きませんし、都合が悪くなったらそれまでの主張を簡単にひっくり返してしまう。

      やはり信頼ではなく、お金だけで繋がる関係は、長続きしないんでしょう。

      17
        • もり
        • 2022年 2月 04日

        国家間の繋がりでの信用とは結局金払いでしかないので

        6
          • 無理
          • 2022年 2月 04日

          違うと思いますが。
          ある物事に対しての政府の姿勢や言動。
          内政ばかり考えて、国家間の取り決めを簡単に放棄したりしないか。
          他にもありますが、金が全てというならば、フランス人がドイツを信用していないなんて記事が出るとは思えません。

          13
          • バーナーキング
          • 2022年 2月 04日

          金より契約でしょ。
          「既に契約したのに横からもっと高い金額積まれたらあっさり覆す」なんて国あったら国際的にまともに相手にされなくなるよ。

          14
            • popp
            • 2022年 2月 04日

            欧米は契約絶対だもんね

            0
    • hiroさん
    • 2022年 2月 04日

    ウクライナの件では信用を落としているドイツだけど、NATO加盟国がロシアの侵攻を受ければ、流石に防衛義務を果たすんだろうね?
    最前線がポーランドに移動した現在は、ポーランドを核シェアリング国にしても良い気もするけど、ポーランド国内の世論もあるし、ロシアを刺激するだろうし、簡単には出来ないんだろうね。

    6
    • ブルーピーコック
    • 2022年 2月 04日

    F-35を買います!と言ったところで、引き渡しがいつになることやら

    4
      • 全てF-35B
      • 2022年 2月 04日

      米軍や英軍が大幅減しているから、今なら生産ラインに余裕があるのでは?

      3
        • ブルーピーコック
        • 2022年 2月 04日

        それでもスイスとフィンランドに提供するのが先でしょう

        4
    • 戦略眼
    • 2022年 2月 04日

    ニュークリア・シェアリングって、そんなに維持しなければならないものなの?
    航空機以外の手段ではだめなのか?
    ドイツ国内での使用なら、核砲弾でも何でもいいのでは?
    そもそも、今時、核の自由落下爆弾に価値はあるのか?

    1
      • 台湾大好き
      • 2022年 2月 04日

      また懐かしいものを出してきましたね、残念ながら核砲弾は退役済だったと思うけど。
      アメリカの(即ち西側の)戦術兵器レベルの核兵器ってあとはACMしかないんじゃないですかね。だとするとB-52かB-2の導入になりますな!
      戦略兵器で良ければICBMかSLBMになるけど、それは国内での使用だからオッケーという前提に関わってきちゃいますね。

      しかし見てみたい、アトミックキャノンから打ち出される核砲弾の一斉斉射(^^;

      9
      • daishi
      • 2022年 2月 04日

      核砲弾は30年前に全部退役済みなので、B61くらいしか選択肢がないんですよね。

      「地上侵攻する部隊に足の速い戦闘機で持っていけて、なおかつニュークリア・シェアリングホスト国内で起爆させる」前提なので、
      ・核砲弾は射程と運搬速度に問題あり
      ・IRBM/ICBMでは速度はともかく射程が長過ぎる
      ・SRBMは30年前に退役済み
      ・核巡航ミサイルも長射程過ぎる
      と、アメリカがホスト国に用意できるものは限られています。

      5
      • クローム
      • 2022年 2月 04日

      自国内だけが射程だと抑止力が大きく弱まる。必然的に敵国本土は射程圏外だし、つまり安全地帯ということになると効果が薄い。
      航空機なのは平時に核攻撃以外ができるのが大きいと思う。現実問題として核攻撃はほぼありない上、ミサイルでは核攻撃以外の任務ができない。予算が潤沢なら別として限られた予算を割り振るなら核攻撃に特化した装備は理想的ではないはず。

      2
      • 伝説のハムスター☆☆☆
      • 2022年 2月 04日

      地上発射型ミサイルだと他の防衛ミサイルも核を搭載してるのか?って疑心暗鬼にさせちゃう。自走式だと射程が短く破壊も用意なため有効に機能しない。
      自走式よりも残存性や即応性もありMDに対して疑心暗鬼にさせない
      ちょうどいいんだよ

      2
      • GP-02
      • 2022年 2月 05日

      アメリカがぶっ放すなら他に手段はあるでしょうけどドイツが自分で手を汚すってのが重要なんでしょうからねぇ。
      そうなると手段は限られてしまうのでしょうね。

      1
    • せい
    • 2022年 2月 04日

    これに関しちゃ流石にドイツを悪者には出来ないな。
    しかしフランスはともかくボーイングは米国内でも切り捨てられてんのか。

    1
    • 折口
    • 2022年 2月 04日

    メルケル女史は平和な時代の優れたリーダーだったけど、戦時のリーダーとしてはあまり適切ではないうえ、任期が長かったぶん軍関係で山のような置き土産を残していきましたね。退任が伸びていたらどうするつもりだったのだろう。
    ダッソーやエアバスにしても、欧州メーカーが互換品リリースしてないんだから、必要としてる国がF-35導入しちゃうのは仕方ないですよね。

    2
      • 匿名希望
      • 2022年 2月 05日

      必要ならイタリアやイギリスみたいに開発費を出せば良かったのに

      3
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