欧州関連

スウェーデン国防相、グリペンのウクライナ提供を戦闘機連合内で検討中

スウェーデンのジョンソン国防相は「安全保障上の理由でグリペンのウクライナ提供の検討はNATO加盟後に行う」と述べていたが、Kyiv Independentの取材に応じたジョンソン国防相も「グリペンのウクライナ提供に関する検討が戦闘機連合の枠組み内で行われている」と明かした。

参考:Swedish defense minister: ‘Deliberations ongoing’ for transfer of Gripen fighters to Ukraine

グリペン提供のゴーサインが年内に出れば2026年までには戦力化できるだろう

ゼレンスキー大統領は昨年8月にスウェーデンを訪問した際「グリペンに関しても画期的な成果が得られた。既に我々の兵士はグリペンのテストを開始している。一歩づつ交渉を積み重ねながらウクライナの空にグリペンを飛ばすという願望に近づいている。我々はグリペンを使用したウクライナ人パイロットの訓練を開始するため取り組んでおり、この詳細については今後話し合いが行われるだろう」と述べたため、多くの人々は「グリペン提供に向けたウクライナ人パイロットの訓練が始まった」と受け取ったが、この認識は事実ではない。

出典:ПРЕЗИДЕНТ УКРАЇНИ

ゼレンスキー大統領が言及した「テスト」とはスウェーデンのウクライナ支援パッケージに盛り込まれた「グリペンの運用評価に関する訓練機会の提供」を指しており、これは「本当にウクライナが必要とするニーズをグリペンが満たしているのかをウクライナ人自身が評価する機会」という意味で、ジョンソン国防相も昨年10月「安全保障上の理由でグリペン提供の検討はNATO加盟後に行う」と述べ、グリペン提供の検討もウクライナ人パイロットの訓練も始まっていないというのが正しい認識だ。

スウェーデンのNATO加盟はF-35プログラム追放の補償=F-16V売却に関する米上院とトルコの対立にも巻き込まれ時間がかかったものの、3月7日に正式加盟を果たしたため「安全保障上の理由」は取り除かれた格好で、Kyiv Independentの取材に応じたジョンソン国防相も「グリペンのウクライナ提供に関する検討が行われている」「この検討は戦闘機連合の枠組み内で行われている」と明かした。

出典:mashleymorgan / CC BY-SA 2.0

つまり「グリペンのウクライナ提供は実現に向けて協議が進んでいる」という意味で、これはスウェーデンとウクライナの2国間ではなく「戦闘機連合の枠組みを通じての提供になる」と示唆しており、機体提供、パイロットや地上要員の訓練、インフラ構築、運用維持などの費用を誰が負担するのかという「お馴染みの問題」が話し合われているのだろう。

F-16も提供にゴーサインが出てから戦力化まで約1年ほどかかる見込みなので、グリペンもお馴染みの問題が解決してから戦力化まで約1年はかかる可能性が高く、グリペン提供のゴーサインが年内に出れば2026年までには戦力化できるだろう。

関連記事:スウェーデン、NATO加盟後にウクライナへのグリペン提供を検討する
関連記事:スウェーデン国営放送、政府はグリペンのウクライナ提供条件を調査する
関連記事:ゼレンスキー大統領、ウクライナ人によるグリペンのテストが始まった
関連記事:新領域からの攻撃阻止に失敗したスウェーデン、NATO加盟が遠く
関連記事:フィンランドとスウェーデンのNATO加盟問題は長期化、トルコは交渉を急がない
関連記事:政治的成果を手に入れたトルコ、NATO加盟手続きを進めることでスウェーデンと合意

 

※アイキャッチ画像の出典:SO Johnson/CC BY-SA 2.0 ブラジル空軍のグリペンE

ペルー海軍の艦艇建造プロジェクト、現代重工業が競合を抑えて勝利前のページ

ブラッドレー向けのAPS、米陸軍がIron Fist改良型の生産に資金供給を開始次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    エアバスがFCASとGCAPの統合を主張、戦闘機ビジネスに規模の経済は不可欠

    欧州で進められている2つの戦闘機開発計画を統合すべきだという声は根強く…

  2. 欧州関連

    英国、ウクライナ人パイロットに訓練機会を提供しても戦闘機は提供しない

    ウクライナ人を訓練するエイブラムがドイツに到着、ルハンシクではストーム…

  3. 欧州関連

    イタリアがインドネシアからPPA級哨戒艦を受注、契約額は11.8億ユーロ

    Fincantieriは28日「インドネシア国防省とパオロ・タオン・デ…

  4. 欧州関連

    トルコとウクライナ、無人航空機やエンジンの共同生産を通じて急速接近

    トルコとウクライナは軍事分野での協力を急速に拡大中で、両国は無人航空機…

  5. 欧州関連

    日本も参加可能? NATO主導の次世代ヘリ開発計画に欧州5ヶ国が参加を表明

    NATO加盟国が共同で次世代ヘリプログラム「NGRC:Next-Gen…

  6. 欧州関連

    やっぱり主導権争い勃発、独仏主導の第6世代戦闘機「FCAS」は絵に描いた餅か?

    英国主導の第6世代戦闘機「テンペスト」プログラムの前進に焦ったエアバス…

コメント

    • hogehoge
    • 2024年 3月 29日

    グリペンの機体性能はF16にも及ばない程度なので、焦点とすると航空基地外での運用能力がどのような実績をもたらすのかでしょうか。
    より前線付近の道路上で分散運用するという効果が、後方基地から運用するよりも巡航ミサイルや自爆UAVの迎撃手段などとして効果的に機能する可能性はありますね。

    2
    • ブルーピーコック
    • 2024年 3月 29日

    グリペンを渡すとしたら、またまたチェコかな。2027年にリース契約が切れるし。

    2
      • はらへり
      • 2024年 3月 30日

      チェコのF-35導入は2031年以降なので
      グリペンのリースは延長になるかと

      3
    • かませ
    • 2024年 3月 29日

    「お馴染みの問題」がとてつもなく難しい予感がする。
    ドイツは戦車装甲車、オランダなどのお金持ちEU諸国はF16で手一杯。フランスはカエサル??
    もうこれイギリスが出すしかなく無い?
    でも出さないでしょ。

    10
    • たむごん
    • 2024年 3月 30日

    整備やロジスティクスを、どうするのかでしょうか。

    F16だけでも厳しいのですが、さらに別系統の戦闘機となると厳しいのではないかなあと。

    9
      • アイス
      • 2024年 3月 30日

      マッコイ爺さん並みの武器商人が必要ですね。調達から兵站まで一括サービス提供。

      3
        • たむごん
        • 2024年 3月 30日

        仰るサービス、便利ですね。

        物を安く販売・サービス料金を高くとる、こうならない仕組みを上手に作る必要がありますね…。

        2
          • バーナーキング
          • 2024年 3月 31日

          まあマッコイ爺さんは新谷かおる先生が描きたい出したい戦闘機を自由に活躍させつつ話を一応成立させるためのギミック、
          ガンダムにおけるミノフスキー博士みたいなモンですからねぇ。

          2
    • さとし
    • 2024年 3月 30日

    頼むから2026年まで戦争続けるとか言わないでくれ
    物価高や温暖化がどれだけ進んだことやら

    10
    • AAA
    • 2024年 3月 30日

    これだけ膨大な支援を複数国から受けると終戦後のウクライナの発言力が心配だ
    アメリカなんかは親米的な政治家育ててそうな感じする

      • 匿名
      • 2024年 3月 30日

      果たしてその頃に国の形が残っているかどうか…

      10
    • 匿名希望係
    • 2024年 3月 30日

    ウクライナからMIG-29とSu-27の設計図もらってEUで製造分担した方が産業維持の観点から結果的にぷらすになったりしてね。

    11
    • そら
    • 2024年 3月 30日

    グリペンは良い機体だよなぁ
    E/F型ならスパクル出来るし、整備性は引くほどいいし
    ある程度西側の航空機運用歴があるならともかく、緊急での導入ならF-16より使い勝手いいと思う

    12
    • POW
    • 2024年 3月 30日

    運用インフラ面で見るとF-16系よりは国情に合っているグリペンシリーズ
    動かせるのはグリペンE/Fと入れ替えで余剰になるスェーデン空軍のC/D型位でしょうか?
    インチ・ヤード製の機体ではなくウクライナ特有の荒れたアスファルトでの運用も問題なしに欧米の兵器についても融通が効くだけにとスペック厨にはたまらない機体です型落ちのサーブ340 AEW&Cとセットで供与できれば乗務員育成の面は大変でしょうがさらに効果的。
    ECM関連がどれだけロシア軍に通用できるのかについては素人ですので興味が湧きますね。
    予算面からどれ位のサポートが続けられるのかとロシア側のスェーデンに対する恫喝も凄そうですが。

    8
    • 58式素人
    • 2024年 3月 30日

    話が早くまとまると良いですね。
    西側のミサイルや爆弾類は標準で運用できるだろうし。タウルスも撃てるし。
    整備性は良いだろうし、必要なインフラはMig29並みに少ないだろうし。
    鏡のように舗装された基地前提の米国製機体より、今のウクライナには向いているような。
    素人個人は、この機体と、USMCのAV-8Bが良いと思っているのですが。

    8
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  4. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  5. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
PAGE TOP