パキスタン空軍とインド空軍の空中戦に関する一般的な評価は「J-10Cがラファールに勝利した」というものだが、ミッチェル航空宇宙研究所は「この比較は(有益なことを)何も教えてくれない」「この戦いで重要だったのは戦闘機の性能ではなくキルチェーン全体の有効性だ」と述べた。
参考:The Biggest News from India-Pakistan Air Battle: the Kill Chain
重要だったのは戦闘機単体の性能ではなく戦闘機、ミサイル、レーダー、早期警戒管制機などの要素で構成されるキルチェーンの有効性
パキスタンは「インド空軍の戦闘機を5機撃墜した」と主張し、SNS上にはラファールのものと思われる残骸も登場したため、一般的には「中国製戦闘機=J-10がフランス製戦闘機=ラファールに空中戦で勝利した」と報じられているものの、J-10CとPL-15Eの組み合わせがラファールを撃墜したのかどうかは謎に包まれており、War Zoneも15日「双方の主張は依然として矛盾に満ちている」「J-10Cが果たした役割を示す証拠は入手困難だ」「SNS上に投稿された画像や映像に基づくインド空軍機撃墜の主張は未検証のものと見なされるべきだ」と指摘し、中国製戦闘機の神話と現実を区別しなければならないと主張。
IFFF this pic of the wreckage is legit then India did lose a Rafale (BS001) pic.twitter.com/ntuC6voHm2
— Doha (@Doha104p3) May 7, 2025
さらに「仮にJ-10の成功が事実だったとしても、これは非常に特殊な状況における交戦例の1つに過ぎず、今回の事例から導き出せる結論には限界がある。戦闘機の能力を構成するセンサー、ミサイル、ネットワークといった技術はアップグレードが続けられており、この能力が戦況を左右したかもしれないが、現代の空中戦は戦闘機同士の戦いと言うよりもネットワーク、訓練、兵器運用、電子戦、戦術、諸兵科連合と言った要素が複雑に絡み合った戦いだ」と主張したが、ミッチェル航空宇宙研究所のアナリスト=中国軍事問題が専門のダーム氏も同様の見解を述べている。
“パキスタン空軍のAがBを発射してCがBを誘導して目標を撃墜した。この一連の攻撃は地上配備型防空システムのレーダーが目標を検出したことから始まり、指示を受けたJ-10Cが目標方向にミサイルを発射し、最終的に早期警戒管制機がデータリンク経由でミサイルをインド空軍の戦闘機に誘導したのだろう。もっと交戦の詳細が明らかになればパキスタンがどれだけシステム統合を上手くやったのか分かるだろう。これはJ-10Cとラファールの相対的な能力というより、システム・オブ・システムズ、訓練、戦術といった数値化の難しい事柄について多くのことを物語っている”

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Samantha White
“多くの報道機関は第4世代のJ-10Cが第4.5世代のラファールを撃墜したという点を強調しているが、この比較は(有益なことを)何も教えてくれない。撃墜された可能性があるラファールがミーティアを搭載していたのかも不明で、この比較はJ-10CとPL-15の組み合わせがラファールとミーティアの組み合わせを上回ったかどうか、中国の技術が西側の技術と比べてどれほど優れているのかについて何も物語っていない”
ダーム氏はインドとパキスタンの空中戦において最も重要な要素だったのは「戦闘機単体の性能」ではなく「戦闘機、ミサイル、レーダー、早期警戒管制機などの要素で構成されるキルチェーンの有効性」で、ロシア製、フランス製、米国製、インド製システムが入り交じるインド軍よりも、システムの大半が中国製で統一されているパキスタン軍の方がシステム統合で優位だったのではないかと予想しているのが興味深いものの、インドとパキスタンが積極的に情報を公開すると思えないので真相は誰にも分からない。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Samantha White
そもそも交戦距離が、どの程度だったのかも気になりますね。
パキスタン空軍は、サーブ2000早期警戒機・ZDK-03を導入していましたが、これが役割を果たしたのか気になっています。
よーいドンでも、ジャンケンポンでもないですからね。
目と手が脳みそで上手く連動してる相手に、筋肉ムキムキでも相手をよく見ずに甘い考えでパンチしても負けますよね。
今回はパキスタンの領域に突っ込んだインドが不用意だったんだと思いますし、パキスタンはレーダーや管制や戦闘機が上手く連動したと言うことなので、素直に凄いなぁと思いました。
もちろん中国機と長射程ミサイルも優れていたと思います。日本としては怖いなぁ
侵攻側と防衛側でも比較が必要でしょう。
インドがパキスタン領空に侵攻したのであればパキスタン優位であり迎撃がJ-10Cで爆装ラファールを迎撃だったとしたら
十分な管制と情報を持ったパキスタンJ-10Cがラファールを撃墜など容易いのではと考えてしまいますがどうでしょう。
状況がわからないですがパキスタン空軍が優秀だったのは確かでしょうね
装備を中国製で統一していたのも含めて
安全保障を考えてインドが調達先を分散するのは理解できますが今回はデメリットが出ましたかね
そもそも本当にJ-10Cに撃墜されたのかどうかもよくわからず、事故や故障、味方からの誤射の可用性もありそうですからね。
仮にJ-10Cからの攻撃が原因であったとしても、何発撃ったのかもわからないですし。
トータルのシステムとして中国製のほうが優れてたのならそれはそれで重大だと思うけどね
この場合インド側のシステムが多国装備チャンポンしたフランケンシュタインとなっている可能性が高いので……ウクライナのように支援国の協力含めて各装備をある程度まで一元的にシステム統合出来てたのか、それとも買ってそのままで各システムが独立して運用していたのかが問題かと
だったとしてもそれはそれで中国みたいにあらゆるものを一貫生産してる製造大国は部分的にしか自分たちで作れない製造小国より強いってことは証明されてるんじゃない?
それって結構西側には不都合な真実だと思うけどね
得意なものを輸出し合えばいいじゃんという自由貿易の原理が一貫生産の保護主義に負けたってことだから
そのためのNATO規格よ。何のために西側が装備やシステムを共通化してるのか。
例えば海自のシステムなんてほぼ米軍との連接前提に作られてる。
それって西側のどこかが作れる前提だと思うけどなんなら実際は西側全体で中国にアウトソースしてない?
前にフランス2で軍事用電子機器メーカーの映像流してたけどあの基盤に載ってる部品も本当に西側の部品だけなのかちょっと怪しかったな
まあそういうのは実際に開けてみないと確かめようがないけど
NATOは一度はどれくらい中国製部品に依存してるかあるいはしてないかを調べたほうがいいと思う
URL貼れてるか分からないけど、TwitterでGlobal Defence Agencyが投稿してたこの一連のツリーが戦闘の推移を詳しくまとめてあって分かりやすかったです。
インドの戦闘機が基地を離陸してから僅か2分で探知し戦闘準備を開始したパキスタンの早期警戒・迎撃システム。早期警戒機の支援により敵戦闘機群の中から空対地攻撃を行った機体のみをピンポイントで撃墜してみせた探知識別能力。
この2つがパキスタン側が優位に戦いを進めた要因ではないでしょうか(書いてる内容が真実なら)
中国製防空兵器の長所は「単品性能」よりも「ネットワーク連動性」にある、という分析も出ている。中国のあらゆる軍事装備は統合データリンクで連携されており、状況認識および対応速度に優れる。実際、パキスタンの防空網はほとんど中国製で構成され、「互換性」が高いとの評価だ。
と、今日の朝鮮日報の記事に書かれていましたね。
対外セールスの面で、ラファールに負けてきた印象があるJ -10系の戦闘機ですが、最初の戦闘では、J-10Cに軍配が上がるというのは、何か皮肉なものを感じます。
今後、売りやすくなるのではないでしょうか?
なるほどね
でも個人的には経済学説史産業技術史やってるいわゆる文系技術評論系だからやっぱ中国の垂直統合が西側の水平分業に勝ったという印象だな
アメリカとかEUはかなりビビってるんじゃないかな
数次第ですが、同じ数での戦闘だと、今後もインド空軍のほうが分が悪い可能性が高そうですね。
組織戦なので、単機の性能よりは、連携を重視するという思想は、考えてみれば強くて当然なのかもしれまでんね。
中国の電子産業や素材とか含め航空宇宙産業を観察してると単機の性能の優位もどこまで持つかなって気がするな
英語の文献も少ないから中国の産業の実態って正直よく分からないところが多いんだけど(だから時々西側に補足されてない企業が潜水艦みたいに急浮上してくることがある
あらゆる製造業でシェアが伸びてるし技術的にもかなりの速度で進歩してるのは間違いないから現時点でももしかしたら過小評価かもしれないし
実際に、日本の多くの技術を短期間で超えてしまったという点では、もはや過小評価ができないですね。
あとなんですが、工業製品を作るという点で、実のところ、白人よりも東洋人のほうが得意と感じるところがあります。
最近の韓国兵器などの躍進もそうですが、何か欧米の兵器は競争力を落としそうな気がしますね。まぁ脅迫する力は強いので、それである程度は長らえるかもしれませんが。。
それは絶対ある
圧倒的主流の新古典派経済学は物理学を下敷きにしてるから人間を環境が同じなら常に同じ振る舞いをする原子のように捉えてるけど(合理的経済人)文化は間違いなく生産を含め経済行動に影響を与えてる
だからたとえば新古典派の理解では全ての経済主体は機会主義的で手助けすればその分手を抜くから産業政策は効果がないかむしろ有害なものとしてるけどアジアでは効果があったんだと個人的には確信してる
手助けされればその分手を抜くという発想は東洋人には希薄だからね
アメリカ人だったら補助金貰ったらその分元の投資資金を減らして株の配当を増やすだろうけど
実際前に日本の輸出自主規制でアメリカの自動車メーカーの業績が一時的に良くなった時は儲かった分はほぼ配当や報酬になったからね
だからトランプ大統領が製造業を立て直そうとしてるのは絶対に正しいと思うけどそのためには関税や工業教育だけじゃなく認知を変える必要があると思う
でもそれって一番難しい
正直どうやったらあの拝金主義を解体できるのか分からない
トランプ大統領も相互関税を発表した後のインタビューで中国は100年先を見据えてるのに我々は四半期先しか見てないって言ってたし問題意識はあるんだろうけど
「戦闘機、ミサイル、レーダー、早期警戒管制機などの要素で構成されるキルチェーン」は中国軍が注力している部分なので、日本としては全然安心できませんな。中国軍は各軍種(陸、海、空、ロケット軍)共通のデータリンクシステムをあらゆる装備品に搭載しています。
そしてPL-15空対空ミサイルは双方向データリンクシステムを搭載しているのでTVMのようなこともできる。
パキスタン軍の統合作戦能力はインド軍を上回っていますが、中国軍の統合作戦能力は当然パキスタン以上でしょうな。
中国軍が育ったのは日本人としては面倒くさいけど、歴史オタクとしては面白いから微妙な所だ。
30年間「非正規戦」なんてお遊びに金と労力を費やしていた兎が後ろの亀に追い付かれつつある、もしくは追い付かれた。
>この一連の攻撃は地上配備型防空システムのレーダーが目標を検出したことから始まり、指示を受けたJ-10Cが目標方向にミサイルを発射し、最終的に早期警戒管制機がデータリンク経由でミサイルをインド空軍の戦闘機に誘導したのだろう。
これが実際に成されていたら、単純に「J-10Cがラファールに勝利した」ケースよりも、日本にとり脅威の様な気が。
パキスタン空軍が出来たのなら、システムの供給元の中国空軍なども可能だろうし。
ミサイルを撃つ「シューター」と、ミサイルを誘導する「センサー」の分離が成されてると言うことですよね?
「センター」役が早期警戒機なので、クラウド・シューティングまでは至っていないと思うけど。
クラウド・シューティングの手前の機能に当たる、エンゲージ・オン・リモートだったかな?
とは言え、空自が運用している戦闘機だとF-35位ですよね?、エンゲージ・オン・リモートに対応済みなのは。
正しく恐れよって事だよな。中国の兵器は優秀だが、それだけで戦闘機を撃墜できたのかと。
現状として真相は印パしか分からないけど、インドが長距離攻撃用の兵器を求め始めたのがヒントなのかな。
エンゲージ・オン・リモート(EoR)は弾道ミサイル防衛の用語では。内容はクラウド・シューティング(探知と交戦を別々の機体が受け持つ)とほぼ一緒ですが。
EoR・クラウド・シューティングの本領を発揮するには、各機体の位置や兵装状況等の情報も共有する必要があります。
世界の空中戦がこれ程進化したというのに未だにデータリンク無しAIM-7で最前線に立つF-15SJの健気さよ