インド太平洋関連

米国防総省に選定された韓国製UGV、12月上旬にハワイで性能試験に挑戦

韓国のハンファ・エアロスペースは「12月上旬に同社の軍事用UGV=Arion-SMETが国防総省によってテストされる予定で、比較評価プログラムに選ばれた技術力をもとに軍事用UGV市場の攻略に乗り出す」と述べて注目を集めている。

参考:한화에어로스페이스, 다목적 무인차량 美 본토 성능시험 계약
参考:U.S. Marines evaluate South Korea’s new robotic combat vehicle
参考:Erdoğan sees Türkiye’s defense breakthrough crowned with record exports
参考:Army picks four to build robotic combat vehicle prototypes
参考:Milrem Robotics’ New Combat UGV with Loitering Munitions allows engagement farther behind enemy lines

もうUGVやUSVのグローバル市場を巡る戦いは始まっている

韓国のハンファ・エアロスペースは昨年10月「同社が開発した軍事用UGVが国防総省の比較評価プログラム(FCT)に選ばれた」と明かしていたが、14日に発表したプレスリリースの中で「12月上旬に多目的無人地上車輌(Arion-SMET)がハワイの海兵隊演習場で性能試験を受ける。ハンファ・エアロスペースは国防総省に認められた技術力をもとに軍事用UGV市場の攻略に乗り出す」と言及した。

この取り組みは「技術成熟度レベル(TRL)の高い同盟国の装備・技術を評価・調達することで『類似した研究・開発への投資』『装備の調達コストやライフサイクルコスト』『調達プログラムのリスク』を削減し、軍の要求要件を迅速かつ経済的に満たす」というもので、米軍はFCTを通じて50億ドル以上の装備や技術を海外から調達してきた実績があるため、テストで実力が評価されれば「何らかの形での採用=製品や技術の米軍採用だけでなく米企業との共同開発やサプライヤーとしての参入など」に繋がるかもしれない。

ハンファ・エアロスペースが提供するArion-SMETの基本的な性能(最高速度43km/最大走行距離100km/最大積載量550kg)は国際的なトップティアUGVと同等で、異なる4つの運用形態(人間による遠隔制御モード、自律的に歩兵を追従するモード、自律的に指定されたルートを走行するモード、自律的に未知の地形を探索しながら走行するモード)に対応、RWSで目標を自動的に追尾して交戦することもでき、既に在韓米軍を対象したArion-SMETの実演も終えており、満を持してハワイに乗り込むといった感じだ。

UGV開発で先行するトップ企業はエストニアの「Milrem Robotics」で、同社のTHeMISは8つのNATO加盟国(エストニア、米国、英国、フランス、ドイツ、スペイン、オランダ、ノルウェー)とウクライナ、オーストラリア、インド、タイが採用済みで、エストニア陸軍は2019年頃から通常演習に兵士、UAV、UGVによる協調作戦の概念を取り入れているため、もはやUGVは「テスト」ではなく「実際の戦術に組み込まれたピース」という認識で間違いない。

しかもMilrem Roboticsは躍進が著しいアラブ首長国連邦の防衛産業企業「EDGE」に買収されたため、同社のTHeMISやType-XはEDGEブランドとしても展開される予定で、EDGE製のUAVとMilrem Robotics製のUGVをチーミングさせれば強力な相乗効果が生まれるだろう。

因みにUGVやUSVの開発にはUAV開発の経験や技術(特に通信・制御系のソフトウェアや収集した視覚的データの情報分析技術など)が活かされるため、基本的にUAV開発で先行する国が「UGVやUSVの開発でも先行している」というパターンが多く、無人機と言われて「有人機並なグローバルホーク」を想像する人もいれば「小型のクアッドコプター」を想像する人がいるように、無人地上車輌も用途に応じてサイズや能力がバラバラなので他人と認識を共有するには苦労しそうだ。

大分話が脱線してしまったが、米造船企業の買収を通じた米国進出を準備しているハンファ・オーシャンも「最終目標は米国の無人艦艇市場で主導権を確保することだ」と述べており、もうUGVやUSVのグローバル市場を巡る戦いは始まっていると言え、韓国の他にUAV市場で独占的な立場を確保したトルコ、Milrem Roboticsを買収することでUGV部門を強化したアラブ首長国連邦がどこまでシェアを獲得できるのか、この辺りが管理人とっての注目ポイントといえる。

出典:Ismail Demir トルコのFNSSディフェンスシステムズが開発を進めているUGV群

追記:トルコは防衛産業界の躍進で装備調達の海外依存度が80%→20%に低下、2021年の武器輸出額は2.48億ドルに過ぎなかったものの2022年には45億ドル=6,700億円に到達し、エルドアン大統領は29日「2023年は60億ドル=約9,000億円を超えると期待している。安全保障における完全な独立を果たすまで我々は努力を続けるだろう」と述べた。

追記:米陸軍は次世代戦闘車両プログラムに含まれる無人戦闘車輌(RCV)について「まもなくフェーズIの契約を締結する」と言及していたが、22日「10トン以下のRCV-Lightを開発するためMcQ、Textron Systems、General Dynamics Land Systems、Oshkosh Defenseと契約を締結した」と発表、開発スケジュールは2025年までに量産するプロトタイプを選択、2027年に量産開始、2028年に実戦部隊への配備を行う予定で、RCV-L(全長5.68m×全幅2.23m×高さ2.38m以下)は回転翼機での輸送を想定し「消耗型システム=戦闘での損耗は許容される」と定義されている。

追記:Milrem RoboticsはDSEIでTHeMISの新バージョンを公開、ウクライナ軍とロシア軍の戦いで生まれたニーズに対応するため「徘徊型弾薬のランチャー」を搭載しており、予想通り親会社=EDGEが開発した徘徊型弾薬「Hunter2-S」を採用してきた。

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※アイキャッチ画像の出典:Hanwha Aerospace

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コメント

    • たむごん
    • 2023年 9月 30日

    日本も、自動車・トラック・重機・クレーンなどの生産基盤があるため、こういった車輛分野を育てられたらよかったんですけどね。
    韓国やトルコ、イスラエルなどは上手くやっているため、国防予算以上に国防力が高い(有事に調達を増やせる)ということですかね。

    12
      • 2023年 9月 30日

      「我が神州に於いては無人機の運用此れに適さず」
      とか2年前まで大真面目に語られてた国だから無理よ

      27
      • チェンバレン
      • 2023年 9月 30日

      他国の成功を見て、我が国の産業も奮起して欲しいですね。
      なんか事業を立ち上げるたびに、税金チューチュートレインされるのが腹立ちますけど

      4
      • 名前は無くもない
      • 2023年 9月 30日

      正直、「ふた昔前の日本が得意そうな分野だな」と、忸怩たる思いが無い訳ではないが。

      別に先駆者たる必要は無いので、後追いで十分では?
      日本は韓国の様に、兵器の積極セールスを展開出来ない事情があるので、仕方がない部分はあるかと。

      14
    • にほんすげー
    • 2023年 9月 30日

    世界平和の為に行動する韓国はアジアの誇りです

    14
      • kame
      • 2023年 9月 30日

      韓国の兵器が欧米で注目されるようになっているのは純粋に凄いことだと思いますね
      一昔前はネット上では笑いものにされていたのが嘘のようですが、結局の所、最初期での失敗を糧に出来るかがテクノロジー進歩にとって最重要ということでしょうね。
      日英伊共同の戦闘機開発がどうなるのかは分かりませんが、辛抱強く続けてほしいものです。

      43
    • 分析
    • 2023年 9月 30日

    無人車両が、迫撃砲や軽・重機関銃を分解せずとも、即座に撃てる状態で歩兵と一緒に丸ごと運んでくれるだけで、小隊や分隊の火力は大きく向上しますよね
    UGVやUAVが威力偵察を行い、優勢な敵戦力を見かけたらそこに後方から火力投射を行う戦法が流行る気がします
    ただし、そのうち強力なジャミングなりで無人機体を一網打尽にするような兵器も開発されそうですが

    5
    • 成層圏
    • 2023年 9月 30日

    数日前、韓国でEVタクシーが制御不能で時速180kmで暴走して事故を起こしてたな。
    無人軍事車両は信頼性も重要な要素だと思う。

    17
      • BUMAR-ŁABĘDY
      • 2023年 9月 30日

      それでその事故と記事の内容に何の関係があるのですか?
      その信頼性を含めてトライアルするのが比較評価プログラムだと思いますが…

      31
        • 成層圏
        • 2023年 10月 02日

        EVタクシーは評価試験を経ずに市場に出回ったのでしょうか?
        火器を扱うなら、一般車両より厳重に評価しないと、味方が打たれますよ。

        5
    • minori
    • 2023年 9月 30日

    Arion-SMETくらいの規模のUGVって普通の兵員輸送車じゃダメなんだろうか。

    BigDog系小型の四足UGVは、狭い場所や不整地でも装備を運べる分かり易い強みがあるけど、動画にあるような開けた場所を進む装輪・装軌のUGVが持つ、普通の車両に比べた優位性はよくわからない。運転手が居なくても良い点はそうだろうけど、それ以外に。

    2
      • バーナーキング
      • 2023年 10月 01日

      人乗せないなら車高を低く作れますよね。
      車高が低ければ単純に被弾面積的にも走破能力的にも有利でしょう。

      2
        • minori
        • 2023年 10月 02日

        代わりに人が乗れなくなってるのをどうとらえるかだと思うのです。私は負傷兵数名を運ぶのが限界のUGVよりも、部隊全員を運べる歩兵戦闘車の方がいいんじゃないかという気がします。

        ……あるいは歩兵戦闘車とUGVを同一部隊で同時に運用するのなら、また話は変わってきますか。その場合は部隊あたりが運搬できる装備重量が増えるので単純に利点ですね。

        1
    • あああ
    • 2023年 9月 30日

    メーカーはRWSとセットで売り込むが火力無しに比べ単価は倍増だろ。
    そんなんより積載面積広げて立ち乗りでいいから人員運搬も出来たほうがええな。
    兵員機動車で牽引する1tトレーラーをまんまUGV化するのが最も手っ取り早いだろう。下車して徒歩の所の中間輸送をこれでやる。装甲ATVでこの規模を牽引するにもUGVトレーラー自体のモーターでアシストしないと重すぎで多分無理。
    で、軽歩兵の追従にこの図体問題だけどIR秘匿がアレだから無人で後方数百mを勝手についてくるのが絶対的に必要だから遠隔でなくAI制御になるね。路外の自動運転技術のソフトが内容的には一番難しいのでは。

    1
    • TA
    • 2023年 9月 30日

    日本はUSV一本で行くつもりかな
    戦闘支援型多目的USVの可潜艦スタイルにはちょっと期待してる
    敵に回すと凄く嫌なスタイルだし

    12
      • バーナーキング
      • 2023年 9月 30日

      無人水陸両用車の試作は始めますね。
      日本で陸上専用車両使っても使いどこ微妙だし妥当な選択じゃないでしょうか。

      7
      • ブルーピーコック
      • 2023年 9月 30日

      防衛省は2023年8月31日(木)、2024年度予算の概算要求を発表。その中で、「無人水陸両用車の開発」に211億円を計上しました。
      また防衛装備庁のホームページにはオーストラリアと共同研究でUGV周辺環境認識技術の研究の記載があります。

      3
    • 58式素人
    • 2023年 9月 30日

    UGVは無人であるが故に小型の車両が多いですね。
    思うのですが、小型の装輪車は砲撃などで地表の荒れた場所
    などでは足を取られやすいのではないかと想像します。
    かなり前の記事で、エストニアで試されているUGVは、
    装軌車でかつ、菱形戦車を小型化したような形でした。
    ベース車両にはそうした物の方が良いのでは、と想像します。
    また、大きさも、UGVだからと小さくするのではなく、
    塹壕を超えられるくらいには大きい方が良いのでは、と思います。

    2
    • ジュディ
    • 2023年 9月 30日

    アメリカも同盟国から武器買いまくりだが、アメリカの場合はいざとなったら駐留費値上げで相殺とか出来そうだからなー

    1
    • 無印
    • 2023年 9月 30日

    ATLAはFAT-Rの開発頑張って欲しい

    • NOfase
    • 2023年 10月 02日

    修理、再利用可能な地雷処理用のUGVがあればロシアの防衛戦突破が早まる気がします。

    • 名無しコルベット
    • 2023年 10月 03日

    日本はドローン規制しちゃったし、もう挽回はできないだろうな。

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