中東アフリカ関連

イランの弾道ミサイル攻撃、終末段階の迎撃を回避する手段を編み出す

イスラエルの弾道ミサイル迎撃に対応した4段構えの多層式防空システムは「最も先進的なミサイル防衛システムだ」と評価されており、実戦でも高い迎撃成功率を叩き出してきたが、イランはこの4段構えを突破する戦術を見つけ出し、太平洋地域の紛争にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

参考:Girl, 11, critically hurt by Iranian cluster bomb as repeated salvos target center
参考:11 Iranian Cluster Missiles Penetrated. One Dropped 70 Bombs Over Central Israel

参考:Iran Is Piercing Israel’s Ballistic Missile Defenses With High Altitude Cluster Warhead Releases

David’s Slingやパトリオットで迎撃する前にクラスター弾頭の子弾を分離する弾道ミサイルが問題を複雑にする

イスラエルの弾道ミサイル迎撃に対応した多層式防空システムは中間段階=大気圏外の迎撃(高度100km以上)に対応したArrow 3、終末段階=大気圏内の中層迎撃(高度10km~50km)に対応したArrow 2、下層迎撃(高度15km)に対応したDavid’s Sling、低空域の空中目標迎撃(高度10km未満)に対応したIron Domeの4段構えで、最も先進的なミサイル防衛システムだと評価されており、イランが発射する弾道ミサイルの迎撃においても高い迎撃成功率を叩き出してきたが、イランはこの4段構えを突破する戦術を見つけ出したようだ。

米国とイスラエルは2月28日に対イラン作戦を開始し、イランは4月1日までに500発以上の弾道ミサイルをイスラエルに向けて発射、イスラエル国防軍は人口密集地や重要インフラを標的とした攻撃の92%を迎撃したと報告しているが、2025年6月の12日間戦争よりも被害が甚大で、最低でも通常弾頭を搭載した弾道ミサイル12発が人口密集地域に着弾、さらにクラスター弾頭を搭載した弾道ミサイル30発以上が着弾し、クラスター弾頭の着弾地点は200カ所以上に及ぶ。

イランは2025年6月の12日間戦争でもクラスター弾頭搭載の弾道ミサイルを使用し、この時は高度7km前後でクラスター弾頭の子弾を分離して直径16kmの範囲に着弾していたが、イスラエルメディアのHaaretzは4月2日「1発の弾道ミサイルから分離された子弾が直径27kmの範囲に着弾した」と報じ、これはクラスター弾頭搭載の弾道ミサイルが「高度7kmよりも高い高度で子弾を分離した」と示唆している。

War Zoneは「弾道ミサイルが終末段階の早い段階=高高度でクラスター弾頭の子弾を分離するのであれば、防衛側も子弾が分離される前に迎撃しなければならなくなり問題が生じる」「David’s Slingの最大交戦高度は15kmと報告されているが、スペック上の最大交戦高度を発揮できるかどうかは発射装置の位置や標的の飛行経路に大きく左右される」「パトリオットも高高度でクラスター弾頭の子弾を分離する前の弾道ミサイル迎撃は不可能だ」「そのため最も有利な迎撃手段は現状のところTHAAD(とArrow 2)になる」「理想的には中間段階での迎撃が望ましいがSM-3やArrow3は非常に高価で数が少ない」と指摘。

クラスター弾頭搭載の弾道ミサイルは子弾がどこに着弾するかは運任せで、子弾1発の破壊力も大したことがないため、重要なインフラや軍事施設を破壊する目的での使用には不向きだが、イスラエル国防軍はイランが発射する弾道ミサイルを軌道を解析して「着弾地点はどこなのか」「着弾地点の標的の価値は高いのか低いのか」「どの手段で迎撃すべきなのか」を考慮して迎撃作戦を実施しているため、ここに「David’s Slingやパトリオットで迎撃する前にクラスター弾頭の子弾を分離する弾道ミサイル」が混ざると、通常弾頭搭載なのかクラスター弾頭搭載なのか区別できなくなり対処費用が跳ね上がるという意味だ。

出典:Missile Defense Agency

War Zoneは「子弾が放出された後であっても子弾の迎撃は可能だが、数十もの小型目標に対して優先順位を付け個別に交戦しなければならないという難しさに加え、個々の子弾に対する迎撃は防衛側に別のコスト負担を強いることになる」「クラスター弾頭の子弾は非常に安価なためパトリオットが使用する高価な迎撃ミサイルを使用すれば攻撃コストと迎撃コストの交換比率はさらに悪化する」と指摘し、ウクライナのように攻撃コストと迎撃コストの交換比率=防空手段の持続可能性を考慮して「民間人に被害が生じるリスク」を許容すべきなのだろう。

もちろん、一般人が聞けば激怒するかもしれないが防衛リソースは無限ではなく有限で、この交換比率の悪い戦いに正面から挑むことこそ敵の思うつぼであり、War Zoneは「イランは終末段階のミサイル防衛システム=David’s Slingの迎撃を回避する方法を見出したように見える」「これは貴重な中間段階の迎撃ミサイル備蓄をさらに圧迫し、子弾が放出される前にこれらの脅威を排除しようとする負担を大きく増大させる」「こうした点を踏まえるとイランの戦術は太平洋地域の将来の紛争に大きな影響を及ぼす可能性がある」と指摘し、これは中国や北朝鮮との紛争を示唆している。

日本政府は2030年までに地下街や地下駐車場を活用したシェルターを整備(人口カバー率100%)する予定で、日本を保護する自衛隊の防空システムは重要なインフラや軍事施設を保護するために使用され、民間人に被害が生じる攻撃に対しては「限定的な対処になる」「自分の安全は自分で守る」「警報が出たらシェルターに向かわなければならない」と自覚しなければならない。

関連記事:パトリオット迎撃ミサイルの代替品、アスター生産量は2022年初頭と比較して5倍
関連記事:米国がTHAADのシーカー生産量4倍、PrSM生産加速に関する枠組み合意を発表
関連記事:日米がSM-3 Block IIAの生産4倍で合意、増産達成でも生産数は年50発以下
関連記事:レイセオン、国防総省とトマホーク、AMRAAM、SM-3、SM-6の大増産で合意
関連記事:米国がパトリオットに続きTHAAD迎撃弾も増産、年96発から年400発へ
関連記事:米国がパトリオットシステムの迎撃弾を大増産、年600発から年2,000発へ
関連記事:戦略国際問題研究所、トマホークのみでは戦争全体の行方は変わらない
関連記事:ロッキード・マーティン、PAC-3MSEの増産を目標より2年早く達成
関連記事:米国の迎撃弾不足はイランとの12日間戦争で深刻化、SM-3の有効性にも懸念
関連記事:国際的な防衛産業再編の弊害、細分化された製造分割は工業的に悪夢
関連記事:米国は自国の即応体制を維持しながら2つ消耗戦を支える能力はない
関連記事:日本のパトリオットミサイル輸出、シーカー不足で増産に数年かかる見込み
関連記事:NATO、欧州のパトリオット運用国向けに1,000発の迎撃弾を一括発注

 

※アイキャッチ画像の出典:IMA Media

トルコ企業がドローン生産年12万機を1年半で達成、迎撃ドローンも発表前のページ

関連記事

  1. 中東アフリカ関連

    米国やサウジがアイアンドーム導入に動く理由、パトリオットではUAVの迎撃が困難か

    サウジアラビア軍はパトリオットシステム等の防空システム、早期警戒管制機…

  2. 中東アフリカ関連

    イスラエル・イラン戦争、イスラエル海軍の主要港近くに弾道ミサイルが着弾

    イスラエルとイランの戦争は8日目に突入し、イスラエル海軍の艦艇や潜水艦…

  3. 中東アフリカ関連

    ネタニヤフ首相、戦後のガザ地区をイスラエル軍が支配し続けると発言

    国際社会はイスラエルによるガザ地区の再占領を懸念、ネタニヤフ首相は米メ…

  4. 中東アフリカ関連

    サウジへのF-35売却、イスラエルは国交正常化と引き換えなら容認

    Reutersは「トランプ政権がサウジアラビアにF-35を最大48機売…

  5. 中東アフリカ関連

    イスラエルとイランの停戦が発効、状況は不安定ながら停戦は機能中

    イスラエルとイランはトランプ大統領の停戦案に同意、両国は猶予期間ギリギ…

コメント

  • コメント (18)

  • トラックバックは利用できません。

    • MK
    • 2026年 4月 05日

    このやり方は軍事目標より都市攻撃に適していますね、一撃で都市機能を麻痺させられます。弾道弾の有効な使い方として今後一般化していきそうですね。守る側ホント不利ですねえ。

    32
      • たむごん
      • 2026年 4月 05日

      仰る通りで、『専守防衛』外面いいですが厳しいなと…。

      日本の防衛力ドンドン増強していかないと、初激・二激でボロボロになり、ワンサイドゲームになりかねないですからね。

      8
    • らんらんるー
    • 2026年 4月 05日

    そのうち国際的な規制ができるのかな?
    まあ今の国際情勢じゃ、20年はないかな

    4
    • YF
    • 2026年 4月 05日

    これは出来る国が限定される戦術ですよね。
    イランみたいにイスラエルに打撃を与えられるなら民間施設、民間人だろうがお構いなく、ある意味嫌がらせの攻撃なら有効だと思います。
    特定の軍事施設のみ攻撃したい、被害限定させることによって戦争をコントロールしたい国とっては使えない戦術ですよね。
    弾道ミサイルがどこに落ちるかわからないってのも攻撃側のリソースの無駄にも感じます。クラスター弾単体は安くても弾道ミサイル自体は高価ですよね。

    国際世論も相手国の世論がどう転ぶかも知った事じゃない、どんな形でもいいから相手国に嫌がらせをしたいって国以外は使えない戦術だと思います。

    26
      • 名無しのプロキシ
      • 2026年 4月 05日

      でもこれ、中国、ロシア、北朝鮮。日本の敵全部がやってきそうな戦術なんだよな。
      限定されてても、一番立ち悪い連中が全員それをやりそうという…なんならロシアはもうやってるし、
      北朝鮮とかあいつらもはや、極東のリトルイランだろ。

      29
      • 名無し
      • 2026年 4月 05日

      まさにそのことを表現しているのが、非対称戦という言葉ですね。
      弱いイランが強いアメリカに勝つ目的で、研ぎ澄まし、極めてきた戦術です。(別にそれが倫理的にいいとか悪いとかではなく、事実として言っています。)

      16
    • 名無
    • 2026年 4月 05日

    電波高度計でばらまくタイミングを決めてるはずなのでジャミングすればでたらめな高度でばらまいて意味無い所に落とすか地面に激突するまで放出させなくできるだろう

    5
      • バーナーキング
      • 2026年 4月 05日

      高度の精度はそれほど高くなくていいのでセンサーは動圧でも加速度でも振動でも温度でも何とでもなりそう。

      1
    • 黒丸
    • 2026年 4月 05日

    イージス艦とSM-3があるとはいえ、対空母対揚陸艦用ショットガンみたいな使い方で
    入港間際とか上陸作戦中のような艦の動きが制限される場合に使われたら
    米海軍にとってはかなり嫌だろうな。
    ぜひ対中国空母用として、島嶼防衛用高速滑空弾の弾頭に採用してほしい。

    6
      • 匿名
      • 2026年 4月 05日

      島嶼防衛用高速滑空弾(25式高速滑空弾)にどれだけの子爆弾が積めるんだろう。

      イランのクラスター弾頭搭載の弾道ミサイルは、IRBM級の大きさがあるから十分な子爆弾を詰めるんだろうけど、25式高速滑空弾にそれだけのキャパシティがあるとは思えない。

      5
    • 58式素人
    • 2026年 4月 05日

    ”「高度7kmよりも高い高度で子弾を分離した」”
    であれば、弾頭の分離前に迎撃が必要なのでしょう。
    イスラエルにはその手段はあったはずですね。
    イランから来るならばIRBMだし、7kmよりもっと高い高度を飛ぶのでは?。
    ということは、アローミサイルを撃ち尽くした或いは節約を必要とした、
    ということなのでしょうね。
    米海軍のSM-3を積むイージス艦にテルアヴィブ近郊を遊弋してもらうのでは?。
    多分。

    1
      • 名無し
      • 2026年 4月 05日

      イランは、はじめに手持ちの古いショボいミサイル撃って、防御側が高級なミサイルを使って撃ち尽くした頃合いを見計らって、新しくて強いミサイルを撃つと、明確に決めていたようなので、完全にイランの作戦勝ちですね。

      14
    • 2026年 4月 05日

    今までイスラエルはランダムに設定した時限信管をクラスター爆弾につけてレバノンやシリアの住宅地にばらまいていたので
    イスラエルに対して同情心は湧きませんね
    たっぷりクラスター弾頭を味わっていただきたいところです

    31
    • たむごん
    • 2026年 4月 05日

    クラスター弾頭になれば、目標は小さく・量が多くなるわけですから、迎撃無理だろうなと。

    クラスター弾頭禁止条約(オスロ条約)は、中国・ロシア・北朝鮮どころか、米国・韓国ですら加盟していません。

    欧州も対ロシアの観点から離脱する国がでているわけですから、日本もさっさと離脱して、クラスター弾頭の備蓄を始めるべきです。

    16
    • nimo
    • 2026年 4月 05日

    安くて速度も遅いなら迎撃用ドローンに向いた標的かもしれない

    2
    • 名無し
    • 2026年 4月 05日

    攻撃は最大の防御。
    敵基地攻撃能力(反撃能力)が抑止力として絶対に必要である事を、いい加減日本国民は理解しなければならない。

    2
    • 愛国戦線
    • 2026年 4月 05日

    開戦直後、ミサイル発射能力の激減について疑問を呈したが、
    35日目に至ってもどうやら一定のラインからは減ってないようだ。
    やはり山岳の要塞は米軍をもってしても難攻不落ということか。
    逆にイスラエルの防御資本が消耗しうつあるとの報道も。

    4
    • paxai
    • 2026年 4月 05日

    基地にズラッと給油機等を露天駐機してる状態なら当て易くて使えるな。弾頭を工夫すれば高度10キロで半径2キロぐらいの狭さにできそうだ。

    3

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  2. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  3. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  4. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  5. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
PAGE TOP