米国関連

ウクライナの防空問題、米国が2セット目のパトリオットシステム提供を決断

New York Timesは11日「バイデン大統領がウクライナの差し迫ったニーズに対応するため2セット目のパトリオットシステム提供を決断した」と報じており、ドイツのピストリウス国防相も「パトリオットシステムの迎撃弾100発をウクライナに提供する」と発表した。

参考:U.S. to Send Another Patriot Missile Battery to Ukraine
参考:Минобороны Германии пообещало Украине десятки ракет к Patriot

あと2セットの防空システムを誰が提供するのかに注目が集まる

ウクライナはパトリオットシステムの追加供給(7セット)を西側諸国に要請中だが、提供候補に名前が挙がっていたギリシャは「自国の安全保障は犠牲に出来ない」と理由で提供を拒否、米国も発表した支援パッケージにシステム本体の提供を含めておらず、スペインも本体ではなく迎撃弾(12発)の提供に留まり、ルーマニアのヨハニス大統領は「パトリオットシステムの提供を検討する」と述べたものの「自国が防空システムなしで放置されるのは容認できない」と付け加えているため、直ぐに保有するパトリオットシステムをウクライナに移転する可能性は低い。

出典:U.S. Army Photo by Capt. Adan Cazarez

オランダは5月末「パトリオットシステムを構成するコンポーネントや弾薬を追加提供できる国を特定した。これを提供するよう当該国に呼びかけており、オランダが提供するコア・コンポーネントと組み合わせてパトリオットシステムを迅速にウクライナに提供したい=複数の国から構成要素(レーダー、指揮統制、発電機、ランチャー、弾薬など)を集めてパトリオットシステムを構築するという意味」と発表したものの、この取り組みも何処まで進んでいるのか不明だ。

真っ先にウクライナの要請に手を上げたドイツは「6月中に追加のパトリオットシステムを引き渡す」と、イタリアのタヤーニ外相も3日「これまでと同様にウクライナへの軍事支援の中身は秘密だが、今回のパッケージにはSAMP/Tが含まている」と明かし、Bloombergは7日「ドイツがパトリオットシステムの追加提供(単独3セット目/オランダとの共同提供分を含めると3.5セット目)を検討中だ」と報じていたが、遂に米国が2セット目のパトリオットシステム提供を決定したらしい。

出典:U.S. Army Photo by Capt. Adan Cazarez

New York Timesは11日「バイデン大統領はウクライナの差し迫ったニーズに対応するため2セット目のパトリオットシステム提供を決断した」「このパトリオットシステムはポーランド経由でウクライナに送られる予定で、数日以内に届く可能性がある」と報じており、ドイツが1セット、イタリアが1セット、米国が1セット、ここにドイツが検討している追加提供分とオランダの取り組む分を加えると5セット分になるため、あと2セットの防空システムを誰が提供するのかに注目が集まる。

因みにドイツのピストリウス国防相は11日「デンマーク、オランダ、ノルウェーと共同でパトリオットシステムの迎撃弾100発(PAC-3MSEかMIM-104DかMIM-104Eかは不明)をウクライナに提供する」「この2日間で32発の引き渡しを終えており、今後数週間以内に残りの68発も引き渡す」と発表した。

関連記事:ウクライナへのパトリオット追加提供、ドイツが単独3セット目の提供を検討中
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関連記事:ドイツ、新たなパトリオットシステムを直ちにウクライナへ提供すると発表

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Eugen Warkentin

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コメント

    • aaa
    • 2024年 6月 12日

    迎撃弾は足りるのでしょうか?
    数ヶ月も持たないような気がしますが

    20
      • あるまじろ
      • 2024年 6月 12日

      弾道ミサイルの迎撃に専念すれば多分3ヶ月分位?
      jsfさんが、ウクライナの迎撃率を掲載してる。

      7
    • 2024年 6月 12日

    >あと2セットの防空システムを誰が提供するのかに注目が集まる。

    極東の島国「こっち見るな」

    32
      • F-117A
      • 2024年 6月 12日

      きっしー「台湾は無理だよね。うん。台灣は」

      8
        • ido
        • 2024年 6月 12日

        ゼレンスキー「確かに台湾は無理そうだよな。でもまだ極東には提供できそうな国あるな」
        岸田「韓国行けるか?!」
        ゼレンスキー「違うそうじゃない」

        20
    • たむごん
    • 2024年 6月 12日

    日本提供分が、意思決定に影響を与えてそうですね。

    中東の米軍も、需要が増してましたから。

    6
    • FPS
    • 2024年 6月 12日

    オランダ「パトリオットシステムを構成するコンポーネントや弾薬を追加提供できる国を特定した」

    きっしー「レーダー装置、射撃管制装置、アンテナマスト・グループは非殺傷兵器なんじゃね?」

    8
    • ホテルラウンジ
    • 2024年 6月 12日

    これでますますロシアは滑空弾攻撃をやりにくくなりそうですね
    もっとも先の記事でGPS妨害で当たらなくなってきてるみたいですけど

    5
    • たら
    • 2024年 6月 12日

    アメリカってパトリオットシステムを何セット保有・運用しているのでしょうね?たとえアメリカの防空力が20%減少したとしても,アメリカに戦争を仕掛ける国なんて想像できないのですが,それでもアメリカはウクライナへの提供は無理なんですね。

    9
      • nachteule
      • 2024年 6月 12日

       色々出してるんだし支援にだって限度があるでしょ?もちろん米帝様は世界屈指の保有量ですよ発射基なんて将来的には500近くになるだろうし日本はその1/4ぐらいしか無い。

       米国への攻撃の可能性は低かろうが米国のパトリオットは有事になれば海外展開してその期間も長いから兵士にとっては不人気な兵器だし別に本土だけ守っているわけでも無い。

       個人的には冷戦時代くらいのガチの代理戦争でも無い限りは、そこまで高性能な兵器を湯水の様に与えるべきかってのはあるね。理不尽な侵略を受けていたとしても。
       

      3
      • さだを
      • 2024年 6月 13日

      アメリカ自身が失う物が非常に大きいので蓋然性は低いとはいえ、例えば沖縄の防空を担うのも米軍ペトリの仕事であるわけで、「アメリカに戦争を吹っ掛ける奴、あんまり居ないのでは?」という認識で損をするのが米国だけなのかは考えたいところです。
      他のところから抜けば良いだけでしょと思うかもしれませんが、他所の国は他所の国でそう思っているわけですし。
      20%減って4/5ですからね、割と厳しいですよ。

      1
    • イーロンマスク
    • 2024年 6月 12日

    沖縄がたしか8個中隊だったからウクライナより沖縄の方がパトリオット多いという

    11
      • 765
      • 2024年 6月 12日

      それでも台湾有事の際には中国からの弾道ミサイル第一波しか防げない想定なので、ほんま東アジアは魔境すな

      26
        • gobu
        • 2024年 6月 12日

        しかも第一波は
        ウク戦争で学習してダミーやら安い奴でこちらのお高い迎撃弾消耗させてからが本番と
        絶望的

        10
          • マンボウ
          • 2024年 6月 12日

          ロシアからすれば一発25万ドルの北朝鮮製のミサイルを400万ドルのパトリオットと引き換えにできるなら、たとえ全弾撃墜されても十分割に合う

          15
            • 落ち着け
            • 2024年 6月 13日

            2022年時点の推計では、北朝鮮の短距離弾道弾1発300〜500万ドル。
            2019年の推計だと100〜200万ドルだったので、在庫分はいくらか安価。
            ただし、長期保存出来るかどうかは不明。

          • 765
          • 2024年 6月 12日

          その”安いやつ”はどうやって日本海を横断して来るんですかい

          5
            • バーナーキング
            • 2024年 6月 13日

            安い「弾道弾」の話ですよね?
            短距離弾道弾でも軽いダミー弾頭にすれば日本海くらい余裕で越えそうですが。

            1
              • 765
              • 2024年 6月 13日

              その安い「弾道弾」とやらを教えてもらいたいもんですね
              DF-16クラスの射程が無いと沖縄には届かないのに

              2
            • 落ち着け
            • 2024年 6月 13日

            中華の中距弾道弾以上は、300基(発射機数)程度保有しているが、グアムや米国本土向けで米国と同盟でも組まない限り日本には使えない。
            短距離弾道弾は2023年時点で200基ちょい(発射機数)保有。
            だけど9割方がDF11とDF15で、射程は300〜600km程度でおそらく沖縄本島も射程外。
            日本に届くのは未だ正体不明のDF16のみ。
            で、中華は現在ICBMとIRBMは増強中だけど、短距離、中距離は削減中。
            DF11もそろそろ退役が近づいてるんじゃね?

            1
          • 匿名11号
          • 2024年 6月 12日

          本邦もウクライナから購入したダミーやら安い奴を混ぜて、キッチリと同規模で撃ち返すことですなあ。あるいは向こうの方が阻止率は低いかもしれませんが、そこは相手の努力不足というもので。

          3
        • kitty
        • 2024年 6月 12日

        ロシア・中国の弾道弾を一回でも防げるという想定すら初耳です。
        MIRV対応弾もまだ開発途中でしたよね。

        9
          • 名無し
          • 2024年 6月 13日

          ロシアの弾道弾、パトリオットに迎撃されまくってますが?

    • もへもへ
    • 2024年 6月 12日

    なんだかんだ言って7セット集まりそうな感じですね。
    確か以前の記事で
    ウクライナ外相、防空システムを確保するため強硬な外交手法に変更
    というのがあったので、結局お願いベースだと誰も相手にしてくれず強硬的な手法が功を奏したと言うことでしょうか。

    であればウクライナ外交の今後としては成功体験を基により強硬な外交手法を多用するようになるのでは無いでしょうか。

    8
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2024年 6月 12日

      外交成果というよりも、インフラ攻撃を防げない現状がどうしようもないので供与しないとなし崩しに敗北へ転がるから仕方なくという状況ではないでしょうか?
      実際、アメリカが追加供与をする状況になってもEU諸国はこれまで通り一部のドイツなどを除いてはほぼ沈黙ですし

      3
    • 戦略眼
    • 2024年 6月 12日

    日本も間接的にミサイルを提供するみたいだし、廃棄予定のM270やM110A2、FH-70も供与出来ないかな。

    6
      •  
      • 2024年 6月 12日

      ウクライナが民間人を攻撃しないなら可能性もあっただろうけど、普通にドネツクやベルゴロド市街地に無差別攻撃するんだから無理でしょ。
      下手したら政権飛ぶよ。

      7
    • かませ
    • 2024年 6月 12日

    去年流出した機密文書によるとNASAMSやIRIS-Tは1セットあたり毎月20発の弾薬を消費していたようなのでパトリオットも最低でもそのくらい消費するでしょう。
    5セットなら毎月100発となり、今年くらいならばアメリカの同盟国からかき集めればなんとかなるでしょうがまぁ持続可能な消費量では無いですね
    戦術機の迎撃は絶対必須だとは思いますがいくらシステムを増やしたとてインフラや都市の防衛までは不可能でしょう。

    7
      • paxai
      • 2024年 6月 12日

      これ見て思ったけどウクライナってそれなりの数のS-300とS-200を今も使ってるじゃん?あの弾何処から調達してんだろ・・・流石にウクライナで量産は出来てない・・・よな?

      2
    • 樺太
    • 2024年 6月 12日

    残念ながら対中正面にある日本にパトリオットのシステム本体の提供余力は期待しにくい

    日本はパトリオットシステムの誘導弾の全力生産と早期退役が明記されたホークシステムの提供に注力すべき

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