西側諸国の海軍関係者はパリ海軍会議で「通信衛星の喪失を含む作戦環境の悪化を想定した戦時シナリオに備えている」と、フランス海軍参謀長は「空母打撃群を展開する度に『80年代の条件=宇宙ベースの通信や航法に頼れない環境』で訓練を行っている」と明かした。
参考:‘Back to the ‘80s’ as French navy prepares for new threats
参考:U.S., Allied Naval Chiefs Talk Aircraft Carriers, Gray Zone Conflict
現在の我々は制海権を取り戻す方法をより深く考えなければならない
西側諸国の軍事的優位を支えている要因の1つは宇宙空間を活用した能力(通信、気象、航法、偵察)だが、ミッチェル研究所は「中国やロシアなどが米軍の軍事作戦に不可欠な宇宙能力遮断に関連した兵器を積極的に配備して使用している」「どの国よりも中国は規模が大きい対宇宙能力を保持している」「中国は威圧的な宇宙分野における攻撃能力が抑止力に繋がると考えている」「今直ぐ対応策や防御能力の開発に取り組まなければ軍事的紛争に発展した際の勝利はおぼつかなくなる」と警告。
西側諸国の海軍関係者も24日に開催されたパリ海軍会議(Paris Naval Conference)で「通信衛星の喪失を含む作戦環境の悪化を想定した戦時シナリオに備えている」と明かした。
フランス海軍参謀長のヴォージュール大将は「空母打撃群を展開する度に『80年代の条件』で訓練を行っている」「これは通信衛星を使用せずに作戦を行うことを意味する」「これは非常に困難な設定だが作戦能力の維持を成功しているのを見るのは本当に興味深い」と、米海軍作戦部長のランケッティ大将も「GPSが機能しないなど作戦環境の悪化に備えて米海軍も仏海軍と同様の訓練を行っている」と述べ、他の海軍関係者も空母打撃群が有効性と効率性を維持するのに「この種の訓練は不可欠だ」と言及。
ヴォージュール大将もランケッティ大将も「空母打撃群の作戦を成功させるには機動性が非常に重要だ」と主張したが、英第1海軍卿のベン・キー大将は「衛星に対する妨害、電子妨害、無人機の群れ、対艦ミサイルや極超音速ミサイルなどの技術が進歩したため争いが絶えない環境下での妨害は当然という認識に変わってきた。海上の戦闘空間もより複雑になっている」と指摘。
これに対してインド海軍東部司令官のペンダーカール中将は「新たな非対称の脅威はグレーゾーンにおいて予想されることだ」「この作戦環境下で空母打撃群はどのようにして有効性を維持するのか?」「その答えはコルベット、フリゲート、潜水艦といった補助艦艇が変化した環境下で空母と共にどう活動するかを理解することにある」「さらに作戦運用的には目立たなくする必要がある」「これはデジタル的に見えにくくするという意味だ」と述べ、この主張にランケッティ大将も「我々は艦隊運用に対する欺瞞を怠けていた」と述べた。
ランケッティ大将は「かつて敵を欺いて混乱させるのが得意だったが、時間の経過と共に作戦上のセキュリティについて少し怠慢になっていた。ソーシャルメディアが普及した今日において作戦上のセキュリティは最優先されなければならず、このことは全軍で取り組まなければならない」と指摘しており、要約すると「空母打撃群の訓練は衛星の数が少ない80年代に戻る必要がある」「新たな非対称の脅威に対処するには補助艦艇の活用が重要」「ソーシャルメディアが普及した時代に合わせた作戦上のセキュリティに取り組まなければならない」という意味だ。
因みに会議では「A2/AD戦略が高度化する将来において空母打撃群は必要とされるのか?」という質問も飛び出し、ベン・キー大将は「空母は課題に直面しているものの、これほど海上からの機動的な攻撃、戦力投射、部隊保護を行うのに適した方法はない」「対空母キラー能力を開発した中国も空母の建造を続けている」と、イタリア海軍参謀長のクレデンディノ大将も「空母打撃群は国家のランクを示すものだ」と回答。
この会議に参加した全員は「空母打撃群が政治的指導者に提供できる最大の強み」について「紛争抑止と武力で危機を解決する際に提案できる選択肢が多い点である」という考えに同意したが、同時にベン・キー大将は「西側諸国の海軍は長らく制海権を掌握してきたため『ほぼ全てのリソース』を局地的優位と打撃に投資することが出来たが、現在の我々は制海権を取り戻す方法をより深く考えなければならない」と付け加えているのが興味深い。
海上を移動する艦艇への攻撃能力は「一部の限られた国」が保有する特権で、この時代の空母打撃群は圧倒的な海上支配力を享受できたものの、ミサイル技術や誘導技術が特別なものでなくなり、UAV、USV、UUVといった安価な無人機の普及、電子戦の技術が発達して宇宙空間を活用した能力も妨害されるようになると空母打撃群の海上支配力は絶対的でなくなってしまった。
つまり西側諸国が今後もシーパワーを享受するためには「非対称の脅威に晒されている沿岸海域の制海権を取り戻さなければならない」というオチなのだが、洗練されたものとは言えない安価な攻撃兵器(無人機、巡航ミサイル、対艦弾道ミサイル)で紅海の航路を妨害し、これを限定的な空爆では止められていないため「これまで通りの制海権」を確保するには「沿岸地域の直接的な占領」が必要で、こんなプランは現実的ではないため「政治的アプローチ」が求められているのだろう。
追記:この話は安価な攻撃兵器が空母打撃群を攻撃能力で上回るという兵器のスペックを比べた話ではないので注意してほしい。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Joshua L. Leonard
でかくてコストが嵩むものって結局淘汰されるイメージがありますが、空母はどうでしょうか?
空母や艦載機も戦艦のようになくなってしまうのでしょうか?
第二次大戦後において空母が衰退した理由は、旧ソ連式の対船舶ミサイル飽和攻撃に対処するための護衛艦及び早期警戒機が多数必要になる→こんなものを全て揃えられる国はアメリカぐらいしか存在しないといったところでしょう。超高額な空母を少数保有するぐらいなら護衛艦及び潜水艦を多数用意した方が安価だし、破壊されても大きな戦力減とはならない。
もう一つ空母が衰退した理由は「本土から遠く離れた植民地」を保有する国がアメリカ、イギリス、フランスぐらいしか存在しないからである。守るべき海域が狭ければ空軍機の航続距離を多少伸ばすだけで事足りる。
まあ垂直離着陸機とヘリコプター、ドローンの運用のみに限定した小型空母なら生き残れるかも。正規空母よりずっと安価であり、平和維持活動や災害派遣用の輸送船としても利用可能です。
最後の有人機が出てから半世紀以上経っても有人機は無くなっていませんから、無人機空母とか出来ても有人空母は残りそうです。
環境に特化した大型のものが衰退するというとまるで生物の進化のようですが、兵器の場合はニッチを埋める代替品が現れるまで存続するのではないかとも思います。
例えば戦艦は対艦戦闘に特化した艦種ですが、水上戦闘の機会が減り、航空機や誘導兵器、水雷なんかで対抗可能となり、そしてその役割(水上戦闘で強いことや射程が長いこと)は空母や駆逐艦で代替できるようになり絶滅しました。一方で戦車は携行対戦車兵器やドローンの発展で厳しい環境に置かれつつありますが、走攻守揃った代替品は今のところなく絶滅は考えられません。
では空母はどうか?いずれ優位性が減っていくことはあるかもしれませんが、遠隔地に航空機を投射するという機能を代替するのはなかなか難しいかと。航空機に大陸間を容易に移動できる航続距離が付与されるとか、ワープして敵地に出現できるとかいった機能でもない限り・・・
まあ確かにそうなのですが、
先進国で作るCVや有人航空機って今後もコストがうなぎのぼりで上がっていくと思うんですよねえ
空母と艦載機だけじゃ意味なくて、護衛する連中のコストも考えると・・・
あと人件費やメンテ費も忘れちゃいけません
戦場で負けないまま縮小されていく可能性はあるんじゃないかと
もともと空母というのは、そんなにでかいものでも、金がかかるものでもなく、日本軍などは陸軍も空母を持っていたくらいです。
貨物船に板を張っただけの空母もあり、護衛空母というのもそんな感じでした。軽巡洋艦を改造した空母、客船を改造した空母もありました。
戦後のアメリカの空母が巨大化し、原子力となったのは、アメリカの戦略空軍の戦略爆撃機に対抗して、艦載機にも核爆弾を装備させ、
「相互確証破壊」
のために、24時間報復攻撃の準備をして待機するためですが、そういうことをするには対潜・対空警戒を行う護衛の巡洋艦や、駆逐艦も原子力にしなくてはならず、また核弾道ミサイル、核巡航ミサイルなども実用化され、意味がなくなりました。
対潜警戒や上陸支援くらいなら、別に原子力空母でなくても、キティホークのような通常動力型空母や、海兵隊の強襲揚陸艦でも十分なわけです。海上自衛隊の空母型護衛艦もその方向です。
空母を持っていなかった海上自衛隊が、上陸支援のための強襲揚陸艦的な空母型護衛艦を持ちたい、というのはやはりそっちの方が便利に思えるからでしょう。あるいはもともと空母というのはそういうのが本来の姿かもしれません。
朝鮮戦争やベトナム戦争では、空母を派遣しても北朝鮮軍や北ベトナム軍には勝てなかったわけで、もともと空母はいろいろと限界のある兵器です。特定の状況でだけ大きな意味を持ちます。
>英第1海軍卿のベン・キー大将
キン肉マンに似たような名前の登場人物がいたような。
紅海のシーレーン破壊は、通商破壊作戦の成功事例として、米軍軍事力の無力化が必ずしも必要ない事を示したと言えます。
A2/AD戦略は、軍隊を対象とした高価な対艦ミサイルなどが、まず議論の対象でしたが、それすら飛び越えてしまいましたね。
日本のシーレーンで考えれば、長いルート沿いのどこかに安価なドローンを揃えられれば、対処が厳しいというのが戦訓でしょうか。
なかなか厳しい、現実ですね…
《ソーシャルメディアが普及した今日において作戦上のセキュリティは最優先されなければならず(略》
居場所を特定されて攻撃されたロシア人も居たけど、F-35が海没した時のことを考えるとな。取り上げちゃえばいいと思うが、それはそれで小賢しいことを考える奴が出てくるし。
どうなのでしょう。
記事の内容からずれますが。昔読んだことの受け売りなのですが。
空母艦隊の価値は、複数の航空団を運用する航空基地が、司令部や
強力なレーダーや数百発の防空ミサイルと共に、30ktで移動することだそうです。
24時間連続で、およそ1,300kmの移動で、陸上機ではとてもできません。
空母は航空機の整備も行いながら移動をするのですから。
昔、日本海軍で、前線航空基地を多数造って対抗することを考えたようですが、
結果は、集中した敵に各個撃破されて終わりだった、と読んだ憶えもあります。
動力が原子力だとしたら尚更でしょうね(その点、英国はサボっていると思えます)。
UAVなどに頼らねばならない国に相手のできるはずもないでしょう。
出来てせいぜい、嫌がらせです。電波管制下では、見つけることすらできないでしょう。
対艦弾道弾と言いますが、先日(今も)キーウで撃墜されている物が類似なのでは。
米艦隊のSM-3はPAC-3より射程はずっと大きいです。
V/STOLですが、誰でも想像できると思いますが、垂直離着陸に使う動力は、
通常飛行時には”死重”です。F-35Bでもそういうところがありますね。
その意味で、成功した機体はハリアー/AV8Bだけではないかと思っています。
そして、その母艦が低速でいいなどとするのは、言語道断(笑)では。
日本のいずも型/ひゅうが型の方が正解と思っています。
単独で対抗できるのは原潜でしょうが、空母艦隊にも居るだろうし、難しいのでは。
空母打撃群を見つけること自体は、以前は難しかったものの、今では衛星からの探査能力が飛躍的に向上したことで、大まかな位置の特定程度なら簡単にできるようになってきました。西側陣営を経由せずとも、中国には自前の探査衛星やGPS通信網などもあるので、電波管制を敷いたところで、光学観測で見つけられる事は避けられません。
なので、空母打撃群を電子的に欺瞞して隠蔽する、というのは何気に厳しい話なのかな、って気はします。
あと、戦車の例を見てもわかるように、その役割を完全に代役する何かが現れない限り、お役御免とはならないので、空母打撃群がその役を終えることは当面ないと思います。戦略的な意味では代替しようのない強みがありますからね。
故佐藤大輔さんは空母至上主義でしたね。好きなのは戦艦だったでしょうが。